(2)社会の安全・安定の確保
日本は周囲を海に囲まれた島国であり、エネルギー資源や食料の99.5%以上を海上輸送に依存していることから、これまで海上の脅威への対処や、海上交通の安全・保安に関する技術を深化させてきました。開発途上国にとっても、重要な海上輸送における脅威への対処を始めとする海上交通の安全確保や、安全に航路を利用するための海上保安に関する人材育成などは、国家の存立・繁栄に直結する課題です。法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序は、日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現のためにも極めて重要であり、日本は、各国や国際機関と協力して、海上交通の安全確保を始めとする海洋安全保障協力の取組を推進しています。
また、国際的な組織犯罪やテロ・暴力的過激主義は、引き続き国際社会全体の脅威となっています。こうした脅威に効果的に対処するには、1か国のみの努力では限界があるため、各国による対策強化に加え、開発途上国の司法・法執行分野における能力向上支援などを通じて、国際社会全体で対応する必要があります。
日本は、国際的な組織犯罪を防止するための法的枠組みである国際組織犯罪防止条約(UNTOC)の締約国として、同条約に基づく捜査共助などの国際協力を推進しているほか、薬物対策などの国際組織犯罪対策に関する国際協力を行っています(サイバー空間に対する脅威への対策については第Ⅲ部1(2)を参照)。
案件紹介4
コロンビア
三角協力で築く地雷のない未来
技術協力(2023年7月~2026年9月)
対人地雷包括的行動(AICMA)推進のための人材育成プロジェクト
コロンビアでは、1960年代から半世紀以上続いた国内武力紛争時に広範囲に埋設された対人地雷が放置されており、地域の安全と経済発展が大きく阻まれています。全国での対人地雷関連の事故は2022年には489件であったのが、2023年には942件と倍増する中、特に地方の住民は地雷と隣り合わせの生活を余儀なくされています。こうした状況の中、地雷除去のための専門知識と技術を有する人材の育成が喫緊の課題となっています。
この問題に対応するため、日本は長年にわたり地雷対策分野で協力関係を培ってきたカンボジアと連携し、コロンビアで2023年に「対人地雷包括的行動(AICMA)推進のための人材育成プロジェクト」を開始しました。同プロジェクトでは、日本により供与された機材を活用しつつ、JICAの技術協力の下、カンボジア地雷対策センター(CMAC)がコロンビア政府職員に対して地雷探知技術や除去手法に関する助言を行い、実践的な知識と技術の移転を進めています。
開発途上国間の南南協力を先進国が支援するこの「三角協力」注1により、これまでに50名以上のコロンビア人専門家がカンボジアやコロンビアで研修を受け、学んだ知見を現場で実践しており、地雷埋設位置の特定に要する日数の短縮化やコスト削減につながるなどの地雷除去作業の効率化が進んでいます。また、本プロジェクトを超え、日本とコロンビアは新たにウクライナへの支援を実施する予定であり、コロンビア自身も地雷対策に関する「三角協力」の国際ネットワークの重層化に貢献しています。日本は今後も地雷対策の知見の輪を広げる活動を後押しすることで、全ての人々が地雷の脅威にさらされることなく安心して暮らせる世界の実現に向けて貢献していきます。
地雷対策研修の様子(写真:JICA)
地雷探知作業のデモンストレーション(写真:JICA)
注1 用語解説を参照。
●日本の取組
■治安維持能力強化
ブラジル国際協力庁との三国間協力プロジェクトを通じてブラジル・サンパウロ州軍警察がジャマイカ警察に対して能力強化研修を実施する様子(写真:JICA)
日本の警察は、その国際協力の実績と経験も踏まえ、治安維持の要となる開発途上国の警察機関に対し知識・技術の移転を行いながら、制度作り、行政能力向上、人材育成などを支援しています。
その一例として、警察庁は、2001年から継続してインドネシアに対して専門家派遣、研修、技術協力プロジェクトを実施しています。2025年は、同国警察の改革を支援するプログラムの一環として埼玉県警察において幹部候補生を受け入れて研修を行いました。このほか、アジアやアフリカ、大洋州などの各国から研修員を受け入れ、日本の警察の在り方を伝えています。
■海洋
