2025年版開発協力白書 日本の国際協力

(3)法制度整備支援、民主化支援

開発途上国の「質の高い成長」の実現のためには、一人ひとりの権利が保障され、人々が安心して経済社会活動に従事でき、公正かつ安定的に運営される社会基盤が必要です。こうした基盤強化のため、開発途上国における自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値の共有や、グッド・ガバナンス(良い統治)の実現、平和と安定、安全の確保が重要となります。

その際、公務員が関与する贈収賄や横領などの汚職事件は、開発途上国の健全な経済成長や公平な競争環境を妨げる原因にもなります。そこでドナー国は、公正かつ安定した社会の実現のため、開発途上国における不正腐敗対策を含むガバナンス支援にも取り組む必要があります。

統治と開発への国民参加および人権の擁護・促進といった民主主義の基盤強化も、開発途上国の中長期的な安定と開発の促進にとって極めて重要な要素です。特に、民主化に向けて積極的に取り組んでいる開発途上国に対して、公正かつ透明性が確保された選挙を実施するための支援や、国民の知る権利を保障し、表現の自由を守るためのメディアに対する支援などを通じて、民主化への動きを後押しすることが重要です。

●日本の取組

■法制度整備支援

日本は、各国における法の支配の確立、グッド・ガバナンスの実現、民主化の促進・定着、基本的人権の尊重、投資環境の改善などのため、法制度整備支援を積極的に実施しています。具体的には、法・司法制度の改革、法令の起草支援、法制度運用・執行のための国家・地方公務員の能力向上、監査能力強化、制度整備(民法、競争法、知的財産権法、税、監査、公共投資など)に関する支援をインドネシア、ウクライナ、ウズベキスタン、カンボジア、キルギス、ケニア、スリランカ、タンザニア、ネパール、バングラデシュ、東ティモール、フィジー、ベトナム、モンゴル、ラオスなどの国々で行っています。

例えば、カンボジアでは、1990年代まで20年以上にわたって続いた内戦により、多数の法律が廃止され、法曹人材を含む知識人が大量に虐殺された歴史的な経緯もあり、民事法の適切な解釈・運用が定着するには、いまだ多くの課題が存在します。このため、日本は約30年間にわたり、民事法の起草・普及を支援するとともに、裁判官を始めとする民事法を運用する法曹人材の育成支援を行っています。また、ラオスでは、日本は約30年間法整備支援を実施し、特に、2012年から日本の支援を受けてラオス民法典の起草作業が開始され、2018年に成立、2020年に施行されました。このほか、日本の法務省とラオス司法省による共同研究セミナーの成果が、2025年、日ラオス外交関係樹立70周年記念として刊行されました。

2022年に深刻な経済危機に陥ったスリランカでは、ガバナンスの強化と汚職による脆(ぜい)弱性への対応が急務となっています。2025年7月に実施を決定した無償資金協力「腐敗防止制度の確立を通じた腐敗行為訴追推進計画」においては、国連開発計画(UNDP)を通じて、汚職予防に関するメカニズムの整備や、汚職調査・捜査・検察当局の能力強化、公的機関に対する説明責任追及に向けた啓発を行っています。2025年9月にディサナヤケ・スリランカ大統領が訪日した際、日本として引き続きスリランカの取組に協力していく旨表明しました。

また、2023年のG7広島サミットにおいて、ウクライナの法制度改革、とりわけ、司法部門および法の支配の促進における改革支援が宣言されたことを踏まえ、効果的な汚職対策支援プログラムの策定と支援プログラムの重複防止などを目的としたウクライナ汚職対策タスクフォースが、同年7月のG7司法大臣会合にて、日本の提案により設置されました。関連して、2025年12月にはウクライナ腐敗対策当局やウクライナ司法省の職員らを対象として、日本で、汚職対策に関する研修を実施しました。

