8 アフリカ地域
2050年には世界の人口の4分の1を占めると言われるアフリカは、若く、希望にあふれる大陸です。豊富な資源と経済市場としての高い潜在性を有しており、ダイナミックな成長が期待されています。一方、貧困、脆(ぜい)弱な保健システム、テロ・暴力的過激主義の台頭など、様々な課題にも直面しています。
こうした課題に対応するため、アフリカ諸国は、アフリカ自身の開発アジェンダである「アジェンダ2063」注30に基づき、持続可能な開発に取り組んでいます。ロシアによるウクライナ侵略など国際社会の根幹を揺るがす動きが続き、これまで以上に国際社会が一致して対応することが重要になる中で、国際社会におけるアフリカの位置付けも大きく変化し、アフリカは国際社会における主要なプレーヤーとして、その重要性と発言力はますます高まっています。このため、アフリカ諸国との協力を一層推進していく必要があります。
●日本の取組
2024年TICAD閣僚会合で、共同議長を務める上川外務大臣(当時)(中央)とメルズーグ・モーリタニア外務・アフリカ協力・在外モーリタニア人大臣(写真左)
第3回日・アフリカ官民
経済フォーラムで演説する松本外務大臣政務官
2024年TICAD閣僚会合で、共同議長を務める上川外務大臣(当時)(中央)とメルズーグ・モーリタニア外務・アフリカ協力・在外モーリタニア人大臣(写真左)
第3回日・アフリカ官民
経済フォーラムで演説する松本外務大臣政務官
日本は、冷戦終結後、アフリカ支援に対する先進国の関心が低下する中でアフリカの重要性を論じ、その実行の証としてアフリカ開発に関するフォーラムであるアフリカ開発会議(TICAD)解説を先駆的に立ち上げました。その中で、アフリカが主導する開発を支援するとの考えの下、アフリカ諸国の「オーナーシップ」、国際社会による「パートナーシップ」の重要性を提唱し、アフリカ開発に携わる国際機関、民間企業、市民社会など幅広い参加者と共に、真にアフリカの開発にとって実のある議論を行ってきています。なお、TICAD 9は、2025年8月20日から22日まで横浜で開催される予定です。
上川外務大臣(当時)は、2024年4月、マダガスカル、コートジボワール、ナイジェリアを訪問し、経済関係や連結性の強化、法の支配や女性・平和・安全保障(WPS)注31を含むグローバルな課題における連携強化を図りました。8月には、「革新的解決の共創、アフリカと共に」をテーマに、TICAD閣僚会合が東京で開催され、アフリカ47か国、国際機関、民間企業、国会議員、市民団体の代表などが出席しました。会合では、未来志向の課題解決、若者と女性の重視、連結性や知のプラットフォームの活用の3つの視点を念頭に、アフリカ側の考えをよく聞きながら、対話を通じて課題解決を進めて行くことを重視し、社会、平和と安定、経済の3つのセッションで議論を行いました。
そして、意見交換の中で共有された多くの革新的な解決策やアイディアを、アフリカの各地に展開するとともに、グローバルな課題解決に貢献していくことで一致し、共同コミュニケを採択しました。
12月、経済産業省、日本貿易振興機構(JETRO)およびコートジボワール政府の共催による第3回日・アフリカ官民経済フォーラムがコートジボワールにおいて開催され、日本からは大串経済産業副大臣と松本外務大臣政務官が日本企業関係者と共に出席しました。アフリカ諸国からは、共催国コートジボワールのマンベ=ブグレ首相を始め、約20名の閣僚が出席し、また約40か国から官民関係者約1,200名が参集し、日本とアフリカの民間企業間の協力とアフリカにおける日本企業のビジネス活動の促進を目的に、意見交換を行いました。
■経済
ケニアでの円借款「モンバサ港開発事業」により整備されたコンテナターミナルの様子(写真:東洋建設株式会社)
日本は、感染症の拡大、ウクライナ情勢などによる食料・エネルギー分野などにおける影響からのより良い回復を実現し、人々の生活を守るため、自由で公正な国際経済システムを強化するとともに、各国のグリーン成長を支援し、強靭(じん)で持続可能なアフリカの実現を目指しています。また、活力ある若者に焦点を当て、スタートアップを含めた民間企業の進出も後押ししています。
