(3)情報通信技術(ICT)、科学技術・イノベーション促進、研究開発
情報通信技術(ICT)注17の普及は、産業の高度化や生産性の向上に役立つとともに、医療、教育、エネルギー、環境、防災などの社会的課題の解決や、情報公開の促進、放送メディア整備といった民主化の推進に貢献します。また、競争力の高い製品やサービスを提供し、市場競争力を高めるため、デジタル・トランスフォーメーション(DX)注18の推進も重要です。
●日本の取組
■情報通信技術(ICT)

ルワンダでの技術協力「ICTイノベーションエコシステム強化プロジェクト」で、利用者が最適な配送業者を選ぶことができる配送サービスアプリをリリースした若者たち(写真:JICA)
日本は、開発途上国のICT分野における「質の高いインフラ投資」を推進注19しており、通信・放送設備や施設の構築、そのための技術や制度整備、人材育成などを積極的に支援しています(「案件紹介 タイ」、「案件紹介 ウクライナ」も参照)。具体的には、地上デジタル放送日本方式(ISDB-T)注20の海外普及・導入支援に積極的に取り組んでおり、2022年12月現在、中南米、アジア、アフリカ地域などの計20か国注21で採用されています。また、ISDB-T採用国および検討国を対象としてJICA研修を毎年実施するとともに、総務省は、相手国政府との対話・共同プロジェクトを通じ、ICTを活用した社会的課題解決などの支援を推進しています。
また、国際電気通信連合(ITU)注22と協力し、途上国に対して、電気通信およびICT分野の様々な開発支援を行っています。新型コロナの世界的な拡大を受け、2020年10月から、日本はITUと協力して、アフリカなどの途上国を対象に、デジタルインフラの増強や利用環境整備のための国家戦略策定を支援するConnect2Recover(C2R)を開始しています。日本はこれまでITUが国連児童基金(UNICEF)と共同で行う「Giga」注23パイロット事業のうち、ルワンダの学校におけるインターネット導入などを支援してきました。2022年には、日本の追加支援を通じて、C2Rの支援対象国をケニア、コンゴ民主共和国、シエラレオネ、ジンバブエ、ニジェール、ベナンおよびモザンビークに拡大し、現在プロジェクトが進行中です。
アジア太平洋地域では、アジア・太平洋電気通信共同体(APT)注24が、同地域の電気通信および情報基盤の均衡した発展に寄与しています。日本は、情報通信に関する人材育成を推進するため、APTが毎年実施する数多くの研修を支援しており、2021年度には、ブロードバンドネットワークやサイバーセキュリティなどに関する研修を8件実施し、APT各加盟国から約150名が参加しました。研修生は日本の技術を自国のICT技術の発展に役立てており、日本の技術システムをアジア太平洋地域に広めることで、日本企業の進出につながることも期待できます。
また、アジア太平洋地域では、脆(ぜい)弱なインフラや利用コストが負担できないことなどを要因としてインターネットが利用できない人々は20億人以上います。日本は、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域や太平洋島嶼(しょ)国において、離島・遠隔地でも低コストで高速のインターネットが利用できるよう環境整備を行っています。
2021年12月に日本、米国、オーストラリア、キリバス、ナウル、ミクロネシア連邦の6か国が連名で発表した、東部ミクロネシア海底ケーブルの日米豪連携支援については、2022年7月に6か国のプロジェクト理事会をオンラインで開催するなど、プロジェクトを着実に進めています。このように日本は、米国、オーストラリアを始めとする同志国などと連携しつつ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現のため、インド太平洋地域における質の高いインフラの整備を引き続き支援していきます。
日本は、近年特に各国の関心が高まっているサイバー攻撃を取り巻く問題についてもASEANとの間で協力を一層強化することで一致しています注25。具体的取組として、日・ASEAN統合基金(JAIF)注26を通じて「日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)」を設立しサイバーセキュリティ演習などを実施しています。4年間で700名以上の受講を目指すとした、2018年の開所当初の目標を超える948名が、2022年までに研修を受講しました(AJCCBCの取組についてはサイバー空間を参照)。
■科学技術・イノベーション促進、研究開発

日本とブラジルの医療機関が真菌感染症診断に関する共同研究を行う様子(写真:JICA)
ODAと科学技術予算を連携させた地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)解説注27は、科学技術分野に関する日本と開発途上国の研究機関・研究者間の共同研究への支援として2008年に始まり、2022年度までに、世界53か国において179件の研究プロジェクトが採択されています(「匠の技術、世界へ1」、「匠の技術、世界へ2」も参照)。
日本は、工学系大学への支援を強化することで、人材育成への協力をベースにした次世代のネットワーク構築を進めています。
アジアでは、日本式工学教育の確立を目指して設立されたマレーシア日本国際工科院(MJIIT:Malaysia-Japan International Institute of Technology)に対し、教育・研究用の資機材の調達や教育課程の編成を支援しているほか、日本の大学と教育研究に係る協力を行っています。2022年現在、日本国内の29大学および2研究機関などによりコンソーシアムが組織されており、日本人教員の派遣や共同研究などを通じ、日本とマレーシアとの間の人的交流も促進されています。また、2012年から、タイのアジア工科大学院(AIT:Asian Institute of Technology)注28において、日本人教官が教鞭(べん)を執るリモートセンシング(衛星画像解析)分野の学科に所属する学生に奨学金を拠出しており、アジア地域の宇宙産業振興の要となる人材の育成に貢献しています。
モンゴルでは、「工学系高等教育支援計画」を2014年から実施しており、モンゴル国立大学、科学技術大学の工学系の教員や研究者と、日本の大学や研究機関が共同研究を行っています。同計画では、留学プログラムに加え、モンゴルの大学に人工知能トレーニングサーバーや放電プラズマ結晶装置といった機材を供与し、無人自動車などのAI開発やモンゴルのレアメタルの製品加工に関する研究を支援するなど、モンゴルの産業の多角化を目的とした支援を進めています(エジプト日本科学技術大学(E-JUST)については、「国際協力の現場から3」を参照)。
タイ

