国際協力の現場から 03



東京大学がインド工科大学ハイデラバード校の設計に協力
~高度な理系人材育成の拠点整備~

IITH全景。東京大学が設計に協力した建物のうち、左から国際交流会館、国際会議場、技術研究棟、ビジネス・インキュベーションセンター、図書館がうかがえる。(写真:川添善行)

現地でのIITH側との協議の様子(写真右から川添氏、大野氏、藤野氏、デサイIITH学長(当時))(写真:藤野陽三)
インドでは人口増加に伴い労働力人口も増加している一方、技能訓練を受けている人の割合は人口の1割程度にとどまっており、産業界が求める高い技能・技術を備えた人材が不足しています。技術革新が求められる製造業の振興を通じてさらなる雇用創出につなげていくためにも、人材育成は喫緊の課題です。インド政府は、1951年にインド工科大学(IIT)を設立し、インドの産業を支える人材育成において重要な理工学系高等教育に関し、国際レベルの教育と研究の機会を提供していますが、産業界の人材ニーズに応えるため、同大学の一層の拡充が求められていました。インド政府は新たなIITであるハイデラバード校(IITH)の設立について日本へ協力を要請し、2008年10月の日印首脳会談を経て、両国は、日本式経営・工学教育等のインドへの導入を通じて、日印協力の象徴となる一流の教育機関を設立し、日印間の人的および学術的な交流を強化することを目的として協力することで合意しました。
東京大学教授(当時)で、IITH設計のチームリーダーを務める藤野陽三氏は、「IITHの設立には日本の複数の大学が協力しています。2007年のシン首相(当時)からの協力要請を受けて立ち上げられた、日印の産官学関係者から構成される作業部会では、私は都市工学部門でリーダーを務めて日本がIITH設立にどのような貢献ができるか協議しました。東京大学は設計・デザイン力を評価され、設計面で協力することになりました。」と振り返ります。2011年からは東京大学教授(当時)の大野秀敏氏と同准教授の川添善行氏が加わり、東京大学はIITHの象徴となるビジネス・インキュベーションセンター、国際会議場、国際交流会館等計6棟注1の設計に協力しました。
設計においては、インド側と計15回の現地での協議を重ねました。大野氏は「ベンガル地方の伝統的な建築に使われる特徴的な屋根の形などインドの文化やデザインを取り入れながら、日本の伝統的な文様や石庭の要素も盛り込みました。国際交流会館前に作った池はインドの階段井戸様式を取り入れたものですが、キャンパスの緑化にもつながっています。」と語ります。川添氏は「東京大学はカレッジ・オブ・デザイン構想など、日本のデザイン力を海外に発出しています。インドは理系分野で特出していますが、今後はデザイン力や質の向上も求められており、今回の協力で日本のデザイン力を伝えられたのではないかと考えています。設計での協力では、図面を渡すだけでなく建設において質が確保されるよう、新型コロナウイルス感染症拡大期においてもテレビ会議等で協議を続けました。質の高い建造物を完成させるためには図面以上のコミットをするという、品質へのこだわりを伝える日本らしい協力の姿勢も示しました。」と語ります。
藤野氏は「日本が設計に携わったビジネス・インキュベーションセンターでは、日系企業がIITHと共同研究を行うセンターを開設するなど、産学協力にもつながっています。IITHには日本の建築学科にあたる学科はありませんが、設計への協力をきっかけに私たちも現地で講義を行う予定です。」と今後の展望を語ります。日本はIITHの人材育成にも協力しています。2020年までに、IITHからは研究人材育成支援プログラムとしてJICAの奨学金により116人が日本の大学に留学し、その中には日本で博士号を取得した後、IITHの教授陣に加わった人もいます。JICAおよび日本貿易振興機構(JETRO)は、IITHとの共催で2023年までに計6回、日系企業による就職説明会を行うなど、産業人材の交流も活発になりつつあります。ハイデラバード校を拠点とした、日印の交流が活発になることが期待されます。
注1 その後、IITH側からビジネス・インキュベーションセンターと同じデザインで技術研究棟の追加建設希望があり、日本が設計に協力した建造物は計7棟となっている。