日本はとりわけ人材育成を重視しており、産業、保健・医療、農業、司法、行政など幅広い分野において、2024年3月末までの3年間で約29万1,000人に研修の機会を提供しています。加えて、質の高い成長の実現に向けた「人への投資」として、これまでビジネスの推進に貢献する産業人材の育成を行ってきており、ABEイニシアティブ解説では、2024年12月までに9,000人を超えるアフリカの若者に対し、研修の機会を提供しています。ABEイニシアティブの研修生は、研修を終えた後に自国に戻り、日系企業に就職したり、起業したり、また、自国の行政機関や大学で要職に就くなど、日本で身に付けた専門的な知識や技能をいかして、自国の発展や日本企業の海外展開に貢献する好事例も生まれています。
また、日本は、連結性の強化に向け、3つの重点地域注32を中心に、「質の高いインフラ投資」注33の推進にも取り組んでいます。デジタル・トランスフォーメーション(DX)注34を活用し、インフラ整備やワンストップ・ボーダーポストなどを通じた物流改善支援、世界税関機構(WCO)と協力して国境管理や関税など徴収の分野での能力構築支援などを実施しています。
紛争、テロ、政情不安、自然災害、ロシアによるウクライナ侵略の長期化などの影響を受けた物価高騰や、極端な気候変動、感染症などの多岐にわたる要因により、食料安全保障が一層悪化していることを受けて、日本は、食糧援助などの短期的支援と、農業生産能力向上などの中長期的支援の双方を行っています。2024年は、飢餓や食料不足、栄養失調といった食料不安が極めて深刻なサブサハラ・アフリカの32か国に対し、米などの穀物、豆類、植物油、魚缶詰などを供与するための無償資金協力を決定し順次実施しています。また、中長期的な食料生産能力の強化のため、コメの生産量の倍増に向けた支援やアフリカ開発銀行(AfDB)の緊急食糧生産ファシリティへの約3億2,000万ドルの協調融資を行っています。加えて、2023年以降の3年間で20万人の農業人材育成を目指す能力強化支援や、水産業分野への支援なども行っています。日本は、引き続きアフリカの食料安全保障の強化に貢献していきます。
日本は、脱炭素への構造転換を目指すグリーン成長に関する協力にも取り組んでいます。具体的には、ケニアでの地熱発電事業に対する円借款の供与や、ウガンダ、ケニア、タンザニア、ナイジェリア、モザンビークでの送電線の整備や送電網の安定化に関する技術協力を実施してきています。さらに、南部・西部アフリカにおいては、域内の電力融通を行い長期的に安定した電力供給を実現するための人材育成および能力強化を念頭に、広域の技術協力を開始しています。
■社会
ナミビアの農業普及員に畜産用注射器の使用方法を指導するJICA専門家(写真:JICA)
ザンビアにおいて、高収量、高品質なコメを作る優良種子についての研修を行うJICA専門家(写真:JICA)
TICAD 8では、人間の安全保障、SDGs、「アジェンダ2063」を踏まえ、顕在化した格差の是正と質の高い生活環境の実現を目指していくことを表明しました。
感染症対策は引き続きアフリカの大きな課題です。感染症を含む公衆衛生上の脅威に対応するため、アフリカ7か国注35に対し、国連児童基金(UNICEF)を通じて、デジタル技術を活用した予防接種情報管理体制の整備を支援しています。さらに、感染症対策の拠点となる現場への支援を強化すべく、アフリカ疾病対策センター(CDC)などとも連携しながら、医療人材の育成にも取り組んでいます。
また、国際機関などを通じた支援や二国間支援を通じ、引き続きアフリカにおける保健システムの強化に取り組んでいます。TICAD 8以降、日本は、約27,300人の医療従事者や7,970人の感染症対策に携わる医療関係者と研究者を養成しました。こうした支援を通じて、日本は、アフリカにおいて138万人に対する医療サービスの拡大に貢献しています。さらに、将来の公衆衛生危機に対する予防・備えおよび対応(PPR)も念頭に、「誰の健康も取り残さない」という信念の下、アフリカにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)注36の達成に向け貢献しているほか、2022年以降、アフリカの42都市において、水や衛生分野に関する支援を行ってきました。
加えて、日本は、若者や女性を含め、質の高い教育へのアクセス向上に取り組んでいます。日本は、TICAD 8でSTEM注37教育を含む質の高い教育を900万人に提供すること、400万人の女子の教育アクセスを改善することを表明し、技術協力などを通じて就学促進、包摂性の向上、給食の提供などに取り組んできています。例えば、学校、保護者、地域社会と協働してこどもの学習環境を改善する「みんなの学校プロジェクト」注38は、2004年の開始以降、アフリカ9か国の約7万校の小中学校に広がっています。
