2024年版開発協力白書 日本の国際協力

(6)ジェンダー平等で包摂的な社会

開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多く、女性は様々な面で脆(ぜい)弱な立場に置かれやすい状況にあります。一方、女性は開発の重要な担い手であり、女性の参画は女性自身のためだけでなく、開発のより良い効果にもつながります。例えば、これまで教育の機会に恵まれなかった女性が読み書き能力を向上することは、公衆衛生やHIV/エイズなどの感染症予防に関する正しい知識へのアクセスを向上させるとともに、適切な家族計画につながり、女性の社会進出や経済的エンパワーメントを促進します。さらには、開発途上国の持続可能で包摂的な経済成長にも寄与するものです。

SDGsでは、「ジェンダー平等の実現と女性と女児の能力向上は、全ての目標とターゲットにおける進展において死活的に重要な貢献をするもの」であると力強く謳(うた)われています。また、SDGsの目標5において、「ジェンダー平等を達成し、全ての女性および女児の能力強化を行う」ことが掲げられています。「質の高い成長」を実現するためには、ジェンダー平等と女性の活躍推進が不可欠であり、ジェンダー主流化注89を通じて、開発協力のあらゆる段階に男女が等しく参画し、等しくその恩恵を受けることが重要です。

また、貧困・紛争・感染症・テロ・災害などの様々な課題から生じる影響は、国や地域、女性やこどもなど、個人の置かれた立場によって異なります。感染症、紛争、大規模災害等により、世界の貧困人口は増加に転じるとともに、一部の国では格差の拡大や人道状況の悪化が見られており、脆弱な立場に置かれやすい人々への支援が一層求められています。SDGsの理念である「誰一人取り残さない」社会を実現するためには、一人ひとりの保護と強化に焦点を当てた人間の安全保障の考え方が重要です。

●日本の取組

■女性の能力強化・参画の促進
ヨルダンで実施中の「ペトラにおける観光開発マスタープラン策定プロジェクト」を通じて、ペトラ地域産の手工芸品や加工食品を販売する女性たち(写真:Petra Development and Tourism Region Authority)

ヨルダンで実施中の「ペトラにおける観光開発マスタープラン策定プロジェクト」を通じて、ペトラ地域産の手工芸品や加工食品を販売する女性たち(写真:Petra Development and Tourism Region Authority)

「女性の活躍推進のための開発戦略」注90では、(i)女性の権利の尊重、(ii)女性の能力発揮のための基盤の整備、(iii)政治、経済、公共分野への女性の参画とリーダーシップ向上、を基本原則に位置付け、日本は国際社会において、ジェンダー主流化、ジェンダー平等、女性および女児のエンパワーメント推進に向けた取組を進めています。

日本は、女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)注91に2018年に5,000万ドルの拠出を行い、2023年6月に追加で500万ドルの拠出を行いました。2023年6月時点で、67か国で149,256社の女性が経営・所有する中小企業に支援を実施しています。そのうち具体的には、127,428社の女性が経営・所有する中小企業が資金援助を受け、28,404社が経営に必要な技術や知識習得のための研修を受講しました。また、世界銀行によると、開発途上国では女性が経営する中小企業の70%が金融機関から資金調達ができない、もしくは劣悪な借入条件を課されてしまうため、We-Fiを通じて、性差別のない法制度整備の促進や、女性経営者が資金や市場に平等にアクセスできるよう支援を行っています。

2024年6月に開催されたG7プーリア・サミットの首脳コミュニケには、ジェンダー平等のためのODAを共同で増加させることへのコミットメントが改めて表明されました。また、特にアフリカにおける気候変動対策において、ジェンダーが配慮され、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントが一層促進されるよう、ODAを増加させる方法を模索することが盛り込まれました。

このほか日本は、国連女性機関(UN Women)を通じた支援も実施しており、2023年には約2,100万ドル、2024年には約2,200万ドルを拠出し、女性の政治的参画、経済的エンパワーメント、女性・女児に対する性的およびジェンダーに基づく暴力撤廃、平和・安全保障分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化などの取組を支援しています。また、2024年はアフガニスタンやウクライナを始めとするアフリカ、中東、アジア、東欧地域において、紛争や災害等で経済的・社会的影響を受けた女性たちの緊急支援や生計手段の確保等の支援を行いました。例えば、パキスタンでは、2月から8月までの半年間で、女性の自立を促すため、60か所の女性のコミュニティセンターが設立され、女性6,609人、女児1,131人が同センターを利用し、7,000人の女性の身分証明入手手続を支援したほか、280人の男性およびコミュニティリーダーに対し、ジェンダーに基づく暴力対策とジェンダー平等に関する知識向上のための支援を行いました。

