(1) スリ・ランカは、1948年の英国からの独立以来、政権の交替が全て選挙を通じて行われている民主主義国家である。民族構成は、シンハラ人74%、タミル人18%、その他8%であり、多数民族シンハラ人と少数民族タミル人の民族対立が内政上最大の問題となっている。94年8月の総選挙により首相となったクマーラトゥンガ人民連合(PA)副総裁が、同年11月の大統領選で新大統領に就任した。
内政上最大の懸案であるシンハラ・タミル民族問題について、クマーラトゥンガ大統領は、当初、タミル過激派(LTTE)との交渉による解決を目指したが、95年4月のLTTEによる一方的な和平交渉・敵対行為停止合意の破棄通告と、その後の戦闘再開・激化を受けて、政府はLTTEとの軍事対決を強める政策をとるに至った。政府軍は、95年12月、LTTEの活動拠点であるジャフナ市(北部ジャフナ半島の中心地)を含む半島西部地域を制圧したのに続き、96年5月にはジャフナ半島全域の掌握に成功した。97年5月より政府軍は同半島に通じる幹線道路を確保するための軍事作戦を実施したが、当初の目的を達成しないまま、98年12月に終了した。
また、97年10月、政府は民族問題の政治的解決を目指して地方への大幅な権限移譲を内容とする憲法改正案を国会の選任委員会に提出したが、最大野党の統一国民党(UNP)の反対等により国会での実質的な審議の見通しはたっていない。このような状況の中、LTTEはコロンボを中心とした主要都市においてテロ活動を活発化し、98年1月のキャンディーにおける仏歯寺(同国仏教徒にとって最も神聖な寺院)前での爆破事件等を引き起こしている。
(参考1)主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 17,002 | 18,114 | 18,300 | 18,552 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 7,971 | 12,616 | 13,475 | 14,781 |
一人当たり(ドル) | 470 | 700 | 740 | 800 | |
経常収支(百万ドル) | -298.3 | -769.9 | -682.7 | -388.2 | |
財政収支(百万スリランカ・ルピー) | -25,153 | -55,196 | -59,914 | -39,997 | |
消費者物価指数(90年=100) | 100.0 | 159.7 | 177.0 | 192.8 | |
DSR(%) | 13.8 | 7.4 | 7.2 | 6.4 | |
対外債務残高(百万ドル) | 5,863 | 8,231 | 8,003 | 7,638 | |
為替レート(年平均、1米ドル=スリランカ・ルピー) | 40.063 | 51.252 | 55.271 | 58.995 | |
分類(DAC/国連) | 低中所得国/- | ||||
面積(千平方キロメートル) | 64.6 |
(参考2)主要社会開発指標
- | 90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命(年) | 71 | 73(97年) |
乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
26 | 14(97年) | |
所得が1ドル/日以下の人口割合(%) | - | 4.0(90年) | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
35 | 19(97年) | |
下位20%の所得又は消費割合(%) | 8.9(90年) | 8.9(90年) | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
80(80-90年平均) | 30(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 12 | 10(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
62(80-90年平均) | - | |
初等教育純就学率(%) | - | - | 安全な水を享受しうる人口割合(%) | 60(88-90年平均) | 70(96年) | |
女子生徒比率(%) | 初等教育 | 48 | 48(96年) | 森林面積 (1000平方キロメートル) |
17 | 18(95年) |
中等教育 | 51 | 51(96年) |