アフリカでは、急速に進む都市化に伴う様々な課題への対応も急務となっています。日本は、「アフリカのきれいな街プラットフォーム」注39の下で、2024年11月までに47か国190都市において、廃棄物管理を通じた公衆衛生の改善や脱炭素化やリサイクルを推進するとともに、JICA-JAXA熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)による森林の定期監視を行うなど、環境問題にも取り組んでいます。
■平和と安定
エチオピアの「オイダ地区における住民参加型水供給事業を通じた女性の自立支援事業」(日本NGO連携無償資金協力)において、グループ貯蓄を行っている女性たち(写真:特定非営利活動法人ホープ・インターナショナル開発機構(ホープ・ジャパン))
TICAD 8において、日本は、人間の安全保障および平和と安定を阻害する根本原因にアプローチする「アフリカの平和と安定に向けた新たなアプローチ(NAPSA)」解説の下、経済成長・投資や生活向上の前提となる平和と安定の実現に向けて、アフリカ自身の取組を後押ししていくことを表明し、その実現に着実に取り組んでいます。
平和で安定した社会や持続可能な成長の実現のためには、法の支配の確保が重要です。日本は、法の支配に関連したアフリカ自身の取組を後押しする具体的協力として、司法・行政分野の制度構築や、ガバナンス強化のための人材育成、公正で透明な選挙の実施、治安確保に向けた支援などを行っています。また、平和と安定の礎となる行政と住民の間の相互理解・協力関係を促進するため、コミュニティ・レベルで行政と住民が協働する取組の支援も行っています。
さらに、日本は、アフリカのPKO訓練センターにおけるPKO要員の能力強化やアフリカ連合(AU)などの地域機関への支援を通じ、アフリカ自身の仲介・紛争予防努力を後押ししています。2008年以降、日本はアフリカ15か国内のPKO訓練センターなどが裨(ひ)益するプロジェクトに対し1.1億ドル以上の支援を行い、60人以上の日本人講師を派遣し、施設の訓練能力強化や研修の実施などを支援しています。また、PKO要員への支援枠組みである「国連三角パートナーシップ・プログラム(TPP)」を拡充し、AUが主導する平和支援活動に派遣される要員への訓練を実施するために、850万ドルを追加拠出しました。
サヘル地域においては、NAPSAの下、サヘル諸国の行政制度の脆弱性に焦点を当てながら、制度構築に携わる人材育成、若者の職業訓練・教育機会の提供などを通じて、同地域の平和と安定に貢献しています。例えば、サヘル地域の安定のため、国連開発計画(UNDP)を通じてリプタコ・グルマ地域注40住民に対する支援を行うなど行政サービスの改善に向けた取組を実施しており、コミュニティの基盤強化に貢献しています。
南スーダンにおいては、2011年の独立以来、同国の国造りを支援しています。現在は、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO法)に基づき、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に対し、司令部要員として自衛官を派遣しています。また、東アフリカの地域機構である政府間開発機構(IGAD)などを通じて、南スーダン自身のイニシアティブである和平プロセスへの支援も行っており、インフラ整備や人材育成支援、食糧援助などの支援と並んで、南スーダンにおける平和の定着と経済の安定化に貢献しています。
さらに、国民の融和、友好と結束を促進するため、南スーダンの青年・スポーツ省による国民体育大会「国民結束の日」の開催への支援を第1回大会(2016年)から毎年行っています。今後も平和の定着を同国の国民が実感し、再び衝突が繰り返されないように、国際社会が協力して南スーダンの平和の定着を支援していくことが重要です。
平和で安定した社会を持続的なものとするためには、紛争下における女性など脆弱な立場の人々の保護に取り組みつつ、女性自身が指導的立場での紛争予防や人道・復興支援に参画することも重要です。日本は、WPSの観点からもアフリカの平和と安定を支援しています(日本のWPSの取組については「WPSの推進に向けた日本の開発協力の取組」を参照)。
