外交青書・白書
第4章 国民と共にある外交

2 領事サービスと日本人の生活・活動支援

(1)領事サービスの向上とデジタル化の推進

ア 領事サービスの向上

海外の日本人に良質な領事サービスを提供できるよう、在外公館の領事窓口・電話での職員の対応や業務実施状況などが在留邦人にどのように受け止められているかについてのアンケート調査を毎年実施している。2023年12月の138公館を対象とした調査では、1万5,970人からの有効な回答が得られ、在外公館が提供する領事サービスにおおむね満足しているとの評価が示された。一方、言葉遣いや態度が事務的に感じる、利用者の事情に対し配慮や理解が不足しているなどの意見も寄せられており、このような利用者の声を真摯に受け止め利用者の視点に立ったより良い領事サービスを提供できるよう、サービスの向上・改善に引き続き努めていく。

領事サービス利用者へのアンケート調査結果(2023年度:138公館)
領事サービス利用者へのアンケート調査結果(2023年度:138公館)
イ デジタル化の推進

外務省は、利用者の利便性向上及び領事業務合理化の観点から、領事サービスのオンライン申請及び領事手数料のオンライン決済の拡大など、領事手続のデジタル化を進めている。具体的には、3月27日から、旅券証明及びビザ(査証)のオンライン申請、並びにこれら領事手数料のクレジットカードによるオンライン決済を開始した(本ページ コラム参照)。オンライン申請の対象公館・手続は順次拡大しており、7月10日には、オンライン申請時のクレジットカードによるオンライン決済が基本的に全在外公館で可能となった。また、こうした取組を加速するため、4月1日には、外務省領事局内に領事デジタル化推進室を設置した。外務省としては、領事業務のデジタル化を通じて、邦人保護といった「人」による対応が不可欠な業務に領事担当官が専念できる環境を整備することで、領事実施体制を強化していく。

コラム領事サービスのデジタル化
─旅券、証明、ビザ(査証)のオンライン申請・決済の導入─

外務省は、海外における邦人保護のほか、旅券・証明・ビザの発給などの各種領事サービスを担っており、その業務の重要性は、新型コロナウイルス感染症が収束した後の国際的な人の往来の再活性化に伴って、ますます高まっています。このような状況も踏まえ、領事サービスの利便性の向上と業務合理化の観点から、領事業務サービスのデジタル化を進めています。

3月27日には、旅券証明ビザのオンライン申請及びこれら領事手数料のクレジットカード決済が導入されました。これにより、オンライン申請時の窓口への往訪が不要となり、今まで遠隔地から窓口に来訪していた方の負担が軽減されています。また、いつでも申請が可能となり、各申請者の都合に合わせて手続を進めやすくなりました。同時に、オンライン申請時はクレジットカードによるオンライン決済も可能となり、現金の持ち運びが不要になります。対象となる手続や導入在外公館・都道府県は、まだ限定的ですが、順次拡大しています。

今回のコラムでは、旅券のオンライン申請を例にとって、申請の流れについてご紹介します。パスポートのイメージキャラクターであるパスポくんと共に、外務省領事局旅券課の職員が実際にパスポートのオンライン更新をしてみました。

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今年の夏休みは、パスポくんと一緒に海がきれいなパラオへ行くことになりました。

浮き輪や水着を用意し、ガイドブックを購入して早速読んでいると、パラオに入国するためには6か月以上のパスポートの残存有効期間が必要と書いてありました。ふと、自分が持っているパスポートを確認すると、なんと、有効期間が残り3か月くらいになっていました。

これは大変!出発日当日に、残存有効期間が足りず飛行機に乗れない!なんてことになったら全ての準備が無駄になってしまいます。急いで外務省や旅券事務所のホームページで手続を調べたら、パスポートの更新はオンラインでできるそうです。

パスポくんのパスポートも有効期間が残り短くなっていたので、旅行の計画を立てるためにオンラインでつないで、一緒に更新手続をしました。有効期限内のパスポートとマイナンバーカード(国内から申請する場合)、それにスマートフォンがあれば、いつでもどこでも申請手続ができます。

スマートフォンでマイナポータルアプリを起動し、パスポートの取得、更新を選びました。申請に必要なものや流れを確認し、一つ一つ質問に答えていきました。

顔写真は、アプリ内でスマートフォンの自撮り機能を使い、顔のサイズなど所定のガイドに合わせながら撮影しました。別に用意した写真データも使えますが、ファイル形式、容量が規格内である必要があるそうです。オンライン申請であれば、証明写真を撮りに行く手間や費用がかからないのも良かったです。

自撮り機能を使って撮影すれば、証明写真を撮る手間が省けます♪

次に、自分の署名画像をアップして、今持っている旅券の情報をスマートフォンで読み取りました。さらに必要情報を記入して、受取窓口や交付予定を確認して申請終了。4日から6日後に受け取れるそうです。

初めてのオンライン申請だったので不安もありましたが、平日の昼間に仕事を休んで旅券事務所に行ったり、窓口で並んだりする時間もなくて楽チン!全ての手続を無事に終えてほっと一息です。

