ODAとは? 大学とODA

「大学とODA ~援助の担い手の拡大に向けた新たなフロンティア~」(結果概要)

平成24年8月


(動画は外務省動画チャンネル(他のサイトヘ)に掲載)


  • (写真)会場の様子

 今日のグローバルな課題を解決するためには,我が国のあらゆる分野における様々な主体の活力の結集が不可欠であり,知の集合体,地域の知的ネットワークの中心である大学には,国際協力,中でもODAの重要な一翼を担って頂くことが期待される。
 また,大学によるODA事業への参画は,大学の国際化を促進し,世界における大学の価値を高める上で有益であり,大学経営の観点からもメリットがある。
 このような観点から,大学によるODA事業への参画を質・量ともに拡大することを目指し,本シンポジウムでは,大学がODA事業に参画する方法や大学にとってのメリットに関する情報を提供すると共に,既に行われている事例による経験の共有を行った。

  • 主催:外務省,文部科学省
  • 日時:平成24年7月24日(火曜日)14時00分~17時00分
  • 会場:外務省新庁舎7階講堂
  • 参加者:地域の大学,大学と連携している地元企業等 約170名
  • 式次第(PDF)

 本シンポジウムにおける各講演の要旨及び主要な質疑応答は以下の通り。

議題1:シンポジウム開催の趣旨

(1)山根隆治外務副大臣開会挨拶(動画(他のサイトヘ)

 大学の有する様々な分野での研究成果には,途上国の発展やグローバルな課題の解決に貢献する潜在力がある。また,大学が組織としてODA事業に参画いただくことは,大学の国際化を促進し,世界における大学の価値を高める上で非常に有益であり,大学経営の観点からもメリットがある。外務省としては,大学によるODA事業への参画を質・量ともに拡大していきたいと考えており,取組の端緒として本シンポジウムを開催する。

(2)越川和彦外務省国際協力局長基調発言(動画(他のサイトヘ)

 大学が組織としてODA事業に参画するメリットは1)大学の国際化,2)経営面での収益,3)現場体験を通じた教育的効果であるが,それが広がらない理由は1)教員の評価につながりにくい,2)ODA事業事務作業を担うスタッフの欠如,3)ODA事業の財務・会計処理の煩雑さである。これらの要因に対し外務省・JICAとしての制度改善努力に加えて,大学として「ODA事業に参画すること」を組織決定いただいた上で体制等の整備が必要不可欠である。また,大学は地域における知的ネットワークのハブの役割を果たしており,産官学連携事業を途上国開発に活かす形でのODA支援は,新たなフロンティアになる可能性がある。

議題2:大学が参加できるODA事業とは何か,どうすれば参加できるのか

(1)「大学が参加できるODA事業とは-そのメニューの紹介」(講演者:国際協力機構人間開発部長 萱島信子氏,配付資料(PDF)動画(他のサイトヘ)

 JICAが有するODAスキームのうち大学の参画が想定されるものについて概説の上,具体例として,アフガニスタンの国づくりのために最大500名の行政官を本邦大学に派遣する「アフガニスタン未来への架け橋・中核人材育成プロジェクト(PEACE)」(協力大学29大学(平成24年度7月現在))及びASEAN各国拠点大学と日本の11大学の間のネットワークを強化しASEAN地域における工学系人材の育成を行うプロジェクト「アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)」を紹介。大学からJICAに対する積極的な事業提案や情報提供への期待を示しつつ,JICAにおける大学連携窓口を提示。

(2)「大学が地域を巻き込む「パッケージ型大学協力事業」(講演者:国際開発ジャーナル社代表取締役 荒木光弥氏,配付資料(PDF)動画(他のサイトヘ)

 地域の大学,企業,行政が協働で技術開発研究を行った製品をODAを活用しつつ海外展開させていく「パッケージ型大学協力モデル」を提示し,その有望分野として,農業,畜産,水産,林業などを例示。また,ODAで本邦大学と途上国大学との共同研究を支援するスキーム(SATREPS)の成果をビジネス化するための出口戦略の必要性を指摘。

(3)主な質疑応答(動画(他のサイトヘ)

質問: JICA事業における大学連携のメニューの2ページ(PDF)にJICA研究所と大学の共同研究があげられているが,共同研究はどのように公募されているか。これは大学側から公募で参加できるのか。
回答: 公募のものとそうでないものの双方が存在する。

