(5)万人のための質の高い教育
世界には小学校に通うことのできないこどもが約5,800万人もいます。中等教育も含めると、推定約2億4,400万人注78が学校に通うことができていません。特に、サブサハラ・アフリカでは、10年前と比較しても、学校に通っていないこどもの人数は改善していません注79。とりわけ、障害のあるこども、難民や避難民のこども、少数民族や遠隔地に住むこどもなど不利な環境に置かれたコミュニティのこどもが取り残されるリスクが最も高くなっています。また、ロシアのウクライナ侵略や、人道状況が悪化するガザ地区を含む中東を始めとする世界各地の紛争により、多数の教育施設が損傷を受け、こどもや学生の教育を受ける権利が奪われるとともに、国際的な交流も停滞しています。
教育は、人間の安全保障を推進するために不可欠な「人への投資」として極めて重要です。SDGsの目標4として、「全ての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」ことが掲げられており、国際社会は、「教育2030行動枠組」用語解説の目標の達成を目指しています。日本は、万人のための質の高い教育、女性・こども・若者のエンパワーメントや紛争・災害下の教育機会の確保の観点も踏まえて、引き続き教育への取組を推進しています。
●日本の取組
グアテマラで、小学校の児童たちに算数を指導するJICA海外協力隊員(写真:JICA)
日本は、開発途上国の基礎教育注80や高等教育の充実などの幅広い分野で様々な支援を行っています。
アフリカ地域に関しては、日本は、2025年8月に開催されたTICAD 9において、質の高い学びへのアクセスを様々なレベルで確保することの重要性に触れつつ、1千万人のこどもの学びの改善に協力することを表明しました。例えば、2004年にニジェールで開始された「みんなの学校プロジェクト」注81は、2025年8月までに、10か国において約7万5千校の小学校で導入されています。TICAD 9で採択された「TICAD 9横浜宣言」の中では、アフリカにおける包摂的かつ公平な質の高い教育、訓練および能力開発へのアクセスを拡大するために、国連機関やその他の主要組織を含む主要パートナーとの協力を通じ、能力を向上させる必要性を強調しました。
そのほか、日本の20以上の大学と連携し、ジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)/汎アフリカ大学科学技術院(PAUSTI)(ケニア)等を拠点とした大学間のネットワークを構築すべく取り組んでいます。同ネットワークを通じて、教育・研究・産学機関等の連携強化を図ることで、研究協力を通じたアフリカ地域全体の社会課題の解決を目指しており、2025年3月までに、5,391人の高度人材を育成しています。
加えて、日本式の教育をいかした協力例として、日本は、エジプトにおいて、2008年から、実践的かつ国際水準の工学教育を提供するエジプト日本科学技術大学(E-JUST)の設立を支援し、エジプト国内および中東・アフリカ地域の研究者育成に貢献しています。また、2016年に締結された「エジプト・日本教育パートナーシップ」の下、日本式教育を実践するエジプト日本学校(EJS)がこれまでに64校開校し、EJSでは科目の学習に加えて、特別活動を意味するTokkatsu注82と呼ばれる、学級会や日直、クラブ活動、掃除など、こどもたちが主体となって学校を運営する取組が行われています。2025年8月には、文部科学省とエジプト教育・技術教育省の間で、教育協力と人材育成についての意向表明書が署名され、EJSの成果を基盤として、エジプトにおける日本型教育のさらなる発展を促進することで一致しました(イラクにおける取組については「案件紹介」を参照)。
さらに、日本は、日・ASEAN間の高等教育機関のネットワーク強化や、産業界との連携、周辺地域各国との共同研究、および日本の高等教育機関への留学生受入れなどの多様な方策を通じて、開発途上国の人材育成を支援しています。例えば、日越大学(Vietnam-Japan University:VJU)は、JICAの技術協力などにより、VJUの教育・研究ならびに運営能力を強化することを通じて、学部から大学院に至る一貫した質の高い教育・研究・運営の基盤確立を図り、ベトナムおよび東南アジア地域の社会および産業界の発展を牽(けん)引する人材の輩出に寄与しています。
