(1) 内政面では、81年に就任したムバラク大統領が、サダト前大統領の開放政策(西側先進国からの資金と技術の導入)を継承し、経済発展を目指すとともに、野党の活動を認めて民主的議会制を運用するなど、一定の範囲で国民の政治的自由を認める方針を取っている。他方、暴力に訴えるイスラム主義過激派に対しては、徹底的な取締を行う方針を貫いている。
(2) 外交面では、79年にアラブ国家として初めてイスラエルとの平和条約を締結した結果、多くのアラブ諸国がエジプトと断交した。以後、米国の軍事・経済依存の安全保障・経済開発を進めつつ、ムバラク大統領は、就任後アラブ諸国との関係修復に努め、89年5月アラブ連盟への復帰を果たした。
冷戦の終結、湾岸危機を経て、中近東域内で多様なチャネルを有し、かつ、現実的で穏健な政策をとるエジプトの域内調整役としての役割は高まっている。中東和平問題ではイスラエル・パレスチナ間の合意達成の過程で積極的仲介活動を展開した。また、第三世界の旗頭を自認し非同盟運動を当初から推進し、インド、中国等とも友好関係を維持している。更に、アフリカ諸国の一員として、アフリカ統一機構(OAU)他の活動にも積極的に関与し、アフリカ大陸における南南協力の推進にも関心を示している。
(参考1)主要経済指標等
- | 90 年 | 95 年 | 96 年 | 97 年 | |
人口(千人) | 52,061 | 57,800 | 59,272 | 60,348 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 31,381 | 45,507 | 64,275 | 72,164 |
一人当たり(ドル) | 600 | 790 | 1,080 | 1,200 | |
経常収支(百万ドル) | 185 | -254 | -192 | - | |
財政収支(百万エジプト・ポンド) | -5,494 | - | - | - | |
消費者物価指数(90年=100) | 100.0 | 180.7 | 191.4 | 202.6 | |
DSR(%) | 27.8 | 12.3 | 11.5 | 9.0 | |
対外債務残高(百万ドル) | 32,947 | 33,266 | 31,299 | 29,849 | |
為替レート(年平均、1米ドル=エジプト・ポンド) | 2,0000 | 3.3900 | 3.3880 | 3.3880 | |
分類(DAC/国連) | 低中所得国/- | ||||
面積(千平方キロメートル) | 995.5 |
(参考2)主要社会開発指標
90年 | 最新年 | 90年 | 最新年 | |||
出生時の平均余命(年) | 60 | 66(97年) | 乳児死亡率 (1000 人当たり人数) |
61 | 51(97年) | |
所得がドル/日以下の人口割合(%) | - | 7.6(90-91年) | 5歳未満児死亡率 (1000 人当たり人数) |
85 | 66(97年) | |
下位20%の所得又は消費割合(%) | 8.7(91年) | 8.7(91年) | 妊産婦死亡率 (10 万人当たり人数) |
320(80-90年平均) | 170(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 52 | 49(95年) | 避妊法普及率 (15-49 歳女性/%) |
38(80-90年平均) | 48(90-98年平均) | |
初等教育純就学率(%) | - | 93(96年) | 安全な水を享受しうる人口割合(%) | 73(88-90年平均) | 84(96年) | |
女子生徒比率(%) | 初等教育 | 44 | 45(96年) | 森林面積 (1000平方キロメートル) |
0 | 0(95年) |
中等教育 | 43 | 45(96年) |
(3) 経済面では、IMFと連携しつつ市場経済化に向けた経済改革を推進中であり、財政赤字は大幅に削減され、近年、経済成長率の上昇、インフレ率の安定、外貨準備高の増加等マクロ経済安定策が効果を上げ、更に、公営企業の民営化、投資環境改善措置の実施により、外国企業も徐々にエジプト市場への関心を強めつつある。
現在、第4次経済社会開発5か年計画(97/98~2001/2002年)を実施中である。この計画は市場経済移行、民間活力導入を主眼とし、期間中の年平均GDP成長率の目標を6.8%とするとともに、民間投資額の目標総投資額の65~75%、国内総生産の90%以上への拡大、民間消費の年間成長率の人口成長率の倍以上の維持、就業機会・労働者所得の拡大、経済開発の国際的環境への適合等を目標としている。