議題3:実際にODA事業に参加している大学からの経験談と提言

(1)「大学の国際協力活動」(講演者:帯広畜産大学学長 長澤秀行氏,配付資料(PDF)動画(他のサイトヘ)

 本学のミッションは,実学,学際,国際を取り入れた教育プログラムを行い,世界の畜産衛生フィールドで活躍できる国際専門職業人(帯畜大型グローバル人材)を育てて,国内外の課題解決に資することである。本学は,本邦大学として初めてJICAと連携協力協定を締結した。また,青年海外協力隊制度を活用した学部学生派遣を行うと共に,国際協力の実務経験者を対象に奨学金を貸与する国際協力特別選抜制度を実施しており,奨学金の財源は,JICA集団研修コースを実施して大学に納付された講師謝金の一部を宛てている。国際協力を大学の「余暇」として行うのではなく,国内のグローバル人材育成という大学の本務を果たすために国際協力は重要と捉えている。

(2)「「広島大学のODA事業」―国際協力の展開と今後の展望―」(講演者:広島大学教授 池田秀雄氏,配付資料(PDF)動画(他のサイトヘ)

 本学は,1994年にJICAプロジェクトをJICAの直営事業として行った。直営事業は組織的継続的連携が課題であり,事業終了後は,研究費の中で大学間交流による共同研究を行い,その後はJICA第三国研修という形で協力を継続した。2004年以降は,民間コンサルタントと連携した共同体ジョイントベンチャー受託事業や,民間コンサル会社の受託した案件を再受託する形で実施している。参画のメリットと問題点については資料を参照いただきたい。

(3)「「エジプト日本科学技術大学設立プロジェクト」の経験を中心に」(講演者:早稲田大学副総長 橋本周司氏,配付資料(PDF)動画(他のサイトヘ)

 本学は,エジプト・日本科学技術大学(E-JUST)設立プロジェクトに参画している。本事業は,アレキサンドリアでの日本型教育機関の新設を支援するものであり,12の本邦大学が協力している。第1期卒業生は全員エジプト人だったが,ゆくゆくはアフリカ全土,中東地域から学生を集めたい。組織として国際協力に参画するにあたっては,大学にとっての将来のメリットや大学の方針との関わりを考える必要があり,大学の戦略と国の戦略をすくい上げる仕組みがあると良いと思う。継続性やポストODAについても検討が必要である。

(4)主な質疑応答(動画(他のサイトヘ)

質問: 帯広畜産大学における,学生のモチベーションアップの方策と海外派遣期間について伺いたい。入学前に国際協力に関心のある人材を集めるよう情報提供等をしているのか。
回答: 夏・冬・春休みに6週間程度派遣している。大学入試受験前から情報を出し,それを目指してくる学生もいる。対象者は20歳以上なので,年齢に達するまでの間も情報提供を行う。枠が3人のところ30人の応募があり,人気の高いプログラムだと認識している。
質問: 早稲田大学の参画するE-JUSTの名称に”Japan”が入っているのが素晴らしく,入った理由を伺いたい。また,日本からの派遣人数と期間を伺いたい。
回答: 確かな理由は不明だが,日本型教育を行うという趣旨でエジプト側が”Japan”を入れたかったのだと思う。欧米とは異なる日本型教育であることを堅持したい。本学からは,1~2週間の短期派遣の他に長期派遣も行っているが期間はまちまちである。本邦大学の教員が来ていると感じてもらえるように,2~3名常に誰かが駐在するようにしたい。
質問: 自分は以前NGOでプロジェクトマネージャーをし,事業の持続性が大事だという認識を持った。ポストODAの事業の継続について大学として考える必要があるとの話だったが,どういうゴールを設けて始めた事業か。持続性をどう考えるか。
回答: 大学の本務としての事業を行っており,JICA事業終了後も,民間との共同研究や農協等の地域との連携で事業を継続する(帯広畜産大学)。
事業継続のために,第三国研修で,日本のODAを使った施設において研修を行った。また,科研費での招聘及び現地訪問を行うと共に,学生のフィールドワークやインターンシップを行った(広島大学)。
創設から一緒に取り組んできた相手として将来的にはE-JUSTには国際的な共同研究のパートナーに育って欲しい(早稲田大学)。
質問: 帯広畜産大学では,JICA集団研修の謝金が直接大学の会計に入るのか。それとも,一度講師に支払われたものが大学に寄付されるのか。
回答: 講師謝金は,従来全て教員が受け取っていたが,大学の経理に入れて半分を教員に,残りの半分を奨学金として使うことにした。
質問: 組織としてODA事業に参画するにあたっては人を割くことになると思うが,教員への評価はどのように行っているか。
回答: 研究だけでなく多面的に評価しており,国際協力についての評価を高くしている(帯広畜産大学)。
評価はそれなりにはされていると思う(広島大学)。
このような国際貢献は個々の教員の評価に反映されていないのが現状。現在教職員の役割の再定義を進める中で,評価に入れる検討を始めようとしているが,学内での本務が疎かになるのではという声もある(早稲田大学)。