「インドネシア海上保安機構能力開発プロジェクト」における制圧訓練の様子(写真:海上保安庁)
日本は、海における法の支配の維持・発展のため、巡視船の供与や技術協力などを通じ、インド太平洋地域の海上保安機関の法執行能力などの向上を途切れることなく支援しているほか、開発途上国の海洋状況把握(MDA)能力向上のための協力も推進しています。具体的には、フィリピン、ベトナムなどに対し、船舶や海上保安関連機材を供与しているほか、インドネシアやマレーシアなどを含む日本にとって重要なシーレーンの沿岸国に対して、研修・専門家等の派遣を通じた人材育成も進めています。例えば、船舶の安全な航行に必要な国際的基準に沿った海図を作成するための能力向上支援、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)等の国際機関を通じた海上保安機関への海上法執行や海難救助などに関する研修、海上交通の安全性向上と航路の混雑緩和を目的とした船舶通航支援業務(VTS)の運用に携わる人材の育成などを実施しています注47。さらには、サモア、ミクロネシア連邦、モルディブなどのインド太平洋の島嶼(しょ)国に対しても警備艇などの海上保安関連機材の供与や、無償資金協力による「太平洋島嶼国における効果的な海上犯罪対策のための海上法執行機関能力強化計画(UN 連携/UNODC実施)」などを通じた支援を行っています。このほか、地域諸国に対し、船舶自動識別装置(AIS)で位置情報を示さないダークシップの検知に係る能力構築を含む、ソフト面での支援についてUNODCを通じて実施しており、2022年に日米豪印首脳会合で表明したMDAに関する情報共有を促進するための「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)」も踏まえ、不法な活動を含め、排他的経済水域における活動をより良く監視できるよう支援しています。
日本は、アジア地域の海賊・海上武装強盗対策における地域協力促進のため、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の策定を主導し、締約国などの海上法執行機関の能力構築を目的とした包括的な研修を支援しています。2025年はReCAAP締約国13か国が参加し、各国からベストプラクティスが共有され、参加国の海賊対処関連の知識向上や沿岸国同士の協力促進に資するものとなりました。
アフリカ東部のソマリア沖・アデン湾における海賊の脅威に対し、日本は2009年から海賊対処行動を実施しています。国際海事機関(IMO)がジブチ行動指針注48の実施のために設立した信託基金を通じ、海賊対策のための情報共有センターや、ジブチ地域訓練センターが設立されており、同地域訓練センターは、日本のみならず、EU諸国といった同志国の活動にも利用され、UNODCを通じたソマリア周辺国の海上保安能力向上のための訓練プログラムが実施されています。
また、2025年から、UNODCを通じて、ハイチにおける国境管理の抜け道となっているマルパスおよびアンス・ア・ピトルにおいて違法取引取締事務所を設置するとともに、同国北東部において沿岸警備隊の海上違法行為に対する取締能力の強化などの支援も実施しています。
海上保安庁の協力の下で、アジア・ソマリア周辺海域などでの海賊対策等のための「海上犯罪取締り研修」も実施しており、2025年は16か国から20人の海上保安機関職員が参加しました。日本は、ソマリア海賊問題の根本的な解決にはソマリアの復興と安定が不可欠との認識の下、2007年以降、同国内の基礎的社会サービスの回復、治安維持能力の向上、国内産業の活性化のために累計で6.17億ドルの支援を実施しています。
海上で発生する船舶からの油の流出事故は、航行する船舶の安全に影響を及ぼすおそれがあるだけでなく、海岸汚染により沿岸国の漁業や観光産業に致命的なダメージを与えるおそれもあり、こうした事態に対応する能力の強化も重要です。
国際水路機関(IHO)では、2009年以降毎年、公益財団法人日本財団の助成の下、開発途上国の海図専門家を育成する研修を英国で実施しており、2024年12月までに51か国から106人の修了生を輩出しています。また、IHOとユネスコ政府間海洋学委員会は、世界海底地形図を作成する大洋水深総図(GEBCO)プロジェクトを共同で実施しており、日本の海上保安庁海洋情報部を含む各国専門家の協力により、世界海底地形データの維持・管理が行われています。
