2 中央アジア諸国とコーカサス諸国
(1)中央アジア諸国
日本は、地政学的に重要な中央アジアの「開かれ、安定し、自立的な発展」を支え、同地域の平和と安定に寄与することを目的とした開発支援外交を推進しており、①二国間関係の抜本的強化、②「中央アジア+日本」対話を通じた地域協力の促進・地域共通の課題への貢献及び③グローバルな舞台での協力を中央アジア外交の三本柱としている。
中央アジア諸国との間では、2015年の安倍総理大臣の中央アジア5か国訪問のフォローアップとして、2016年も引き続き要人往来等の活発な交流が行われた。日本からは、4月に山田美樹外務大臣政務官がキルギス及びウズベキスタンを訪問した。また、8月には中央アジア文化交流ミッション(3)のウズベキスタン派遣及び国際交流基金主催「ウズベキスタン和太鼓公演」(4)が行われ、安倍総理大臣夫人が同公演団の特別顧問として同国を訪問した。さらに、8月から9月にかけて、滝沢求外務大臣政務官がカザフスタン及びトルクメニスタンを訪問するとともに、9月2日にカリモフ・ウズベキスタン大統領が逝去されたことを受け、同国を訪問し告別式に参列した。中央アジア諸国からは、11月にナザルバエフ・カザフスタン大統領が訪日し、安倍総理大臣との首脳会談、旧ソ連諸国からは初となる国会演説等を行い、二国間関係及び国際場裏での協力関係の強化が確認された。このほか、1月にスルタノフ・ウズベキスタン日本人抑留者資料館館長、4月にイシムバエヴァ・カザフスタン下院副議長、ヌルベルディエヴァ・トルクメニスタン国会議長、5月にアブドゥハキモフ・ウズベキスタン労働相、ガニエフ同対外経済関係・投資・貿易相が訪日した。

また、1月に、在タジキスタン及び在トルクメニスタンの大使館に常駐の特命全権大使が派遣された。
ウズベキスタンでは、カリモフ初代大統領の逝去を受け、12月に大統領選挙が実施され、ミルジヨーエフ前首相が新大統領に就任した。
「中央アジア+日本」対話の枠組みにおいては、3月に東京で第11回高級実務者会合を実施し、前回(2014年7月)外相会合のフォローアップを行うとともに、次回外相会談に向け、運輸・物流等の分野での実践的協力の推進を始めとした様々な議題について意見交換を行った。また、9月には、「知られざる中央アジア:その魅力と日本との絆」をテーマとした第9回東京対話(知的対話)を実施し、日本における中央アジアの認知度を上げるため、従来の公開シンポジウムに加え、映画祭、音楽祭、大使館オープンイベントを開催し、延べ1,200人近くが参加した。

(2)コーカサス諸国
コーカサス諸国との関係も、ハイレベルの相互訪問等を通じて更に強化された。
欧州との統合を目指し、日本とも自由・民主主義の価値を共有するジョージアからは、2月にウスパシヴィリ国会議長、5月にサニキゼ教育科学相、7月にハドゥリ財務相、11月にエロシヴィリ・エネルギー相が訪日した。また、ジョージアでは10月に議会選挙が行われ、与党「ジョージアの夢・民主ジョージア」が4分の3以上の議席を獲得した。
豊富な天然資源を背景にコーカサス地域の経済を牽引(けんいん)するアゼルバイジャンとの間では、5月に田中自由民主党国際局長一行、8月に滝沢外務大臣政務官が同国を訪問し、同国からは、2月に新アゼルバイジャン党代表団、3月にハサノフ大統領補佐官が、10月にラヒモフ青年スポーツ相が訪日した。また、4月には、シャリホフ副首相に対し、両国の関係強化と相互理解の促進への功績を称え旭日大綬章が授与された。
IT分野を始めとする人材に恵まれたアルメニアとの関係では、8月に衛藤征士郎・日・アルメニア友好議員連盟会長一行が同国を初めて訪問し、サルグシャン大統領を始めとするアルメニア側関係者との会談が行われた。
一方、コーカサス地域では、ジョージアにおける南オセチア・アブハジア紛争(5)やアルメニアとアゼルバイジャンとの間のナゴルノ・カラバフ紛争(6)といった領土をめぐる紛争が存在し、依然として関係国間に緊張が生じている。解決に向けた取組は引き続き行われたが、具体的な進展は見られていない(2017年2月現在)。
3 国際交流基金は、2015年10月の安倍総理大臣による中央アジア諸国歴訪を受け、中央アジアを「重点地域」の1つと位置付け、この地域における幅広い分野の文化交流事業を集中的に企画・実施している。この一環として、嶌信彦・日本ウズベキスタン協会会長を団長とし、様々な分野の専門家・有識者で構成される文化交流使節団「国際交流基金中央アジア文化交流ミッション」を中央アジア5か国に派遣し、中央アジアの文化・社会事業を視察するとともに、有識者等との意見・情報交換を行い、今後日本・中央アジア関係を更に深め発展させていくにはどのような交流事業を進めていくべきかを考察する予定である。その最初の国として、8月2日から5日まで、同ミッションがウズベキスタンを訪問した。
4 国際交流基金の主催で和太鼓パフォーマンス・グループDRUM TAOが中央アジア初公演をタシケントのナボイ劇場で実施した。ナボイ劇場は、かつてソ連時代に日本人抑留者がその建設に携わり、1947年に竣工(しゅんこう)したオペラハウスである。
5 2008年8月、ジョージアからの分離独立を目指す南オセチアとジョージアの武力衝突にロシア軍が介入し、ジョージア・ロシア両国の武力紛争に発展したが、紛争発生後約1週間でEU議長国であるフランス等の介入により停戦が実現した。その際の合意に基づき、関係者間で安全保障及び人道問題に関する協議を行う国際会議がジュネーブで行われている。
6 ナゴルノ・カラバフをめぐるアルメニアとアゼルバイジャン間の紛争。アゼルバイジャン内に所在する同地域の住民の大半はアルメニア人であり、ソ連末期にアゼルバイジャンからアルメニアへの帰属変更要求が高まったため、1991年のソ連解体に伴って、アルメニアとアゼルバイジャン間の紛争へと発展した。アルメニアは、1993年までにナゴルノ・カラバフのほぼ全域及びその周辺7地域を占拠した。1994年、ロシア及びOSCEの仲介により停戦合意したが、現在まで死傷者を伴う衝突が繰り返されている。2016年4月、1994年の停戦以降最大規模の軍事衝突が発生し、数日後に双方が停戦に合意した。OSCEミンスク・グループによる仲介で、1999年以降、アルメニア・アゼルバイジャン両国首脳・外相など様々なレベルで直接対話が継続して行われているものの、解決のめどは立っていない(2017年2月現在)。