(2)ウクライナの安定と復興のための支援
ア これまでのウクライナ支援
日本は、ウクライナと1992年に外交関係を樹立し、1997年に経済協力を開始しました。以降、ウクライナの自立的・持続的成長を後押しすべく、民主主義の定着と社会の安定、市場経済化への移行に向けた支援を継続的に実施してきました。
基幹インフラの支援としては、2005年には円借款第一号案件となる「キエフ・ボリスポリ国際空港拡張計画」を実施し、新たな国際線旅客ターミナルビルと諸関連施設の整備を行い、旅客の処理能力と利便性向上に貢献しました。
独立後のウクライナが政治的に不安定な状況に陥った際も、日本は、日本人選挙監視要員の派遣や、紛争予防・平和構築無償資金協力「ドネツク州及びルハンスク州における社会サービスの早期復旧及び平和構築計画」を通じて民生の向上や地域の復興促進に貢献したほか、「経済改革開発政策借款」の供与を通じて財政の安定化を後押ししました。
その後も、マクロ経済、エネルギー、民間セクターといった分野での課題にウクライナの人々が対処できるよう、日本・EBRD(欧州復興開発銀行)協力基金を活用した技術協力やJICAによる研修などの技術協力の支援、ウクライナ財務大臣アドバイザーとして日本人財務専門家の派遣などを行ってきました。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて、保健・衛生、教育分野を中心に地域住民に直接裨(ひ)益する支援も継続実施してきました。2020年、新型コロナの拡大に際しても、MRIシステム等の保健・医療関連機材を供与する供与限度額2億円の支援を行いました(公共放送に関する支援について、「案件紹介」を参照)。
このような長年にわたる両国間の友好関係を基盤に、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、日本政府は緊急・人道支援に加え、早い段階からウクライナの安定と今後を見据えた支援を開始しました。
イ ウクライナの安定と今後の復興・再建を見据えた支援

緊急経済復興開発政策借款に関する書簡の交換を行う林外務大臣とコルスンスキー駐日ウクライナ大使(2022年4月)

緊急経済復興開発政策借款に対する追加の資金供与に関する書簡の交換を行うコルスンスキー駐日ウクライナ大使と鈴木外務副大臣(当時)(2022年6月)
岸田総理大臣は、3月にベルギー・ブリュッセルで開催されたG7首脳会合において、緊急・人道支援のみならず、ウクライナの経済を下支えするため、世界銀行と協調した1億ドルの借款を速やかに供与することを表明しました。さらに岸田総理大臣は、4月に行われたウクライナ情勢に関する首脳テレビ会議において財政支援の1億ドルから3億ドルへの増額、5月20日にはさらに総額6億ドルに倍増する旨を表明しました。
経済危機に直面するウクライナの緊急かつ短期的な資金需要に対応するため、迅速に手続が進むよう調整を進めた結果、最初に表明した1億ドル(130億円)については4月28日に東京にて、林外務大臣とコルスンスキー駐日ウクライナ大使との間で、有償資金協力「緊急経済復興開発政策借款」に関する書簡の交換を行いました。また6月7日には、鈴木外務副大臣(当時)とコルスンスキー大使との間で、5億ドル(650億円)の追加供与に関する書簡の交換が行われました。
財政支援のほか、日本は、ウクライナの作付け時期である4月に、国連食糧農業機関(FAO)経由で、農地への作付けなど農業生産の回復のため、300万ドル注5の協力を行いました。また、7月には、秋以降の収穫期に向けて、FAO経由で1,700万ドル注6を供与し、穀物の貯蔵能力を拡大するとともに、穀物輸出の代替輸送ルートの実用化を踏まえ、検疫所の検査能力向上に係る協力を実施し、ウクライナ国内からの穀物輸出を支援しました。
このほかにも、ウクライナ国内の被災コミュニティの民間人の安全確保と必要な救援物資の配給ルートを確保するために、4月には国連開発計画(UNDP)経由で、緊急的がれき除去や地雷・不発弾の処理・対応等のため、450万ドルの協力注7を行いました。さらに日本は、JICAを通じて、2011年の東日本大震災の際に経験したがれきの分別や、再利用の技術など日本の災害廃棄物の処理に関する知見・経験を共有するオンラインセミナーを開催しています。
また、地雷・不発弾対策分野では、日本が長年地雷除去を支援してきたカンボジアと協力し、ウクライナにおける地雷除去の活動を支援しています。
- 注5 : 4月に発表した1億ドルの追加緊急人道支援のうちの一つ。
- 注6 : 7月に発表した2億ドルの食料安全保障分野支援のうちの一つ。
- 注7 : 4月に発表した1億ドルの追加緊急人道支援のうちの一つ。