紛争下の性的暴力に関しては、日本としても看過できない問題であるという立場から、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所(OSRSG-SVC)との連携を重視しています注92。2024年、日本は同事務所に対し、約66万ドルを拠出し、スーダンにおいて、難民や国内避難民女性に対し、性的暴力やジェンダーに基づく暴力からの保護や、その予防、また、健康面、心理面および法的側面からの支援などを実施しています。

また、日本は、紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)解説に対し、2024年に200万ユーロを追加拠出し、これまでに計1,000万ユーロを拠出しました。理事会メンバーとして、アフガニスタンやウクライナ、コンゴ民主共和国を始めとする紛争地域での紛争関連の性的暴力生存者支援に積極的に貢献しています。

■女性・平和・安全保障(WPS)
2024年4月、コートジボワールの女性リーダーと意見交換を行う上川外務大臣(当時)

2024年4月、コートジボワールの女性リーダーと意見交換を行う上川外務大臣(当時)

女性と平和・安全保障(WPS)注93の問題を明確に関連付けた初の国連安全保障理事会(安保理)決議として、2000年に採択された国連安保理決議第1325号および関連決議の実施のため、日本は2015年から行動計画を策定しています。2023年4月には政府関係省庁、有識者との意見交換、NGO・市民社会との意見交換、パブリックコメントを踏まえ、第3次行動計画(2023-2028)注94を策定しました。具体的には、日本は関係省庁の協力の下、主に国際機関や二国間支援を通して紛争影響国や脆弱国の女性支援を実施しています(日本のWPSの取組は「WPSの推進に向けた日本の開発協力の取組」を参照)。

2024年9月、上川外務大臣(当時)は「WPSフォーカルポイント・ネットワーク注95ハイレベル・サイドイベント」において、各国と共にWPSアジェンダを一層力強く推進するため、日本が2025年にノルウェーと共にWPSフォーカルポイント・ネットワークの共同議長を務めること、また、2025年2月に、東京において、同ネットワークの首都会合を開催することを表明しました。

外務省では、2024年1月、省内横断的な連携を目的としたWPSタスクフォースを設置しました。同年6月、第2回WPSタスクフォース会合を開催し、各府省庁の防災・災害対応、復興分野におけるWPSの視点を踏まえた政策を共有するとともに、それらを外交面にいかすことについて議論しました。

8月に開催したTICAD閣僚会合では、WPSの役割と、女性や若者の視点の重要性を多くのアフリカ諸国と確認しました。

■脆弱な立場に置かれやすい人々への支援

(障害と開発)

障害のある人々は、社会において困難な立場に置かれやすい状況にあります。日本のODAでは、障害のある人を含めた、社会において公平な参加を阻害されている人々の状況に配慮しています。障害者権利条約注96第32条も、締約国は国際協力およびその促進のための措置を取ることとしています。

障害者施策は福祉、保健・医療、教育、雇用など、多くの分野にわたっており、日本はこれらの分野で積み重ねてきた技術や経験を、ODAを通じて開発途上国の障害者施策に役立てています。

例えば、日本は、鉄道建設、空港建設の設計においてバリアフリー化を図るとともに、リハビリテーション施設や職業訓練施設整備、移動用ミニバスの供与を行うなど、現地の様々なニーズにきめ細かく対応しています。また、障害と開発に携わる組織や人材の能力向上を図るために、開発途上国からの研修員の受入れや、社会参加や就労促進を目的とした専門家、JICA海外協力隊の派遣など、幅広い技術協力も行っています。

(こどもへの支援)

エルサルバドルで障害を持つこどもたちにスポーツを教えるJICA海外協力隊員(写真:JICA)

エルサルバドルで障害を持つこどもたちにスポーツを教えるJICA海外協力隊員(写真:JICA)

