外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

8 ジェンダー平等・女性のエンパワーメント

新型コロナの拡大やロシアによるウクライナ侵略による一層の世界経済の悪化は、女性の貧困化のみならず、DV、人身取引、児童婚などジェンダーに基づく暴力の増加をもたらしたほか、紛争下においては紛争関連性的暴力など、特に女性・女児に深刻な被害を及ぼし、既存のジェンダー不平等を一層浮き彫りにした。このため、ジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの促進は国内外の平和と繁栄の最重要課題の一つとして位置付ける必要があり、より平和で繁栄した社会を実現していく上で女性・女児を様々な施策の中心に位置付けることが不可欠である。その意味で、あらゆる政策にジェンダーの視点を取り入れる「ジェンダー主流化」は、国際社会においてますます重要となっている。また、紛争下の性的暴力を防止し、女性の人権保護・救済促進に向けた国際的な取組に積極的に貢献することは国際社会の一員である日本にとっても重要である。こうした中で、第5次男女共同参画基本計画にも明記したとおり、日本は、今後も、女性に関する国際会議の開催や、各国や国際機関などとの連携を通じた開発途上国支援を強力に推進し、ジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの促進に貢献していく。

(1)G7

6月に開催されたG7エルマウ・サミットの首脳宣言では、フェミニスト開発・外交・貿易政策の精神の下、全ての政策分野に一貫してジェンダー平等を主流化させることが言及された。また、G7のコミットメントを継続的に監視するため、教育、雇用・社会保障、起業、リーダーシップ、健康・福祉、開発協力基金の分野から12の指標を選定し、G7及びEUの国内・域内ジェンダー平等の進捗を図表化した「ジェンダー・ギャップに関するG7ダッシュボード」が承認された。開発に関しては二国間ODAに占めるジェンダー関連取組の割合増加に向けた努力がコミットされた。さらに、無償のケア労働についての認識・削減・再分配について言及されたほか、保育奨励基金への7,900万米ドルの支援が盛り込まれた。また、10月には3年ぶりとなるG7男女共同参画担当大臣会合が開催され、小倉將信女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣(男女共同参画)が出席した。

(2)G20

8月、G20インドネシア議長国下で、G20では2回目となる女性活躍担当大臣会合がバリで開催され、小倉女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣がオンラインで「デジタル分野におけるジェンダー格差」のセッションに参加した。11月のG20バリ・サミットで発出されたバリ首脳宣言では、女性及び女児が新型コロナのパンデミックやそのほかの危機によって不均衡に影響を受け続ける中、包摂的な回復及び持続可能な開発のための取組の中核に、ジェンダー平等と女性の活躍を位置付けるというコミットメントを再確認した。

(3)国際女性会議WAW!

日本は、女性の活躍推進のための日本の取組を国内外に発信し、女性をめぐる様々な課題について、政治、経済、社会分野の第一線で活躍する国内外のトップリーダーが議論する場として、2014年から国際女性会議WAW!を開催している。6回目となったWAW! 2022は、2019年3月以降、約3年ぶりに開催され、初のハイブリッド形式(対面とオンラインを組み合わせた形式)で開催した。WAW! 2022では、「新しい資本主義に向けたジェンダー主流化(WAW! for Mainstreaming Gender into a New Form of Capitalism)」をメインテーマに、若者や地方からの参加も得てジェンダー平等が実現され、平和で繁栄した社会作りに向けた意見交換が行われた(243ページ 特集参照)。

国際女性会議WAW! 2022でスピーチするヨハネソン・アイスランド大統領(12月3日、東京)
国際女性会議WAW! 2022でスピーチするヨハネソン・アイスランド大統領(12月3日、東京)
国際女性会議WAW! 2022でスピーチするバフース国連女性機関(UN Women)事務局長(12月3日、東京)
国際女性会議WAW! 2022でスピーチするバフース国連女性機関(UN Women)事務局長(12月3日、東京)
国際女性会議WAW! 2022での議論の様子(12月3日、東京)
国際女性会議WAW! 2022での議論の様子(12月3日、東京)

(4)国際協力における開発途上国の女性支援

日本は、JICAや国際機関を通じ、教育支援・人材育成のほか、開発途上国の女性の経済的エンパワーメントやジェンダーに基づく暴力の撤廃に向けた取組を行っている。

ア 教育支援・人材育成

2021年7月に開催された世界教育サミットで、茂木外務大臣がビデオメッセージで、5年間で15億米ドル以上の教育支援を表明、また少なくとも750万人の途上国の女子に対する質の高い教育及び人材育成の機会の提供の支援を表明した。2022年9月に開催された第77回国連総会において、岸田総理大臣は、人への投資を重視しつつ人材育成や能力構築に力を入れること、また、教育チャンピオン78に就任し、国連変革教育サミットの成果も踏まえて人づくり協力を進めることを表明した。