案件紹介12
ザンビア
ルサカ郡総合病院運営管理能力強化プロジェクト/感染症対策のためのラボサーベイランス強化プロジェクト
技術協力(2021年5月~2026年5月/2023年4月~2028年4月)
保健サービス向上と感染症対策の強化~コレラの集団感染への対応と成果~
ザンビアでは首都ルサカを中心に、近年の人口増加に伴い、基礎的な医療を提供する一次レベルの病院が慢性的に不足しており、既存の病院も運営管理やサービスの質が深刻な課題となっています。また、感染症の監視体制にも課題を抱えており、依然としてHIV/エイズなどの感染症が主要な死因となっていることに加え、コレラなどのアウトブレイクの際には多くの被害が出ています。
日本は、これまで無償資金協力により整備したルサカの5つの一次レベル病院を対象に、サービスの質改善のために運営管理能力の向上を支援するとともに、感染症対策の中枢であるザンビア国立公衆衛生研究所(ZNPHI)の能力強化に向けた支援を行ってきました。
そのような中、2023年10月にルサカで700人以上の死者を出す史上最大規模となるコレラの集団感染が発生しました。日本は、集団感染発生の初期段階から、協力対象の5病院で治療手順などの指導を行い、また衛生インフラの乏しい住宅密集地域における経口補水液の提供等を通じて、感染拡大の阻止に貢献しました。さらにZNPHIと協力し、必要な感染症情報を即時に収集・分析し、ザンビア保健省や病院と共有し、適時・適切な対策の実現を支援しました。日本の協力に対し、ヒチレマ・ザンビア大統領からは、日本が支援を行っているコレラ治療センター訪問時に謝意が伝えられ、同国内のメディアにも多く取り上げられました。
保健・医療サービスへのアクセス向上や感染症監視システムの強化は、日本がTICADで表明するユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現を具体化するものです。日本は保健システムの強化を通じて、人々の命を守り、ザンビアの国造りを後押ししていきます。
コミュニティに設置された経口補水液の給水ポイント(写真:JICA)
コレラ治療センターを視察するザンビア保健大臣に、センターのレイアウトなどを説明するJICA専門家(写真:JICA)
用語解説
- アフリカ開発会議(TICAD:Tokyo International Conference on African Development)
- 1993年に日本が立ち上げたアフリカ開発に関する首脳級の国際会議。アフリカ開発におけるアフリカ諸国の「オーナーシップ」と国際社会による「パートナーシップ」の理念を具現化するもの。2022年8月には、チュニジアでTICAD 8が開催され、20人の首脳級を含むアフリカ48か国が参加。
- ABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ:African Business Education Initiative for Youth)
- TICAD V(2013年)において発足したプログラムで、アフリカの産業人材育成を目的として行ってきている。同プログラムでは、アフリカの若者に対し、日本の大学での修士号取得の機会や、日本企業などでのインターンシップ、日本語研修、ビジネス・スキル研修などのビジネス・プログラムを提供しているほか、2016年以降は、海外産業人材育成協会(AOTS)を通じて、将来の現場指導者を育成するための研修も行っている。
- アフリカの平和と安定に向けた新たなアプローチ(NAPSA:New Approach for Peace and Stability in Africa)
- 2019年8月に横浜で開催されたTICAD 7において、日本が提唱した新たなアプローチ。アフリカのオーナーシップの尊重および紛争やテロなどの根本原因に対処するとの考えの下、(1)AUや地域経済共同体(RECs)などによる紛争の予防、調停、仲介といったアフリカ主導の取組、(2)制度構築・ガバナンス強化、若者の過激化防止対策や地域社会の強靭化に向けた支援を行うもの。2022年8月のTICAD 8でも、日本はNAPSAの下、経済成長・投資や生活向上の前提となる平和と安定の実現に向けたアフリカ自身の取組を後押ししていくことを示した。