■宇宙空間
ブラジルでのリモートセンシングによる疫学調査において、衛星画像を補完するためのハイパースペクトルカメラを搭載したドローンの発表と実験操縦の様子
日本は、宇宙技術を活用した開発協力・能力構築支援の実施により、気候変動、防災、海洋・漁業資源管理、農業、森林保全、資源・エネルギーなどの地球規模課題への取組に貢献しています。
地球観測衛星などを活用してアジア太平洋地域の災害管理への貢献を目的とする国際協力プロジェクト「センチネルアジア」は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を中心に2006年に活動を開始し、現在は宇宙機関や防災機関などを含む127機関が加盟し、延べ540件以上の緊急観測要請に対応しています。2025年9月30日に発生したM6.9のセブ島地震においては、JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)による被害域の緊急観測および衛星データ提供に対し、ラザロ・フィリピン外務大臣から遠藤駐フィリピン日本国大使宛に感謝状が贈られました。また、様々な衛星観測データを解析・統合した衛星全球降水マップ(GSMaP)を通じ、全世界の降水情報を提供することで、地上観測網の空白域における降水の推定に貢献しています。アフリカやアジア太平洋地域で各国気象機関などの能力構築支援も実施し、2024年度には延べ30人以上に対して、GSMaP利用に向けた研修を実施しました。また、関係国のさらなる能力構築に資するGSMaP利用ガイドラインを公開しました。
宇宙開発利用に取り組む新興国の人材育成も積極的に支援しています。特に、日本による国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟を活用した宇宙環境利用の機会提供や超小型衛星の放出、中でも2025年で開始から10周年を迎える「KiboCUBE」プログラム注49は、国際的に高く評価されています。同プログラムでは、これまでに8回にわたる公募を行い、5機関の衛星が、「きぼう」を活用して放出されました。2025年6月から12月にかけては、「KiboCUBE」プログラムの新たな公募(第9回公募)を実施し、2026年6月に最終選定を予定しています。2025年現在、同プログラムにおいては、前回第8回公募で共同選定されたタンザニアとコートジボワールの機関に加え、過去の公募で選定された中米統合機構(SICA)が超小型衛星の開発を行っています。メキシコの開発した超小型衛星は2025年10月に日本のH3ロケットで打ち上げた新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)で輸送されてISSに到着し、現在放出に向けた準備調整を行っています。
宇宙空間における法の支配の実現に貢献すべく、宇宙新興国に対して国内宇宙関連法令の整備・運用に係る能力構築支援を行っています。日本は2021年度から国連宇宙部(UNOOSA)の「宇宙新興国のための宇宙法プロジェクト」への協力を開始して以降、アジア太平洋地域の宇宙新興国に対して国内宇宙関連法令の整備および運用面での支援を行い、民間活動を含む自国の宇宙活動を適切に管理・監督するために必要となる法的能力の構築に貢献しています。2025年度には、ベトナムを対象国として、ワークショップを実施しました(パラグアイにおける小型人工衛星の開発および衛星データの活用については「匠の技術、世界へ」を参照)。
■テロ対策
テロは世界各地で引き続き発生しており、テロ対策は各国にとって引き続き重要な課題となっています。テロリストの移動対策や国境管理といった従前の課題も再び重要性を増しています。
さらに、近年は、オンライン上で暴力的過激主義思想が拡散しているほか、生成AIなどの技術進歩に伴い、オンライン詐欺や暗号資産を悪用した資金洗浄(マネ-・ローンダリング)注50やテロ資金の問題、あるいは、ドローンなどの新興技術を悪用した新たなテロへの対策が課題となっており、国連やG7のみならず、ASEANなどの地域的取組を通じて、世界各国がこれまで以上に協力して対策を講じていく必要があります。
