2023年版開発協力白書 日本の国際協力

2 南西アジア地域

南西アジア地域は、域内で約18億人の人口を有し、近年高い経済成長率を維持していることから、日本企業にとって魅力的な市場・生産拠点であり、投資先としても注目を集めています。また、同地域は、日本と中東・アフリカ地域を結ぶシーレーン上の要衝に位置しており、戦略的にも重要な地域です。

一方、南西アジア地域には、インフラ整備、初等教育制度や保健・医療制度の整備、法制度整備、自然災害への対応、民主主義の定着、環境・気候変動対策など、依然として多くの開発課題が存在しています。特に貧困については、世界の貧困層の約3分の1が同地域に住んでいると言われており注10、貧困の削減が大きな課題となっています。

日本は、南西アジア各国との間に伝統的な友好関係を有しており、長年にわたり同地域の最大のパートナーとして支援を実施してきています。同地域の有する経済的な潜在力をいかしながら経済社会開発や、民主化・民主主義の定着、平和構築、自然災害に対する人道・復旧に向けた支援など、多岐にわたる支援を行っています。

●日本の取組

インドのアンドラ・プラデシュ州で風力発電機の整備を行っている様子(写真:JICA)

インドのアンドラ・プラデシュ州で風力発電機の整備を行っている様子(写真:JICA)

ネパールの給水サービス向上に向けて、現地の水道工事の現状を調査する日本人専門家(写真:JICA)

ネパールの給水サービス向上に向けて、現地の水道工事の現状を調査する日本人専門家(写真:JICA)

インドは最大の円借款供与相手国であり、日本はインドにおいて、連結性の強化と産業競争力の強化に資する電力や運輸、投資環境整備、人材育成などの経済・社会インフラ整備の支援を行っています。また、持続的で包摂的な成長への支援として、気候変動対策だけでなく林産物の効果的活用などを通じた生計向上にも資する森林セクターへの支援、保健・医療体制整備や貧困対策など、様々な分野での支援を通じ、インドの成長において大きな役割を果たしています(インド工科大学ハイデラバード校整備計画については「国際協力の現場から3」を参照)。

2023年には、連結性向上に資する道路建設、保健医療体制の強化に資する施設建設、ムンバイとアーメダバード間を結ぶ高速鉄道建設、パトナ市における鉄道建設、気候変動対策のための森林・生物多様性保全、農家の所得向上のための農業生産基盤整備などに取り組む案件、インド政府のSDGs達成に向けた取組を支援する案件に関し、総額約8,830億円の円借款に関する書簡を交換しました。「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画」については、3月および9月に行われた日印首脳会談において、日・インドの旗艦プロジェクトとして引き続き推進していくことを両首脳間で確認しました。同計画が完了すれば、現在、在来線特急で最短でも5時間20分必要なムンバイ・アーメダバード間の移動が、約2時間に短縮される見込みです(「ムンバイ湾横断道路建設計画」については「案件紹介」を参照)。

近年発展が目覚ましく、日本企業の進出も増加しているバングラデシュとの間では、2023年4月のハシナ首相訪日の機会に、両国間の「包括的パートナーシップ」が「戦略的パートナーシップ」に格上げされました。日本は、本パートナーシップと、(ⅰ)経済インフラの開発、(ⅱ)投資環境の改善、および(ⅲ)連結性の向上を3本柱とする「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想の下、3月に岸田総理大臣が発表した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプランにおいて、多層的な連結性に資する具体例として挙げられた、インド東北部とバングラデシュなどを一体の経済圏と捉え、地域全体の成長を促すためのベンガル湾からインド北東部をつなぐ産業バリューチェーンの構築への貢献も念頭に、開発協力を進めています。2023年には「マタバリ港開発計画(第二期)」など6件、総額約4,000億円以上の円借款を供与しています。日本は、バングラデシュに対し、若手行政官の人材育成などのための無償資金協力も実施しています。

ミャンマー・ラカイン州の治安悪化を受けてバングラデシュに流入してきた避難民については、日本はバングラデシュ政府が避難民を長期にわたって受け入れていることを評価するとともに、今後もホストコミュニティの負担軽減を含めた支援を継続していく旨を首脳会談などで伝えており、ホストコミュニティおよび避難民に裨(ひ)益する様々な支援を行ってきています。これまでのコックスバザール県の避難民キャンプへの支援に加え、2022年1月に各国に先駆け、バシャンチャール島に移住した避難民に対し、200万ドルの緊急無償資金協力を実施して以降、日本は、避難民キャンプとバシャンチャール島の両方に対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国連世界食糧計画(WFP)、国際移住機関(IOM)など、国際機関とも連携し、食料、水・衛生、保健、シェルター、保護といった人道分野のほか、教育や技能訓練も含む避難民の生活環境全般の改善に向けた支援を続けています。日本NGO連携無償資金協力を通じた日本のNGOによる支援としては、避難民を受け入れているホストコミュニティに対し、女性の生計向上やこどもの保護に係る支援を実施しています。また、ジャパン・プラットフォーム(JPF)注11を通じて衛生環境の改善、医療提供、女性およびこどもの保護などにも取り組んでいます。これらの避難民に対する日本の無償資金協力は2022年1月以降、2023年6月までの累計で約66億円に上ります。

