(1) 内政面では、89年のラフサンジャニ大統領就任後、イラン・イラク紛争後の経済再建の実現のため、市場経済化や自由化を中心とする経済改革路線を歩んできた。同大統領の任期満了に伴う97年5月の大統領選挙により、文化・社会面でリベラルといわれるハタミ大統領が選出された。同政権は「法の支配」「市民社会の形成」等の政治理念を掲げ、諸改革を実施しているが、保守派との関係等、今後の展開が注目される。
(2) 外交面では、79年のイスラム革命以後旧東側にも旧西側にも偏らないとの方針を標傍している。但し、92年のベルリンにおけるイラン反体制派のクルド人暗殺にイラン指導部が関与していたとするミコノス事件判決が97年4月に出される等、国際社会には依然として中東和平プロセスの妨害、大量破壊兵器の獲得努力、テロ支援、人権等をめぐる諸問題についてイランの行動に対する懸念が存在している。これに対し、ハタミ政権後、緊張緩和を目指す対話路線の下で、欧州諸国や近隣諸国との関係改善を進め、米国との関係修復の動きも見られるが、紆余曲折が予想される。ソ連崩壊後は旧ソ連イスラム系共和国(中央アジア諸国等)に対し関係強化を働きかけているほか、欧州諸国やアジア諸国との経済分野での関係拡大に努めている。
(3) 経済面では、第2次5か年計画(95~99年度)に引き続き、経済構造調整政策の推進や外貨導入を内容とする第3次5か年計画(2000~2004年)を策定中である。生活基本物資や石油製品等の値上げを漸進的に実施しているが、国民生活の安定と経済構造調整政策との間にジレンマが生じている。現在、施設の老朽化等に伴う原油生産量の減少及び国内消費の伸びによる原油輸出量の低下が生じており、イラン経済への制約要因となっている。なお、97年後半からの原油価格の下落は、外貨収入の8割以上を石油産品輸出に依存するイラン経済を直撃したが、99年に入り原油価格が回復したことにより、対外収支は改善しつつある。
(4) イランの原油確認埋蔵量(97年末現在)は930億バレルで世界の9.0%を占め、我が国にとって第3位の原油供給国である(98年シェア10.8%)。貿易関係については、我が国はイランから原油等を輸入し(98年輸入額24億5,281万ドル)、同国に鉄鋼、自動車等を輸出している(同輸出額8億5,810万ドル)。我が国は同国にとって最大の輸出相手国となっている(輸入相手国としては第2位)。98年12月にはハラズィ外相が訪日し、99年8月には高村外務大臣がイランを訪問した。
(参考1)主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 56,925 | 64,120 | 62,509 | 60,929 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 139,120 | - | - | 108,614 |
一人当たり(ドル) | 2,450 | - | - | 1,780 | |
経常収支(百万ドル) | 327 | 3,358 | 5,232 | - | |
財政収支(十億リアル) | -665 | 2,637 | 2,395 | - | |
消費者物価指数(90年=100) | 100.0 | 388.3 | 477.1 | - | |
DSR(%) | 3.2 | 30.2 | 27.5 | 32.2 | |
対外債務残高(百万ドル) | 9,021 | 21,880 | 16,706 | 11,816 | |
為替レート(年平均、1米ドル=リアル) | 68.10 | 1,747.93 | 1,750.76 | 1,752.92 | |
分類(DAC/国連) | 低中所得国/- | ||||
面積(千平方キロメートル) | 1,622.0 |
(参考2)主要社会開発指標
- | 90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命(年) | 66 | 69(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
46 | 32(97年) | |
所得が1ドル/日以下の人口割合(%) | - | - | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
59 | 35(97年) | |
下位20%の所得又は消費割合(%) | - | - | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
120(80-90年平均) | 120(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 46 | 31(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
23(80-90年平均) | 73(90-98年平均) | |
初等教育純就学率(%) | 94 | 90(96年) | 安全な水を享受しうる人口割合(%) | 89(88-90年平均) | 90(96年) | |
女子生徒比率(%) | 初等教育 | 46 | 47(96年) | 森林面積 (1000平方キロメートル) |
180 | 15(95年) |
中等教育 | 43 | 46(96年) |
イランは、産油国として我が国にとって重要な位置を占めているが、我が国は、湾岸地域の平和と安定の観点から、イランが現実的で穏健な善隣友好政策をとり、近隣諸国や主要国との関係の安定化を実現するための行動をとることが必要との基本的考え方を有している。
こうした背景の下、イランの経済改革や民生の安定・向上を支援するために、80年~88年のイラン・イラク紛争の間は国際機関を通じた緊急人道援助に限定していたものの、従来より有償資金協力及びプロジェクト方式技術協力、専門家派遣、研修員受入、開発調査等の技術協力を実施してきた。
