外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

3 カナダ

(1)カナダ情勢

2022年3月に締結された新民主党(NDP)との閣外協力協定により、トルドー政権は安定的な政権運営を行っていたが、9月、NDPは、同閣外協力協定の解消を発表した。与党・自由党は、6月のトロント補欠選、9月のモントリオール補欠選で敗戦し、複数回の内閣改造を実施した。11月、トルドー政権は低迷する政府支持率の回復を目指し、一時的な消費税減税と国民支援策を発表した。12月には、フリーランド副首相兼財相が辞任し、トルドー政権は再度の内閣改造に踏み切ったが、2025年1月、トルドー首相は自由党党首及び首相を辞任する意向を表明した。経済面について、12月のカナダ財務省の経済ステートメントによれば、2024年の実質GDP成長率は1.3%(前年1.2%)、失業率は6.4%(前年5.4%)、消費者物価指数(CPI)の年間平均値は2.5%の見通し(前年平均値3.9%)となっている。また、前年の経済ステートメントで表明した目標のうち、2023年度から24年度の財政赤字を2023年予算方針の予測である401億ドル以下に維持することについては達成できないこととなった。

外交面では、2022年11月に発表したインド太平洋戦略に基づいて進めてきた同地域への関与強化に関し、2024年4月に改訂した国防戦略でも同地域への恒常的なプレゼンスを確保する方針を打ち出した。2024年はインド太平洋地域へ軍艦3隻が派遣されるなど、カナダの同地域へのプレゼンスが一層強化された。

伝統的に安定してきた米加関係にも大きな動きがあった。11月の米国大統領選挙後、トランプ次期米国大統領は、不法移民やフェンタニルの流入を理由としてカナダ及びメキシコからの全ての製品に25%の関税を課すと発表した。これを受け、トルドー首相がトランプ次期米国大統領と電話会談を行い、フロリダ州を訪問して同次期大統領と夕食会を実施したほか、カナダ政府は、トランプ次期米国大統領の懸念に応えるため、12月、6年間で13億ドル相当の包括的な国境警備強化計画を発表した。

東南アジア諸国連合(ASEAN)とは2023年9月に確立した「戦略的パートナーシップ」に基づき、10月にASEANの連結性・強靭性を強化するための特別首脳会合を実施するなど関係を強化している。12月には、インドネシアとの包括的経済連携協定の交渉妥結が発表された。対中関係では、7月にジョリー外相がカナダ外相として7年ぶりに訪中した。8月、カナダ政府は、中国の不公正な貿易慣行からカナダの労働者及び主要な経済部門を保護するため、中国製電気自動車(EV)に対する100%、中国からの鉄鋼・アルミニウム製品に対する25%の追加関税措置を発表し、10月から適用を開始した。11月にはAPEC閣僚会議の際に加中外相会談を行うなど、対話は継続している。対台湾関係では、11月、蔡英文(さいえいぶん)前総統が初めてカナダを訪問し、ハリファックス国際安全保障フォーラムで演説を実施した。対韓関係では、7月、加韓外相会談を実施し、「包括的戦略パートナーシップ行動計画」を採択した11月、第1回外務・国防閣僚会合「2+2」を開催した。対印関係では、2023年のカナダ国内でのシーク教徒殺害事案の発生以降、緊張関係が続いている。5月、カナダ政府はインド人容疑者3人を逮捕した。また、10月にはカナダ・インド双方で6人の外交官及び領事館員の国外追放が発表された。

ウクライナ情勢への対応では、ウクライナによる長距離兵器の使用を全面的に支持する発言を行うなど、対露制裁やウクライナ支援を継続している。2022年2月以降、カナダ政府は、総額45億カナダドルの軍事支援を含め、総額195億カナダドル(約2兆1,000万円)の支援にコミットしている。10月にはウクライナの平和フォーミュラに係る閣僚会合をバンクーバーで主催した。イスラエル・パレスチナ情勢への対応では、11月、新規に5,000万カナダドルの人道支援を発表するなど、カナダ政府として総額2億1,500万カナダドル(約2,300億円)の人道支援を発表している。

(2)日・カナダ関係

2024年1月から2025年1月末までに日・カナダ間では首脳会談が3回、外相会談が4回実施された。

1月13日、上川外務大臣はジョリー外相の出身地であるモントリオールを訪問し、日加外相会談を行った。両外相は、「FOIPに資する日加アクションプラン」の進捗状況を確認したほか、CPTPP、人的交流、2025年大阪・関西万博の成功及び「核兵器のない世界」に向けて、緊密に連携していくことで一致した。

日加外相会談(1月13日、カナダ・モントリオール)
日加外相会談(1月13日、カナダ・モントリオール)