日本の技術を活用し、タイのインフラ整備を促進
電子基準点に係る国家データセンター能力強化及び利活用促進プロジェクト
技術協力プロジェクト(2020年9月~2024年2月)
タイでは、少子高齢社会に伴う人材不足や熟練技術者の減少が進み、様々な産業における作業の効率化や生産性の向上が課題となっています。特に建設機械や農業機械の自動運転を可能にする高精度測位注1を活用したICT建機注2によるインフラ整備やビジネスの促進には大きな需要があり、電子基準点注3網の適切な運用が重要となります。しかし、複数の政府機関がそれぞれの使用目的に応じて独自に電子基準点を設置し測定しているため、測位情報に誤差が生じ、取得した情報を関係機関が相互に活用できない状況でした。そこで、タイ政府は、電子基準点で生じる誤差を観測・補正する基準局として国家データセンター(NCDC)を設立しました。
本協力では、全国240か所の電子基準点のネットワーク化を行い、高度な測量を可能とする電子基準点網を構築することで、NCDCが一元的に電子基準点網からの位置情報を正確に解析・配信し、配信された情報を関係機関が利活用できるように技術支援を行っています。
高精度測位の活用を促進するため、日本とタイの企業向けに事業の公募を行い、農業、測量、建設、自動車の自動運転分野から、タイ政府機関と共に計8件を選定し、パイロット事業を開始しました。農業分野では、高精度測位を活用した自動農業ヘリコプターによる農薬の精密散布方法の開発などを進めています。建設分野では、道路工事において、建設機械の自動運転や3次元(3D)データを利用した高精度の測量・施工が進められており、高精度測位を活用した建設施工の高品質化・効率化への期待が高まっています。
今後もパイロット事業を通じて、高精度測位を活用した産業振興およびインフラ整備を支援するとともに、高精度測位データのさらなる安定運用に貢献していきます。

高精度測位データとICT建機を用いた道路工事の現場見学会の様子(写真:JICA)

高精度測位データとICT建機を用いた道路工事の様子(写真:JICA)
注1 地球上の任意の場所の位置や標高などをリアルタイムかつ正確に測定すること。これを活用した建設機械や農業機械の自動運転の実現、自動運転技術を活用した産業振興などの実現が期待されている。
注2 情報通信技術を取り入れた建設業における重機のこと。
注3 測位衛星から電波を連続的に受信し、地球上の位置や標高を正確に測定する施設のこと。
- 注17 : Information and Communications Technologyの略。コンピュータなどの情報技術とデジタル通信技術を融合した技術で、インターネットや携帯電話がその代表。
- 注18 : 新たなIT 技術の導入が人々の生活をより便利にしたり豊かにしたりすること、新しいデジタル技術の導入により既存ビジネスの構造を作り替えたりするなど、新しい価値を生み出すこと。
- 注19 : 2017年、各国のICT政策立案者や調達担当者向けに、「質の高いICTインフラ」投資の指針を策定。
- 注20 : 日本で開発された地上デジタルテレビ放送方式で、緊急警報放送システム、携帯端末などでのテレビ放送の受信、データ放送などの機能により、災害対策や、多様なサービスの実現といった優位性を持つ。
- 注21 : 日本、フィリピン、スリランカ、モルディブ、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、チリ、ニカラグア、ブラジル、パラグアイ、ペルー、ベネズエラ、ボリビア、ホンジュラス、アンゴラ、ボツワナの20か国。
- 注22 : 電気通信・放送分野に関する国連の専門機関で、世界中の人が電気通信技術を使えるように、(ⅰ)携帯電話、衛星放送などで使用する電波の国際的な割当、(ⅱ)電気通信技術の国際的な標準化、(ⅲ)開発途上国の電気通信分野における開発の支援などを実施している。2022年、尾上誠蔵(おのえせいぞう)氏が電気通信標準化局長に選出された。
- 注23 : 2019年にUNICEFとITUが立ち上げた、途上国を中心に、世界中の学校でインターネットアクセスを可能にすることを目的にしたプロジェクト。
- 注24 : アジア太平洋地域における情報通信分野の国際機関で、同地域における電気通信や情報基盤の均衡した発展を目的とし、研修やセミナーを通じた人材育成、標準化や無線通信などの地域的な政策調整などを実施している。2020年から、近藤勝則氏が事務局長を務めている。
- 注25 : 2015年、内閣官房にサイバーセキュリティ戦略本部が設置され、2016年に「サイバーセキュリティ分野における開発途上国に対する能力構築支援の基本方針」が同戦略本部に報告された。
- 注26 : 注4を参照。
- 注27 : 第Ⅳ部1(5)も参照。
- 注28 : 工学・技術部や環境・資源・開発学部などの修士課程および博士課程を有する、アジア地域でトップレベルの大学院大学。