アジアと中東・アフリカをつなぐシーレーン上の要衝に位置するスリランカは、伝統的な親日国であり、日本はFOIPの実現に向けて、連結性強化や海洋分野などで同国との協力強化を進めてきています。また、日本は、過去の紛争の影響で開発の遅れている地域を対象に、生計向上や漁業・農業分野を中心とした産業育成・人材育成などの協力、および災害対策への支援を継続しています。2022年4月の経済危機発生以降、食品、医薬品、肥料、燃料等の必需品の不足による危機に瀕(ひん)しているスリランカに対し、2023年2月には保健医療分野向けに50億円の無償資金協力の供与を決定するなど、人道危機の解決に向けて支援を行っています。

モルディブは、スリランカ同様、インド洋シーレーンの要衝に位置する伝統的な親日国であり、日本は、FOIPの実現に向けて同国との協力強化を進めています。2023年には、島嶼(しょ)国ゆえの治安の脆(ぜい)弱性を抱える同国に対して、法執行能力を強化するための消防艇および海上保安機材に係る無償資金協力を供与しました。

パキスタンは、世界第5位の人口を擁し、アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに、テロ撲滅に向けた国際社会の取組において重要な役割を担っており、同国の安定的な発展は周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定の観点からも重要です。2022年6月以降の洪水被害を受けて、洪水被害に関する支援国会合が2023年1月に開催されました。日本は、パキスタンの復興とさらなる発展のために、2023年以降も追加支援として防災、保健、農業分野を含め、約7,700万ドル規模の支援を実施していくことを表明しました。その一環として、被災した小学校の改修支援を決定しました(パキスタンにおける取組については「案件紹介」を参照)。そのほか、2023年にも、野生株ポリオウイルスが常在する同国のポリオ撲滅に向けたワクチン接種を支援するための無償資金協力を供与したほか、若手行政官の人材育成を支援する無償資金協力を供与しました(ポリオに関するパキスタンへの支援については第Ⅲ部3(2)を参照)。

伝統的な親日国であるネパールの民主主義の定着、安定と繁栄は、日本にとって、政治的・経済的に重要な南西アジア地域全体の安定を確保する上でも重要です。2015年の大地震以降、日本は同国における「より良い復興(Build Back Better)」の実現を後押ししており、これまで、橋、病院などの公共インフラ施設や、住宅や学校などの改修や再建を支援しています。加えて、同国政府の災害リスク削減に係る能力強化や、建築基準にのっとった建物の普及などに係る各種技術協力を実施しています。2023年には若手行政官の人材育成を支援する無償資金協力を供与したほか、広域医療の拠点となる第三次医療施設を整備する無償資金協力を供与しました(ネパールにおける日本企業の取組については「匠の技術、世界へ」を参照)。

ブータンに対する日本の開発協力は、特に農業生産性の向上、道路網、橋梁(りょう)などの経済基盤整備や、人材育成といった分野で、着実な成果を上げています。2023年には、再生可能な自然資源に着目したグリーンな成長に係る施策、農村と都市のバランスの取れた自立的かつ持続可能な国造りに係る施策等の促進を行うための財政支援として、円借款を供与しました。

案件紹介6

パキスタン

SDGs5 SDGs8

人材育成を通じてアパレル産業の市場拡大を目指す
アパレル産業技能向上・マーケット多様化プロジェクト
技術協力(2016年5月~2022年12月)

パキスタンの繊維産業は、国内総生産(GDP)の約1割、総輸出額の約5割を占める製造業部門で最大の産業です。一方、輸出製品の多くは、綿糸や綿布、タオル等の付加価値の低い製品であり、生産技術を向上させ、国際市場での競争力を強化することが課題となっています。また、他国の繊維産業では女性が多く活躍していますが、パキスタンでは工場で働く女性の数は限られており、職業訓練の実施等により女性の経済活動への参加を促進し、付加価値の高い製品を生産するための人材を育成することが求められています。

このような状況を踏まえ、日本は、パキスタンのアパレル製品の高付加価値化に貢献する人材育成を支援し、その際には訓練対象に女性を多数含めることを重視しました。ラホール市およびファイサラバード市の職業訓練校を対象として訓練コースの改善に取り組み、日本人専門家が、衣料品のデザイン、パターン制作、縫製、品質管理等の技術指導を行いました。さらに、対象校と民間企業との協力関係構築を促し、卒業生を提携企業に紹介して質の高い技術者を供給すると同時に、卒業生の就職を支援しています。

その結果、本事業期間中に1,160人の女性が訓練を受け、そのうち約47%が企業に就職し、受益者の月収は、それまでの平均世帯収入の約7割にあたる2万5,000パキスタン・ルピー(PKR)(約1万3,000円)増加しました。また、そのほかの卒業生の多くも、学んだ技術を家内労働にいかして、生計向上につなげています。

日本は、今後もパキスタンの主要産業の発展と女性の経済活動への参加促進を支援していきます。

対象職業訓練校の教員に指導を行う日本人専門家(写真:JICA)

対象職業訓練校の教員に指導を行う日本人専門家(写真:JICA)

対象職業訓練校によるファッションショー(写真:JICA)

対象職業訓練校によるファッションショー(写真:JICA)


  1. 注10 : 国連開発計画(UNDP)ホームページ(ただし、同ホームページの南アジアにはアフガニスタンが含まれている)
    https://hdr.undp.org/content/2023-global-multidimensional-poverty-index-mpi#/indicies/MPI
  2. 注11 : 用語解説を参照。
このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る