7 人権
世界各地における人権状況への国際的関心が高まっているが、人権の保護・促進は国際社会の平和と安定の礎である。人権は普遍的な価値であり、達成方法や文化に差異はあっても、人権擁護は全ての国の基本的責務であると日本は認識している。また、深刻な人権侵害に対してはしっかり声を上げるとともに、「対話」と「協力」を基本とし、民主化、人権擁護に向けた努力を行っている国との間では、二国間対話や協力を積み重ねて自主的な取組を促すことが重要であると考えている。加えて日本は、アジアでの橋渡しや社会的弱者の保護といった視点を掲げつつ、二国間対話や国連など多数国間フォーラムへの積極的な参加、国連人権メカニズムとの建設的な対話を通じて、世界の人権状況の改善に向けて取り組んでいる。また、二国間対話としては、米国との間で民主主義の強靭性に関する日米戦略対話を2023年に新たに立ち上げ、2024年3月に第2回日米戦略対話を開催した。本対話では、国際場裡における両国の連携について議論したほか、国際社会及び各国内で包摂社会の実現や女性活躍の推進、民主主義の強靱性の向上につき意見交換を行った。
(1)国連などにおける取組
ア 国連人権理事会
国連人権理事会は、1年を通じてジュネーブで会合が開催され(年3回の定期会合)、人権や基本的自由の保護・促進に向けて、審議・勧告などを行っている。日本は、2023年までに、理事国を5期務めた。直近では、2023年10月の理事国選挙でも当選し、2024年1月から2026年12月まで理事国を務めている(6期目)。
2月及び3月の国連人権理事会第55会期のハイレベル・セグメント(各国の主要な代表者による会合)では、深澤陽一外務大臣政務官がステートメントを実施した。深澤外務大臣政務官は、ウクライナ、ガザを含む中東情勢を始め、世界各地で多くの人々が厳しい状況に置かれている中、人権擁護に向け国際社会が対話と協力を続ける重要性を訴えた。また、日本として引き続き、アジアの国々を始めとする世界の人権保護・促進に貢献していく決意を述べ、拉致問題の即時解決の重要性を訴えた。さらに、香港をめぐる情勢や新疆(きょう)ウイグル自治区を始めとする中国の人権状況に深刻な懸念を表明し、中国の具体的行動を求めた。また、「ビジネスと人権」に関する行動計画の下での企業活動における人権尊重の促進、G7議長国として主導したジェンダー問題に関する取組など、日本の直近の取組を紹介した。同会期では、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が無投票で採択された(採択は17年連続)。この決議は、北朝鮮に対して、拉致被害者及びその御家族の声に真摯に耳を傾け、速やかに被害者の御家族に対する失踪者の安否及び所在に関する正確、詳細、かつ完全な情報の誠実な提供とともに、特に全ての日本人拉致被害者の即時帰国の実現を改めて強く要求する内容となっている。
イ 国連総会第3委員会
国連総会第3委員会は、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムであり、例年10月から11月にかけて、社会開発、女性、児童、人種差別、難民、犯罪防止、刑事司法など幅広いテーマが議論されるほか、北朝鮮、シリア、イランなどの国別人権状況に関する議論が行われている。第3委員会で採択された決議は、総会本会議での採択を経て、国際社会の規範形成に寄与している。
第79会期では、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が、11月の第3委員会と12月の総会本会議において、無投票で採択された(採択は20年連続)。同決議は、拉致被害者及び御家族が高齢化し時間的制約のある中、深刻な人権侵害を伴う拉致問題及び全ての拉致被害者の即時帰国の緊急性及び重要性を改めて強調し、北朝鮮が被害者及びその御家族の声に真摯に耳を傾け、被害者の御家族に対する被害者の安否及び所在に関する正確、詳細かつ完全な情報の誠実な提供、特に全ての日本人拉致被害者の即時帰国の実現を改めて強く要求する内容となっている。また、同会期では、オーストラリアが15か国を代表して共同ステートメントを読み上げ、新疆ウイグル自治区における人権状況に関して懸念を表明するとともに、チベットにおける信頼できる人権侵害の報告について深刻な懸念を抱いていると表明した。日本はアジアから唯一、これに参加した。