議題4:ODAによる産官学連携支援

(1)「ODAを活用した中小企業を含む形での産官学連携による海外事業展開支援」(講演者:外務省国際協力局開発協力総括課長 本清耕造氏,配付資料(PDF)動画(他のサイトヘ)

 外務省は今年度からODAによる途上国支援と中小企業等の海外事業展開のマッチングのための委託事業を開始。大学の研究成果を活かしながら企業が実用化・製品化し,ODAの活用によってそれら製品・技術を途上国へ展開する可能性を説明しつつ,防災,介護福祉といった分野を例示。また,我が国の研究機関と途上国の研究機関の国際共同研究を支援するSATREPSについても説明。

(2)「アジア低炭素化センターの取り組みと産学官連携~グリーンイノベーションの創出を目指して~」(講演者:北九州市環境局環境国際戦略室事業化支援担当課長 重岡典彰氏,配付資料(PDF)動画(他のサイトヘ)

 北九州市が2010年に開設したアジア低炭素化センターの取り組みを説明した上で,ODAを含む様々な政府の補助金を活用しつつ,アジア地域で展開している産官学連携の事例として,インドネシアにおける太陽電池とハイブリッド化した脱塩機能を有する浄水装置を用いた飲用水供給システムや,生物多様性保全のためのパームバイオマスの活用などを紹介。

(3)「豊橋技術科学大学における産学官連携のための国際協力」(講演者:豊橋技術科学大学教授 穂積直裕氏,配付資料(PDF)動画(他のサイトヘ)

 本学は工学分野における開発途上国に対する国際教育協力を推進するための研究拠点として2001年に工学教育国際協力研究センターを設立し,多くのODA事業に参画。このような取り組みは,大学間ネットワークの確立,共同研究,留学生の獲得の面で大学にとってもメリット。産官学連携促進のための国際協力については,ホーチミン工科大学に対する日本型工学教育の紹介や地域連携活動のノウハウの移転を実施,またアジア,アフリカ,南米等からの研修員を受け入れて産官学連携のコーディネーターになる人材の育成を実施している。

(4)主な質疑応答(動画(他のサイトヘ)

質問: SATREPSへの大学からの期待は高いが,応募してもなかなか採用されない。予算を増やすか,少なくとも現状の規模を維持して欲しい。
回答: 大学側からそのような意見があることを踏まえて,来年度の予算要求に活かしたい。

議題5:総括セッション

(1)参加者からの総括(動画(他のサイトヘ) ※動画は「(2)越川外務省国際協力局長による総括」までご覧いただけます

  • 本学は,マレーシア日本国際工科院(MJIIT)等に協力しているが,事業毎に課題があり,壁に突き当たる経験をしてきた。本シンポジウムでは様々な事例を紹介いただき,色々な解決法があるということがわかり,全ての情報が参考になったので,1回で終わりにせずにまた開催してほしい。今後ODA事業についてのシンポジウムを開催する際は,テーマを絞って,初等中等教育,産業教育,高等教育といった縦割りの課題別の知識が欲しい。また,全ての事業に共通するものとして,コーディネート,事務組織等の横割りの課題もあると思う。本シンポジウムを,政府として日本が教育を輸出していくことを考えるきっかけにしていただきたい。
  • 本日の議論を聴いて,大学のコーディネート能力の検証が必要だと思った。地域における大学の役割は大きく,大学が行政を引っ張る力が必要である。大学には,コーディネート能力及びコンサルタント能力を持って欲しい。戦略を立てる発想のできる人材を大学が確保することが今後の課題である。ロンドンの大学には戦略室があるが,日本の大学は海外進出する上で引けを取っている。世界展開能力を身につけて欲しい。
  • シンポジウムはタイムリーで,考えさせられる機会になった。本日は,既存のODAのメニューを使ってこれに大学がどう参加できるか,どのような課題があるか,という議論が行われたと思う。日本を含めてODAの環境は変化しており,成果や質が問われている。大学がこれまでの個別の知見を活かしながら,さらにどのように政策レベルの対話をしていくべきか,実際の制度改善に繋げていくことが出来るか,大学が関わることによってどう高められるか,上部イシューに繋げられるよう日本がどう貢献出来るかという議論の場が今後必要になると思う。
  • 大学では知育と体育を行うが,これは国造りに似ている。本日の議論はものづくりに特化しているような印象を受けた。国造りのためには教育が大切であり,本日の議論はそちらが少し弱いと思った。人を育てるソフト面を考慮した国際協力を考えていただきたい。