イ JICAを通じた女性支援

女性の経済的エンパワーメントを推進するため、パキスタンにおいて低所得層の女性家内労働者の生活改善支援や、ベトナムにおいて女性のニーズに応じた金融サービスなどの提供促進支援を行った。また、女性の平和と安全の保障を推進するため、メコン地域を対象に人身取引対策に携わる関係組織の能力と連携強化を支援し、さらに、南スーダンやパキスタンにおいてジェンダーに基づく暴力の生存者の保護や自立支援を行う協力及びジェンダーに基づく暴力の撤廃をテーマとした研修を12か国から参加者を得て実施した。

ウ 紛争下の性的暴力への対応

紛争の武器としての性的暴力は、看過できない問題であり、加害者不処罰の終焉(えん)及び被害者の支援が重要である。21世紀こそ女性の人権侵害のない世界にするため、日本はこの分野に積極的に取り組んでおり、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(SRSG-SVC)79事務所などの国際機関との連携、国際的な議論の場への参加を重視している。

2022年、日本はSRSG-SVC事務所に対し、約50万米ドルの財政支援を行い、コンゴ民主主義共和国における紛争関連性的暴力を含むジェンダーに基づく暴力の被害者に対して、新型コロナ対策、法的支援などを行っている。また、2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師及びナディア・ムラド氏が中心となって創設した紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)80に対し、2022年に200万ユーロを追加拠出し、これまでに計600万ユーロを拠出した。また、日本は理事会メンバーとして同基金の運営に積極的に関与している。12月の国際女性会議WAW! 2022には、ムクウェゲ医師がオンラインで登壇した。さらに、国際刑事裁判所(ICC)の被害者信託基金にも引き続き拠出を行っており、性的暴力対策にイヤーマーク(使途指定)し、被害者保護対策にも取り組んでいる。このほか、国連女性機関(UN Women)を通じた支援も行っている。

(5)国連における取組

ア 国連女性機関(UN Women)との連携

日本は、2013年に約200万米ドルだった拠出金を、2022年には約1,380万米ドルにまで増額し、UN Womenとの連携を強化している。とりわけ、開発途上国の女性・女児に対し、新型コロナからの予防のための啓発活動、新型コロナ下における生計支援や起業支援などの経済的なエンパワーメント、また、ジェンダーに基づく暴力の被害女性に対する支援などに取り組んでいる。このほか、紛争、自然災害の影響を受けた女性、女児に対する生活必需品の提供、雇用創出・職業訓練を通じた女性の経済的エンパワーメント支援も実施している。9月、岸田総理大臣は、ジェンダー平等の実現に向けた取組への男性の関心・関与を高めるためのUN Womenのキャンペーン活動であるHeForSheのチャンピオン(ジェンダー平等の実現に向けた取組への男性の関心・関与を高めることを目的にUN Womenが実施する「HeForSheキャンペーン」で選出された各界の男性リーダー)に就任した。

イ 女子差別撤廃委員会

日本は、1987年から継続して女子差別撤廃委員会(23人で構成(個人資格))(CEDAW)81に委員を輩出している。3月、ウェビナー「女子差別撤廃条約を知っていますか?」を開催し、秋月弘子女子差別撤廃委員会委員をモデレーターに迎え、4か国の現役委員が女子差別撤廃条約の内容及びその遵守の意義について講演及び議論を実施した。

ウ 国連女性の地位委員会(CSW)82

3月に開催された第66回国連女性の地位委員会(CSW66)は、新型コロナの感染拡大を受け、対面とオンラインのハイブリット開催となった。会議では、「気候変動、環境及び災害リスク削減の政策・プログラムにおけるジェンダー平等とすべての女性・女児のエンパワーメントの達成」を優先テーマに議論が展開された。日本からは、野田聖子女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣(男女共同参画)が、一般討論、閣僚級円卓会合において、ビデオメッセージ形式でステートメントを述べた。

エ 女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)

日本は引き続き、第2次「女性・平和・安全保障行動計画」(女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議第1325号及びその関連決議の履行に向けた行動計画)に沿って、主にUN WomenやSRSG-SVC事務所などの国際機関への拠出により中東、アフリカ、アジア地域のWPS分野に貢献しているほか、実施状況のモニタリング及び評価として報告書を策定している。日本国内では12月に開催したWAW! 2022の分科会の一つでWPSを取り上げ「女性の平和・安全保障への参画」と題し、紛争下の性的暴力の防止や、PKOへの女性の参画、また和平交渉など女性が平和構築へ参画することなどについて議論した。

