2022年版開発協力白書 日本の国際協力

第Ⅰ部 ウクライナ情勢を受けた日本の取組

米国、英国、ドイツ、イタリア、カナダ、ポーランド、ルーマニアの首脳およびNATO事務総長とのウクライナ情勢に関するテレビ会議において、エネルギー・食料の安定供給の確保に向けた取組について説明する岸田総理大臣(2022年9月8日)(写真:内閣広報室)

米国、英国、ドイツ、イタリア、カナダ、ポーランド、ルーマニアの首脳およびNATO事務総長とのウクライナ情勢に関するテレビ会議において、エネルギー・食料の安定供給の確保に向けた取組について説明する岸田総理大臣(2022年9月8日)(写真:内閣広報室)

1 ウクライナ情勢を受けた日本の取組

G7外相会合(オンライン形式)に出席する林外務大臣(2022年2月)

G7外相会合(オンライン形式)に出席する林外務大臣(2022年2月)

ヴィンニツァ州ヤンピリにて、毛布、ビニールシート、スリーピングマットなどの日本からの支援物資を受け取るウクライナ国内の避難民(写真:UNHCR)

ヴィンニツァ州ヤンピリにて、毛布、ビニールシート、スリーピングマットなどの日本からの支援物資を受け取るウクライナ国内の避難民(写真:UNHCR)

ウクライナ避難民向けにルーマニアで一時避難施設を運営(写真:IOM)

ウクライナ避難民向けにルーマニアで一時避難施設を運営(写真:IOM)

モルドバに派遣されたJICA調査団による活動の様子(写真:JICA)

モルドバに派遣されたJICA調査団による活動の様子(写真:JICA)

2022年は、新型コロナウイルス感染症がいまだ収束しない中、ロシアのウクライナに対する侵略が、ウクライナおよびその周辺国のみならず、世界全体に大きな影響をもたらした1年になりました。

2022年2月の侵略開始以来、ウクライナの人々の約3分の1が自宅を追われたとされ、こどもや民間人を含む654万人注1が国内で、また、1,600万人近く注2が国外へ、安全を求め避難を強いられています。国内外の避難民の多くが仕事を失い、厳しい状況に晒(さら)されています。ウクライナ国内に加えて、多くのウクライナの人々が避難する周辺各国においても、一時的避難施設、食料、生活必需品、保健・医療といった支援ニーズが増大しています。また、継続する攻撃により、ウクライナ各地のインフラ施設やエネルギー施設が被害を受けています。保健・医療や教育など必要な社会サービスの提供力が低下しているのみならず、必要なサービスへのアクセスや支援物資の供給を行うにも、がれき除去や地雷・不発弾処理が必要になっているなど、市民生活への影響は続いています。さらに、戦闘の長期化により、越冬のための支援ニーズも高まっています。

世界有数の穀物の輸出国だった両国の間の事態の長期化に伴い、特に両国産穀物に多くを依存するアフリカ、中東、アジアの開発途上国を中心に安定的な穀物の供給に深刻な影響が生じています。さらに、世界各地で穀物の取引価格が上昇し、食料価格の高騰も生じています。新型コロナからの経済回復に伴ってエネルギー需要が拡大する一方で、ロシアのウクライナ侵略により生じている地政学的緊張や世界的な天候不順等の複合的な要因によってエネルギー供給は世界的に拡大せず、エネルギー価格も高騰しています。

このように、ロシアによるウクライナ侵略は、ウクライナおよび周辺国における人道状況の悪化や、ウクライナの経済・社会の不安定化をもたらしています。また、世界的にグローバル・サプライチェーンの混乱をもたらし、人々が尊厳を持って生きるための基盤をなす食料およびエネルギー安全保障、自由で開かれた貿易体制の維持強化といった、国際社会全体に関わる新たな課題を浮き彫りにしています。

