外交青書・白書
第4章 国際社会で存在感を高める日本

8 女性

「女性の力」は、国内外においていかしきれていない最大の潜在力といえる。ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの推進によって、女性がもつ力を最大限発揮できるようにすることは、経済や社会全体に活力をもたらし、新型コロナ流行下からのより良い復興を実現していく上で不可欠である。また、紛争下での女性の脆弱な立場を踏まえ、紛争の武器としての性的暴力を防止し、女性の人権保護・救済促進に向けた国際的な取組に積極的に貢献することは日本にとっても重要である。日本は、今後も、女性に関する国際会議の開催や、各国や国際機関などとの連携を通じた開発途上国支援を強力に推進し、ジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの促進に貢献していく。

(1)G20リヤド・サミット

11月に開催されたG20リヤド・サミットでの、「包括的、持続可能で強靭な未来の構築」をテーマとするセッションにおいて、菅総理大臣は、日本議長下のG20大阪サミットで立ち上げに合意した、指導的地位への女性の昇進のための民間部門の取組「EMPOWER(エンパワー)」の具体的取組の開始を歓迎すると発言した。

(2)国際協力における開発途上国の女性支援

安倍総理大臣は2016年5月に、開発協力大綱に基づく新たな分野別開発政策の一つとして「女性の活躍推進のための開発戦略」を発表するとともに、2016年から2018年までの3年間で、約5,000人の女性行政官などの人材育成と約5万人の女子の学習環境改善の実施を表明し、日本はこれらを着実に実施した。また、同2016年12月に開催された第3回WAW !で、安倍総理大臣は、開発途上国の女性たちの活躍を推進するため、①女性の権利の尊重、②能力発揮のための基盤の整備及び③政治、経済、公共分野におけるリーダーシップ向上を重点分野として、2018年までに総額約30億米ドル以上の支援を行うことを表明し、日本はこれらを着実に実施した。2019年3月に開催された第5回WAW !では、安倍総理大臣から、開発途上国における女性の教育機会拡大のため、2018年から2020年までの3年間で、少なくとも400万人の女児・女性に質の高い教育、人材育成の機会を提供するコミットメントを表明した。

(3)国連における取組

ア 国連女性の地位委員会(CSW)63

3月に開催された第64回国連女性の地位委員会(CSW64)は、新型コロナの感染拡大を受け、大幅な日程短縮及び規模を縮小しての開催となった。CSW64議長、国連女性機関(UN Women)事務局長などによるオープニングステートメントは実施され、政治宣言や各種決議及び第65回国連女性の地位委員会の議題などの採択は行われたものの、ステートメントを含め加盟国からの発言の機会は見送られた。

イ 国連女性機関(UN Women)

日本はUN Womenとの連携を強化しており、2013年に約200万米ドルだった拠出金は、2020年には約2,200万米ドルにまで増加した。特に、中東・アフリカ地域においては、内戦などによって難民や国内避難民となった女性及び女児が経済的・社会的に脆弱な立場に置かれていることから、エジプト、イラク、ヨルダンなどの中東地域や、ナイジェリア、ニジェール、南スーダンなどのアフリカの紛争影響国において、雇用創出・職業訓練を通じた女性の経済的エンパワーメント支援、女性の権利や女性に対する暴力撲滅に対する意識の向上、心理社会的支援に取り組んでいる。また暴力的過激主義を防ぐため、女性のエンパワーメントによる強靱なコミュニティ作りや、レバノン、スリランカでは幅広く平和構築、和平・和解プロセスへの女性の参画支援を実施している。1月7日、尾身外務大臣政務官はニューヨークを訪問し、ムランボ=ヌクカUN Women事務局長と女性のエンパワーメントに向けた日本政府とUN Womenとの協力について議論した。

ムランボ=ヌクカUN Women事務局長と尾身外務大臣政務官との会談(1月7日、ニューヨーク)
ムランボ=ヌクカUN Women事務局長と尾身外務大臣政務官との会談(1月7日、ニューヨーク)
ウ 性的暴力への対応

紛争の武器としての性的暴力は、看過できない問題であり、加害者不処罰の終焉(しゅうえん)及び被害者の支援が重要である。21世紀こそ女性の人権侵害のない世界にするため、日本はこの分野に積極的に取り組んでおり、国連アクションや紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(SRSG-SVC)64事務所といった国際機関との連携、国際的な議論の場への参加を重視している。

日本は、2020年、SRSG-SVC事務所に対し、約109万米ドルの財政支援を行い、コンゴ民主共和国、ソマリア、中央アフリカ、マリ、ナイジェリア、南スーダンの警察・司法能力強化や、紛争に関連する性的暴力の被害者に対する支援制度の整備などに貢献している。また、2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師及びナディア・ムラド氏が中心となって創設した紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)65に対し、2020年は200万ユーロ拠出し、日本は理事会メンバーとして同基金に積極的に参画している。さらに、国際刑事裁判所(ICC)の被害者信託基金にも引き続き拠出を行っており、累計約85万ユーロの拠出中、約65万ユーロを紛争下における性的暴力対策にイヤーマーク(使途指定)し、被害者保護対策にも取り組んでいる。

エ 女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)

日本は、女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議第1325号及びその関連決議の履行に向けた「行動計画」を2015年に策定し、2019年3月に第2版となる改訂版を策定した。本行動計画に沿って、主にUN Women やSRSG-SVC事務所などの国際機関への拠出により中東、アフリカ、アジア地域のWPS分野へ貢献している。また、実施状況のモニタリング及び評価として報告書を策定しており、外務省ホームページに公表している。2018年のG7トロント外相会合で決定したG7女性・平和・安全保障パートナーシップ・イニシアティブにおいて、日本はスリランカをパートナー国として、2019年から同国のWPS行動計画策定支援や紛争寡婦を含めた女性世帯の経済エンパワーメントなど、WPS分野の実施を支援している。2020年12月には、行動計画の評価委員会及び市民社会との対話が行われた。また、同月、ベトナムが主催したWPS国際会議において、宇都外務副大臣がビデオメッセージを発出し、WPS行動計画の実施のための国内外における日本の取組を発信した。

オ 女子差別撤廃委員会

日本は、1987年から継続して女子差別撤廃委員会(23人で構成(個人資格))(CEDAW)66に委員を輩出している。現在は、2018年に行われた同委員会委員選挙で当選した秋月弘子亜細亜大学教授が委員を務めている。

63 CSW:United Nations Commission on the Status of Women

64 SRSG-SVC:Special Representative of the Secretary-General on Sexual Violence in Conflict

65 GSF:Global Survivors Fund

66 CEDAW:Committee on the Elimination of Discrimination against Women

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