3 外交におけるシンクタンク・有識者などの役割
外交におけるシンクタンク及び民間有識者の役割には、政府の公式見解にとらわれない形での外交・安全保障問題に関する国民の理解促進、外交・安全保障政策のアイデアを生み出す知的貢献、国際的な知的ネットワークの構築や日本の視点からの対外発信などがある。シンクタンク及び有識者による一般市民向けのセミナーやニュース解説は、外交・安全保障問題や政府の立場のより良い理解に不可欠であり、国民の理解を得ることによって政府の外交活動は一層力を発揮できる。また、政府とは異なる立場や専門性をいかした情報収集・分析・政策提言は、政府内の外交政策議論を豊かなものにする。さらに、国際的な知的交流は各国・地域の対日理解促進や国際世論形成への寄与という意味でも重要である。国際社会が複雑化し不透明感が増す中で、外交におけるシンクタンク・民間有識者の役割はますます重要になってきている。
このような背景の下、外務省は、日本のシンクタンクの情報収集・分析・発信・政策提言能力を高め、日本の総合的外交力の強化を促進することを目的として、外交・安全保障調査研究事業費補助金制度を実施し、2023年度は7団体に対して、13事業を支援した。本事業を通じ、刻一刻と変化する外交・安全保障環境に即した政策関係者への提言、諸外国シンクタンクや有識者との意見交換や、有識者による論文・論説の発表やメディアにおける発信などを促進している。これに加え、外務省は、2017年度から、日本の調査研究機関による領土・主権・歴史に関する調査研究・対外発信活動を支援する領土・主権・歴史調査研究支援事業補助金制度を運用しており、公益財団法人日本国際問題研究所6が国内外での一次資料の収集・分析・公開、海外シンクタンクと協力した公開シンポジウムの開催、研究成果の国内外への発信などを実施している。同事業を通じ、2023年には、尖閣諸島領有の歴史的根拠に関して、古地図や古文献を使用して解説するウェビナーが実施されたほか、島根県への竹島編入後に初めて公的地図において「竹島」と表記したと見られる古地図が発見され、一般公開された。日本の領土・主権・歴史に係る史料及び知見の蓄積や、国内外への発信強化が期待される。
─外交の最前線の担い手として─
公邸料理人とは、調理師としての免許を有する者又は相当期間にわたって料理人としての職歴を有する者で、在外公館長(大使・総領事)の公邸などにおける公的会食業務に従事する資格があると外務大臣が認めた者をいいます。在外公館は、任国政府などとの交渉・情報収集・人脈形成などの外交活動の拠点であり、在外公館長の公邸において、任国政財官界などの有力者や各国外交団などを招待して会食の機会を設けることは、最も有効な外交手段の一つです。その際に質の高い料理を提供するため、在外公館長は通常、専任の料理人を公邸料理人として帯同しています。
私はこれまで公邸料理人として、在アイスランド日本国大使館、在デンバー日本国総領事館で勤務し、2022年12月にニューヨークの国連日本政府代表部に着任しました。
主に二国間関係に関する任務を行う大使館や、邦人や民間企業との関係が多い総領事館とは違い、現在勤務している国連日本政府代表部では、世界中の国の方が会食などの対象となります。また、公邸からは国連本部を目の前に見ることができ、9月の国連総会時は各国の大統領など首脳級を乗せた車が公邸の近くを走るなど、日本で生活しているとなかなか得られない経験もしています。
日本政府代表部では会食や大規模レセプションを数多く開いていますが、ほかの国も積極的に会食やレセプションを開催しており、また、ニューヨークには多種多様なレストランもある中で、ゲストの記憶に残る日本食を提供できるよう普段から意識して業務に取り組んでいます。元々日本に興味を持っている方も多いですが、例えば、土瓶蒸しや、朴葉(ほおば)焼きなどは食したことがない方が多く、プレゼンテーションの仕方も工夫しています。また、1回お出ししたことがあるお食事は2回目では重複しないようメニューを作成し、日本について新たな発見と興味を持っていただくよう心掛けています。

メニュー作りでは、ゲストの食の嗜(し)好(ベジタリアンやヴィーガンなど)や宗教などの特徴を考慮しているため、ゲスト一人一人が異なる嗜好をお持ちだと、組み合わせがパズルのように複雑ですが、全てのゲストを満足させられるメニューを考案できたときはとても楽しく、やりがいも感じます。
公邸料理人はレストラン勤務とは違い、毎回の食材管理、メニューの作成、仕入れと仕込み、調理、盛り付けを一人でさせてもらえるのもやりがいの一つです。物価高の中では予算の制約も厳しいですが、工夫して最善の料理を提供する努力をしています。食の最先端とも言えるニューヨークでは、嬉(うれ)しいことに手に入れたい世界中の食材が入手可能なため、自分の考えるアレンジもでき、幸いゲストにもとても喜んでもらえています。
公邸料理人という仕事は、周りのサポートがあるからこそ成り立つ仕事であり、国連日本代表部員の方々、協力、助言してくださる方々、そして家族にはとても感謝しています。
今後も貴重な経験を得ることができる環境で生活できていることに感謝しつつ、日本外交の最前線の担い手の一人としてこの仕事をさせていただきたいと思います。