このような複合的な危機による影響は、日本にとって決して対岸の火事ではなく、日本国民の生活や日本企業のビジネスにも深刻な影響を及ぼしています。また、力による現状変更に断固として対応しなければ、それはウクライナだけの問題にとどまらず、アジアを含む他地域においても、同様の動きを認めてしまうことにつながります。日本が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に置かれる中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を守り抜くことの重要性がより一層高まっており、日本は、ロシアのウクライナ侵略という暴挙を断固として認めることなく、ウクライナおよびその周辺国に対する支援を進めていくことが必要との一貫した立場に立ち、ロシアによるウクライナ侵略の開始直後から、G7を始めとする国際社会と連携した取組を行っています。

3月、4月に開催されたG7外相会合および首脳会合で、日本は、総額2億ドルの緊急人道支援を表明し、ウクライナおよびウクライナの人々に寄り添い、G7を始めとする国際社会と連携してこの危機を乗り越え、国際社会の平和と安定および繁栄を確保する姿勢を明確に示しました。

その後も、日本は、G7、G20、アフリカ開発会議(TICAD)、国連総会など国際的な議論の場において、人道危機対応にとどまらず、ウクライナの包括的な復興・再建に向けた取組や、ウクライナ情勢の影響を受けた世界的な食料不安やエネルギー危機に直面し特に脆(ぜい)弱性を増しているいわゆる「グローバル・サウス」への支援についても、国際社会と連携しつつ、議論を積極的にリードし、取り組んでいく姿勢を示しています。

日本は、これら人道状況への対応、ウクライナの復興・再建を見据えた中長期的な支援、世界的な食料・エネルギー安全保障の危機に直面する国々への支援を進めています。

12月には外務省の補正予算に、ウクライナおよび周辺国向け600億円、アジア、島嶼(しょ)国、中東、アフリカ等の途上国向け1,022億円の支援が計上されました。G7の役割がかつてなく高まる中、日本は2023年のG7議長国として、ウクライナ情勢を含む国際社会が直面する諸課題に対する取組を主導していきます。

(1)ウクライナおよび周辺国に対する緊急・人道支援

ア 国際機関を通じた緊急・人道支援
ウクライナにおける食料配布支援(写真:特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパン)

ウクライナにおける食料配布支援(写真:特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパン)

ロシアによるウクライナ侵略開始を受けて、日本は2月24日に外務大臣談話を発表し、ウクライナおよびウクライナの人々に寄り添い、事態の改善に向けてG7を始めとする国際社会と連携して取り組んでいく旨を表明しました。その3日後にオンラインで開催されたG7外相会合において、林外務大臣は、1億ドル規模のウクライナ緊急人道支援を発表し、G7各国から、日本の決定に強い歓迎の意が示されました。3月にベルギー・ブリュッセルで行われたG7首脳会合では、岸田総理大臣が、ウクライナおよび周辺国における人道状況についての深刻な懸念をG7首脳と共有するとともに、会合に出席したゼレンスキー・ウクライナ大統領からのさらなる支援の呼びかけに応えて、追加で1億ドルの緊急人道支援を行うことを表明しました。

日本は、G7会合での支援表明を受けて、3月に総額1億ドル、4月に追加で総額1億ドルの緊急人道支援注3の実施を決めました。総額2億ドルの支援は、ウクライナおよび周辺国のモルドバ、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、スロバキア、チェコに対して、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連世界食糧計画(WFP)、赤十字国際委員会(ICRC)、国連児童基金(UNICEF)、国際移住機関(IOM)ほか10の国際機関などを通じて、保健・医療、水・衛生、食料・食料安全保障、避難民やこどもの保護といった緊急性の高い分野における人道支援として、困難に直面するウクライナの人々に届けられました。

イ 二国間の支援
キーウ州ブチャ地区の仮設住宅に設置された日本が供与した発電機(写真:UNHCR)

キーウ州ブチャ地区の仮設住宅に設置された日本が供与した発電機(写真:UNHCR)