国際収支は趨勢としては改善してきているが、97/98年度については、石油価格の低迷、東南アジア諸国金融為替危機に起因する相対的なエジプト・ポンド高に基づく輸入増大、ルクソール事件を契機とする観光収入の減少の影響により、経常収支が前年度の黒字から27.7億ドルの赤字に転落した。しかし、観光産業へ打撃も予想されたほどではなく、アジア経済危機の影響も一時的なものと考えられ、エジプト経済は依然好調さを維持している。
経済社会上の課題として、依然として都市と農村間の格差、地域間格差、貧富の格差が存在かつ拡大しており、これらの格差の是正が挙げられる。
(4) 日・エジプト関係は従来より良好に推移している。要人往来は90年10月海部総理(当時)が日本の総理として初めて同国を訪問して以来活発化しており、95年9月には村山総理(当時)、96年8月には池田外務大臣(当時)、99年1月に高村外務大臣が同国を訪問した。一方、95年3月に続き99年4月にムバラク大統領が来日し、二国間関係発展に弾みをつけた。99年4月の同大統領訪日時に首脳レベルで発表された「日本・エジプト共同声明」の中で、両国は次世紀を平和と繁栄の世紀とするため、平和と協力、経済及び貿易投資、環境、文化交流ならびに教育及び青年・学術交流の5分野に重点をおいて対話と協力を強化し、多様化することを目的とする「日本・エジプト・パートナーシップ・プログラム」を発表した。両国貿易関係については、日本側の大幅出超が続いており、我が国はエジプトから綿花、繊維製品等を輸入し(98年輸入額8,181万ドル)、同国に一般機械、電気機械、輸送機械等を輸出している(同輸出額10億8,250万ドル)。
(1) 我が国は、エジプトが、1)中近東地域の大国であり、政治的安定を維持しつつ、中近東地域の平和と安定の達成に向け指導的役割を果たしていること、2)市場指向型経済の導入及び民主的議会制の運用等民主化を推進していること、3)我が国との関係が緊密であること、4)高い人口増加率、貧困・失業者増大等の問題を抱えており、援助需要が大きいこと等の理由に基づき、積極的に援助を実施している。
我が国は、エジプトにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び92年2月に派遣した経済協力総合調査団及びその後の政策協議等におけるエジプト側との政策対話ならびに国別援助計画の提言を踏まえ、以下の分野を重点分野としている。
(イ)農業生産の拡大
エジプトでは、食糧自給率の向上のための農業の建て直しが緊急の課題となっており、農業生産性の向上、農産物の加工・流通面の改善を支援する。
(ロ) 教育の充実・人材育成
基礎教育全体の水準向上に資するよう、施設充実のための支援、教育内容の質の向上のための支援の双方を進める。また、経済・社会活動の基礎となる人材を育成するために、質の高い技術者の育成や職業訓練活動、地方行政や地方社会における開発能力の向上を支援する。
(ハ)経済基盤の整備・各種産業の振興
長期産業政策及び民間投資の導入を念頭に、総合的かつ効率的なインフラの整備を支援するとともに、各種産業の育成、輸出振興を通じた貿易・投資の拡大、観光振興を支援する。
(ニ)保健・医療
小児医療や看護婦の養成といった従来の協力とともに、低所得層に直接裨益する基礎的保健医療の質的改善のための協力を推進し、人口・家族計画を含む保健医療サービスの質的向上を図る。また、環境保健・環境医学の普及、保健・医療システムの改善、貧困対策を念頭においた社会福祉の向上を図る。
(ホ)環境改善・保全及び公衆衛生の改善
経済発展に伴い様々な環境問題が顕在化しつつあることに鑑み、環境モニタリング、公害防止対策等、環境の改善及び保全に資する技術協力を中心とする支援を実施していくとともに、風力発電をはじめとするクリーンなエネルギー分野で緊密に協議し、効率的な協力を行っていく。また、裨益度の高い都市部を中心に上下水道などの生活環境及び公衆衛生の改善を支援する。
なお、我が国は、GII(人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ)の人口分野における重点国の一つとして同国を位置付けている。
