匠の技術、世界へ 2


チーム横浜の技術でマラウイの水道人材を育成
~無収水問題の解決と給水サービスの改善~

無収水削減計画の策定を指導する板谷専門家(写真:JICA)

地下漏水探知の技術を指導する関元専門家(写真:JICA)
マラウイの首都リロングウェ市では、人口増加によって水の需要が増加していますが、市内の水供給量はその需要量に追いついていない状況です。また、無収水(むしゅうすい)注1の割合が非常に高く、大きな問題となっています。
そのため、日本は、マラウイ政府からの要請を受け、2019年から「リロングウェ市無収水対策能力強化プロジェクト」を開始し、横浜市水道局の職員がJICA専門家の一人として派遣されています。横浜市水道局は、1977年のJICA調査団への参加以降、長年にわたりアフリカへの職員派遣や日本での研修を通じた技術指導を行っており、アフリカ各国の水道事業改善のために実施した支援は、国内外から高い評価を受けています。
本プロジェクトでは、リロングウェ水公社(LWB)に対し、無収水の実態調査および分析、データに基づいた実効性のある無収水削減計画の策定、無収水の調査方法や削減に向けた現場での作業の指導等を実施しています。2020年には新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、専門家は日本へ一時帰国することになりましたが、新型コロナ対策として残留塩素濃度分布調査注2を実施し、調査結果に基づいた技術指導もリモートで実施しました。マラウイ政府や人びとの期待も大きく、本プロジェクトを実施した区域の住民へのインタビューでは、漏水(ろうすい)を減らして欲しい、井戸水ではなくLWBの水道水を使いたいという声がありました。
「LWBの技術者とともに実施した分析によると、同市の無収水の割合は全給水量の40%に上り、漏水は25%あることが分かりました。LWBの従来の対策では、地上に水が噴き出した漏水のみを補修し、地下で発生している漏水を探知する技術や機材はありませんでした。本プロジェクトでは、地下の漏水も探知して修復する技術を指導しています。」と横浜市水道局の板谷秀史(いたやひでふみ)専門家は当時の様子や現在の取組を語ります。
調査から修復までの作業をJICA専門家とともに行い、「無収水はこうすれば減らせる」という経験を共有できたことは、LWBにとって将来への大切な指針となりました。リロングウェ市で指導に当たっている関元伸一(せきもとしんいち)専門家は次のように語ります。「同市は地盤が固く水道管を地下に埋設することが難しく、地上にむき出しになることがあり、これが漏水や盗水の原因となります。さらに、漏水修理の技術や機材が不足しているといった多くの課題もありました。私たちが技術指導を行う中でともに成功体験を積み上げたことにより、LWBの職員も、今では工夫すれば自分たちにも無収水を減らせると意識が変わってきています。」
「日本国内でも同様ですが、無収水対策の取組には終わりがありません。たとえば漏水した水道管を一度修復しても、その後老朽化が進み、再び漏水が増えていきます。ですから、私たちが帰った後、LWBが自力で活動を継続していくことこそが本当に重要であり、現在、持続性の意識を強く持ちながら、技術移転を行っています。」と板谷専門家は語ります。
日々の地道な努力を積み重ねて得られた地方公共団体をはじめとする日本の経験と技術が、マラウイにおいて、水道サービスと人々の水・衛生環境の向上のために大きく貢献しています。
注1 給配水管の老朽化による漏水、違法な盗水および水道メーターの不良などが原因で、料金を請求できない水。
注2 上水道の塩素消毒が新型コロナ対策に有効であることから調査を実施。残留塩素とは、浄水場などで水道水を作る過程で、消毒のために注入した塩素剤が、水道水の中で塩素イオンとして残留している状態。塩素イオンはウイルスや病原菌を殺菌するため、水道水の中に常に存在するように管理することが重要。