大地震による損壊後、日本の支援により建設された校舎で学ぶコスタリカのこどもたち

大地震による損壊後、日本の支援により建設された校舎で学ぶコスタリカのこどもたち

こどもについては、一般的に脆弱な立場に置かれやすく、今日、紛争や自然災害などにより、世界各地で多くのこどもたちが苛酷な状況に置かれています。日本は二国間の協力や国際機関を経由した協力など、様々な形でこどもを対象に人道支援や開発協力を行っています。2024年には、国連児童基金(UNICEF)を通じて、アジア、東欧、中東、アフリカ地域などの40か国において、貧困、紛争、気候変動により増大する自然災害などの影響を受けるこどもへの支援を実施しました。

草の根レベルの経済社会開発の取組を支援する草の根・人間の安全保障無償資金協力注97では、学校の建設や改修、病院への医療機材の供与、水供給設備の整備などを通じて、こどもたちの生活環境の改善に貢献するプロジェクトを実施しています。

例えばサモアにおいては、老朽化により取り壊された小学校の校舎の再建を支援し、2024年11月にコンクリート造の1階建て校舎を引き渡しました。本協力により、当該小学校に通学する児童らに安全で適切な教育環境を提供し、対象地域の基礎教育の質の向上に寄与することが期待されています。

また、5歳から17歳のこどもの約6.5人に1人が児童労働に従事していると言われる注98ネパールでは、日本のNGOを通じて、児童労働の送り出し地域・受入れ地域と言われるマクワンプール郡において、教育とソーシャルワークを通じた児童労働削減事業を行っています(フィリピンにおける貧困家庭のこどもの社会復帰を支援する取組については「案件紹介」を参照)。

(紛争下にある人々への支援)

日本が供与したスクールバスで登校するパラオのアイメリーク小学校のこどもたち

日本が供与したスクールバスで登校するパラオのアイメリーク小学校のこどもたち

紛争下においては、女性や女児のみならず、障害者やこどもを含む社会において困難な立場にある人々が最も影響を受けやすい点も看過できません。紛争や地雷などによる障害者、孤児、寡婦、児童兵を含む元戦闘員に加え、急増するこどもの難民や避難民などの社会的弱者は、紛争の影響を受けやすいにもかかわらず、紛争終了後の復興支援においては対応が遅れ、平和や復興の恩恵を受けにくい現実があります。

こうした観点から、日本は、児童兵の社会復帰や紛争下で最も弱い立場にある児童の保護のため、UNICEFを通じた支援を行っており、例えばパレスチナ・ガザ地区において、こどもたちを対象に心のケアや爆発物危険回避教育を実施し、家族と離れ離れになってしまった際に再会を手助けするための身元確認用のリストバンドを配布しています。また、スーダンにおける新生児ケア、ウクライナにおける学習継続支援、中央アフリカにおける元児童兵の支援、南スーダンやソマリアにおける性暴力を受けたこどもや女性の保護等を実施しています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、難民・避難民の保護活動を行うとともに、その中でも脆弱な立場に置かれやすい人々のニーズに沿った人道支援を実施しています。例えば、ウガンダでは、難民居住地域のこどもたちに対する心理社会的支援を通じて、暴力や虐待、搾取からの保護活動を行っているほか、ウクライナでは、戦火により住む場所を失った高齢者や女性が世帯主となっている世帯等、脆弱な立場におかれる人々に対して、生活物資の提供やシェルター支援、法的支援等を実施しています(紛争の影響を受ける地域での教育支援については第Ⅲ部3(5)も参照)。

案件紹介4

フィリピン

SDGs1 SDGs3 SDGs4

マニラ首都圏を含む11地域の児童福祉施設及び自治体における子ども達の支援体制強化プロジェクト
JICA草の根技術協力事業(パートナー型)(2021年3月~2024年3月)
困難な状況下のこどもたちの生きる力を育み、社会復帰を支援する

フィリピンは、近年高い経済成長を遂げていますが、貧困率の改善のペースは遅く、多くのこどもたちが弱い立場に置かれています。非行に走り、児童福祉施設や青少年更生施設に入所するこどもも少なくありませんが、施設入所中に社会で生きていく力を十分に身に付けることができず、退所後、再び非行に走ったり、犯罪を繰り返したりするこどももいます。