日本は、これまでに培ってきた各国および国際機関とのネットワークを活用し、JICAを通じた取組も実施しています。3月から5月の3回にわたり、JICAは、ウクライナからの避難民受入れに伴う保健医療・緊急人道支援分野の協力ニーズを把握するために、1990年代から医療保健分野において協力実績のあるモルドバに調査団を派遣しました。長年にわたり協力関係のあるモルドバ保健省および世界保健機関(WHO)等と連携し、日本がこれまでの災害緊急援助で蓄積してきたノウハウをいかしながら、各国からの緊急医療チーム間の活動調整を行いました。支援ニーズを具体化し、緊急性の高い医療機材の選定、情勢悪化に備えた緊急医療チームの配置計画の策定、医療データ管理等の支援を行いました。また、5月と9月には簡易超音波診断装置の供与を行いました。

その後7月には、医療機材維持管理能力を強化するため、モルドバへの専門家派遣を開始しました。8月には、ウクライナからの避難民を受け入れている首都キシナウの5つの医療機関に対して、10億円相当の医療機材の無償供与を決定しました。

10月、ドイツ政府および欧州委員会共催の「ウクライナ復興・再建・近代化に関する国際専門家会議」にビデオメッセージを送る形で参加した岸田総理大臣は、これまでに行ってきた避難民保護・支援などの協力に加え、これから厳しい冬を迎えるウクライナ国内において越冬支援も実施することを発表するとともに、2023年のG7議長国として、ウクライナにおける一刻も早い平和の回復および復興の実現に向け、国際社会の議論を積極的にリードしていく考えを示しました。これを受けて11月、日本は、約257万ドルの緊急無償資金協力の実施を発表しました。停電により暖房設備や照明器具を使用できない人々に対する越冬支援として、UNHCRを通じて発電機およびソーラー・ランタンを供与します。また、12月、パリにおいて開催されたフランス政府およびウクライナ政府共催の「ウクライナ市民の強靱(じん)性を支援するための国際会議」に出席した吉川外務大臣政務官は、ウクライナおよび周辺国向けの予算を含む、補正予算の成立について紹介した上で、発電機等エネルギー関連部分とともに喫緊の人道支援やウクライナの人々の生活再建に重点を置きつつ、必要な人道支援に加え、復旧、復興支援を実施していく旨を表明しました。

ウ 日本のNGOによる取組
こども用の防寒用品に交換できるバウチャーをルーマニアのウクライナ避難民に配布(写真:公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン)

こども用の防寒用品に交換できるバウチャーをルーマニアのウクライナ避難民に配布(写真:公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン)

日本のNGOもまた、ODA資金を活用して、多岐にわたる人道支援を行っています。ジャパン・プラットフォーム(JPF)注4は、ロシアの軍事行動開始の翌日に、加盟NGOによる初動調査を決定し、ウクライナ国内と周辺国における支援ニーズや物資調達に関する調査を開始しました。急速に拡大する避難民の数や調査の内容を踏まえて、3月7日に出動を決定しました。日本政府による前述の総額2億ドルの緊急人道支援のうち、約35億円(3,260万ドル)がJPFに対して拠出され、これまでに民間資金と合わせて総額40億円規模の支援プログラムが組まれ、12のJPF加盟NGOにより支援事業が実施されています。食料や生活物資(越冬用品を含む)の配布、水・衛生や医療分野の支援に加え、避難民に寄り添う心理・社会的支援活動のほか、危険地域にいる住民を退避させる事業など、NGOの特性をいかした支援が展開されています。

さらに日本政府は、現地のニーズや国際的な潮流を踏まえJPFのウクライナ緊急・人道支援案件における現金給付支援要件の緩和や使途の拡大を10月に決めました。これを受けて、2023年2月には、現金給付を含む支援活動が開始されています。

エ 関係省庁間の連携
デシチーツァ駐ポーランド・ウクライナ大使に支援物資の目録書を手渡す武部農林水産副大臣(当時)(写真:農林水産省)

