2022年版開発協力白書 日本の国際協力

5 欧州地域

過去に共産主義体制にあった中・東欧、旧ソ連の多くの国々は、現在、市場経済に基づいた経済発展に取り組んでいます。日本は、欧州諸国を、人権、民主主義、市場経済、法の支配などの基本的価値を共有する重要なパートナーと認識しており、欧州全体の一層の安定と発展に貢献するため、経済インフラの再建や環境問題などへの取組を支援しています。また、欧州連合(EU)を始めとする欧州所在の地域国際機関との間で、対話・協力の継続・促進や人的ネットワークの構築を通じ、総合的な関係強化を図ってきています。

2022年2月以降のロシアによるウクライナ侵略を受けて、ウクライナおよびその周辺国を中心に深刻な人道危機が発生し、2022年12月時点でも事態好転の見通しは立たず、サプライチェーンの分断やエネルギー・食料価格の高騰など、世界的に人々の生活に深刻な影響が発生しています。日本は、これら人道状況への対応、ウクライナの復興・再建を見据えた中長期的な支援などを進めています(2022年2月以降のウクライナ関連の支援については、第Ⅰ部1ウクライナ情勢を受けた日本の取組を参照)。

●日本の取組

アルバニアにおいて、ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園における生態系の管理をすることによる公園管理モデルの構築を指導する日本人専門家(写真:JICA)

アルバニアにおいて、ディヴィアカ・カラヴァスタ国立公園における生態系の管理をすることによる公園管理モデルの構築を指導する日本人専門家(写真:JICA)

日本は、人権、民主主義、市場経済、法の支配などの基本的価値を共有する国々との関係をさらに強化し、欧州全体の一層の安定と発展に貢献するため、経済インフラの再建や環境問題などへの取組を支援しています。

西バルカン諸国注19は、1990年代の紛争の影響で改革が停滞していましたが、ドナー国・国際機関などの復興支援および各国自身による改革の結果、復興支援の段階から卒業し、現在は持続的な経済発展に向けた支援が必要な段階にあります。結束する欧州を支持する日本は、欧州連合(EU)などと協力しながら開発協力を展開しており、「西バルカン協力イニシアティブ」注20(2018年)の下、同諸国がEU加盟に向けた必要な社会経済改革などを支援しています。

セルビアでは、民間セクター開発、環境保全、経済社会サービスの向上を重点事項として、質の高い経済成長を促進する支援を行っています。2020年11月より実施している「ベオグラード市公共交通改善プロジェクト」では、市民の主要な移動手段である公共交通(バス、トラム、トロリーバス)の運行の効率化や運賃収受改善等に向けた取組を通じ、市公共交通部の能力強化を行い、同市が目標とする環境に優しい公共交通システムの構築を目指しています。また、西部のシド市では、発生源分別、廃棄物の減量化を含む3R(Reduce=廃棄物の発生抑制、Reuse=再利用、Recycle=再資源化)の推進を通じて中小自治体における効率的で持続可能な一般廃棄物管理のモデルを確立し、広域廃棄物管理システムを推進することを目的とした廃棄物管理能力向上プロジェクトを実施しています。

コソボおよびモンテネグロに対しては、森林火災などの自然災害リスクを削減するための国家森林火災情報システム(NFFIS)および生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)による災害リスク削減のための能力強化プロジェクトを実施しています。

また、日本は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、脆(ぜい)弱な保健・医療体制を強化することを目的に、2020年以降、アルバニア、ウクライナ、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モルドバ、モンテネグロの8か国に対して、総額12億円の保健・医療関連機材の供与を実施しています。

これらの支援を実施する一方、日本は、欧州地域内の経済発展の格差を踏まえ、EUに加盟した国々は援助対象国から卒業したものとして、支援を段階的に縮小するとともに、それらの国がドナー国として域内の開発途上国に対する開発協力に一層積極的に取り組むことを促しています。

ウクライナ

SDGs11 SDGs13

日本によるウクライナの公共放送局設立が災害時・非常時の報道体制構築に寄与
公共放送組織体制強化プロジェクト
(1)無償資金協力(2019年4月)、(2)技術協力プロジェクト(2017年1月〜2022年3月)

マスメディアが、権力の監視や国民の知る権利の保障などの役割を果たすには、政府および市場から独立した公共放送局の育成が必要です。ウクライナでは、2017年1月にキーウの国営テレビ局と22の地方放送局、ラジオ局、映画製作会社等の計32社が統合したウクライナ放送局(PBC)が設立されました。しかし、政府の広告塔のイメージが強く、平均視聴率1パーセント以下という状況が続き、スタッフの能力向上とコンテンツ改善が急務となっていました。

そこで、日本は、PBCスタッフに対し、教育・文化番組制作能力の強化、災害時・非常時の報道体制の構築支援を実施しました。加えて、放送用資機材も供与しました。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵略後、PBCは戦火を避けて拠点を移しながらも、現在に至るまで、ニュース報道を中心に放送を継続しています。プロジェクトを通じたPBCキーウ本局と全国の支局との情報ネットワーク構築、緊急時における報道のあり方をまとめた緊急報道マニュアルの整備などが、戦時下における放送の継続に寄与しています。

加えて、記者の意識改革も、PBCの戦時下の緊急報道を支えています。プロジェクトを通じて、政府機関と情報チャネルを築くための訓練を行ったことで、多くのPBC記者の意識が、旧ソ連時代から持っていた「情報とは、政府が一方的に都合のいいものだけを提供してくるもの」から、「情報は記者が自分で取りに行くもの」へと変わりました。日本の支援はこのような形でもウクライナに貢献しています。

専門家によるワークショップの様子(写真:JICA)

専門家によるワークショップの様子(写真:JICA)

人形劇番組撮影風景(写真:JICA)

人形劇番組撮影風景(写真:JICA)

日本の開発協力の方針 欧州地域の重点分野

  1. 注19 : アルバニア、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの6か国。
  2. 注20 : 西バルカン諸国のEU加盟に向けた社会経済改革を支援し、民族間の和解・協力を促進することを目的とする取組。
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