外交青書・白書
第5章 国民と共にある外交

2 領事サービスと日本人の生活・活動支援

(1)領事サービスの向上

海外の日本人に良質な領事サービスを提供できるよう、在外公館の領事窓口・電話での職員の対応や業務実施状況などが在留邦人にどのように受け止められているかについてのアンケート調査を毎年実施している。2021年1月に145公館を対象とした調査では、1万8,349人からの有効な回答が得られ、在外公館が提供する領事サービスにおおむね満足しているとの評価が示された。一方、言葉遣いや態度が事務的に感じられるなど、職員の接客態度について改善を求める意見も寄せられており、このような利用者の声を真摯に受け止め利用者の視点に立ったより良い領事サービスを提供できるよう、サービスの向上・改善に引き続き努めていく考えである。

(2)旅券(パスポート):信頼性の維持と利便性向上・業務効率化

2020年2月から、葛飾北斎の「冨嶽(ふがく)三十六景」を全ての査証ページに採用した新型旅券の発行を開始した(292ページ 特集参照)。

2020年の旅券発行数は134万冊であり、世界中で新型コロナが拡大し海外渡航者が減少したことが影響し、前年比で70.3%減少した。12月末時点で有効な旅券の総数は約2,771万冊であった。

旅券発行数の推移
旅券発行数の推移
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デジタル社会の実現が急務となっており、旅券の発給申請についても、12月に改定された「デジタル・ガバメント実行計画」に基づき、2022年度からオンライン申請を可能とし、その制度設計に当たっては旅券の信頼性を維持しつつ、マイナポータル(政府が運営する行政手続などに関するオンラインサービス)など既存のインフラの利用、出頭回数の削減、業務のデジタル化などに限りなく努めることとしている。

旅券の旧姓併記については、これまで非常に厳格な要件の下で認めてきたが、2021年4月以降の申請では要件を緩和するとともに、旅券上の記載方法を変更することとした。具体的には、旅券に旧姓の併記を希望する場合には、戸籍謄本、旧姓が記載された住民票の写し又はマイナンバーカードのいずれかで旧姓を確認できれば旧姓の併記を認めることとし、また、旅券の身分事項ページで、併記されたものが旧姓であることを外国の入国管理当局などに対して分かりやすく示すため、英語で「Former surname」との説明書きを加えることとした。

旅券の旧姓併記

2020年も他人になりすますなどによって旅券を不正取得する事案が15件確認された。国外での不正使用も10件確認された。

2006年のIC旅券導入以降、積極的に新しいセキュリティ技術を取り入れており、2020年の新型旅券でもICチップ内の個人情報の不正読取防止機能を強化し、全ての査証ページのデザインを変えるなどの偽変造対策を講じている。

旅券の国際標準を定める国際民間航空機関(ICAO)での検討を踏まえ、欧州やアジアなどの一部の国では熱可塑性プラスチック基材にレーザー印字するなどの新技術の導入が進められており、日本も2024年度中にこれらを取り入れた次世代旅券の導入を目指している。

2021年1月に発表された英国民間会社のパスポート指標(信頼性などに基づく)において日本の旅券は110か国中第1位となった。いずれにせよ、引き続き、旅券の信頼性を維持しつつ、申請者の利便性向上及び旅券業務の効率化に取り組んでいく。

新型の2020年旅券の発給
~冨嶽(ふがく)三十六景で偽変造対策と日本文化発信を~

2月4日申請受付分から、新しい旅券の発給が開始されました。

これまでにも1992年に機械読取式旅券、2006年にIC旅券を導入するなど新たな技術を採り入れた旅券を開発しており、2013年に発給が開始された現在の旅券においても、白黒透かし、ホログラム、特殊印刷など高度な技術による偽変造対策が施され、偽変造旅券の発生割合は極めて低くなっています。今般、更なる偽変造対策のため、新たな技術を採り入れた旅券を導入しました。

新しい旅券ではICチップ内の個人情報の不正読み取りなどを防ぐ機能を強化しているほか、査証(ビザ)ページのデザインを変更し、葛飾北斎の「冨嶽三十六景※1」を採用して偽変造対策を講じています。これまでの旅券の査証ページはどのページも同じデザインでしたが、ページごとに異なる図柄にすることで偽変造がより困難となりました。