また、このような政策の一環として、我が国は93年5月「ゴダーレ・ランダール水力発電所計画(通称:カルーン第4ダム建設計画)」に対し第一期事業分約386億円の円借款を供与した。同ダム建設計画に対する円借款第一期事業以降の供与については、イラン内外の諸情勢の推移、ODA大綱を踏まえ、慎重に検討してきたところ、第一期の資金費消により工事が中断しダムが決壊する恐れが出てきたことから、99年8月高村外務大臣がイランを訪問した際、人道的観点からの追加資金の供与(約75億円)を表明した。
(1) 我が国のODA実績
- | 贈与 | 政府貸付 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
0.43(-) -(-) -(-) 0.78(1) -(-) |
12.51(-) 12.79(22) 11.75(20) 8.17(12) 6.84(14) |
12.95(-) 12.79(22) 11.75(20) 8.95(13) 6.84(14) |
168 55.56 72.81 61.30 41.29 |
-17.10(-) 45.35(78) 46.34(80) 61.30(87) 41.29(86) |
-4.16(100) 58.14(100) 58.09(100) 70.25(100) 48.13(100) |
累計 | 4.97(2) | 120.42(47) | 125.40(49) | 401.23 | 132.36(51) | 257.75(100) |
(注) ( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合計 |
95 96 97 |
ドイツ 68.1 ドイツ 70.1 日本 70.3 |
日本 58.1 日本 58.1 ドイツ 56.6 |
オーストリア 10.7 フランス 12.5 フランス 11.1 |
フランス 8.9 オーストリア 10.2 オランダ 7.8 |
スウェーデン 5.7 スウェーデン 8.3 オーストリア 7.7 |
58.1 58.1 70.3 |
158.9 141.3 165.2 |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 96 97 |
UNHCR 9.3 UNHCR 12.9 UNHCR 11.6 |
UNTA 5.4 UNDP 2.3 CEC 5.9 |
WFP 4.1 UNFPA 2.3 WFP 3.7 |
CEC 4.0 WFP 2.2 UNTA 3.0 |
UNFPA 3.1 UNTA 2.0 UNDP 1.9 |
7.2 8.0 3.9 |
33.1 29.7 30.0 |
(3) 年度別・形態別実績
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 | 技術協力 |
90年度までの累計 | 349.20億円
(内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
11.03億円
(内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
54.56億円
研修員受入 1,381人 |
91 | なし | なし |
9.38億円
研修員受入 47人 |
92 | なし |
0.96億円
災害緊急援助(洪水被害) (0.52) |
8.34億円
研修員受入 60人 |
93 |
386.14億円
ゴダーレ・ランダール水力発電計画(カルーン第四ダム建設計画) (386.14) |
なし |
9.37億円
研修員受入 60人 |
94 | なし | なし |
10.26億円
研修員受入 66人 |
95 | なし | なし |
6.93億円
研修員受入 72人 |
96 | なし |
0.73億円
イラン・イラク共和国放送番組ソフト供与 (0.49) |
9.83億円
研修員受入 69人 |
97 | なし |
0.21億円
緊急無償地震災害 (0.21) |
7.34億円
研修員受入 65人 |
98 | なし | なし |
4.70億円
研修員受入 69人 |
98年度までの累計 | 735.34億円 | 12.93億円 |
120.69億円
研修員受入 1,889人 |
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
3.68年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_90sbefore/904-07.htm)
4.ICRC経由でアフガニスタン、アンゴラ、アゼルバイジャン等11か国への供与にて合計約1.7億円。
(参考)98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案件名 | 協力期間 |
小規模技術訓練センター ポリオ対策 テヘラン大学公衆衛生学部 テヘラン大学医学部 電気通信訓練センター カラジ職業訓練センター ザボール農業研究 産業衛生・核医学 カスピ海沿岸地域農業開発 ヤズド信号訓練センター |
60.9~65.9 67.7~68.6 67.7~70.7 70.12~76.1 71.3~77.3 73.10~77.10 78.3~80.3 78.4~82.3 90.4~96.3 93.12~96.11 |
(参考2)98年度実施開発調査案件
案件名 |
大テヘラン圏地震マイクロゾーニング計画調査(第1年次) 火力発電所環境影響評価調査(第3年次) テヘラン市地震マイクロゾーニング事前調査(S/W協議)(自然条件調査(地質)) テヘラン市地震マイクロゾーニング事前調査(S/W協議)(都市防災) |