(7)文化・スポーツ
国を象徴するような文化遺産は、観光資源として開発が進めば、地域での雇用創出につながるなど、周辺住民の生活向上に有効に活用できます。国外からの観光客を魅了するような文化遺産は、自国経済の重要な外貨獲得源にもなり得ます。一方、資金や機材、技術などの不足から、存続の危機にさらされている文化遺産も多く存在し、このような文化遺産を守るための支援が必要とされています。世界的に価値のある建造物などを人類共通の遺産として保護する国際的枠組みである世界遺産条約注94では、遺産の保護とそのための国際協力は国際社会全体の義務であるとされており、こうした開発途上国の貴重な文化遺産を始めとする文化の保護・振興は、対象国のみならず、国際社会全体が取り組むべき課題でもあります。
また、スポーツは国民の健康の維持・増進に寄与するだけでなく、「人間の安全保障」を推進するための「人への投資」として重要な教育の一手段としても位置付けられます。相手を尊重する気持ちや他者との相互理解の精神、規範意識を育むことにも貢献するとともに、スポーツの持つ影響力やポジティブな力は、開発途上国に開発・発展の「きっかけ」を与える役割を果たします。
●日本の取組
コスタリカのこどもたちに野球を教えるJICA海外協力隊員(写真:JICA)
日本は、開発途上国の文化(スポーツを含む)、文化遺産の保全などのための協力を実施しています(ザンビアにおける具体的な協力例は「案件紹介」を参照)。これらの協力は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の促進にもつながり、日本に対する理解を深め、親日感情を培う効果があります。
また、日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO)に設置した日本信託基金などを通じて、文化遺産の保存・修復等を支援しています。2025年は約3億円を拠出し、文化遺産保存分野の事業を複数実施しています。特に開発途上国の人材育成・能力構築に力を入れており、将来、自らの手で自国の文化遺産を守っていけるよう、日本人専門家を中心とした専門家の派遣や、ワークショップの開催などを通じて、保存・修復の技術や知識の移転に努めています。加えて、防災や気候変動への対応など、今日の文化遺産が直面する問題に対応した、複合的な支援を積極的に実施しています。さらに、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、口承伝承(語り伝え)などの無形文化遺産についても、同じく日本信託基金を通じて、継承者の育成や記録保存、保護のための体制作りなどを支援しています。
ほかにも、アジア太平洋地域世界遺産等文化財保護協力推進事業として、アジア太平洋地域から文化遺産保護に携わる若手専門家を招き、文化遺産保護の能力向上を目的とした研修事業を実施しています。木造建築物の保存・修復と考古遺跡の調査記録についての研修を隔年で行っているほか、2025年は日本から専門家を派遣し、ウズベキスタンの文化遺産保護に携わる専門家を対象に、考古遺物・博物館収蔵品の目録作成および活用に関する研修を実施しました。
スポーツ分野では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として開始したスポーツ国際交流・協力事業「スポーツ・フォー・トゥモロー」注95を推進しています。2025年は、第4回日ASEANスポーツ大臣会合で採択された「チェンマイ宣言」での新たな優先協力分野に基づき、スポーツ指導者育成システムの構築・発展のためのワークショップを開催するなど、社会課題の解決に資する取組等を実施しました。また、2025年は、スポーツ分野において112人のJICA海外協力隊員を開発途上国に派遣しました。このほか、スポーツ関連設備や器材の提供、指導者や選手の派遣および招聘(へい)、スポーツ分野での技術協力・日本文化紹介・人材育成といった事業を展開しています注96。
案件紹介8
ザンビア
博物館から進めるザンビアにおける多様な民俗文化の保護と国民のアイデンティティの醸成
無償資金協力(2023年4月~2025年9月)
リビングストン博物館における研究、保存、展示および教育のための機材整備計画
南部アフリカの内陸部に位置するザンビアは、1964年の英国からの独立を果たして以来、平和的な政権交代を続け、サブサハラ・アフリカ地域でも有数の安定した民主主義国家を築いてきました。一方、公用語の英語に加え、72の現地語が生活の中で使用されている多民族国家としての側面に注目してみると、急速な都市化等により、社会としての結束も薄れるといった課題も浮き彫りになっています。
2021年8月以降、ザンビア政府は、建国以来の国是「一つのザンビア、一つの国家」を想起し、国としての経済成長のためには「多様性の中の国家統一」が重要であると提唱し、伝統的酋(しゅう)長が地方開発に協力することを求めつつ、文化・観光振興や博物館の改善に傾注しています。
リビングストン博物館は、1934年、英領北ローデシア時代に開館し、1964年の独立を契機として、国内最大の国立博物館としてザンビア固有の民俗文化や自然資源に関する研究・教育活動を促進する重要な役割を担ってきました。一方、同博物館が「多様性の中の国家統一」の実現に向け、国民、特に若年層に訴求効果を持ち続けるためには、先進的なコンテンツ制作や展示を充実させる必要がありました。
こうした状況を踏まえ、日本は、リビングストン博物館の開館90周年に向けて、同博物館に各部門の研究者が用いる撮影機材、顕微鏡、文化財保護のための湿度調整機材、デジタル素材編集用パソコン、展示室に配備するタッチスクリーン・システムなどの整備を決定しました。
2025年9月に開催された引渡式において、ザンビアのシクンバ観光大臣は、「(博物館機材の更新は)ザンビアと日本の長年にわたる揺るぎないパートナーシップの証」と謝意を表明するとともに、「導入された最新技術によって、収蔵品のデジタル化や臨場感あふれる展示の実現、さらには世界中の人々への発信が可能となり、同時に、貴重で繊細な資料を次世代へ確実に継承していくことができるようになった。」と、今般の支援の実現効果を強調しました。
今後、リビングストン博物館では、コンテンツの収集、展示内容の更新、シンポジウムの開催が本格化していくことになります。同博物館を訪れる国民が、自国の多様な文化・自然遺産に対する理解と造詣を深め、ザンビア国民としてのアイデンティティの醸成につながることが期待されます。
リビングストン博物館における新たな機材が設置された作業場の様子(写真:ザンビア観光省)
- 注94 : 正式名称は「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」。文化遺産や自然遺産を人類全体のための遺産として損傷、破壊などの脅威から保護し、保存していくために、国際的な協力および援助の体制を確立することを目的とした条約。1972年の国連教育科学文化機関(UNESCO)総会で採択され、1975年に発効、日本は1992年に締結している。
- 注95 : スポーツ・フォー・トゥモロー https://www.sport4tomorrow.jpnsport.go.jp/jp/
- 注96 : 外務省によるスポーツ外交の取組 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/hito/sports/index.html
