人権外交
ビジネスと人権
令和6年9月3日
1 ビジネスと人権に関する指導原則
- (1)2005年、第69回人権委員会は、「人権と多国籍企業」に関する国連事務総長特別代表として、ハーバード大学ケネディスクールのジョン・ラギー教授を任命しました。ラギー特別代表は、各国や市民社会との協議を経て、2008年の第8回人権理事会に「保護、尊重及び救済の枠組み(英文(PDF))」を提出しました。同枠組では、多国籍企業と人権との関係を、ア 人権を守る国家の義務、イ 人権を尊重する企業の責任、ウ 救済措置へのアクセスの3つの柱に分類し、企業活動が人権に与える影響に係る「国家の義務」及び「企業の責任」を明確にすると同時に、被害者が効果的な救済を得るメカニズムの重要性を強調し、各主体が、それぞれの義務・責任を遂行すべき具体的な分野及び事例を挙げています。同枠組は、2008年第8回人権理事会に提出された関連の決議において歓迎(welcome)されました。
- (2)ラギー特別代表は、「保護、尊重及び救済の枠組み」を運用するため、新たに「ビジネスと人権に関する指導原則:保護、尊重及び救済の枠組みにかかる指導原則(注1)」を策定し、同指導原則は、2011年の第17回人権理事会に提出され、関連の決議において支持(endorse)されました。同決議により、新たに専門家で構成される作業部会が設立され、同作業部会は指導原則の普及促進、関係機関とのグッドプラクティスの共有、各国訪問等を行うこととされています。
(注1)指導原則に係る資料はこちら。(英文(PDF)/仮訳(PDF)/パンフレット(PDF)) - (3)同作業部会は、ビジネスと人権に関する指導原則の普及、実施にかかる行動計画を作成することを各国に奨励しており、これを受け、各国は実情や法令に則した行動計画の策定に着手し、2013年から、英国、イタリア、オランダ、ノルウェー、米国、ドイツ、フランス等を含む20か国以上が既に行動計画を公表しています(既に公表している国についてはこちら(外部リンク))。2015年のG7エルマウ・サミット首脳宣言には、指導原則を強く支持し、また国別行動計画を策定する努力を歓迎する旨の文言が含まれました。2017年7月のG20ハンブルク・サミット首脳宣言においても、我が国を含むG20各国は、「ビジネスと人権に関する国別行動計画」等政策的な枠組みを構築することが求められています。
2 「ビジネスと人権」に関する我が国の行動計画
2020年10月、「ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議(PDF)」において、企業活動における人権尊重の促進を図るため、「ビジネスと人権」に関する行動計画が策定されました。(注2)
本行動計画においては、「ビジネスと人権」に関して、今後政府が取り組む各種施策が記載されているほか、企業に対し、企業活動における人権への悪影響の特定、予防・軽減、対処、情報共有を行うこと、人権デュー・ディリジェンスの導入促進への期待が表明されています。
本行動計画の実施や周知を通じて、「ビジネスと人権」に関する関係府省庁の政策の一貫性を確保するとともに、責任ある企業行動の促進を図り、企業活動により人権への悪影響を受ける人々の人権保護・促進、ひいては、国際社会を含む社会全体の人権の保護・促進に貢献すること、日本企業の企業価値と国際競争力の向上、及びSDGs達成への貢献に繋がることが期待されます。
(注2)「ビジネスと人権」に関する行動計画に係る資料はこちら。(概要(PDF)/日本語(PDF)/英語(PDF)/パンフレット)
(「ビジネスと人権」に関する行動計画の策定経緯)
- (1)我が国は、指導原則を支持しており、その着実な履行に取り組むため、「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定することを決定しました。同行動計画の策定は、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けた取組の一つとして位置付けられており、SDGs実施指針付表、2018年6月に行われたSDGs推進本部の第5回会合で決定された「拡大版SDGsアクションプラン2018」及び同年12月に行われた第6回会合で決定された「SDGsアクションプラン2019」に、行動計画の策定が記載されました。また、同年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革」に、企業行動の原則としての人権の尊重に係る行動計画の策定が明記されております。
- (2)行動計画策定の第一段階として、海外での取組事例等の調査を踏まえ、企業活動における人権保護に関する我が国の法制度や施策等についての現状を確認すべく、政府主導にてベースラインスタディ(現状把握調査)を実施する旨決定し、全府省庁間においてその現状を整理及びステークホルダーとの意見交換会を実施し、2018年12月にその結果を報告書に取りまとめました。
- (3)2019年4月、「ビジネスと人権」に関する行動計画の策定に向けて、関係府省庁の諮問に応じ、有識者からの見解を示す諮問委員会、及び様々な関係者が集まり意見交換を実施する作業部会を設置しました。
- (4)2019年7月、上記諮問委員会及び作業部会で提出された御意見等を踏まえて、「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定する上で検討していく、全体的な優先分野を5つ、特に重点的に検討する必要がある14の事項を特定しました。(「ビジネスと人権に関する我が国の行動計画(NAP)の策定に向けて(PDF)」)
- (5)上記諮問委員会及び作業部会での議論を経て、2020年2月に、ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議として、「ビジネスと人権」に関する行動計画の原案(PDF)」)を取りまとめ、同原案に対して意見を募集しました(本意見募集の結果は電子政府の総合窓口(e-Gov)をご覧下さい)。
- (6)2020年10月、ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議において、「ビジネスと人権」に関する行動計画が策定されました。
(「ビジネスと人権」に関する行動計画の実施)
- (1)「ビジネスと人権」に関する行動計画の実施及び見直し段階において、関係府省庁間の連携を図る仕組みとして、2021年3月、関係府省庁連絡会議(PDF)を設置いたしました。2021年12月に、同連絡会議を「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」に改組いたしました。同会議において、行動計画の実施状況の確認等を行っていきます。詳細は内閣官房のウェブサイトをご覧下さい。
- (2)「ビジネスと人権」に関する行動計画の実施及び見直しに係る取組を、広範な関係者が協力して推進していくため、関係府省庁連絡会議の下に、「ビジネスと人権に関する行動計画推進円卓会議」及び「ビジネスと人権に関する行動計画推進作業部会」を開催しています。行動計画第4章7.に基づき、関係府省庁と有識者や各界からの関係者との継続的な対話の場として、意見交換を行っていきます。
- (3)2021年9月から10月にかけて、外務省は経済産業省と連名で、「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」を実施しました。本調査は、日本企業のビジネスと人権への取組状況に関する政府としての初の調査で、行動計画のフォローアップの一環として、企業の取組状況を把握することを目的として行いました。
- 「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」(集計結果)(PDF)
- (4)行動計画の第4章に基づき、行動計画の実施状況について、毎年、政府の主な取組を「政府報告」としてとりまとめ、「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」において確認の上、公表しています。
- 「ビジネスと人権」に関する行動計画の実施に係る政府報告
(関連情報)
- 外務省主催「ビジネスと人権」に関する企業向けセミナー開催(令和6年4月22日)
- 「ビジネスと人権」に関する日タイ・ジョイントセミナー(和文/英文)
- 外務省主催セミナー「ビジネスと人権 政府による行動計画の策定と企業活動における人権の尊重」