さらに日本は、シリア、イラン、ミャンマーなどの国別人権状況や各種人権問題(社会開発、児童の権利など)を含め、人権保護・促進に向けた国際社会の議論に積極的に参加した。
ウ 「ビジネスと人権」に関する行動計画の実施
日本は、国連人権理事会において支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」を受け、2020年に「ビジネスと人権」に関する行動計画を、2022年に業種横断的な「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定したことに加え、2023年4月には公共調達における人権配慮に関する政府の方針についての決定を行い、企業活動における人権尊重の促進に取り組んでいる。2024年5月の関係府省庁施策推進・連絡会議では、2025年度に期限を迎える行動計画の改定作業に着手することが決定され、現在(同年末時点)、改定作業を行っている。また、外務省では、国内外での企業向けセミナーを通じて周知・啓発活動を行うとともに、国際機関とも連携し、日本企業の進出国を中心に、現地の日本企業及びそのサプライヤーに対する研修や、現地政府に対する行動計画の策定・実施支援などを行っている。今後も、関係府省庁と連携しつつ、ステークホルダーと継続的に対話を行いながら、行動計画の着実な実施及び行動計画の改定に取り組んでいく。
エ 民主主義のためのサミット
3月、韓国主催の第3回民主主義のためのサミットが開催され、岸田総理大臣がオンライン形式で首脳プレナリー会合(本会合)に参加した。岸田総理大臣は、民主主義を含めた普遍的価値を重視する立場から、民主主義を守り、世界における人権を促進するための日本の考え及び取組を説明した。
オ コロンビアにおける第1回児童に対する暴力撲滅閣僚会合
11月、コロンビアの首都ボゴタにおいて、第1回児童に対する暴力撲滅閣僚会合が開催され、日本も参加した。日本における児童に対する虐待や性暴力防止に向けた取組などを説明したほか、本会合の成果文書として採択されたボゴタ行動要請に日本も賛同国入りした。
(2)国際人権法・国際人道法に関する取組
ア 国際人権法
6月、ニューヨークの国連本部で開催された第17回障害者権利条約締約国会合において、障害者権利委員会委員選挙が行われ、日本から立候補した田門浩氏が当選を果たした。日本から障害者権利委員会に委員を輩出するのは、石川准氏(任期は2017年から2020年)に次いで2人目となる。
イ 国際人道法
日本は、国内における国際人道法の履行強化に向けて積極的に取り組んできた。9月には日本赤十字社と共同で国際人道法(IHL)国内委員会を開催した。10月には第34回赤十字・赤新月国際会議に参加し、国際人道法の普及強化の重要性に関するステートメント及び日本赤十字社との共同プレッジ(約束)を実施した。また、国際人道法の啓発の一環として、例年同様、12月には赤十字国際委員会(ICRC)主催の国際人道法模擬裁判・ロールプレイ大会に、審査員役として講師を派遣した。
(3)難民問題への貢献
日本は、国際貢献や人道支援の観点から、2010年にアジアで初めて第三国定住(難民が、庇護を求めた国から新たに受入れに同意した第三国に移り、定住すること)による難民の受入れを開始した。2014年まではタイから、2015年以降はマレーシアから難民を受け入れ、2024年末時点までに合計133世帯323人が来日した。
来日した難民は生活のための語学習得や就職支援サービスを受けるなど、6か月間の定住のための研修を受ける。研修を終えた者は、それぞれの定住先地域で自立した生活を営んでいる。当初、首都圏の自治体を中心に定住を実施してきたが、難民問題への全国的な理解を促進することなどの観点から、2018年以降は、首都圏以外の自治体での定住を積極的に進めている。