(2) 我が国はこれまで有償資金協力、無償資金協力、技術協力の各形態において積極的に援助を行っており、98年度までの我が国の援助累計実績についてみると、有償資金協力は6,551.36億円(交換公文ベース)、無償資金協力1,095.61億円(同)、技術協力は403.58億円(JICA経費実績ベース)で全ての援助形態において中近東域内第1位となっている。
(3) 有償資金協力については、債務を段階的に実質50%削減するとの91年5月のパリ・クラブにおける合意を受け、同年7月より実質的な債務削減を実施していたため、新規円借款の供与を実施してこなかったが、96年10月に経済改革プログラムに関するIMFとの合意が成立したこと及び債務削減の最終段階に移行したことを踏まえ、96年11月の中東・北アフリカ経済会合のカイロ開催の機会に新規円借款の供与再開検討の意図を表明した。今後は本年4月のムバラク大統領訪日時に正式に円借款再開要請があったことを受け、具体的優良案件の形成・検討を積極的に進める方針である。
無償資金協力については、食糧・農業分野、保健・医療分野、水供給分野等の基礎生活分野を中心に、運輸・交通分野等幅広い分野で援助を実施してきており、「スエズ運河架橋建設計画」等複数年にわたる比較的大規模な案件も多い。
技術協力については、農業、保健・医療、工業、運輸・交通等の広範囲の分野に、プロジェクト方式技術協力、開発調査等を中心に積極的に実施している。我が国とエジプトは、98年10月には、我が国のアフリカ諸国に対する効果的かつ効率的な技術協力の一形態として「アフリカにおける南南協力の推進のための日・エジプト三角技術協力計画」に関する枠組み文書に署名し、具体的な行動計画を作成のうえ実施していく方針である。かかる協力は、今後の国造り・人造りが課題となっているパレスチナ人を対象にしても強化されていくべきである。
なお、資金協力と技術協力との効果的な連携は援助の質と実効性を高めるものであり、「カイロ大学看護学部」、「水道技術訓練研修センター」及び「環境モニタリング研修センター」に対するプロジェクト方式技術協力は無償資金協力との連携で実施されている。
(1)我が国のODA実績
暦年 | 贈与 | 政府貸付 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
129.51(69) 141.19(58) 118.39(59) 65.33(52) 41.84(49) |
20.85(11) 26.41(11) 31.04(15) 26.19(21) 23.20(27) |
150.36(80) 167.60(69) 149.43(74) 91.52(73) 65.04(76) |
38.63 75.23 52.03 34.01 26.67 |
38.63(20) 75.15(31) 51.89(26) 33.88(27) 20.22(24) |
188.99(100) 242.75(100) 201.32(100) 125.40(100) 85.25(100) |
累計 | 938.56(29) | 333.35(10) | 1,271.92(39) | 4,166.45 | 2,017.06(61) | 3,288.94(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合計 |
95 96 97 |
米国 626.0 米国 725.0 米国 542.0 |
フランス 449.1 ドイツ 442.4 ドイツ 397.2 |
日本 242.8 フランス 301.2 フランス 283.9 |
ドイツ 169.8 日本 201.3 日本 125.4 |
カナダ 63.2 カナダ 114.0 デンマーク 30.7 |
242.8 201.3 125.4 |
1,689.5 1,933.3 1,496.3 |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 96 97 |
CEC 94.3 CEC 97.9 CEC 197.0 |
IDA 69.0 IDA 67.4 IDA 141.4 |
UNDP 12.3 AfDF 14.5 AfDE 23.2 |
AfDF 9.2 UNDP 12.6 UNDP 14.9 |
WFP 7.5 IFAD 7.1 WFP 6.2 |
23.6 25.7 18.8 |
215.9 225.2 401.5 |
(3)年度別・形態別実績