特定非営利活動法人アクションは、こうしたこどもたちの安定した社会復帰を目指し、「ライフスキル注1向上プログラム」や、施設職員(ハウスペアレント)がこどもとの適切な関わりやケアの仕方を学ぶ「ハウスペアレント能力強化研修」を開発しました。これらの取組は、フィリピン政府の協力の下で制度化され、「ライフスキル向上プログラム」はフィリピン全国の青少年更生施設(116か所)で導入されました。受講したこどもの約8割にライフスキルの向上が見られ、「相手の気持ちを考えて行動するようになった。」、「怒りの感情をコントロールできるようになった。」といった研修の効果を実感する感想が寄せられています。また、「ハウスペアレント能力強化研修」では、研修トレーナーを240名育成し、全国で1,000名以上の職員に研修を提供しました。

日本国内のこどもたちへの支援活動も実施する同団体は、こうした分野の日本語教材が少ない現状に着目し、本事業の成果を踏まえ、日本の小・中・高校生用に「ライフスキル向上プログラム」教材を作成し、今後、日本国内の児童福祉施設に導入していく予定です。

フィリピンのこどもたちのより良い社会生活を支えながら、活動を通じて得た知見を日本社会にも還元していきます。

ハウスペアレント能力強化研修の様子(写真:特定非営利活動法人アクション)

ハウスペアレント能力強化研修の様子(写真:特定非営利活動法人アクション)

ライフスキルプログラムのタガログ語版テキスト(写真:特定非営利活動法人アクション)

ライフスキルプログラムのタガログ語版テキスト(写真:特定非営利活動法人アクション)

注1 WHOはライフスキルを、個人が日常生活の要求や課題に効果的に対処できるようにする、適応的で積極的な行動の能力、と定義している。

用語解説

紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)
2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師およびナディア・ムラド氏が中心となって創設した基金。紛争関連の性的暴力によって傷ついた生存者の多くが公式な償いを受けていないという状況を背景に、生存者に対する償いや救済へのアクセスの促進を目的としている。生存者支援や救済のための司法制度の整備に関する啓発活動を行っている。

  1. 注89 : あらゆる分野でのジェンダー平等を達成するため、全ての政策、施策および事業について、ジェンダーの視点を取り込むこと。開発分野においては、開発政策や施策、事業は男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、全ての開発政策、施策、事業の計画・実施・モニタリング・評価のあらゆる段階で、男女それぞれの開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのこと。
  2. 注90 : 2016年に策定された、開発協力における女性活躍推進のための課題別政策。
  3. 注91 : 2017年のG20ハンブルク・サミットで立ち上げを発表。開発途上国の女性起業家や、女性が所有・経営する中小企業などが直面する、資金アクセスや制度上の様々な障壁の克服を支援することで、開発途上国の女性の迅速な経済的自立および経済・社会参画を促進し、地域の安定、復興、平和構築を実現することを目的としている。
  4. 注92 : 紛争下の性的暴力防止に関する日本の取組については、外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pc/page1w_000129.html)も参照。
  5. 注93 : 女性の保護に取り組みつつ、女性自身が指導的な立場に立って紛争の予防や復興・平和構築に参画することで、より持続可能な平和に近づくことができるという考え方。2000年、国連安全保障理事会において、同理事会史上初めて、国際的な平和と紛争予防、紛争解決には女性の平等な参画や紛争下の性的暴力からの保護、ジェンダー平等が必要であると明記した「女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)に関する安保理決議第1325号」が全会一致で採択された。
  6. 注94 : 第3次WPSに関する行動計画(2023-2028年度)の行動計画構成(5本柱):(1)女性の参画とジェンダー視点に立った平和構築の促進、(2)性的暴力及びジェンダーに基づく暴力の防止と対応、(3)防災・災害対応と気候変動への取組、(4)日本国内におけるWPSの実施、(5)モニタリング・評価・見直しの枠組み。
  7. 注95 : 国連加盟国のWPSに関する最大のネットワークで、教訓や好事例を共有。政府以外に北大西洋条約機構(NATO)、欧州安全保障協力機構(OSCE)、アフリカ連合(AU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)等の地域機構も参加。2024年12月現在、93か国・10地域機構の合計103のメンバーが参加。
  8. 注96 : 障害者の人権および基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定める条約。日本は2014年に締結した。
  9. 注97 : 第Ⅴ部2(2)を参照。
  10. 注98 : 「ネパール児童労働報告書2021」(Nepal Child Labour Report 2021) https://www.ilo.org/publications/nepal-child-labour-report-2021
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