そのほか、2021年3月に京都で開催された第14回国連犯罪防止刑事司法会議注53(京都コングレス)において採択された「京都宣言」注54の実施においてもリーダーシップを発揮しています。具体的には、2025年2月に第3回法遵守の文化のためのグローバルユースフォーラムを開催しました。「包括的で安全かつ公正な社会を形成するためのパイオニアとしてのユース:法務・司法分野におけるAI・デジタル技術の活用及び課題」のテーマの下、35か国から約80人が参加し、最新のAI・デジタル技術を法務・司法分野で活用していくための課題などについて議論が行われ、とりまとめられた勧告が国連に提出されました。6月には第4回アジア太平洋刑事司法フォーラムを開催し、アジア太平洋地域の22の国・機関の刑事司法実務家が、各国の捜査共助に関する情報共有や多様なステークホルダーの協力と再犯防止のための社会的アプローチをテーマに情報共有や活発な意見交換を行いました。12月には、日本が策定を主導してきた再犯防止国連準則(京都モデルストラテジー)が国連総会で採択されました。

また、9月から10月にかけて、2023年のASEAN・G7法務大臣特別対話において日本の提唱により創設されたASEAN・G7ネクスト・リーダーズ・フォーラムの第2回会合を開催しました。ASEANおよびG7の19の国・機関から約40人の法務省等の若手職員が参加した同会合では、各国の政策的課題や、法の支配に関する各国の共通の課題についての協議などを通じて参加者間が相互理解を深め、今後の協力の礎となるネットワークを形成しました。このほか、2025年8月のTICAD 9において採択された「TICAD 9横浜宣言」では、グッド・ガバナンス、民主主義および法の支配がアフリカの持続可能な開発、平和および安定の基盤となる柱であることを再確認した上で、包摂的で信頼性が高く透明性のある選挙の実施や、制度強化と能力構築に向けた努力を含む、民主主義の原則を堅持するアフリカ主導の取組への支援に引き続きコミットすることを表明しました。また、TICAD 9のテーマ別イベントとして、「これからのアフリカ諸国と日本の法務・司法分野における協力強化に向けて」と題するシンポジウムを開催しました。同シンポジウムに登壇したタンザニアのマスウィ憲法司法省事務次官は、基調講演で、経済開発の基盤としての紛争解決制度の整備の重要性などに言及し、国際仲裁・調停などの裁判外紛争解決手続(ADR)の制度改善等に向けた日本の支援に対する期待を表明しました。その後のパネルディスカッションでも、タンザニア、ケニア、ナミビアの専門家が登壇し、アフリカのさらなる経済発展を支えるための法制度の在り方や、経済発展に伴う犯罪の増加・複雑化に対処するための技術協力などについて議論し、今後の支援の方向性やニーズについて意見交換をしました。

法制度運用・執行のための国家・地方公務員の能力向上支援について、具体的には、法律実務家などの人材育成の強化などを目的として、国際研修や調査研究、現地セミナーを実施しています。司法省職員、裁判官、検察官などの立法担当者や法律実務家の参加を得て、各国のニーズ、最新の国際情勢、国連などの国際機関の活動を踏まえて、法令の起草、法制度の運用改善や関係職員の能力向上などをテーマとした研修を実施しています。

日本は、開発途上国のニーズに沿った支援を積極的に推進していくため、その国の法制度や解釈・運用などに関する広範かつ基礎的な調査研究を実施して、効果的な支援の実施に努めています。その一つとして、2024年4月からは、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシアの労働法制に関する比較研究を行う場として、アジア・太平洋労働法制研究会を定期的に開催しており、2025年10月には第12回国際民商事法シンポジウムを開催し、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシアの労働法制について実務的な議論を行いました。

■不正腐敗対策などのガバナンス支援

日本は、国連との協定に基づき法務省が運営する国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)注55を通じて、法制度整備支援および不正腐敗対策を含むガバナンス支援の一環として、アジアやアフリカなどの開発途上国の刑事司法実務家を対象に、毎年、研修やセミナーを実施しています。

具体的な取組の一例として、1998年から汚職防止刑事司法支援研修を実施しています。同研修は国連腐敗防止条約上の重要論点からテーマを選出して実施しているもので、各国における汚職防止のための刑事司法の健全な発展と協力関係の強化に貢献しています。2025年10月から11月にかけて、「腐敗の端緒の把握-成功した手法、実務及び技術から学ぶ」を主要課題として、27回目となる同研修を実施しました。同研修には、日本を含む17の国・地域から合計27人の刑事司法実務家が参加しましたが、この中にはウクライナからの参加者3人も含まれています。

