2021年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 1

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質の高く使いやすい日本の教材で医療技術の向上を目指す!
~エクアドルで医療用シミュレーション教育の普及に貢献~

機材到着時のプレスリリース会場にて、心臓病診察シミュレータを診察するUCE学長とシミュレーションセンター長(写真:株式会社京都科学)

機材到着時のプレスリリース会場にて、心臓病診察シミュレータを診察するUCE学長とシミュレーションセンター長(写真:株式会社京都科学)

UCE医科学部医学専攻科学生による気管挿管実習の様子(写真:株式会社京都科学)

UCE医科学部医学専攻科学生による気管挿管実習の様子(写真:株式会社京都科学)

医療行為の基本を実技で学ぶシミュレーション教育注1は、医療教育分野において世界的な新しい潮流となっており、エクアドルにおいてもその重要性が認識されています。国立エクアドル中央大学(UCE)医科学部では、専用の教室と機材が整備されていましたが、コンピュータ制御による高性能な機材を導入していたため、かえって維持管理や専用ソフトの更新が難しく、また、一度に実習できる生徒数が限られる等の問題が生じており、日本に支援を求めていました。

時期を同じくして、医療用シミュレータを製造する株式会社京都科学(京都府)の髙山俊之(たかやまとしゆき)社長は、中南米の市場調査のためエクアドルを訪問し、UCEを視察しました。髙山社長は語ります。「出会いは本当に奇跡的なものでした。私たちがUCEを訪問したのは偶然でしたが、まさに私たちの製品が求められていたタイミングでした。」

髙山社長と京都科学の社員は、UCEから支援の依頼を受けた後わずか1か月の間にエクアドルと日本を何度も往復し、JICAエクアドル事務所にも相談して支援事業の企画を作り上げました。その後、同社はJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業に応募、採択され、2019年12月から同事業として「エクアドル国UHC達成に向けた人材育成のためのシミュレーション教育普及・実証・ビジネス化事業」を開始することができました(2023年1月終了予定)。

本事業では、UCEをカウンターパート機関として、京都科学製の医療看護教育用シミュレータ48品目104式(身体診察・処置・ケア、周産期・小児医療、災害救急医療用など)を用い、現地の事情にも合わせたシミュレーション教育の実証を行っています。事業開始直後に、新型コロナ対策として外出制限などの措置が取られ、UCEでも対面授業が中止されましたが、機材が到着した際のデモンストレーションを多くのメディアが報じるなど、エクアドル側の期待も高まっています。

京都科学のシミュレータの特徴として、人の肌の感触を特殊な素材で再現しており、また、解剖学的にも正確であるという点が挙げられます。「初めて触った時から、UCEの教授たちはその質の高さに気付き、感動の声を上げました。注射の針を刺す部位など劣化する部品の交換が可能であり維持管理も容易です。一つ一つが高価すぎないため、様々なシミュレータを揃えることができ、多くの学生が一度に実践できるところも現地の状況に即しています。」とJICAエクアドル事務所のメンシアス職員は述べています。

また、エクアドルでは、シミュレーション教育用のカリキュラムが整備されていないため、本事業では統一カリキュラムの作成も支援しています。同社のシミュレータを用いた統一カリキュラムが整備されることにより、UCEを含む国内22の大学の医学部で高い水準の実習が実施され、技術が向上することが期待されます。

「本事業を足がかりとして、エクアドル全体の医療教育レベル向上を実現させたいです。また、京都科学にとっても、本事業は、実績がなかった中南米で事業を展開するきっかけとなります。」と髙山社長は今後の展望について語ります。

エクアドルでのシミュレーション教育の成功が、中南米全体の医療教育レベルの向上に繋(つな)がるようにと、髙山社長と京都科学の夢は広がっています。


注1 医師や看護師などの医療従事者の養成のため、専門に開発された医療用シミュレータを用いて、注射、縫合(ほうごう)、健診などの技術を実践に近い形で学ぶこと。安全で安心な医療サービスの提供のため、また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大後は患者との直接の接触が難しくなる中で注目されている。

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