2021年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 07

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日本の民間企業によるバングラデシュでの総合病院の設立・運営をJICAの海外投融資で支援

日本とバングラデッシュのスタッフの合同チームが薬剤管理についての会議を行う様子(写真:SAMSL)

日本とバングラデッシュのスタッフの合同チームが薬剤管理についての会議を行う様子(写真:SAMSL)

日本人スタッフが患者役となりトレーニングを行う様子(写真:SAMSL)

日本人スタッフが患者役となりトレーニングを行う様子(写真:SAMSL)

バングラデシュでは、医療施設や医療人材が慢性的に不足しているため、適切な検査や治療を受診するためには近隣国の医療機関に行かなければならないことも多く、国内の医療体制の整備が大きな課題となっています。

ベトナムやミャンマーなどでODA案件の実績があるシップヘルスケアホールディングス株式会社は、2013年にバングラデシュの大学病院を訪問した際、厳しい医療事情を目の当たりにし、総合病院の設立・運営を決意しました。「当時は、大学病院であっても患者が床で寝ているような状態で、十分な医療が施されておらず、バングラデシュの国民が自国内で適切な検査・治療を受けられる医療環境を何とかして整えたいと思いました。」と、同社の小林宏行(こばやしひろゆき)専務は語ります。

2016年、同社は、現地法人Ship Aichi Medical Service Limited(SAMSL)を設立し、イーストウエスト医科大学病院注1の病床数を250床から650床に増やすための施設拡張と病院運営に着手しました。JICAは、2018年にSAMSLに対し出資を行い、日本の病院経営ノウハウを活かしてバングラデシュの医療水準を向上させるジャパンイーストウエスト医科大学病院における事業を後押しています。

本事業では、災害時でも医療機関が機能する必要があるとの思いから、病棟の改修・増築は最新の建築基準注2に沿って行い、安全への配慮から電気、空調、水設備等の病院インフラについても日本の病院と同じレベルの設備を導入しました。また、最新の検査・医療設備を導入し、IDカードを使った外来受付にするなど、日本式の受診・診察スタイルを取り入れています。

「日本式の病院運営は、患者と医療スタッフの動線を分けるなど、衛生面に配慮して設計されています。以前は院内で汚物と清潔な備品が一緒に置かれるなどの衛生上の問題がありましたが、日本式の動線を導入することで適切に管理できるようになりました。」と、小林専務は語ります。

長年の慣習や運用に慣れている現地スタッフの意識と行動を変えていくためには大きな苦労がありました。「体験したことのない新しいやり方を言葉だけで理解してもらうことは困難です。現地スタッフと一緒に作業を行い、新しい方法が良い結果を生むことを成功体験として実感すれば、その良さを現地の同僚にも伝えてくれます。現地スタッフの中からリーダーを継続的に育成することで、彼らが中心となり、スタッフ全体のレベルが少しずつ向上することを期待しています。」と、薬剤師の石井香好(いしいかすみ)さんは語ります。

新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、工事が遅延し、正式な開院は遅れていますが、2019年10月に試験的に開院し、その後、同国政府からの強い要請を受けて、2020年6月から政府指定の新型コロナ専用病院としての運営を開始しました。2021年9月末までに約1,600名以上の患者を受け入れ、1,500名が無事退院するなど、新型コロナ患者の治療にも大きく貢献しています。

先端医療機器の血管撮影装置(写真左)および内視鏡装置(写真右)を使って検査を行う様子(写真:SAMSL)
先端医療機器の血管撮影装置(写真左)および内視鏡装置(写真右)を使って検査を行う様子(写真:SAMSL)

先端医療機器の血管撮影装置(写真左)および内視鏡装置(写真右)を使って検査を行う様子(写真:SAMSL)


注1 当時の名称。SAMSLの事業によりジャパンイーストウエスト医科大学病院と名称を変更して開院。

注2 2015年にJICAの支援により改訂作業が進められたバングラデシュの新耐震基準(案)。

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