国際協力の現場から 04一般公募


北九州市の「配管網のブロック化」のノウハウでカンボジアにおける安全な水の供給に貢献

日本の協力によって作られたカンポット州の浄水場で、北九州市職員がカンボジアの水道局職員に、浄水場の運転・維持管理について指導をしている様子(写真:北九州市上下水道局)

笹田氏が現地セミナーで水道関係者にカンボジアの水道行政の現状について説明している様子(写真:北九州市上下水道局)
カンボジアでは1991年に和平協定が結ばれるまで続いた内戦により、上水道施設は壊滅的な状況でした。老朽化による漏水に加えて、水道管の不法接続による盗水も行われ、1993年には漏水と盗水を合わせた無収水量率が70%に達していました。日本はカンボジア政府からの要請を受けて1993年から世界銀行やアジア開発銀行(ADB)等と共に水道インフラの再建をスタートさせました。1999年には北九州市の職員を個別専門家として派遣し、その後、JICAの技術協力プロジェクトを立ち上げ、北九州市から漏水防止技術指導のため職員を派遣し、水道行政で培った知見を伝えてきました。この協力により、プノンペン都の無収水量率は先進国並みの8%にまで改善し、「水道事業人材育成プロジェクト」第1フェーズ実施終了時の2006年時点では水道水が飲料可能なレベルにまで達するなど、水道サービスの劇的な改善を実現しました。その成功例は「プノンペンの奇跡」とも称されています。
北九州市上下水道局海外事業課の笹田和宏係長は、「北九州市の水道事業で行われてきた『配管網のブロック化』のノウハウが、無収水量率を低下させるために大きな成果を上げました。これは配水先の地域をいくつかのブロックに分け、そのブロックごとに漏水率を調査して原因を突き止める手法で、これにより漏水や盗水を減らしていきました。上水道事業の収益改善にもつながり、その資金で水質向上のための施策を実施することができ『奇跡』へとつながったのです。」と当時の取組について述べました。
一方、プノンペン以外の地方都市では水道サービスが不十分な状態にあり、施設整備と運営能力向上が急務となっていました。このため、日本は無償資金協力で地方の浄水場の建設に協力するとともに、2007年からは第2フェーズ、2012年からは第3フェーズとして技術協力プロジェクトを実施しました。北九州市からも継続して職員を専門家として派遣し、地方都市における持続的な水道事業実施のため、シェムリアップ州など8都市の地方水道を対象に、施設の運転・維持管理能力向上のための技術協力を行いました。笹田氏は「プロジェクトの開始当初は、8都市中7都市の水道事業が単年度赤字決算という厳しい財務状況でしたが、第3フェーズ終了時の2017年決算では8都市全てが単年度黒字に転換するなど、短期間で水道が事業として成立する礎を確立できました。さらに北九州市は2018年から2023年3月まで実施されたJICA『水道行政能力向上プロジェクト』にも参加し、水道セクターを所管する工業科学技術革新省に対して、水道行政のガバナンス強化を目的に、組織強化、法令整備、許認可業務、水道事業者管理、人材育成に関する協力を行いました。」と長年にわたる支援について振り返ります。
カンボジアでは多くの民営水道事業者が水道供給を担っており、ビジネスとして比較的成立しやすい人口密集地を中心に水道供給が行われているものの、国民全員が安全で手頃な価格の水道サービスを受けるための道筋や方針が示されていません。これを受けて、2023年5月からは3年計画でカンボジア全国の水道セクターを対象とした水道事業計画策定を行うプロジェクトが始動しています。笹田氏は、「現地では『水が良くなったのは北九州市のおかげ』と言われることもあり、水道行政を担う一員として誇らしい気持ちになります。」と笑みを浮かべながら語りました。今後も水道事業における北九州市の協力が期待されます。