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 | 技術協力 |
90年度までの累計 | 4,101.75億円 内訳は、1997年版のODA白書参照もしくはホームページ参照 |
531.85億円 内訳は、1997年版のODA白書参照もしくはホームページ参照 |
218.82億円
研修員受入 2,311人 |
91 | 357.56億円
緊急商品借款 (232.66) |
55.88億円
ナイルバレー小麦機械化増産計画 (1.51) |
22.24億円
研修員受入 168人 |
92 | 2,092.05億円 債務繰延べ (2,092.05) |
67.70億円
アハメド・ハムディ・トンネル改修計画(国債期) (11.80) |
23.06億円
研修員受入 174人 |
93 | なし | 77.12億円
アハメド・ハムディ・トンネル改修計画(国債2/4期) (19.01) |
19.49億円
研修員受入 150人 |
94 | なし | 84.49億円
第二次ギザ市モニブ地区上下水道網整備計画(国債2/4期) (23.86) |
16.99億円
研修員受入 179人 |
95 | なし | 70.25億円
カイロ大学小児病院改修計画(1/2期) (7.06) |
23.85億円
研修員受入 183人 |
96 | なし | 73.15億円
第二次ギザ市モニブ地区上下水道網整備計画(国債4/4) (3.14) |
28.86億円
研修員受入 202人 |
97 | なし | 69.01億円
第二次アミリア浄水場施設改善計画(国債3/3期) (7.06) |
25.44億円
研修員受入 201人 |
98 | なし | 66.16億円
ギザ市ピラミッド南部地区上水道整備計画(国債1/2) (8.53) |
24.82億円 研修員受入 181人 |
98年度までの累計 | 6,551.36億円 | 1,095.61億円 | 403.57億円
研修員受入 3,749人 |
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
3.73年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_90sbefore/904-08.htm)
(参考1)98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案件名 | 協力期間 |
アラブ海運大学校 ショブラ機械整備職業訓練センター 看護教育研究 繊維研究開発センター 米作機械化 CTA電車訓練センター カイロ大学小児病院 建設機械訓練センター カイロ大学小児病院(II) 家族計画・母子保健 カイロ大学看護学部 水道技術訓練向上計画 環境モニタリング研修センター |
76.11~82.11 77.1~83.7 78.4~83.3 80.11~90.3 81.8~92.3 82.6~86.6 83.7~89.6 89.2~94.1 89.7~96.6 89.9~94.3 94.4~99.3 97.6~02.5 97.9~02.8 |
(参考2)98年度実施開発調査案件
案件名 |
中央デルタ農村地域水環境改善計画調査(第2年次) 北東シナイ地区総合農業開発計画導水路施設実施設計調査(第1年次) シナイ半島地下水開発計画調査(2)(第4年次) 大アレキサンドリア港湾整備計画調査(第2年次) 北東シナイ地区総合農業開発計画導水路施設(実施設計) 事前調査(S/W協議)(施設計画・積算) 北東シナイ地区総合農業開発計画導水路施設(実施設計) 事前調査(S/W協議)(地質・土質) |
(参考3)98年度実施草の根無償資金協力案件
案件名 |
ベニスエフ県村落下水タンク建設計画 精神障害児童特殊学校ミニバス供与計画 傷害児童保護センターミニバス供与計画 慈善病院医療診断用機材供与計画 親と子協会知能障害児デイケアセンター機材供与計画 信頼と希望協会身体障害者デイケアセンター機材供与計画 コプト聖書の友孤児協会孤児保護施設機材供与計画 廃棄物処理コミュニティ啓蒙・開発センター機材供与計画 孤児職業訓練施設機材供与計画 モンシャット・ナスール村女子学習センター機材供与計画 ルクソール・イスラム青年協会孤児保護施設機材供与計画 純粋な心協会障害児デイケアセンター機材供与計画 聖ルーシー盲人学校機材供与計画 ストリート・チルドレン保護施設機材供与計画 |