2025年2月、東京において、第4回日パキスタン・テロ対策協議を開催し、両国のテロ対策や世界のテロ情勢などについて意見交換を行いました。4月には、2024年11月の日仏外相会談の合意を受けて、1回目となる日仏テロ対策協議を東京で開催し、日仏のテロ対策の協力を一層推進していくことを確認するとともに、テロ資金対策、テロ制裁などに関して幅広く意見交換しました。7月には、第4回日・チュニジア安全保障・対テロ対話を東京で開催し、テロ情勢を含む国際情勢・地域の安全保障環境、両国のテロ対策や協力の可能性について協議を行いました。11月には、日米豪印テロ対策作業部会会合を東京において開催し、国際テロをめぐる情勢や、テロ目的での情報通信技術および無人航空システムの悪用への対策などについて議論を行いました。このように、各国と協力しつつ、引き続き世界のテロのリスクの低減に向けた取組を行っています。
■薬物対策
日本は、国連の麻薬委員会などの国際会議に積極的に参加するとともに、2025年はUNODCへの拠出を通じて、東南アジアなどの国々の関係機関との連携を図り、新規化合物注51を含む違法薬物の流通状況の監視や海上での麻薬密輸の取締能力の強化を行うなど、グローバルな課題として薬物対策に積極的に取り組んでいます。
また、警察庁では、アジア太平洋地域を中心とする関係諸国を招き、薬物情勢、捜査手法および国際協力に関する情報共有や協力体制の強化を図っています。
■人身取引対策
日本は、人身取引注52に関する包括的な国際約束である人身取引議定書や、「人身取引対策行動計画2022」に基づき、人身取引の根絶のため、様々な取組を行っています。
日本は国際移住機関(IOM)への拠出を通じて、日本で保護された外国人人身取引被害者に対する母国への安全な帰国の支援や、被害者に対する精神的支援、保健・医療面の支援、職業訓練などの自立・社会復帰支援を実施しています。また、二国間での技術協力、UNODCなどの国連機関のプロジェクトへの拠出を通じて、東南アジアなどの人身取引対策・法執行能力強化に向けた取組に貢献しています。また、密入国・人身取引および国際的な犯罪に関するアジア太平洋地域の枠組みである「バリ・プロセス」への拠出を行っています。
■国際的な資金洗浄(マネー・ローンダリング)やテロ資金供与対策
国際組織犯罪による犯罪収益は、さらなる組織犯罪やテロ活動の資金として流用されるリスクが高く、こうした不正資金の流れを絶つことも国際社会の重要な課題です。世界的に有効な資金洗浄やテロ資金供与対策を講じるためには、金融活動作業部会(FATF)が定める同分野の国際基準を各国が適切に履行することにより、対策の抜け穴を生じさせない、といった取組が必要です。そのため、資金洗浄やテロ資金供与対策のキャパシティやリソースの不足などを抱える国・地域を支援することは、国際的な資金洗浄やテロ資金供与対策の向上に資します。その観点から、日本は、加盟国間の相互審査等を通じ、非FATF加盟国によるFATF基準の履行促進を担うFATF型地域体の支援などを行っており、特にアジア太平洋地域のFATF型地域体(APG:Asia/Pacific Group on Money Laundering)が行う技術支援などの活動を支援しています。
- 注47 : 自由で開かれた海洋のための取組については外務省ホームページを参照。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sanka/page22_001603.html
- 注48 : ソマリアとその周辺国の地域協力枠組み。
- 注49 : 「きぼう」から超小型衛星を放出する機会を新興国に提供するための、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国連宇宙部(UNOOSA)の協力枠組み。
- 注50 : 犯罪行為によって得た資金をあたかも合法な資産であるかのように装ったり、資金を隠したりすること。麻薬の密売人が麻薬密売代金を偽名で開設した銀行口座に隠す行為がその一例。
- 注51 : 新しく合成される精神活性物質(NPS:New Psychoactive Substances)、あるいは「危険ドラッグ」とも呼ばれ、規制対象となる薬物(麻薬等)と類似した効果を得るために合成された物質で、合法な医薬品とは認められていないもの、まだ規制されていない向精神性作用を呈する化合物をいう。
- 注52 : 女性やこどもを始めとした弱い立場にある人を、暴力や脅迫、誘拐、詐欺などの手段によって支配下に置いたり、引き渡したりして、売春や性的サービス、労働の強要などにより搾取する犯罪(人身取引議定書第3条(a)も参照)。
