外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

第3節 中南米

1 概観

(1)中南米情勢

中南米地域は、その大半が民主主義、法の支配、人権等の価値を共有する国家群であり、約6.4億人の人口と、約5兆6,000億米ドルの域内総生産(GDP)を抱え、鉱物、エネルギー等の天然資源や食料の一大産出地であるとともに、成長著しい巨大市場を擁するなど大きな経済的潜在力を有している。2018年の中南米経済は、全体として堅調な国内需要の伸びに支えられる形で、緩やかな成長を維持した。また、太平洋岸諸国を中心に、グローバルバリューチェーン(製造業の国際分業)への参入を通じて産業の高付加価値化を図る動きもある。一方で、アルゼンチンにおいて4月末以降通貨価値が急落し、アルゼンチン政府が国際通貨基金(IMF)への支援を要請した。

政治面においては、2018年は6か国で大統領選挙が実施された。汚職や治安の問題が焦点となる中、メキシコやブラジルでは伝統政党に基盤を置かない候補が勝利を収めた。一方で、政権と野党間の対立が続くベネズエラでは、5月に主要野党がボイコットする中で大統領選挙が行われ、マドゥーロ大統領の再選が発表された。同選挙については、G7や中南米の多くの国々が正当性に強い疑義を呈している。

また、中南米地域には、世界にいる日系人の約6割を占める約213万人から成る日系社会が存在している。これは日本が独自に有する中南米諸国との間の絆(きずな)である。日系社会は100年以上に及ぶ現地社会への貢献を通じ、中南米地域における伝統的な親日感情を醸成してきた。一方で、移住開始から100年以上を経て、日系社会の世代交代が進み、日本とのつながりが希薄な若い世代も増えている。

(2)日本の対中南米外交

日本の対中南米外交は、安倍総理大臣が2014年に提唱した「3つのJuntos!!(共に)」(「共に発展」、「共に主導」、「共に啓発」)の指導理念の下で展開してきた。

2018年も、安倍総理大臣が南米3か国を訪問したほか、河野外務大臣が2度中南米を歴訪するなど、外務省や関係省庁の要人が同地域の延べ70か国以上を訪問し、基本的価値の共有に基づいて中南米諸国と共に国際場裏の諸課題の解決に取り組むことを確認している。

経済分野においては、日本企業の中南米地域拠点が5年前の約2倍に達するなど、サプライチェーンの結び付きが強化されているが、日本は、メキシコ、ペルー、チリが参加する環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)等を通じ、中南米諸国と共に自由貿易の推進に取り組んでいる。

中南米地域では、経済成長を遂げ被援助国からの「卒業」を控えた国々で南南協力が進められており、日本はこれらの国々との間の三角協力を推進している。一方で、気候変動や自然災害への対応を始め、引き続き支援が求められる分野においては、先方のニーズに即した協力を展開している。

安倍総理大臣は、12月に訪問先のアルゼンチンにおいて、これらの成果を総括し、日・中南米関係の一層の連携強化の方向性を示すものとして、日・中南米「連結性強化」構想を提唱した。本構想は、グローバルバリューチェーン、質の高いインフラの推進による自由で開かれた経済システムを追求する「経済の連結性強化」、政策対話を通じ共にルールベースの多国間主義の保全を図る「価値の連結性強化」及びイノベーションの輸出を通じて共に持続可能な開発目標(SDGs)の実現に努める「知恵の連結性強化」を柱としている。

日・アルゼンチン外交関係樹立120周年閉幕式(12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス 写真提供:内閣広報室)
日・アルゼンチン外交関係樹立120周年閉幕式
(12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス 写真提供:内閣広報室)
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