グローカル外交ネット

令和7年2月18日

外交実務研修員 小笠原 学
(東京都から派遣)

1 外務省に派遣されるまで

 私は2023年4月より、外交実務研修員として東京都庁から外務省に派遣されています。外務省での勤務も現在2年目の終盤にさしかかり、4年間の派遣期間の折り返し地点を迎えようとしています。
 1年目は大臣官房総務課地方連携推進室において、2年目はアジア大洋州局南部アジア部南東アジア第一課において、外交実務を学んできました。これから迎える後半の2年間は、在外公館での勤務が予定されています。本体験記が、国際業務にご関心をお持ちの、あるいは外務省への派遣が決まった自治体職員の方々のご参考になれば幸いです。
 私は民間企業での勤務を経て、2020年4月に東京都庁に入都しました。最初の配属先は下水道局となり、総務系の業務や水質規制業務を経験しました。私が入都した年は新型コロナウイルスのパンデミックが直撃したタイミングだったこともあり、本来業務の合間で、都内飲食店への営業時間短縮等に係る感染拡大防止協力金給付業務、新型コロナウイルス患者の病院への受け入れ調整業務にも携わりました。
 下水道局在籍時の仕事の中で特に印象に残っているのは、JICAのプログラムで来日した留学生グループからの依頼を受け、東池袋の野球場の地下に広がる雨水調整池を案内し、大雨が降った際に、雨水を地下に貯留し洪水を防ぐ雨水調整池の仕組みを説明したことです。参加した留学生の一行は私の説明にじっと耳を傾けてくれ、説明が終わると、質問の手が次々と挙がりました。私は留学生達の貪欲な姿勢に驚くとともに、私たちが日々その恩恵を受けている東京のインフラは、海外の方々から見ると、決して当たり前のものではないのだということに改めて気づかされました。それと同時に、東京都の施策や取組の中で優れたものを海外に発信・輸出することで、洪水対策や防災をはじめとした、世界の諸都市が抱える共通した課題の解決に向けて、東京都が果たせる役割があるのではないかと考えるようになりました。こうした経緯から、東京都の職員として国際業務に携わることを希望するようになり、庁内公募制人事に応募したところ、書類選考と面接試験を経て、幸運にも外務省で外交実務を学ぶという機会に恵まれました。

2 地方連携推進室

「地域の魅力発信セミナー」で茨城県石岡市のブースについて説明する筆者(於:八芳園)
「外務大臣及び徳島県知事共催レセプション」で高校生と交流する上川外務大臣(当時)と後藤田徳島県知事(於:外務省飯倉公館)

 外務省での1年目は、地方連携推進室に配属となりました。地方と外交は一見関わりが薄いように思えますが、外務省はオールジャパンでの外交力強化を目指す上で、地方を「外交上の重要なプレーヤー」と位置付けています。外国人観光客の獲得、海外企業や国際会議の誘致、姉妹都市交流、地方物産の輸出振興等、地方と海外が関係する領域は年々拡大しており、それに伴い、地方の国際的取組が重要性を増しています。地方連携推進室は地方自治体の要望やニーズを把握しつつ、在外公館や他省庁、関係機関と連携し、様々なスキームを通して地方の国際的取組を支援し、国際社会における日本の地位向上や、国際的な相互理解の促進、日本のブランド力強化を実現することを使命としています。
 私は総務班の一員として、省内外からの照会や依頼事項に対応するとともに、地方連携推進室Xでの情報発信、同室が配信している「グローカル通信」というメールマガジンの企画・編集等を担当しました。また、一部事業班業務も兼任し、大使・総領事の一時帰国時における地方出張等の調整にも従事した他、地方と連携した様々なイベントを実施する中でも、貴重な経験を積むことができました。
 複数の地方自治体等との共催により、駐日外交団等に対して各地方自治体の特色・施策に関しての情報を発信する「地域の魅力発信セミナー」においては、英語での司会・進行を務めさせていただきました。また、外務大臣が地方の首長との共催で、外務省飯倉公館で地域の魅力を発信するレセプション(「地方創生支援 飯倉公館活用対外発信事業」)においては、主にロジやプレス関係業務を担当しました。2024年1月には新潟県、3月には徳島県との共催でレセプションを開催し、多くの駐日外交団関係者に対して各県の魅力をPRしました。加えて、地方自治体から外務省に出向している外交実務研修員に向けた研修においては、駐日インドネシア大使館における研修を企画し、研修先の選定、先方との交渉、研修の実施までを一貫して担いました。この研修の調整を通じて知り合った駐日インドネシア大使館の方々とは、その後も交流が続いています。

3 南東アジア第一課

ビンズオン省における大規模都市開発案件について説明を受ける高村政務官(当時)一行(於:ビンズオン省、ベカメックス東急本社)

