世界貿易機関(WTO)

令和3年6月17日

 6月13日、イギリス・コーンウォールで開催されていたG7サミットが閉幕した。新型コロナへの対応や気候変動に対する取組など様々なテーマについて、基本的価値と戦略的利益を共有するG7の首脳が率直な議論を交わし、貿易をめぐる課題もその焦点の一つとなった。首脳コミュニケでは、自由で公平な貿易やルールの現代化を始めとするWTO改革の必要性が確認された。
 この首脳間の議論の土台を作ったのが、5月27日、28日に茂木敏充外務大臣と梶山弘志経済産業大臣が出席したG7貿易大臣第2回会合である。今回は、このG7貿易大臣会合がいかなる狙いの下に開催され、G7の担当閣僚が、世界貿易の抱える諸課題の解決に向け、いかなる針路を示したのかをご紹介したい。

 そもそもG7に貿易大臣会合があったっけ?という皆さんの疑問は正しい。G7貿易大臣会合は、今年の議長国である英国がG7史上初の試みとして開催したものである。既に3月に第1回、今回第2回を開催し、更に10月に第3回を予定している。2021年の今、なぜ貿易大臣会合が開催されたのか。
 会合の議長を務めたトラス英国国際貿易大臣の言葉を借りれば、「WTO改革はいつやるの?今でしょ(now or never)」であり、市場原理と自由貿易を旗印として国際貿易秩序を先導してきたG7が「世界貿易の直面する根本的課題に対処し、WTOを21世紀に導くオコンジョ=イウェアラ事務局長の努力を支援しよう」との強い意欲が背景にあった。
 WTO改革についてはWTOそれ自体以外でも、G20やAPECなど、これまでも様々なフォーラムでその必要性が議論されてきた。中でもG7は少数国のグループに思われるだろうが、26か国が加盟する欧州連合(EU)も参加し、世界貿易に占めるシェアに加え、国際的議論への影響力、そして何より、民主主義・法の支配・市場経済といった基本的価値と戦略的利益を共有するという点で一線を画するメンバーからなる。WTOにおいて交渉をまとめる困難さは連載の中でもしばしば紹介してきたが、それは164という加盟国数もさることながら、加盟国間の価値や利益の隔たりの大きさによるところも大きい。年末の第12回WTO閣僚会議(MC12)での全加盟国間の合意に向けて、この少数の同志国グループでの議論から始めるという事実は、WTO改革の困難さとそれを実現しようとするG7の本気度を同時に示している。

 さて、今回の第2回会合では、「貿易ルールの現代化」と「自由で公正な貿易」が2大テーマとして取り上げられた。これらはいずれも、WTO改革の重要課題でもある。
 会合に参加した茂木大臣は、価値と戦略的利益を共有するG7が結束してこれらの課題に当たることが重要であると呼びかけ、閣僚間の議論をリードした。例えば、デジタル貿易やワクチンへの公平なアクセスを含む新型コロナの収束に向けた取組については、G7が高い水準のルール作りを主導すべきと強調した。茂木大臣が、日EUや日英の経済連携協定、日米間での貿易協定やデジタル貿易協定等の交渉当事者だったことは、何よりの説得力の源となった。また、市場での公平な競争を妨げる政府からの補助金や国有企業の活動、更にはWTOの途上国地位の問題についてもG7としての対応を訴えた。さらに、環境、女性のエンパワーメント等に関するWTOでの議論や、上級委員会が機能不全にある紛争解決制度改革についても、G7として連携していこうと呼びかけた。
 この訴えがいかにG7閣僚の支持と共感を得たかについては、会合後に出された閣僚コミュニケ(PDF)別ウィンドウで開くを是非ご一読いただきたい。

 今回の貿易大臣会合では、2021年の今、世界貿易が抱える課題についてG7としての方針を打ち出した。ただし、志を同じくする集まりのG7と言っても、共通の方針に至るには難しいテーマもある。例えば、G7デジタル貿易原則は今後とも建設的に議論を継続し、10月会合での採択を目指すこととなった。また、環境など方向性では一致するが、今後具体的議論をどう進めるかが課題になっている分野もある。しかし、いずれの分野でも、MC12に向けた努力の継続が確認されている。
 喫緊のWTO改革の実現に向け、G7史上初の取組がいかに他の加盟国を巻き込み、WTOでの成果に結びつけることが出来るのか。今後の進捗に是非注目してほしい。


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