12月3日、日本政府主催の「国際女性会議WAW(ワウ)! 2022」が開催されました。約3年ぶりの開催となったWAW! 2022では、ハイブリット形式で全国22か所のサテライト会場と東京会場をつなぐ新たな試みを行い、26か国から119人が登壇するなど、国や地域・世代を超えた人々の参加が実現しました。

新型コロナの拡大による影響や昨今の世界情勢により、現在、国際社会においてジェンダー平等の重要性が再認識されています。そこで、WAW! 2022では、「WAW! for Mainstreaming Gender into a New Form of Capitalism(新しい資本主義に向けたジェンダー主流化)」をメインテーマに、男女の賃金格差から、女性の平和・安全保障への参画、女性と防災まで、幅広く包括的に議論を行うため、10の分科会と、地方や若者をテーマとした二つの特別セッションを設置しました。

開会挨拶では、岸田総理大臣から、「新しい資本主義」の推進に向けた「ジェンダー主流化」の重要性を強調し、WAW!での議論が、誰しもが生きがいを感じられる社会の実現のための契機となることを期待すると述べました。続いて、グドゥニ・ヨハネソン・アイスランド大統領及びシマ・サミ・バフース国連女性機関(UN Women)事務局長が基調講演を行いました。ヨハネソン大統領からは、ジェンダー・ギャップ指数(注)第1位のアイスランドにおけるジェンダー平等に向けた取組や、男性の関心や関与の拡大の重要性について、また、バフース事務局長からは、世界におけるジェンダー分野の課題と共に、ジェンダー平等実現のための具体的方策についての提起がありました。

開会挨拶を行う岸田総理大臣(12月3日、東京)
開会挨拶を行う岸田総理大臣(12月3日、東京)

ハイレベル・ラウンドテーブルでは、マイア・サンドゥ・モルドバ大統領、バトムンフ・バトツェツェグ・モンゴル外相、マサゴス・ズルキフリ・シンガポール社会・家庭振興相、小倉將信女性活躍担当大臣、森まさこ内閣総理大臣補佐官(女性活躍担当)、山田賢司外務副大臣らが登壇し、「ジェンダー主流化」を推進するための取組について各国の知見が持ち寄られたほか、登壇者の多くから、ジェンダー平等の実現は女性のみならず、社会全体にとって有益である点が指摘されました。

ハイレベル・ラウンドテーブル登壇者 (12月3日、東京)
ハイレベル・ラウンドテーブル登壇者 (12月3日、東京)

10の分科会及び二つの特別セッションでは、有識者、企業家、次世代の担い手である若者など、様々な立場からの意見が集まり、各分科会の若者世代が報告者となり、クロージング・セッションにおいて議論の内容を提言の形で報告しました。例えば、意思決定プロセスへの女性の参画について議論した分科会では、初等教育からの継続的かつ意味のあるジェンダー教育をカリキュラムに導入することについて、また、女性と防災の関係を議論した分科会からは、平時から女性や女児の強靭性を強化することを防災対策の一環とすることなどの提言がありました。また、2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師がオンラインで参加した平和・安全保障への女性の参画に関する分科会では、平和・安全保障政策及び外交政策におけるジェンダー主流化促進の必要性が強調されました。さらに、特別セッション「若者たちの声を聴く:未来への提言」からは、若者の政治参画がしやすくなるような仕組み作りなどの提言がありました。

分科会9「女性の平和・安全保障の参画」の様子ノーベル平和賞受賞者のデニ・ムクウェゲ医師がオンライン登壇(12月3日、東京)
分科会9「女性の平和・安全保障の参画」の様子
ノーベル平和賞受賞者のデニ・ムクウェゲ医師がオンライン登壇(12月3日、東京)

(注)ジェンダー・ギャップ指数:世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が毎年発表する各国における男女格差を測る指数(Gender Gap Index:GGI)。この指数は、「経済」「教育」「健康」「政治」の四つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示す。

78 9月、岸田総理大臣は、アントニオ・グテーレス国連事務総長の要請を受け、国際社会において教育を推進するリーダーの役割を担う初代教育チャンピオンに就任した。

79 SRSG-SVC:Special Representative of the Secretary-General on Sexual Violence in Conflict

80 GSF:Global Survivors Fund (Global Fund for Survivors of Conflict-Related Sexual Violence)

81 CEDAW:Committee on the Elimination of Discrimination against Women

82 CSW:United Nations Commission on the Status of Women

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