また、エルサルバドルでは、必要最低限の読み書きや読解力、計算力を身に付けられるよう、2006年から初・中等教育における教科書や教員用指導書の開発・改定、教員研修等を実施しています。2024年からは、国立教員研修所および全国2か所の教員研修センターにおいて、デジタル化を促進する教材制作のための機材を整備する支援を行っています(東ティモールにおける取組については「案件紹介」を参照)。教科書や教員用指導書の開発は、ニカラグア、ニジェール、パプアニューギニア、モザンビーク、ラオスなどでも実績があり、これら途上国用に開発した教材はJICAサイトに公開注83しており、日本国内で、日本語の習得が進まず学習困難になっているこどもの学習の助けとしての活用も促しています。
このほかにも、日本は就学・学習機会から取り残された女児、障害のあるこども、紛争の影響を受ける地域や難民・避難民やそのホストコミュニティのこどもなど、脆(ぜい)弱な立場に置かれやすいこどもたちへの支援も進めています。例えば、紛争の影響を受ける地域での支援として、ウクライナでは、国内避難民としてこれまで通っていた学校に通学できなくなったこどもたちに対して、避難先でも安全に、そして安心しながら学習を継続できるように、遠隔教育機材整備やメンタルヘルスケア支援を実施しています。また、障害のあるこどもにも配慮した包摂的な教育や、気候変動対応、防災の視点を持った教育の推進にも取り組んでおり、例えば、ベトナム南部のメコンデルタ地域では、農水産業の成長および気候変動を含む環境問題への対応に必要とされる人材を質・量ともに向上させるため、同地域の中核大学であるカントー大学(CTU)に対し、研究・教育能力の強化支援を実施しています。
国際機関と連携した取組として、アジア太平洋地域においては、国連教育科学文化機関(UNESCO)に拠出している信託基金を通じて、アジア太平洋地域教育2030会合(APMED2030)やアジア太平洋地域教育大臣会合(APREMC-Ⅱ)の定期的な開催を含むSDGsの目標4達成に向けた取組を支援してきています。また、UNESCOを主導機関として、「持続可能な開発のための教育用語解説:SDGs達成に向けて(ESD for 2030)」が、2020年1月から開始されています。同取組は、持続可能な社会の創り手の育成を通じ、SDGsの全ての目標の実現に寄与するものであり、日本は、ESD提唱国として、その推進に引き続き取り組むとともに、UNESCOへの信託基金を通じて、世界でのESDの普及・深化へ貢献しています。日本は、同信託基金を通じて、ESD実践のための優れた取組を行う機関または団体を表彰する「ユネスコ/日本ESD賞」をUNESCOと共に実施しており、これまでに24団体に授与するなど、積極的にESDの推進に取り組んでいます。
また、「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」用語解説に対して、2008年から2024年までに総額約6,134万ドルを拠出しています。日本は、2021年7月に開催された世界教育サミットにおいて、GPEへの支援継続も含め2021年から2025年までの5年間で15億ドルを超える教育分野に対する支援と、750万人の開発途上国の女子の教育および人材育成のための支援を表明しました。2021年度から3年間で500万人以上の女子を支援しており、今後も支援を継続していきます。さらに日本は、2025年3月に、エチオピア、ナイジェリア、ブルキナファソのこどもたちが学習機会を継続し、質の高い教育へのアクセスができるよう、教育を後回しにはできない基金(ECW)用語解説に対して、新たに305万ドルを拠出しています。
案件紹介6
東ティモール
学ぶ環境を改善し、全てのこどもに教育を
草の根・人間の安全保障無償資金協力(2023年3月~2024年7月)
マナツト県ソイバダ郡マンララ村におけるノサ・セニョーラ・アイタラ中学校校舎建設計画
東ティモールは、2002年に独立回復を果たして以降、国造りに向けた経済社会開発の取組を着実に進めてきています。しかし、その基盤となる道路や港湾といった基幹インフラや、国民への社会サービスの提供のための環境は、依然として十分に整備されていない状況です。
教育分野においても、学校施設の整備の遅れや、校舎や備品の老朽化が課題となっています。全てのこどもたちに質の高い教育を提供することは、将来の国造りを支える人材育成のための鍵となりますが、とりわけ地方部において、十分な教育の提供が実現できない状況にあります。
こうした状況を受け、日本は、首都ディリから約160km離れた山岳地帯に位置するノサ・セニョーラ・アイタラ中学校を対象に、校舎の建て替えを支援するとともに、各教室や職員室に黒板や掲示板を供与しました。同校は、周辺の5村からの生徒が通う、地域の重要な学校でありながら、老朽化によりドアや窓は破損し、コンクリート床はひび割れ、壁や天井の部分崩壊が見られる状態でした。日本の協力により、新校舎を使用する中学1~2年生約100名が安全で衛生的な環境で学校生活を送ることができるようになりました。
