2 欧州地域機関との協力
(1)北大西洋条約機構(NATO)との協力
NATOは加盟28か国の集団防衛を目的とする軍事同盟であり、アフガニスタン支援やソマリア沖での海賊対策等、加盟国の領土及び国民の安全保障上の直接の脅威となり得る域外の危機管理、紛争予防、紛争後の安定化等に取り組んでいる。アフガニスタンでは、国際治安支援部隊(ISAF)は2014年末までに撤収し、2015年1月から同国治安部隊等の能力構築支援を目的とする新たな任務(確固たる支援任務(RSM))が開始された。
日本とNATOは基本的価値を共有するパートナーであり、日本は、「積極的平和主義」の実践の観点から、NATOとの協力を重視している。2014年5月に、安倍総理大臣がNATO本部(1)を訪問した際に着手した国別パートナーシップ協力計画(IPCP)に基づき具体的な協力を進めてきている。2015年1月の岸田外務大臣のNATO訪問を始め、日本はNATO危機管理演習(CMX)への参加、人道支援・災害救援(HA/DR)やサイバーに関連する演習へのオブザーバー参加を行った。また、9月にはバーシュボウNATO事務次長が訪日し、日欧の安全保障環境等に関する日・NATOセミナーを開催した。

また、日本は、アフガニスタンの安定のためにNATOと連携している。具体的には、日本は同国の開発に向けた資金的貢献に加え、NATOのアフガニスタン国軍(ANA)支援信託基金を通じ、アフガニスタン国軍の医療や教育に関する活動を支援している。さらに、平和のためのパートナーシップ(PfP)信託基金を通じ、アゼルバイジャンの不発弾処理支援等に貢献している。
(2)欧州安全保障協力機構(OSCE)との協力
OSCEは、欧州、中央アジア、北米地域の57か国が加盟し、包括的アプローチにより加盟国地域の紛争予防・信頼醸成を図る地域安全保障機構である。日本は1992年から「協力のためのアジア・パートナー」としてOSCEの活動に関与している。OSCEはウクライナ情勢の安定化のため重要な役割を果たしてきており、日本はOSCE特別監視団(SMM)に財政支援を行ったほか、2015年8月よりSMMに専門家を派遣している(P82コラム参照)。12月にベオグラード(セルビア)で開催された外相理事会には、武藤容治外務副大臣が出席し、欧州・アジアの安全保障環境の不可分性、「ヘルシンキ最終文書」基本原則の遵守の重要性とウクライナ及び東シナ海・南シナ海情勢の現状と対応、テロ及び難民問題について発言し、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、OSCE及び加盟国と共に国際社会の平和と安定に向け取り組む強い決意を表明した。そのほか、日本は、国境管理スタッフカレッジ(2)を通じた国境管理強化によるテロ防止、中央アジアの女性起業家への支援等、OSCEの活動に対する支援を行っている。

(3)欧州評議会(CoE)との協力
CoEは、欧州の47か国が加盟する地域機構であり、民主主義、人権、法の支配等の分野で国際社会の基準策定に重要な役割を果たしている。日本はアジアで唯一のオブザーバー国として、CoEの様々な活動に積極的に貢献している。6月に開催されたサイバー犯罪に対処するための国際協力促進を目的とした「オクトパス会合2015」(於:ストラスブール(フランス))に対し、財政支援を行うとともに、専門家を派遣した。また、11月に開催された「第4回世界民主主義フォーラム」(於:ストラスブール)にも専門家を派遣した。

OSCE特別監視団報告官●堀口 剛輔
小麦畑が地平線まで続く緑の穀倉地帯。そんなウクライナが突如として戦場と化しました。2014年4月に東部で始まった戦闘により、これまでに一般市民を含む9,000人以上が死亡し、100万人以上が住居を追われました。2015年2月の停戦合意後、大規模な戦闘は見られなくなりましたが、今でも局地的に戦闘が散発し、引き続き予断を許さない状況です。
そのような中、欧州安全保障協力機構(OSCE)特別監視団は、東部を中心にウクライナ全土に約700人の文民監視要員を派遣し、停戦監視や武器の撤収の検証を行っています。また、戦闘で破壊された水道・電力供給等のインフラ復興、地雷・不発弾の除去を可能とするための停戦履行の促進も行っています。
私は、2015年8月からOSCE特別監視団の報告官として勤務しています。ウクライナ各地域から報告される情報を分析し、報告書を作成する業務を担当しています。いつ、どこで銃撃・砲撃が発生したのか、武器の撤収が着実に行われているのか等の停戦合意の履行状況、戦闘地域の住民の生活等の社会・経済・人道状況等を報告します。報告官が作成した日報は週6回、OSCEのホームページ上で公開されます。自分の仕事が多くの人の目に触れ、形になるという点で大変やりがいを感じていますが、ミスは許されず責任重大です。
私はOSCE特別監視団の中で、唯一の日本人です。欧州・北米地域の諸国が加盟するOSCEにあって、アジア人は極めて稀有な存在ですが、時には異なる視点を提示し、欧州の地域機関であるOSCEに多様性を提供することができていると思います。また、日本にも欧州にも法の支配、主権、領土の一体性といった共通の価値観があります。ウクライナでは、私たちがこれまで大切に思ってきたこれらの価値観が侵され、力を背景とする現状変更の試みがなされています。このような脅威は日本が位置するアジアにも存在しています。ウクライナをめぐる事態は、決して欧州のみの問題ではなく、アジアを含む国際社会全体にとって極めて重要な問題です。このような観点から、日本は、OSCE特別監視団に対する200万ユーロの財政支援を提供する等、ウクライナの平和と安定の回復に向けた貢献を行っています。
私は、地平線まで続く緑の穀倉地帯に、再び平和が訪れるよう、微力ながらも、引き続き貢献していきたいと考えています。

1 安倍総理大臣は2007年1月に日本の総理大臣として初めてNATO本部を訪問しており、日本の総理大臣として2回目のNATO本部訪問となった。
2 国境管理スタッフカレッジ(BMSC:Border Management Staff College)は、OSCE加盟国及びパートナー国の国境管理指導者に対し、国境管理に関連する最新の関心事項、特に安全のための包括的アプローチや民主化改革、国境を越える脅威に対する処置法等に関する教育・訓練を行う。