6月14日、G7首脳会合出席のためイタリアのプーリアを訪問した岸田総理大臣は、トルドー首相と首脳会談を実施した。岸田総理大臣から、カナダの防衛政策の改定におけるインド太平洋地域の平和と安定への恒常的な貢献の明記、瀬取り監視活動、違法漁業監視活動など法の支配の分野における日加協力の進展を歓迎すると述べ、両首脳は、インド太平洋地域の平和と安定のため、日加両国が連携して貢献していくことを確認した。

7月22日、上川外務大臣は、訪日中のジョリー外相との間でワーキング・ランチ形式の会談を実施した。両外相は、共同訓練やIUU漁業監視活動などにおける新たな協力の進展を歓迎した上で、EVフルバリューチェーン構築における協力を含めた経済面での二国間協力、女性・平和・安全保障(WPS)(8)や北極などに関する二国間協力を引き続き推進していくことで一致した。

日加外相会談(7月22日、東京)
日加外相会談(7月22日、東京)

9月22日、国連総会出席のため米国・ニューヨークを訪問した岸田総理大臣は、トルドー首相と首脳会談を実施し、岸田総理大臣から、2024年のCPTPP議長国であるカナダの貢献を評価するとともに、「核兵器のない世界」に向け、引き続き日加で協力していきたいと述べた。

日加首脳会談(9月22日、米国・ニューヨーク 写真提供:首相官邸ホームページ)
日加首脳会談(9月22日、米国・ニューヨーク 写真提供:首相官邸ホームページ)

10月11日、岩屋外務大臣は、就任直後にジョリー外相と電話会談を実施し、カナダとの二国間及びG7での協力を進めていくことを確認するとともに、早期に対面での外相会談を行うことで一致した。

11月18日、G20首脳会合に出席するためブラジル・リオデジャネイロを訪問した石破総理大臣は、トルドー首相と初めての会談を実施し、両首脳は、液化天然ガス(LNG)生産やEVに係る協力を含め、経済面及び安全保障面での二国間協力で連携していくことで一致した。また、両首脳は、北朝鮮への対応や中国との関係を始めとする地域情勢について緊密に連携していくことを確認した上で、2025年のカナダ議長年におけるG7サミットの成功に向け、緊密に連携していくことで一致した。

日加首脳会談(11月18日、ブラジル・リオデジャネイロ 写真提供:首相官邸ホームページ)
日加首脳会談(11月18日、ブラジル・リオデジャネイロ 写真提供:首相官邸ホームページ)

11月26日、G7外相会合に出席のためイタリア・フィウッジを訪問した岩屋外務大臣は、ジョリー外相と会談を実施し、両外相は、露朝軍事協力の進展、中東情勢、ウクライナ情勢、東アジア情勢を始めとする地域情勢に関し、同志国の連携が重要であることで一致した。また、岩屋外務大臣から、カナダがインド太平洋地域への関与を強化していることを歓迎し、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であり、2025年のG7議長国であるカナダを日本としても支援していきたいと述べた。

日加外相会談(11月26日、イタリア・フィウッジ)
日加外相会談(11月26日、イタリア・フィウッジ)

経済分野においては、経済・貿易分野においては、日本は、インド太平洋における自由で公正な経済秩序の維持・強化に向け、CPTPPの新規加入、一般見直しなどの議論を進める上で2024年議長国のカナダと協力したほか、オタワ・グループでの議論を含め、世界貿易機関(WTO)改革についても連携した。また、2023年9月に作成されたバッテリー・サプライチェーンに関する協力覚書に基づく対話の第1回会合が10月にオタワで開催された。会合では日加間の連携、両国の政策に係る情報交換、貿易・投資促進策、研究開発などについて議論され、両国は、引き続き、カーボンニュートラル及び経済安全保障の観点も踏まえて、持続可能で信頼性のあるグローバルなバッテリー・サプライチェーンを構築するために、協力覚書に基づき、両国間の協力を強化していくことを再確認した。また、カナダにおけるEVフルバリューチェーン構築やLNGカナダに関する二国間協力の進展により、日加経済関係が更に強化された。

科学技術分野においては、5月に東京で第16回日・カナダ科学技術協力合同委員会を開催し、両国のそれぞれの科学技術・イノベーション(STI)(9)政策に関する最近の進展について情報共有するとともに、拠出機会や研究者交流、共同イノベーションメカニズム、オープン・サイエンスや研究セキュリティ・インテグリティを議論し、エネルギー研究、極地研究、宇宙、健康技術、半導体、ナノテクノロジー、物理学研究、量子技術、人工知能、海洋研究という多様な分野における現在及び将来の二国間イニシアティブを議論した。

(8) WPS:Women, Peace and Security

(9) STI:Science, technology and innovation

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