(5)万人のための質の高い教育
世界には小学校に通うことのできないこどもが約5,800万人もいます。中等教育も含めると、推定約2億4,400万人注83が学校に通うことができていません。特に、2000年以降、サブサハラ・アフリカでは、学校に通うことのできないこどもの割合が増加しています。とりわけ、障害のあるこども、難民や避難民のこども、少数民族や遠隔地に住むこどもなど不利な環境に置かれたコミュニティのこどもが取り残されるリスクが最も高くなっています。新型コロナウイルス感染症の拡大は、教育システムが抱える脆(ぜい)弱性も顕在化させました。また、ロシアのウクライナ侵略や、人道状況が悪化するガザ地区を含む中東を始めとする世界各地の紛争により、多数の教育施設が損傷を受け、こどもや学生の教育を受ける権利が奪われるとともに、国際的な交流も停滞しています。
教育は、人間の安全保障を推進するために不可欠な「人への投資」として極めて重要です。SDGsの目標4として、「全ての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」ことが掲げられており、国際社会は、「教育2030行動枠組」解説の目標の達成を目指しています。2024年の未来サミットでは、貧困削減を始めとする様々な課題解決のための教育の重要性が示されました(未来サミットについては「開発協力トピックス」を参照)。日本は、万人のための質の高い教育、女性・こども・若者のエンパワーメントや紛争・災害下の教育機会の確保の観点も踏まえて、引き続き教育への取組を推進しています。
●日本の取組
2024年12月、アブデルラティーフ・エジプト教育・技術教育大臣の案内で、エジプト日本学校(EJS)を視察する藤井副大臣
不就学児童が多いパキスタンで、ノンフォーマル教育の提供を支援する「オルタナティブ教育推進プロジェクトフェーズ2」を通じて学習する女子学生(写真:JICA)
日本は、開発途上国の基礎教育注84や高等教育の充実などの幅広い分野で様々な支援を行っています。
エルサルバドルでは、必要最低限の読み書きや読解力、計算力を身に付けられるよう、2006年から初・中等教育における教科書や教員用指導書の開発・改定、教員研修等を実施しています。開発した教材は全国に継続的に配布されており、2021年からは、学習状況や学力調査の結果をカリキュラムや教科書の改定、指導法の改善につなげるための支援も行っています。教科書や教員用指導書の開発は、ニカラグア、ニジェール、パプアニューギニア、モザンビーク、ラオスなどでも実績があり、これら開発途上国用に開発した教材はJICAサイトに公開注85しており、日本国内で、日本語の習得が進まず学習困難になっているこどもの学習の助けとしての活用も促しています。
アフリカでは、2022年のTICAD 8において、教育分野の取組として、就学促進、包摂性の向上、給食の提供などの取組を通じてこどもの学びを改善し、900万人にSTEM注86教育を含む質の高い教育を提供すること、400万人の女子の質の高い教育へのアクセスを改善することを表明し、2024年8月のTICAD閣僚会合では、これらの取組が着実に実施されつつあることを、パートナーと共に確認しました。学校や保護者、地域住民間の信頼関係を築き、地域全体で学校を支え、こどもの教育環境を改善するための取組として、2004年にニジェールで開始された「みんなの学校プロジェクト」注87は、2024年11月までに、11か国において約7万校の小学校で導入されており、発展モデルとしての「平和構築・コミュニティ融和モデル」では、長引く紛争等により、難民・避難民が発生し、学校が閉鎖されるなどの影響が生じている地域におけるこどもの学びを確保するための取組が試験的に実施されています。また、TICAD 8では、日・アフリカ間の大学ネットワークの下での人材育成や留学生の受入れなどを通じた高度人材の育成のほか、科学技術分野の研究協力を進めることも表明しました。
また、日本の20以上の大学とも連携し、ジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)/汎アフリカ大学科学技術院(PAUSTI)(ケニア)等を拠点とした大学ネットワークを構築し、教育・研究・産学連携等の連携強化を図ることで、研究協力を通じたアフリカ地域全体の社会課題の解決を目指しており、2024年3月までに、3,261人の高度人材を育成しています。
日本式の教育をいかした協力例として、エジプトでは2008年から、実践的かつ国際水準の工学教育を提供する「エジプト日本科学技術大学(E-JUST)」の設立を支援し、エジプト国内および中東・アフリカ地域の研究者育成に貢献しています。また、2016年に締結された「エジプト・日本教育パートナーシップ」の下、日本式教育を実践するエジプト日本学校(EJS)がこれまでに55校開校し、EJSでは科目の学習に加えて、特別活動を意味するTokkatsu注88と呼ばれる、学級会や日直、クラブ活動、掃除など、こどもたちが主体となって学校を運営する取組が行われています。2024年6月には、エジプト全国のEJS51校で、904人のこどもたちが卒業を迎えました。さらに、日本は、日ASEAN間の高等教育機関のネットワーク強化や、産業界との連携、周辺地域各国との共同研究、および日本の高等教育機関への留学生受入れなどの多様な方策を通じて、開発途上国の人材育成を支援しています。
このほかにも、日本は就学・学習機会から取り残された女児、障害のあるこども、紛争の影響を受ける地域や難民・避難民やそのホストコミュニティのこどもなど、脆弱な立場に置かれやすいこどもたちへの支援も進めています。例えば、紛争の影響を受ける地域での支援として、ウクライナでは、国内避難民としてこれまで通っていた学校に通学できなくなったこどもたちに対して、避難先でも安全に、そして安心しながら学習を継続できるように、遠隔教育機材整備やメンタルヘルスケア支援を実施しています。パレスチナでも、不安定な治安情勢において通学が制限される中で、こどもたちの学習機会を確保するため、2024年2月に無償資金協力「遠隔教育機材整備計画」に関する署名・書簡の交換が行われました。この協力により、ヨルダン川西岸地区のテレビ局に視聴覚教材制作用の機材を整備し、同地区の小学校に、遠隔授業等に対応可能な視聴覚機材およびICT機材を整備することで、学習環境の改善が期待されます。さらに、アフガニスタンでは、仮設教室の建設や図書館の整備を行い、女子児童が安心して学べる場の提供等を行っています。また、障害のあるこどもにも配慮した包摂的な教育や、気候変動対応、防災の視点を持った教育の推進にも取り組んでおり、例えばウズベキスタンでは就学前教育を受ける障害のあるこどもたちが質の高い教育を受けられるよう、教員研修を行う要員の能力強化を支援しています。