それから5日後、マイナポータルに通知が届いたので、事前にオンラインでクレジットカード情報を入力後、旅券事務所でカード決済の確定がなされ1、パスポートを受け取りました!パラオ行きの航空券やホテルの予約も整い準備万端。無事にパラオへ出発です。旅行中もパスポートをなくさないように気を付けながら旅行を楽しみました。

次の旅行を楽しみにパスポートを大切に保管しようと思います。

1 都道府県別に順次対応しています(12月時点)。

(2)旅券(パスポート):信頼性の維持と利便性向上・業務効率化

2023年に入り、諸外国において新型コロナに伴う入国制限措置や行動制限措置などが緩和されて以降、徐々に海外旅行や留学などが回復し、2023年末時点で、旅券申請数は新型コロナ流行拡大前の水準に戻りつつある。2023年の旅券発行数は約353万冊であり、2022年比で158.3%増となった。

旅券発行数の推移
旅券発行数の推移

3月27日に開始した旅券のオンライン申請は、国内においては原則として切替発給申請を対象とし、マイナポータル上のサイトから申請ができる。国外においては在留届のオンライン申請システム(ORRネット)から申請ができる。オンライン申請により申請時に窓口に赴く必要がなくなり、申請に必要な顔写真や署名はスマートフォンなどで撮影してアップロードすることが可能となった。2023年末時点で、国内での切替申請でのオンライン申請の利用率は約31%である。加えて、オンライン申請時には、旅券の手数料をクレジットカードによりオンラインで支払うことも基本的に全在外公館で可能となり、都道府県の旅券窓口においても順次導入している。また、2024年度から法務省の戸籍情報連携システムとの連携により戸籍電子証明書の参照が可能になるため、現在は窓口又は郵送での戸籍謄本の提出が必要な旅券の新規発給の申請についてもオンライン申請が可能となるよう準備を進めている。

2020年に旅券のICチップ内の個人情報の不正読取防止機能を強化し、査証ページに葛飾北斎の「冨嶽(ふがく)三十六景」のデザインを取り入れたことにより、旅券の偽変造対策を強化している。しかし、他人になりすます方法によって旅券を不正取得する事案は引き続き発生しており2、対面での交付などを通じた本人確認や顔照合システムの導入により、なりすまし・二重受給といった旅券の不正取得防止対策を強化している。今後も旅券の国際標準を定める国際民間航空機関(ICAO)での検討を踏まえ、偽変造対策を強化し、旅券の更なる信頼性の向上に向けて検討を行っていく。

引き続き、旅券の信頼性を維持しつつ、申請者の利便性向上及び旅券業務の効率化に取り組んでいく。

(3)在外選挙

在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。在外選挙制度を利用して投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請の上、在外選挙人証を入手する必要がある。2018年6月から、国外転出後に在外公館を通じて申請する従来の方法に加え、国外転出の届出と同時に市区町村窓口で申請することが可能になった。これにより、国外転出後に在外公館に赴く必要がなくなるなど、手続の簡素化が図られた。投票は「在外公館投票」、「郵便投票」又は「日本国内における投票」のいずれか一つを選択することができる。

在外選挙
在外選挙

在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めているほか、選挙が実施される際は、事前の広報を含め、在外公館投票事務も担う。2022年は第26回参議院議員通常選挙の実施に伴い、16回目となる在外公館投票を234公館・事務所で実施した。また、最高裁判所裁判官国民審査法の一部が改正され(2023年2月17日施行)、在外国民審査制度が創設されたことにより、在外日本国民による国民審査が可能となった。2024年においても、引き続き登録者数増加や在外公館投票に向けた広報活動などに取り組んでいく。

(4)海外での日本人の生活・活動に対する支援

ア 日本人学校、補習授業校

海外で生活する日本人にとって、子供の教育は大きな関心事項の一つである。外務省は、日本国憲法の精神及び2022年に成立・施行された「在外教育施設における教育の振興に関する法律」に基づき、義務教育相当年齢の児童・生徒が海外でも日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省などと連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教師・講師謝金、安全対策費などへの支援)を行っており、また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、日本人学校と同様の支援を行っている。

2023年4月、「在外教育施設における教育の振興に関する法律」に基づき文部科学省と共同で、「在外教育施設における教育の振興に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本方針」を策定した。

イ 医療・保健対策

外務省は、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページ、メールなどを通じ、広く提供している。さらに、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣している。また、感染症や大気汚染が深刻となっている地域を対象に専門医による健康安全講話も実施している。

ウ その他のニーズへの対応

外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替え、滞在・労働許可の取得など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働きかけを継続している。

例えば、外国の運転免許証から日本の運転免許証へ切り替える際、外国運転免許証を持つ全ての人に対し、自動車などを運転することに支障がないことを確認した上で、日本の運転免許試験の一部(学科・技能)を免除している。一方、在留邦人が滞在国の運転免許証を取得する際に試験を課している国・州もあるため、日本と同様に手続が簡素化されるよう働きかけを行っている。

また、日本国外に居住する原子爆弾被爆者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際の手続の支援も行っている。

さらに、在外邦人の孤独・孤立対策についても、国内NPOと連携しながら海外の個別案件にきめ細かに対応している。

2 2019年は8冊、2020年は3冊、2021年は3冊、2022年は3冊、2023年は5冊のなりすまし不正取得事案を把握

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