(2)越川外務省国際協力局長による総括

 人造りは日本の国際協力の大きな柱であり,ケニアやアンゴラで行った理数科教育協力は非常に高い評価を受けている。本日は,皆様からの御発言を伺ってこの場を設けて良かったと思っている。文部科学省と相談してこのようなシンポジウムをまた開催したいと思う。皆様には,大学経営の視点からもODAを利用していただき,長期的により質の高い援助を行って欲しい。現在,ODAは大学,地方自治体,NGO,個人,企業が関わって実施している。特に,NGOとの関係は進んでおり,昨日も政策協議を行ったところである。その点,大学との関係は始まったばかりであり,地方自治体は2,3歩進んでいる。民間も含めて,こういった皆様とパートナーとして協力していきたいと思う。特に,中小企業とマッチングするコンサルタント業界が育っていないので,地方大学にはその役割を果たして欲しい。ODA予算は1997年をピークに減り続けており,今年度は横ばいである。皆様にODAの重要性について声をあげていただき,ODA増額を目指していきたい。

(3)加藤文部科学省国際統括官閉会挨拶(動画(他のサイトヘ)

 本シンポジウムで得られたODA事業への参画に関する情報や人的繋がりは,非常に有益だと思う。文部科学省としても,国際協力推進会議中間報告書において,大学の知見を国際協力に一層活用することが重要と捉え,産学官の多様な関係者の協働による国際協力の実施や,国際協力の機会を活用した「グローバル人材育成」の推進等について提言した。大学の国際協力への参画を重視したのは,1)グローバル課題の解決のために大学の知見を活用して貢献することが世界的に日本の大学のプレゼンスを高め,大学のグローバル化にも繋がる,2)大学教職員が途上国関係者と知を作り出す経験は,相手国に寄与するだけでなく教職員自身の視野を広げ,学生の教育にも有益である,3)国際協力事業の機会を活用した学生のボランティア活動等は,「グローバル人材育成」の推進の上で重要といった理由による。また,地域の知的コミュニティーの核である大学と産官の関係者が協働し,相乗効果を発揮して国際協力を行うことが重要である。今般,大学改革実行プランが示されたが,各大学が大学改革を進めていかれる中でその計画に国際協力を位置づけて持ち味を発揮していただきたい。文部科学省としても,関係省庁や途上国協力機関,産業界と連携して,大学の国際協力への参画を支援してまいりたい。

ODA事業への参画については、以下にお問い合わせください。

大学のODA事業への参画について

独立行政法人国際協力機構(JICA)企画部総合企画課
電話: 03-5226-9106
ファクス: 03-5226-6373
Eメール: pdtsp@jica.go.jp

ODAによる産官学連携支援について

外務省国際協力局ODA中小企業等支援タスクフォース
電話: 03-5501-8000(内線3493)
ファクス: 03-5501-8372
Eメール: odakanminrenkei@mofa.go.jp

国際協力機構(JICA)民間連携室
電話: 03-5226-6960
ファクス: 03-5226-6326
Eメール: ostpp@jica.go.jp

文部科学省窓口

文部科学省大臣官房国際課国際協力政策室
電話: 03-6734-2610(海外協力政策係←シンポジウム「大学とODA」に関すること)
電話: 03-6734-3270(海外協力推進係←ODA事業に関すること)
ファクス: 03-6734-3669
Eメール: kokkok@mext.go.jp


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