(2)日本の強みをいかした協力ときめ細やかな制度設計
日本が自国の伝統を大切にしつつ、民主的な経済発展を遂げた歩みの中で構築してきた人材、知見、質の高い技術力、制度などは、開発協力を行う上での財産であり、日本はこうした強みをいかす開発協力の実施に努めています。
■人への投資
日本は、1954年にODAを開始して以来、研修員受入事業や専門家派遣など、日本の技術やノウハウを伝える「人への投資」を一貫して重視し、きめ細やかな人づくりに取り組んでいます。開発途上国の課題解決に貢献することを目指して、行政、農林水産、鉱工業、エネルギー、教育、保健・医療、運輸、通信など多岐にわたる分野で研修員受入事業を実施しており、2023年度は、137か国・地域から新規に9,253人が日本国内で実施される本邦研修に参加、開発途上国・地域で実施される現地国内研修には、7か国で新規に463人、第三国研修は、110か国・地域から新規に2,479人がそれぞれ参加しました。また、開発途上国政府に対する高度な政策提言や現地に適合した技術の開発などを通じて、当該国の人材の能力構築を行うことにより、開発効果を顕在化させることを目的とする専門家派遣では、2023年度は、新規および継続で6,827人のJICA専門家を103か国・地域に派遣しました。
■JICA海外協力隊(JICAボランティア事業)
ウズベキスタンのタシケント市内の小学校でこどもたちに日本語と日本文化を教えるJICA海外協力隊員(写真:JICA)
1965年に発足し、半世紀以上の実績を有するJICA海外協力隊(JICAボランティア事業)は、累計で99か国に57,000人以上を派遣しており、2024年12月現在、74か国で1,756人の隊員が活動中です。JICA海外協力隊は、まさしく国民参加型の事業であり、日本の「顔の見える開発協力」として開発途上国の発展に貢献してきました。さらに、開発途上国の経済・社会の発展のみならず、現地の人たちの日本への親しみを深めることを通じて、日本とこれらの国との相互理解・友好親善にも寄与しており、国内外から高い評価を得ています。
また、2012年以降、民間企業・団体(以下「民間企業等」)、地方自治体および大学との連携による派遣が本格的に行われるようになりました注24。民間企業等との連携では、隊員の派遣を通じて、日本での業務経験を開発途上国の開発にいかすとともに、派遣された隊員が現地での活動を通して把握したその国特有の商習慣や市場ニーズを帰国後の企業活動へ還元することなどにより、企業の海外展開を積極的に支援しています。隊員については、2024年12月までに134人が39か国に派遣されています(具体例は「案件紹介」を参照)。自治体との連携では、日本の地域づくりの知見を開発途上国の地域づくりに役立てるとともに、隊員活動における地域づくりの経験が、帰国後に日本の地域づくり、ひいては日本の国造りにつながると期待されており、2024年12月までに80人が13か国に派遣されています。大学との連携では、日本の学生による開発途上国での協力活動の経験が学生自身の成長にも資するという、日本と開発途上国の双方における効果的な人材育成につながっており、2024年12月までに1,123人が40か国に派遣されています。
また、JICAボランティア事業では、グローバルな視野を身に付けた協力隊経験者が日本の地方創生や民間企業の開発途上国への進出に貢献するなど、協力隊経験の社会還元という側面も注目されています。2022年からは、その一環として、協力隊派遣前の選考合格者のうち、帰国後も日本国内の地域が抱える課題解決に取り組む意思を有する希望者を対象に、自治体等が実施する地方創生や多文化共生等の取組に参加機会を提供する「グローカルプログラム(派遣前型)」を実施しており、2023年度は12道県20地域で112人が参加しました。参加者からは、初めての土地で人間関係を築く実体験ができたことに加えて、プログラム終了後も地域との関係が継続し、帰国後の選択肢が広がったとの声が聞かれるとともに、受入れ自治体からは、地域外の人ならではの視点での気づきを通して、住民が地元の良さを再認識することにつながると高い評価が得られました。
隊員の帰国後の進路開拓支援を行うとともに、現職参加の普及・浸透に取り組むなど、より多くの人が本事業に参加しやすくなるよう努めています。
■オファー型協力
日本が有する高い技術や科学技術は大きな強みである一方で、新興国や開発途上国の技術も発展し、求められるニーズも多様化しており、機材供与、施設整備などの質の高いハード面での協力に、運営・維持管理への関与や制度構築、人材育成を含めたソフト面での協力などを組み合わせた、付加価値のある開発協力の実践が重要になっています。このような現状も踏まえて、2023年6月に改定した開発協力大綱において、外交政策上、戦略的に取り組むべき分野において、ODAとOOF(その他の公的資金)や民間資金も含む形で、日本の強みをいかした魅力的なメニューを積極的に提案していくオファー型協力の強化を打ち出しました。同年9月、戦略文書「パートナーとの共創のためのオファー型協力」注25を策定し、(i)気候変動への対応・GX(グリーン・トランスフォーメーション)、(ii)経済強靭(じん)化、(iii)デジタル化の促進・DX(デジタル・トランスフォーメーション)注26を、戦略的に取り組む分野と定めて、オファー型協力を推進しています。
この戦略文書に基づき、被援助国との間で行われる政策対話などを通じ、分野ごとの開発協力目標、開発シナリオ、協力メニューを協働で策定します。協力メニューについては、日本からの中長期的な投入量(資金面・人材面の目安、日本の異なるスキームの案件を組み合わせた協力事業の概要等)を示しつつ、被援助国側が政策面で取り組む内容等についても議論し、必要に応じ、包括的に合意するものです。また、被援助国ごとに日本と開発途上国の双方の関係するステークホルダーとの対話の場(プラットフォーム)の設定を重視しています。これらの取組を通じ、開発協力目標の実現を図り、開発途上国の課題を解決すると同時に、様々なステークホルダーとの「共創」によって、日本の課題解決や経済成長にもつなげていきます。
