7 人権
現在、世界各地における人権状況への国際的関心が高まっているが、人権の保護・促進は国際社会の平和と安定の礎である。日本としては、人権は、普遍的な価値であり、達成方法や文化に差異はあっても、人権擁護は全ての国の基本的責務であると認識している。また、深刻な人権侵害に対してはしっかり声を上げるとともに、「対話」と「協力」を基本とし、民主化、人権擁護に向けた努力を行っている国との間では、二国間対話や協力を積み重ねて自主的な取組を促すことが重要であると考えている。加えて、日本はこの分野において、アジアでの橋渡しや社会的弱者の保護といった視点を掲げつつ、二国間での対話や国連など多数国間のフォーラムへの積極的な参加、国連人権メカニズムとの建設的な対話も通じて、世界の人権状況の改善に向けて取り組んでいる。
(1)国連などにおける取組
ア 国連人権理事会
国連人権理事会は、1年を通じてジュネーブで会合が開催され(年3回の定期会合、合計約10週間)、人権や基本的自由の保護・促進に向けて、審議・勧告などを行っている。5月及び11月に、それぞれウクライナ及びイランの人権状況に関する特別会合が開催され、両国の人権状況の調査実施などを含む決議が採択された。日本は、これまで、理事国を5期(直近では、2019年10月の選挙で当選し、2020年1月から2022年12月まで)務めている。
2月及び3月に開催された国連人権理事会第49会期のハイレベル・セグメントでは、中谷元総理大臣補佐官(国際人権問題担当)がステートメントを実施した。その中で、中谷総理補佐官は、ロシアによるウクライナ侵略を最も強い言葉で非難し、国際人道法を含めた国際法上の義務の履行を強く求めた。また、日本として引き続き、アジアの国々を始めとする世界の人権保護・促進に貢献していく決意を述べ、拉致問題の早期解決の重要性を訴えた。さらに、香港や新疆(きょう)ウイグル自治区を始めとする中国の情勢に深刻な懸念を表明し、中国の具体的行動を求めた。また、「ビジネスと人権」、子どもに対する暴力撲滅、ハンセン病差別撤廃、先住民族であるアイヌの人々の誇りが尊重される社会の実現、女性の人権の保護推進といった分野における日本の直近の取組を紹介した。同会期では、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が無投票で採択された(採択は15年連続)。この決議は、拉致問題及び全ての拉致被害者の即時帰国の緊急性及び重要性、拉致被害者及び家族が長きにわたり被り続けている多大な苦しみ、北朝鮮が何ら具体的かつ前向きな行動をとっていないことへの深刻な懸念、さらには、被害者の家族に対する被害者の安否及び所在に関する正確かつ詳細な情報の誠実な提供などに言及する内容となっている。
6月の第50会期においては、オランダが47か国を代表して新疆ウイグル自治区を中心とする中国の人権状況に懸念を示す共同ステートメントを読み上げ、日本はアジアから唯一これに参加した。
イ 国連総会第3委員会
国連総会第3委員会は、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムであり、例年10月から11月にかけて、社会開発、女性、児童、人種差別、難民、犯罪防止、刑事司法など幅広いテーマが議論されるほか、北朝鮮、シリア、イランなどの国別人権状況に関する議論が行われている。第3委員会で採択された決議は、総会本会議での採択を経て、国際社会の規範形成に寄与している。
第77会期では、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が、11月の第3委員会と12月の総会本会議において、無投票で採択された(採択は18年連続)。同決議は、深刻な人権侵害を伴う拉致問題及び全ての拉致被害者の即時帰国の緊急性及び重要性を始めとしたこれまでの決議内容を重ねて言及し、さらには、北朝鮮が被害者及びその家族の声に真摯に耳を傾け、被害者の家族に対する被害者の安否及び所在に関する正確かつ詳細な情報の誠実な提供、関係者との建設的な対話を行うよう強く要求する内容となっている。また、同会期では、カナダが50か国を代表して新疆ウイグル自治区を中心とする中国の人権状況、特に新疆ウイグル自治区における人権侵害に深刻な懸念を示す共同ステートメントを読み上げ、日本はアジアから唯一これに参加した。