査証ページに用いるデザインは、偽変造対策の観点とともに、日本文化の発信にも資することから、日本的で美しいデザインとすることを考慮し決定しました。基本デザインの選定においては、デザインに専門的な知見を有する文化人のほか、実際に旅券を使い海外渡航する機会の多い旅行関係者、ジャーナリスト、スポーツ関係者など5人の有識者による「次期旅券冊子デザイン選定準備会合」を開催し、複数の候補について議論いただいた内容を踏まえ、最終的に外務大臣が決定しました。

デザイン案には、正月やひな祭りなど日本人の原風景や、空を飛ぶ旅を連想させる鶴、桜などの日本の季節を代表する四季の植物をモチーフとしたものなど様々な候補がありましたが、日本らしさ、品格、親しみやすさなどの観点から、世界遺産でもある富士山をモチーフとし、世界的に広く知られている浮世絵の代表作でもある「冨嶽三十六景」を採用しました。

旅券冊子の査証ページは10年旅券で48ページあり、見開きの2ページに1作品を採用するため24作品を用いています(5年旅券は36ページに18作品)。「冨嶽三十六景」のうちどの作品を使用するかの検討においては、デザインのバランスや選定方法の客観性に配慮し検討した結果、作品名の五十音順で最初の24作品を用いることとしました。

2月の新旅券発給開始以降、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、国内の旅券発給数は大幅に減少していますが、新旅券を手にした方からは、「冨嶽三十六景」を用いた新デザインに対し好意的なご意見を頂いています。

2020年旅券発給開始案内ポスター
2020年旅券発給開始案内ポスター
2020年旅券冊子のデザインになった「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」※2
2020年旅券冊子のデザインになった
「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」※2

※1 冨嶽三十六景
江戸時代中・後期の浮世絵師、葛飾北斎(1760年-1849年)によって描かれた富士山を題材とする浮世絵風景版画シリーズ。「凱風快晴(がいふうかいせい)」、「神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」、「山下白雨(さんかはくう)」などが有名。出版当初は全36図であったが、好評のため10図が追加され、全46図から成る。

※2 そのほかの2020年旅券冊子デザインの「冨嶽三十六景」作品はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000432933.pdf

そのほかの2020年旅券冊子デザインの「冨嶽三十六景」QRコード

(3)在外選挙

在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。在外選挙制度を利用して投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請の上、在外選挙人証を入手する必要がある。2018年6月から、国外転出後に在外公館を通じて申請する従来の方法に加え、国外転出の届出と同時に市区町村窓口で申請することが可能になった。これにより、国外転出後に在外公館に出頭する必要がなくなるなど、手続の簡素化が図られた。投票は「在外公館投票」、「郵便投票」又は「日本国内における投票」のいずれか一つを選択することができる。

在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めているほか、選挙が実施される際は、事前の広報を含め、在外公館投票事務も担う。

在外選挙
在外選挙

(4)海外での日本人の生活・活動に対する支援

ア 日本人学校、補習授業校

海外で生活する日本人にとって、子供の教育は大きな関心事項の一つである。外務省では、義務教育相当年齢の児童・生徒が海外でも日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省と連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教師謝金、安全対策費などへの一部援助)を行っている。また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、日本人学校と同様の支援を行っている。特に、最近の国際テロ情勢の変化などを踏まえ、安全対策に関連する支援を更に強化・拡充している。今後もこうした支援を継続していく考えである。

イ 医療・保健対策

外務省は、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページ、メールなどを通じ、広く提供している。さらに、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣している(2020年度は新型コロナの影響により実施なし)。また、感染症や大気汚染が深刻となっている地域に専門医を派遣し、健康安全講話を実施している(2020年度は新型コロナの影響により実施なし)。

ウ 海外在留邦人・日系人への支援

2021年3月から12月の間、新型コロナの感染拡大により生活に支障が出ている海外の在留邦人・日系人を支援するため、在外の日本人会、日本商工会議所、日系人団体などが実施する、在留邦人・日系人コミュニティにおける感染拡大防止やビジネス環境作りを目的とした事業への支援として、海外在留邦人・日系人の生活・ビジネス基盤強化事業を実施している。

エ その他のニーズへの対応

外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替え、滞在・労働許可の取得など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働きかけを継続している。

例えば、外国の運転免許証から日本の運転免許証へ切り替える際、外国運転免許証を持つ全ての人に対し、自動車などを運転することに支障がないことを確認した上で、日本の運転免許試験の一部(学科・技能)を免除している。一方、在留邦人が滞在国の運転免許証を取得する際に試験を課している国・州もあるため、日本と同様に手続が簡素化されるよう働きかけを行っている。

また、日本国外に居住する原子爆弾被爆者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際の手続の支援も行っている。

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