外務省では、公邸料理人として共に外交に携わってくださる方を随時募集しています。御関心のある方は是非以下のURLからお問合せください。
【国際交流サービス協会http://www.ihcsa.or.jp/zaigaikoukan/cook-1/】

公邸料理人の活躍はSNSアカウント「外務省×公邸料理人(Facebook、X)」でも御覧いただけます。
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─営繕技官の仕事─
外務省には、「在外営繕」という仕事があることをご存じですか。「日本の顔」として外交活動の拠点や舞台となり、非常時には邦人保護の最後の「砦(とりで)」となるのが、海外にある日本国大使館などの在外公館施設です。これら施設を設計・建設し、維持管理するのが「在外営繕」であり、外交活動を陰ながら支えつつ、日本国民の生命を守る重責の一端を担っているとも言えます。ここでは、在大韓民国日本国大使館で大使公邸施設の改修工事を担当した桑原いづみ営繕技官に在外営繕の仕事について語ってもらいました。
在大韓民国日本国大使公邸は、日本人建築家が設計を担当し、1970年代初期に建設されました。建設から約50年が経過し、当時から使用していた電気・機械設備の多くが耐用年数を過ぎて全面更新の時期を迎えていました。このため、各種設備機器などの全面改修を実施するとともに、内装改修やバリアフリー化なども含め、約1年かけて工事を行いました。
建設以来、初めて行われる大規模改修工事であり、建物の構造部分である躯(く)体のみを残し、設備や内外装のほとんど全てを解体するところから工事が始まりました。壁紙や天井材、設備などが全て撤去され、建設当時に施工されたコンクリート躯体が露(あら)わになりましたが、50年以上前の技術にもかかわらず丁寧に施工された綺麗(きれい)なコンクリートが現れ、驚きました。また、当時の関係者が協力し丁寧に作り上げたこの建物を大切に継承しなければならないと、身が引き締まり、励みにもなりました。

今回の改修工事では、外交活動の舞台となる大使公邸として、日本らしさを表現・発信できるしつらえとなるよう、織物壁紙や織絨毯(じゅうたん)は日本製品を採用し、仕上げ木材の一部には日本産の欅(けやき)を使用しました。また、空間のアクセントとなる場所には、栃木県で採掘される大谷(おおや)石を使用したデザインを施しています。さらに、改修前の建物では、障子を活用したデザインが取り入れられており、今回の工事でも日本の伝統的な要素としてこの障子のデザインを踏襲し、一部の障子を再利用しています。海外での工事で「日本らしさ」を取り入れることは、設計や施工の面からも難しいと感じましたが、同時にそれこそが「在外営繕」ならではの醍醐(だいご)味や面白さです。
工事中の1年間は、目指す建物の完成のためほぼ毎日建設現場の事務所で過ごし、工事関係者との協議や工程管理、各種図面チェック、契約手続き、設計変更の対応などの業務を行いました。知識や経験の豊富な先輩技官の指導の下、初めて現場で実際の工事に携わりながら「在外営繕」という仕事を行うことの新鮮さや楽しさを感じることができ、この仕事に取り組むモチベーションとなりました。また、大使館の現地職員や韓国の施工会社、建築士の人たちと一緒にこの工事を経験できたことも、大きな財産になったと感じています。時には想定外の課題に直面し、難しい議論となる場面もありましたが、文化や慣習の違いもある中で、より良い建物を完成させるという同じ思いと目標を常に持って取り組んでくれている関係者の姿勢がとても嬉しく、完成した時の喜びもひとしおでした。
改修工事完了後に初めての大規模なレセプションが行われた際、様々な国の関係者を大使公邸にお招きし、外交活動の舞台として大使公邸が利用されている瞬間に実際に身を置いた時、改めて達成感とともに「在外営繕」という仕事の楽しさを実感しました。これからも外交の舞台となる建物に関わるこの仕事に真摯に取り組んでいきたいと思います。


外務省では、国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)技術系区分(試験区分:「建築」、「デジタル・電気・電子」、「機械」)の合格者の中から、営繕技官を採用しています。御関心のある方は以下のURLから技術系職員採用関係ホームページをご確認ください。
【外務省ホームページ「一般職採用試験(大卒・技術系):在外営繕業務」】
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/prs/page23_003447.html

6 公益財団法人日本国際問題研究所ホームページ参照:https://www.jiia.or.jp/jic/