オファー型協力の具体例として、カンボジアのデジタル経済社会の発展への協力が挙げられます。2023年12月、岸田総理大臣(当時)はカンボジアのフン・マネット首相との首脳会談において、同国のデジタル経済社会の発展に関するオファー型協力のメニュー注27に合意しました。2024年3月には、民間企業等のサービス・製品・ノウハウを活用し、協力をさらに推進していくため、官民ラウンドテーブル会議を開催し、関係省庁(総務省、経済産業省)、関係機関(JICA、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、株式会社日本貿易保険(NEXI)、株式会社国際協力銀行(JBIC))および民間企業が参加しました。
このほか、2024年3月の日・モザンビーク外相会談において、北部地域の治安安定化および液化天然ガス(LNG)の安定供給、同年4月の日・マダガスカル外相会談においてトアマシナ都市圏の広域開発と重要鉱物の生産技術の底上げ、同年7月の日・フィジー首脳会合において防災分野・気候変動対策について、それぞれオファー型を活用した協力を進めていくことで合意しました。
また、直近では、2024年10月、日・ラオス首脳会談において、オファー型協力の検討を含めて、ラオスと周辺国との電力連結性強化と同国のクリーン電力による脱炭素化の促進に向けて協力することで一致しました。同月実施した第2回アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合では、石破総理大臣より、将来的に域内のクリーンエネルギーの供給基地として、地域の脱炭素化に貢献するためにも、ラオスに対するオファー型協力を検討していくことを述べました。
■草の根・人間の安全保障無償資金協力
日本は、1989年度に開始された「小規模無償」を前身とする、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じ、人間の安全保障の理念を踏まえて、開発途上国・地域の行政サービスの届きにくい地域に住む人々のために、住民生活に根ざす教育、保健・医療、水・衛生、地雷除去、災害対策等、基礎生活(BHN)分野において、比較的小規模な開発事業注28を直接的かつ機動的に展開しています。その中で、日本の企業や地方自治体が事業実施に関与し、技術講習等の無料サービスを提供する特定型の事業も実施しており、日本の有する知見や技術力を活用して開発途上国・地域の社会課題解決のために一層効果的に取り組むことを推進しています。2023年度は、115か国・地域で507件を実施しました。
案件紹介14
ベトナム
JICA海外協力隊(連携派遣) 職種:コンピュータ技術
岩本英照(ひであき)(TOPPANホールディングス株式会社)(2018年4月~2019年3月)
コンピュータ技術を現地でいかす
私は、ベトナムのドンタップ省に派遣され、3年制の短期大学で、導入されたばかりのE-ラーニング・システムの改善と情報工学科の授業のサポートを担当しました。
大学では、課題提出や教材配布などにE-ラーニング・システムの活用が始まっていましたが、学生たちからは使いにくさを指摘する声が上がっていました。そこで、学生たちの意見を集め、改善提案を学校側に提出しました。大学ではアンケートを取るという文化がまだ浸透しておらず、前提となる概念から教員に説明する必要があったのは新しい経験でした。
授業サポートについては、最新の人工知能(AI)技術に関する教材を作って授業を行ったり、製造装置を制御するプログラミング事例を紹介したりしました。協力隊派遣前に工場の生産技術に携わっていた経験をいかし、学ぶ技術が社会で実際にどのように活用されるかを学生たちがイメージできるよう心がけました。
協力隊の任務終了後は、日本国内で環境に配慮したプラスチック商材の開発に携わりました。開発・製造の協力会社を新たに探して関係を構築していく際、協力隊で培った調整能力や未知の環境に飛び込む力が役立ちました。
現在は、タンザニアに駐在してスマート農業注1の実現に向けた実証に携わっています。TOPPANホールディングス株式会社と協業するOS Trading & Investment Pte. Ltd.社が運営するTANJA社のコーヒー農園で、衛星データやIoT技術注2を活用して農園運営を最適化し、地域住民の生活改善につながる事業開発を目指しています。日本と違う文化・地域に密着した仕事の進め方など、まさに協力隊の経験をいかして、東アフリカでの新規事業開発に貢献していきたいと思います。
ベトナム・ドンタップ省にある短期大学の情報工学科における授業風景(写真:岩本英照)
タンザニアでの土壌調査の様子(写真:岩本英照)
注1 ロボット技術やAIなどの先端技術や農業データを活用し、農業の生産性や効率性の向上を図るもの。
注2 日常のデバイスをインターネットに接続させ、インターネットを介して、遠隔で確認・操作・検知したりデバイス同士を連携したりする技術。
■有償資金協力
日本政府は、日本の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を通じて「顔の見える援助」を促進するため、本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)を導入するなどの制度改善を継続的に行っています。これらを通じ、日本企業の借款事業の受注比率は6~7割程度で推移しており、日本企業の海外展開の後押しにもなっています。
- 注24 : 2023年4月、「民間連携」、「自治体連携」、「大学連携」の各派遣制度は、「連携派遣」として整理・統合された。
- 注25 : オファー型協力を通じて戦略的に取り組む分野と協力の進め方「パートナーとの共創のためのオファー型協力」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100553362.pdf - 注26 : 注15を参照。
- 注27 : カンボジアに対するデジタル分野におけるオファー型協力メニュー詳細は、外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100597089.pdf)を参照。
- 注28 : 1件当たり2,000万円以下を目安とし、最大1億円。