(2) 外交面では、非同盟中立路線を基本としつつ、全ての国との友好関係維持に努めている。スリ・ランカ外交の基軸は南西アジア諸国に置かれており、インドをはじめ他の近隣諸国との関係も緊密かつ良好である。クマーラトゥンガ大統領も大統領就任後初の訪問先として95年3月にインド、バングラデシュを訪問した。
また、先進国よりの経済援助は、スリ・ランカの経済社会開発に不可欠であり、一貫してこれら諸国との関係強化に努めている。更に、近年のASEAN諸国の経済成長に伴い、スリ・ランカはASEAN諸国との経済関係強化を強く望み、投資を誘致するためのセミナーを開催する等精力的な外交活動を展開している。
(3) 経済面では、伝統的に米と三大プランテーション作物(紅茶、ゴム、ココナッツ)を中心として農業に依存しているが、近年工業化による経済多角化に努力している。スリ・ランカ経済は、内戦の激化により大きく影響を受けたものの、90~98年には平均5%台の成長を維持している。この背景には外国資本の流入増加とこれに刺激された内需の拡大、衣料品を主とする工業製品輸出の拡大等がある。他方、世銀・IMFより指摘されている財政支出の合理化は、軍事・福祉予算の削減が難しいためその達成は容易ではなく、また経常収支赤字も経済活動の活発化に伴う輸入材の増加により改善は難しい状況にある。
98年の経済は、前半は紅茶や衣料品関連輸出の増大、国内需要の堅調さもあり好調を維持したものの、後半は対外経済不振の影響から輸出の減速等により実質GDP成長率は4.7%(97年6.4%)にとどまった。インフレ率は9.4%(97年は9.6%)と横這いであり、失業率も9.1%(97年は10.4%)と低下傾向にある。また、財政は、軍事支出の増加もあり赤字が続いている。財政赤字のGDP比は、97年には国営企業の民営化収益もあり、前年の7.8%から4.5%に減少したが、98年は6.5%と悪化の見込みである。政府は補助金及び福祉関係支出の削減に努めているが、軍事費の削減及び国有企業の民営化の一層の促進等が今後の課題である。
(4) 我が国との関係では、スリ・ランカは伝統的な親日国であり、特に大きな政治的懸案もなく良好な関係が続いている。96年5月には、クマーラトゥンガ大統領が元首としては17年ぶりに公式訪日し、伝統的友好関係を再確認した。その際、二国間の政治・経済全般にわたる諸問題を協議し合うための「日・スリ・ランカ政策協議」の設置につき合意し、同年7月、コロンボにおいて第1回協議が開催された。
我が国の同国に対する直接投資は、51年度から97年度までの累計で157件、約710億円(大蔵省統計)で、業種別ではサービス業の比重が高いが、衣料、セラミックから電子部品、住宅建設まで多岐にわたっている。97年5~6月に、両国経済関係促進の方途を検討するための経済使節団が政府により派遣された。
(1) 我が国は、スリ・ランカと伝統的友好関係にあること、48年の独立以来民主的選挙による政権運営を行っている民主主義国家であり、また構造調整を実施し、経済改革のための自助努力を行っていること等を踏まえ、スリ・ランカに対し積極的に協力している。対スリ・ランカ援助方針として、スリ・ランカにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及びJICAにおける「スリ・ランカ国別援助研究会」の提言(90年)を基に91年3月に派遣した政府ベースの経済協力総合調査団及びその後の政策協議等によるスリ・ランカ側との政策対話を踏まえ、次の分野を重点分野としている。
(イ) 経済基盤の整備・改善
スリ・ランカの産業振興には、立ち後れている運輸、電力、通信等の基盤整備が不可欠であり、コロンボ周辺地域を中心としつつも全国的なネットワーク形成を考慮して協力を進める。南部地域の開発については長期的視点に立ち計画的に進める。上下水道施設等の社会インフラの充実にも配慮していく。
(ロ) 鉱工業開発
スリ・ランカの国内市場規模等に鑑みた場合、輸出促進型の製造業の育成が経済発展の鍵であり、雇用拡大にも繋がる鉱工業開発・貿易促進を支援していく。特に、発展可能性のある産業の開発計画及び工業団地開発等に関する協力、生産性及び品質の向上を図るための技術協力を推進する。また、失業の減少、女性の就業機会の増大に資する中小企業向けの援助も行う。
(ハ) 農林水産業開発
スリ・ランカは、基本食料生産の自給量の向上、農村部における雇用機会及び所得の増大等を農業開発の重点項目としており、既存灌漑施設のリハビリを含む農業生産基盤の整備、アグロ・インダストリーの振興、市場・流通の整備、農業研究・普及、漁業の振興等への協力を推進していく。
(ニ) 人的資源開発
社会・経済開発を担う人材の育成として、高等教育機関の量的・質的改善及び行政機関の中間管理層の育成は特に重要であり、教育環境整備に加え、研修員受入れ、専門家派遣事業等の一層の効果的活用に努めていく。