デシチーツァ駐ポーランド・ウクライナ大使に支援物資の目録書を手渡す武部農林水産副大臣(当時)(写真:農林水産省)

ウクライナおよび周辺国の喫緊のニーズに応えるべく、日本政府は、関連する省庁間の密な連携を通じて、迅速な支援に取り組んでいます。

3月に開催されたG7臨時農業大臣会合において、ウクライナの農業・食料分野での支援に協力していくことが合意されました。また、同月、コルスンスキー駐日ウクライナ大使から金子農林水産大臣(当時)に対し、直接、食料支援の要請があったことを踏まえ、農林水産省は、支援物資としてパックご飯、魚の缶詰、全粉乳および缶詰パンの合計15トンの日本の食料品を確保しました。5月、これらの食料は、日本の製薬会社や医療機器会社から駐日ウクライナ大使館に寄贈された医薬品、医療機器等の物資とともにポーランドに輸送されました。これに合わせて武部農林水産副大臣(当時)がポーランドのワルシャワを訪問し、支援物資をウクライナ政府に引き渡しました。

4月、モナスティルスキー・ウクライナ内務大臣(当時)から金子総務大臣(当時)への要請を受けて、現地で使用可能な消防・救助関連資機材、通信機器25品目30トンを、国内消防本部、民間団体・企業からの協力を受けて確保しました。日本政府はこれら支援物資を現地に輸送するため、5月に国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)へ約166万ドルの緊急無償資金協力を実施することを決定しました。これら支援物資は、民間企業により駐日ウクライナ大使館に寄贈された医薬品、医療用品等の支援物資と併せて、ポーランドにあるウクライナ支援物資の集積地に届けられました。

オ ODA以外の予算による取組
UNHCRの人道救援物資を輸送する自衛隊機。輸送された物資は、UNHCR経由で避難民に届けられた。(写真:防衛省)

UNHCRの人道救援物資を輸送する自衛隊機。輸送された物資は、UNHCR経由で避難民に届けられた。(写真:防衛省)

自衛隊機により輸送された人道救援物資がルーマニアに到着。協力を確認するドジェアヌ・ルーマニア内務省緊急事態局次長、トデレアン・ルーマニア外務省地球規模課題局長、植田駐ルーマニア日本国大使、ザパタUNHCRルーマニア事務所代表(左から)(写真:UNHCR)

自衛隊機により輸送された人道救援物資がルーマニアに到着。協力を確認するドジェアヌ・ルーマニア内務省緊急事態局次長、トデレアン・ルーマニア外務省地球規模課題局長、植田駐ルーマニア日本国大使、ザパタUNHCRルーマニア事務所代表(左から)(写真:UNHCR)

日本政府は、ODA以外による支援も行っています。4月、UNHCRからの要請を受けて、国際平和協力法に基づく物資協力として、毛布5,000枚、ビニールシート4,500枚、スリーピングマット8,500枚をUNHCRに無償で譲渡しました。また、ドバイ(アラブ首長国連邦)にあるUNHCRの倉庫に備蓄された人道救援物資約103トンについて、自衛隊機によりポーランドおよびルーマニアまで輸送しました。輸送された物資は、UNHCRを通じてウクライナ避難民に届けられています。

また、自衛隊法第116条の三に基づき、防弾チョッキ・鉄帽(ヘルメット)・防寒服・天幕・カメラのほか、衛生資材・非常用食糧・発電機等といった自衛隊の装備品および物品を、移転後の適正な管理を確保しつつ、ウクライナ政府に贈与しています。


  1. 注1 : 国際移住機関(IOM)避難民動向モニタリングシステム、2022年10月付統計。
  2. 注2 : 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)オペレーショナル・データ・ポータル、2022年11月29日付統計。
  3. 注3 : 「(2)ウクライナの安定と復興のための支援」に記載のFAO経由支援300万ドル、UNDP経由支援450万ドルを含む。
  4. 注4 : 用語解説を参照。
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