さらに日本は、シリア、イラン、ミャンマーなどの国別人権状況や各種人権問題(社会開発、児童の権利など)を含め、人権保護・促進に向けた国際社会の議論に積極的に参加した。
ウ 「ビジネスと人権」に関する行動計画の実施を通じた人権デュー・ディリジェンス(人権DD)77導入推進
日本は、国連人権理事会において支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」の履行に向けて2020年に政府が策定した「ビジネスと人権」に関する行動計画の下、企業活動における人権尊重の促進に取り組んでいる。その一環として、「ビジネスと人権」の普及のため、国際会議への出席や外国政府との協議を通じて、積極的に日本の取組発信や知見の共有に取り組んでいる。また、企業における人権尊重の取組を後押しするため、9月には業種横断的な人権デュー・ディリジェンスに関するガイドラインを政府として策定した。その直後には、中谷総理補佐官がベトナム及びタイを訪問し、タイで開催された国際機関主催の地域フォーラムへの参加や、両国政府関係者及び現地関係機関との対話を通じて、同ガイドライン策定を含む日本の取組について発信を行った。さらに、日本企業へのガイドラインの普及・啓発及び人権デュー・ディリジェンス実施支援として、国際機関への拠出を通じた支援事業や、海外セミナーの開催などに積極的に取り組んでいる。引き続き、関係府省庁と連携しつつ、ステークホルダーと継続的に対話を行いながら、「行動計画」の着実な実施に取り組んでいく。
(2)国際人権法・国際人道法に関する取組
ア 国際人権法
6月、ニューヨークの国連本部で開催された第39回自由権規約締約国会合において、自由権規約委員会委員選挙が行われ、日本が候補として擁立した寺谷広司氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)が当選を果たした。また、日本が締結している人権諸条約のうち、障害者権利条約及び自由権規約に関して、それぞれ8月及び10月に国内における条約の実施状況に関する定期的な政府報告審査が行われ、日本は、各条約の委員会との間で建設的な対話を行った。
イ 国際人道法
日本は、国内における国際人道法の履行強化に向けて積極的に取り組んできた。11月にはアジア太平洋国際人道法地域会合に参加した。また、国際人道法の啓発の一環として、例年同様、赤十字国際委員会(ICRC)主催の国際人道法模擬裁判・ロールプレイ大会に、審査員役として講師を派遣した。
(3)難民問題への貢献
日本は、国際貢献や人道支援の観点から、2010年度から2014年度まで第三国定住(難民が、庇(ひ)護を求めた国から新たに受入れに同意した第三国に移り、定住すること)により、タイに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れている。2015年度以降は、マレーシアに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れ、タイからは相互扶助を前提に既に来日した第三国定住難民の家族を呼び寄せることを可能とした。
その後、難民を取り巻く国際情勢の大きな変化や国際社会の動向を踏まえ、難民問題に関する負担を国際社会において適正に分担するとの観点から、日本は、2019年6月、新たな枠組みでの第三国定住による難民の受入拡大を決定した。具体的には2020年度から、難民の出身国・地域を限定することなくアジア地域に滞在する難民及び第三国定住により受け入れた難民の親族を、年1回から2回、60人の枠内で受け入れることとした。
2020年度は、国内外における新型コロナの感染状況を踏まえて、難民の受入れが延期されたが、2022年3月に再開され、2010年度から2022年末時点までに合計74世帯229人が来日した。
来日した難民は生活のための語学習得や就職支援サービスを受けるなど、6か月間の定住のための研修を受ける。研修を終えた者は、それぞれの定住先地域で自立した生活を営んでいる。当初、首都圏の自治体を中心に定住を実施してきたが、難民問題への全国的な理解を促進することなどの観点から、2018年以降は、首都圏以外の自治体での定住を積極的に進めている。
第三国定住による難民受入れは欧米諸国が中心となって取り組んできたが、アジアで開始したのは日本が初めてである。
77 人権デュー・ディリジェンス:企業活動における人権への影響の特定、予防・軽減、対処、情報提供を行うこと