ほかにも、東南アジア諸国におけるガバナンスの取組を支援するとともに、刑事司法・腐敗対策分野の人材育成に貢献することを目的として、2007年から東南アジア諸国のためのグッド・ガバナンスに関する地域セミナー(GGセミナー)を開催してきました。2024年から同セミナーに代わり新たに「日ASEAN刑事司法セミナー」を開始し、2025年12月の第2回セミナーは、「ASEAN捜査共助の強化に向けた新テンプレートの運用演習」と「ASEANにおける再犯防止に関する取組、とりわけ第14回コングレスの成果展開フォローアップとしての加害者処遇におけるグッドプラクティスの共有」の二つのセッションを同時に開催し、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、東ティモール、フィリピン、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、ラオスの合計10か国から刑事司法実務家が参加しました。

UNAFEIの活動は腐敗防止にとどまらず、国際社会での犯罪防止・刑事司法に関する重要課題を取り上げ、それらをテーマとした研修やセミナーを広く世界中の開発途上国の刑事司法実務家に対して実施することにより、変化するグローバル社会への対応を図ってきました。例えば、2025年においては、1月から2月にかけて「国際的なテロ関連犯罪への対処~関与若年者の処遇」をテーマとする第186回国際高官セミナーを、5月から6月にかけて「マネー・ローンダリングの現状と対策」をテーマとする第187回国際研修を、9月から10月にかけて「犯罪者処遇の理論と効果的な実践」をテーマとする第188回国際研修を、それぞれ対面方式で実施しました。

■民主化支援
コソボにおいて全ての国民から信頼される公共放送局を目指した「公共放送局能力向上プロジェクト」(写真:NHK財団)

コソボにおいて全ての国民から信頼される公共放送局を目指した「公共放送局能力向上プロジェクト」(写真:NHK財団)

民主化の促進に向けた支援の一例として、日本は、コソボにおいて、2015年10月から、「公共放送局能力向上プロジェクト」を実施しています。同プロジェクトでは、正確な情報発信に向け、JICA専門家の派遣や研修員の受入れを通じて報道・番組制作・技術スタッフの能力向上を支援しています。

また、日本は、透明性・信頼性の高い選挙の実施と、公正かつ包摂的な政治参加の実現に向けて支援を行っています。例えば、バングラデシュでは、2025年7月に決定した無償資金協力「選挙支援計画」の下、UNDPを通じ、有権者登録などに用いる機材(指紋スキャナ、網膜スキャナ、登録用カメラ、署名パッド等)を供与しました。南スーダンは、2011年に独立して以来初となる選挙の実施に向けて準備を進めており、日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO)を通じて無償資金協力「選挙及び選挙後の情報へのアクセス改善のためのマスメディア開発計画」を実施し、同国の地方ラジオ局およびコミュニティ・ラジオ局の整備および報道・治安関係者に対する能力強化支援を行っています。コートジボワールでは、UNDPと連携した無償資金協力「選挙に関連した紛争予防並びに女性及び社会的弱者の政治参加促進計画」を実施し、2025年10月の同国の大統領選挙に際し、独立選挙委員会および国家人権委員会の早期警戒メカニズム導入ならびに偽情報対策に関する能力強化などを支援し、同国における平和と安定および民主主義のさらなる定着に協力しています。


  1. 注53 : 5年に一度開催される犯罪防止・刑事司法分野における国連最大の国際会議。事務局は国連薬物・犯罪事務所(UNODC)。
  2. 注54 : 犯罪防止、刑事司法の分野における国連と国連加盟国の中長期的な指針を示す京都コングレスの成果文書。
  3. 注55 : 「犯罪の防止及び犯罪者の処遇に関するアジア及び極東研修所を日本国に設置することに関する国際連合と日本国政府との間の協定」に基づいて1962年に設立され、法務省法務総合研究所国際連合研修協力部により運営されており、設立以来、144の国・地域から6,600人を超える卒業生を輩出している。
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