 本省派遣の2年目は、南東アジア第一課に異動となりました。南東アジア第一課は、ASEANのうち陸側のメコン地域5か国(ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、ラオス)を所管する地域課です。私はベトナム班の一員として、要人往来への対応、広報・文化案件、自治体関連案件、経済連携協定(EPA)に基づくベトナム人看護士・介護福祉士候補者に対する日本語研修事業等を担当しております。
 ベトナムは約1億30万人(2023年、越統計総局)の人口を持つ伝統的な親日国で、陸と海を繋ぐ地政学的な要衝に位置しています。コーヒー、コメ、胡椒の世界有数の産地である他、縫製品、電子機器の生産拠点として、コロナ禍も含めた長期にわたりASEAN域内でもトップクラスの経済成長率を維持しています。また、日本に在留するベトナム人は近年急増しており、在留外国人の国籍別人数(2024年10月、出入国在留管理庁)で第2位(約60万人)となっており、1位の中国人(約84万人)に今後迫る勢いです。
 二国間関係については、2023年に日本とベトナムは外交関係樹立50周年を迎え、それに伴い両国関係は「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」へと格上げされました。2024年度は新たなパートナーシップのもと、より一層の両国関係の発展に向けて機運が高まっており、私も4月の着任早々、マイ・ベトナム共産党中央組織委員長兼越日友好議員連盟会長(当時)による岸田総理表敬のロジ要員として官邸に向かう等、前年に引き続き活発な要人往来が実施されています。石破総理は、10月のASEAN関連首脳会議に際してチン首相と、11月のAPEC首脳会議に際してクオン国家主席と、12月には参議院議長の招待により来日したマン国会議長と会談しました。また、岩屋外務大臣はソン副首相兼外務大臣との間で、10月に電話会談、11月にAPEC閣僚会議に際しての懇談を実施しました。このように、石破内閣発足後のわずか数か月間の中でも、両国ハイレベル間での緊密な意思疎通が図られています。
 南東アジア第一課における業務の中で特に印象に残っているのは、高村正大外務大臣政務官(当時)のマレーシア及びベトナム訪問に、ベトナム日程の担当者として随行した経験です。私は訪問の調整の段階から実施に至るまで、在外公館や省内関係各所との調整、参考資料の準備、会談記録の作成等を担当しました。ベトナム側の都合により、会談相手や会談時刻の直前での変更が相次ぎ、成田からホーチミンに向かう飛行機の中や、現地到着後のホテルでも資料の修正や協議が必要となりました。予期せぬ事態に肝を冷やしましたが、本省の上司や、現地公館の関係者と連携を取りつつ、無事に乗り切ることができました。ベトナム日程の初日はホーチミン市主催の国際フォーラムへ出席し、マイ・ホーチミン市人民委員長との会談を行った後、日本語の通訳や翻訳者を目指す学生が多く在籍する越日工業大学、HUTECH(フーテック)大学を視察しました。午後はODA事業の下、JICAと外国貿易大学との協力により設置されたVJCC(ベトナム日本人材開発インスティチュート)を視察しました。2日目の午前中はホーチミン市主催の経済フォーラムに出席し、その後は隣のビンズオン省まで車で移動、午後は東急株式会社が現地企業のベカメックス社と共同で展開しているビンズオン省の新都市開発事業を視察しました。非常に濃密な二日間の日程でしたが、全ての日程を無事に終えて帰国の途に就いた際には、大きな充実感とやりがいを覚えました。ベトナムの発展に向けて、日本が官民両面から貢献している現場を目の当たりにすることができたのは、本当に貴重な経験でした。

4 2年間の本省勤務を通して

 さしたる国際経験も無いまま飛び込んだ外務本省は、未知の体験と刺激に溢れていました。物事が動く際のスピード感や、独特の専門用語等、着任当初は驚きと戸惑いの連続でしたが、そうした状況も次第に日常の風景になってきたように思います。
 1年目の地方連携推進室では、日本の地方の特色ある魅力を再発見することができました。また、業務の中で全国の自治体の国際的取組や、海外へ向けた魅力発信の手法に触れられたことは、自治体職員として大変有意義でした。
 2年目の南東アジア第一課では、外交という仕事のスケールの大きさに驚くとともに、国と国との関係は、政府レベルの取組だけでなく、民間も含めた多様な人々の地道な営為によって支えられており、重層的、多層的なものとなっていることを深く実感しました。
 二つの部署で勤務して共通していたことは、そこで働く省員の方々の並外れた知力、体力、そして人間力です。時に圧倒されながらも、こうした方々と机を並べて仕事をすることができ、今後の職業人生の中でロールモデルとしていきたいと思えるような、多くの上司、同僚と出会えたことは、外務省に来て得られた大きな財産です。
 また、外務省は他省庁や民間企業、自治体等の様々な組織から多くの出向者を受け入れており、大変懐の深い組織であると感じます。これほど多様な人々が短期間で出入りをしているにも関わらず、組織としての継続性、一体性を保っているのは驚異的なことです。そのような組織運営を可能にする外務省の知恵に、多様な人材の活用を推進している東京都としても、大いに学ぶべきところがあるのではないかと思います。

5 おわりに

 末筆ながら、日頃からご指導をいただいている地方連携推進室、南東アジア第一課、在ベトナム日本国大使館、在ホーチミン日本国総領事館、在ダナン日本国総領事館及び駐日ベトナム大使館の皆様をはじめとした、お世話になった全ての関係者の皆様に改めて深く御礼を申し上げます。また、このような貴重な機会を与えていただき、出向中も様々な面でサポートいただいた東京都政策企画局外務部をはじめとした、都庁関係者の皆様、同じ境遇の中、互いに励まし合ってきた他自治体からの出向者の仲間達にも、この場をお借りして感謝申し上げます。残りの本省での勤務、来年度からの在外公館勤務をより一層実り多いものとし、外務省での学びを出向元の東京都に還元すべく、引き続き努めて参りたいと思います。

グローカル外交ネットへ戻る