(ホ) 保健・医療体制の改善
地域保健・医療体制が未だ不十分である実状等を踏まえ、州病院、地域基幹病院の整備、検査技術、医療機器整備技術の改善を進めるとともに、検査技師、看護婦等の訓練に関する協力を進める。また、経口感染症対策のためにも上下水道整備への協力も検討していく。
上記5分野以外では、近年環境分野を重視しており、廃棄物処理、居住環境分野等での援助を行っている。97年1月、対スリ・ランカ無償・技協政策協議を行うとともに円借款調査団派遣を行い、DAC新開発戦略を踏まえた今後の協力の方向性につき確認した。また、98年12月、経済協力政策協議(無償資金協力、技術協力及び円借款)を実施した。
なお、現地の治安状況に鑑み、同国北・東部を対象とした援助は当面差し控えている。
(2) 98年までの支出純額累計において、我が国援助対象国の中で、スリ・ランカは第9位の受取り国となっている。
有償資金協力については、65年に援助を開始して以来、70年代後半までは国際収支支援のため商品借款を供与してきたが、その後、運輸、電力、通信、灌漑等のインフラ整備のためのプロジェクト借款が中心となっている。また90年代に入り、構造調整借款も対象に加わっているほか、近年では環境案件も実施しており、今後は民活インフラ開発支援も検討していく方針である。
無償資金協力については、医療、教育・人造り、環境、農業分野を中心に幅広い協力を行っているほか、食糧増産援助、文化無償、草の根無償等を供与している。
技術協力については、行政、農業、工業等の分野での研修員受入れを行っているほか、プロジェクト方式技術協力では、近年、農業、保健・医療、工業、社会開発の分野における協力を実施している。開発調査については、農業、運輸交通、通信分野等を中心に協力を行っている。近年、民活資金導入による開発事業の実施も行われつつあることから、今後は、BOT/BOO方式等、民間セクターによる事業の実施や運営を想定した民活インフラ案件も検討していく方針である。
(1) 我が国のODA実績 | (支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 贈与 | 政府貸与 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
53.59(25) 82.06(31) 52.39(30) 44.08(33) 52.06(26) |
27.51(13) 36.37(14) 34.16(20) 28.79(21) 24.32(12) |
81.09(38) 118.43(45) 86.55(50) 72.87(54) 76.38(39) |
181.39 204.29 143.08 119.28 185.34 |
132.66(62) 145.28(55) 87.39(50) 61.69(46) 121.47(61) |
213.75(100) 263.70(100) 173.94(100) 134.56(100) 197.85(100) |
累計 | 977.56(35) | 340.88(12) | 1,318.42(47) | 2,012.82 | 1,505.15(53) | 2,823.56(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET | (支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合計 |
95 96 97 |
日本 263.7 日本 173.9 日本 134.6 |
米国 25.0 ノールウエー 31.7 ドイツ 17.4 |
ノールウェー 14.2 ドイツ 15.8 ノールウェー 15.9 |
オランダ 14.1 デンマーク 13.1 デンマーク 14.0 |
英国 13.6 スウェーデン 12.5 スウェーデン 13.9 |
263.7 173.9 134.6 |
374.0 279.3 228.3 |
国際機関、ODA NET | (支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 96 97 |
IDA 263.7 ADB 139.5 ADB 79.0 |
ADB 83.2 IDA 94.9 IDA 67.8 |
CEC 7.2 UNDP 5.6 UNDP 8.1 |
UNTA 6.1 CEC 5.3 CEC 7.2 |
UNHCR 5.4 UNHCR 4.6 UNHCR 6.1 |
-15.9 18.4 -49.0 |
184.4 218.5 119.2 |
(3) 年度別・形態別実績