国際機関と連携した取組として、アジア太平洋地域においては、国連教育科学文化機関(UNESCO)に拠出している信託基金を通じて、アジア太平洋地域教育2030会合(APMED2030)やアジア太平洋教育大臣会合(APREMC-Ⅱ)の開催を含むSDGsの目標4達成に向けた取組を支援しています。また、UNESCOを主導機関として、「持続可能な開発のための教育解説:SDGs達成に向けて(ESD for 2030)」が、2020年1月から開始されています。同取組は、持続可能な社会の創り手の育成を通じ、SDGsの全ての目標の実現に寄与するものであり、日本は、ESD提唱国として、その推進に引き続き取り組むとともに、UNESCOへの信託基金を通じて、世界でのESDの普及・深化へ貢献しています。日本は、同信託基金を通じて、ESD実践のための優れた取組を行う機関または団体を表彰する「ユネスコ/日本ESD賞」をUNESCOと共に実施しており、これまでに21団体に授与するなど、積極的にESDの推進に取り組んでいます。
また、「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」解説に対して、2008年から2023年までに総額約5,589万ドルを拠出しています。日本は、2021年7月に開催された世界教育サミットにおいて、GPEへの支援継続も含め2021年から2025年までの5年間で15億ドルを超える教育分野に対する支援と、750万人の開発途上国の女子の教育および人材育成のための支援を表明しました。2021年度から3年間で410万人以上の女子を支援しており、今後も支援を継続していきます。さらに日本は、2024年3月に、ウクライナのこどもたちがより安全な環境で学ぶことができるよう、教育を後回しにはできない基金(ECW)解説に対して、新たに300万ドルを拠出しています。
用語解説
- 教育2030行動枠組(Education 2030 Framework for Action)
- 万人のための教育を目指して、2000年にセネガルのダカールで開かれた世界教育フォーラムで採択された「万人のための教育(EFA)ダカール行動枠組」の後継となる行動枠組み。2015年のUNESCO総会と併せて開催された教育2030ハイレベル会合で採択された。
- 持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
- 持続可能な社会の創り手を育む教育。2017年の第72回国連総会決議において、ESDがSDGsの全ての目標達成に向けた鍵となることが確認され、2019年の第74回国連総会決議で採択された「ESD for 2030」においても、そのことが再確認された。「ESD for 2030」は、「国連ESDの10年(UNDESD)」(2005年から2014年まで)、および「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」(2015年から2019年まで)の後継プログラムであり、2020年から2030年までの新しい国際的な実施枠組み。
- 教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE:Global Partnership for Education)
- 開発途上国、ドナー国・機関、市民社会、民間企業・財団が参加し、2002年に世界銀行主導で設立された開発途上国の教育セクターを支援する国際的なパートナーシップ。2011年にファスト・トラック・イニシアティブ(FTI:Fast Track Initiative)から改称された。
- 教育を後回しにはできない基金(ECW:Education Cannot Wait)
- 紛争や自然災害など緊急事態下のこどもや若年層が教育を受けられるよう支援することを目的として、2016年5月にイスタンブールで開催された国連主催の世界人道サミットで設立された基金。
- 注83 : 「Global Education Monitoring Report 2023」211ページおよび214ページ https://www.unesco.org/gem-report/en/technology
- 注84 : 生きていくために必要となる知識、価値そして技能を身に付けるための教育活動。主に初等教育、前期中等教育(日本の中学校に相当)、就学前教育、成人識字教育などを指す。
- 注85 : 教材 https://www.jica.go.jp/activities/issues/education/materials/index.html
- 注86 : Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの単語の頭文字をとったもので、その4つの分野の総称。
- 注87 : 保護者・教員・地域住民の「みんな」が学校運営委員会を構成し、行政と連携しながら、学校を運営するコミュニティ協働型学校運営という取組。保護者や教員のみならず、地域住民たちが教育の重要性を理解し、地域全体でこどもの学びを支えるもので、2004年にニジェールの小学校23校で開始し、現在ではアフリカ地域内の複数国に広がっている。
- 注88 : 特別活動の略称。規律、倫理観、協調性等が醸成される掃除、学級会、日直活動等の活動を取り入れ、知識偏重や理論中心の学びから問題解決能力や主体性、社会性、自己管理力などのライフスキルの獲得を目的とした学びに転換することを目指す取組。
