(2)経済財政支援と強靱な社会の構築・環境整備のための支援
新型コロナ拡大による世界的な社会経済状況および人道状況の悪化を踏まえ、日本は、水・衛生、栄養・食料、教育、ジェンダー等の幅広い分野において、各国のニーズに寄り添ったきめ細やかな支援を行っています。
中でも、新型コロナ危機の中で不可欠なインフラとなった通信分野については、途上国でのオンライン教育普及の支援などに取り組むとともに、ODA案件における情報通信技術(ICT)注5の積極的活用やデジタル・トランスフォーメーション(DX)注6の推進を行っています。さらに、気候変動・環境分野においてODAを媒介として民間資金を積極的に活用しつつ、再生可能エネルギーへの転換を支援するなど環境保全に焦点を当てた持続的な発展を支援しています。日本は、様々なアクターと連携しながら、ポスト・コロナを見据えた開発協力を引き続き実施していきます(ポスト・コロナを見据えた日本の取組について、「ポスト・コロナを見据えた日本の取組」を参照)。
ア 危機に対応するための経済財政支援

ザンビアのコメディアンが、ルサカのコンパウンド(チャワマ地区)の子どもたちにPPAP2020を用いて手洗いを教えている様子(写真:元JICA・林俊一郎)
日本は、世界的な経済活動が停滞する中で大きな影響を受けている開発途上国の経済・社会活動を下支えするため、また、保健・医療分野を含む財政ニーズに対処するため、新型コロナ危機対応緊急支援円借款の制度創設後2020年7月から2021年12月末までに14か国に対し、総額3,495億円の円借款を供与しました。また、ドミニカ共和国の保健衛生・経済的危機からの回復のための政策促進を支援するために、米州開発銀行との協調融資により、2021年7月、上限2億ドルの財政支援借款を供与しました。
2020年にG20およびパリクラブで合意された債務支払猶予イニシアティブ(Debt Service Suspension Initiative:DSSI)解説については、日本は、2021年12月時点で11か国との間で支払い猶予に合意し、交換公文を署名しました。DSSI後の債務措置に係る共通枠組解説については、チャド、エチオピア、ザンビアの3か国が債務再編を要請しています。日本は、具体的な債務救済に向けた議論への参画を通して、途上国の債務持続可能性の確保に向けて、取り組んでいきます。
イ 保健・医療体制構築支援

ガーナの野口記念医学研究所にはJICAを通じて約50年、支援を実施。野口研先端感染症研究センターで作業を行うJICAの帰国研修員(左)(写真:JICA)
日本は、開発途上国の保健・医療体制構築を、医療従事者の能力構築支援、地域病院間のネットワーク化、地域の保健システム強化等の観点から、長年にわたり支援してきました。今般のコロナ危機においても、それら支援の対象であった医療施設が感染症対策の中核を担っています(ベトナムのチョーライ病院への支援、ASEAN感染症対策センターおよびガボンでの感染症対策支援については「ポスト・コロナを見据えた日本の取組」、バングラデシュでの病院設立については「国際協力の現場から」、エクアドルでの医療教育支援については「匠の技術、世界へ」、タイ、ソロモンおよびザンビアでの医療・保健分野での支援については「案件紹介 タイ」、「案件紹介 ソロモン」および「案件紹介 ザンビア」を参照)。
2021年7月には、パナマにおけるCOVID-19他新興感染症に係るサーベイランス及び検査能力向上プロジェクトが開始されました。同プロジェクトは、中南米・カリブ地域において重要な役割を担っている研究拠点として、パナマのゴルガス記念研究所の検査・分析能力向上と感染症サーベイランス注7・ネットワーク強化を目的としたものです。
ウ 感染症に強い環境整備

ガボンの保健センターに供与された手洗い水タンク(写真:JICA)

マダガスカルの学校で、手洗い習慣の大切さをダンスと歌とを交えながら指導するJICA海外協力隊員(写真:JICA)
新型コロナ危機により世界の飢餓(きが)人口が増加していることから、日本は栄養改善を通じた感染症予防にも力を入れています。2021年、日本は、新型コロナの影響に加え、干ばつ、洪水、熱波など歴史的な自然災害のため危機的状況にある25の国・地域に対し食糧援助を実施しました。
2021年12月には、世界の栄養改善に向けた国際的な取組を促進するために、東京栄養サミット2021を開催しました。同サミットでは健康・食・強靱(きょうじん)性・説明責任・財源を中心に議論が行われ、各国政府・国際機関・民間企業・市民社会・学術界をはじめとする66か国および26企業を含む181のステークホルダーから栄養改善に関する390以上のコミットメントが提出され、計270億ドル以上の栄養関連の資金拠出が表明されました。また、215のステークホルダーからのエンドースを得て、成果文書として東京栄養宣言を発出し、今後の栄養改善に向けた国際社会が取り組むべき方向性を定めました(「開発協力トピックス」を参照。食料安全保障および栄養に関する取組については、第Ⅱ部(8)も参照)。
また、15か国以上の国において、浄水処理用薬品、給水車用燃料、水道事業職員用の感染防護具、配管資材等を供与しているほか、手洗いの励行や啓発活動を実施し、感染症予防に貢献しています。JICAは、安全・安心な水の供給、手洗い設備、石鹸(せっけん)等の環境整備等の支援に加え、開発途上国における正しい手洗いの定着のため、「健康と命のための手洗い運動」等の取組を実施しています。
- 注5 : Information and Communications Technologyの略。コンピュータなどの情報技術とデジタル通信技術を融合した技術で、インターネットや携帯電話がその代表。
- 注6 : 新たなIT 技術の導入が人々の生活をより便利にしたり豊かにしたりすること、新しいデジタル技術の導入により既存ビジネスの構造を作り替えたりするなど、新しい価値を生み出すこと。
- 注7 : 感染症患者の発生情報を統一的手法で持続的に情報収集・分析し、得られた情報を予防と対策のために還元するもの。