新校舎の引渡式には、同校を卒業したラモス=ホルタ大統領が出席し、生徒や大勢の地域住民と共に新校舎の完成を祝いました。ラモス=ホルタ大統領は、「遠隔地にある脆(ぜい)弱な地域社会への支援を目の当たりにし、改めて日本に心から感謝したい。」と述べました。日本は今後も、人々の生活に根ざした基礎的な社会基盤の整備を通じて、東ティモールの人づくり、国造りに協力していきます。
新校舎引渡式の様子
ODA広報ノートを手にする地元のこどもたちとラモス=ホルタ大統領および木村駐東ティモール日本国大使(当時)(後方2名)
用語解説
- 教育2030行動枠組(Education 2030 Framework for Action)
- 万人のための教育を目指して、2000年にセネガルのダカールで開かれた世界教育フォーラムで採択された「万人のための教育(EFA)ダカール行動枠組」の後継となる行動枠組み。2015年のUNESCO総会と併せて開催された教育2030ハイレベル会合で採択された。
- 持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
- 持続可能な社会の創り手を育む教育。2017年の第72回国連総会決議において、ESDがSDGsの全ての目標達成に向けた鍵となることが確認され、2019年の第74回国連総会決議で採択された「ESD for 2030」においても再確認された。「ESD for 2030」は、「国連ESDの10年(UNDESD)」(2005年から2014年まで)、および「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」(2015年から2019年まで)の後継プログラムであり、2020年から2030年までの新しい国際的な実施枠組み。
- 教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE:Global Partnership for Education)
- 開発途上国、ドナー国・機関、市民社会、民間企業・財団が参加し、2002年に世界銀行主導で設立された開発途上国の教育セクターを支援する国際的なパートナーシップ。2011年にファスト・トラック・イニシアティブ(FTI:Fast Track Initiative)から改称された。
- 教育を後回しにはできない基金(ECW:Education Cannot Wait)
- 紛争や自然災害など緊急事態下のこどもや若年層が教育を受けられるよう支援することを目的として、2016年5月にイスタンブールで開催された国連主催の世界人道サミットで設立された基金。
- 注78 : 「Global Education Monitoring Report 2023」211ページおよび214ページ https://www.unesco.org/gem-report/en/technology
- 注79 : 「Global Education Monitoring Report 2024」152ページおよび154ページ https://www.unesco.at/fileadmin/Redaktion/Bildung/FULL_GEM_Leadership_in_education_lead_for_learning.pdf
- 注80 : 生きていくために必要となる知識、価値そして技能を身に付けるための教育活動。主に初等教育、前期中等教育(日本の中学校に相当)、就学前教育、成人識字教育などを指す。
- 注81 : 保護者・教員・地域住民の「みんな」が学校運営委員会を構成し、行政と連携しながら、学校を運営するコミュニティ協働型学校運営という取組。保護者や教員のみならず、地域住民たちが教育の重要性を理解し、地域全体でこどもの学びを支えるもので、2004年にニジェールの小学校23校で開始し、現在ではアフリカ地域内の複数国に広がっている。
- 注82 : 特別活動の略称。規律、倫理観、協調性等が醸成される掃除、学級会、日直活動等の活動を取り入れ、知識偏重や理論中心の学びから問題解決能力や主体性、社会性、自己管理力などのライフスキルの獲得を目的とした学びに転換することを目指す取組。
- 注83 : 教材 https://www.jica.go.jp/activities/issues/education/materials/index.html
