国際協力の現場から 05
帰国留学生のネットワーク化
~モンゴルの若手行政官たちを開発課題の解決に貢献するリーダーに育てる~

受入れ先の日本の大学の教員も参加してモンゴルで実施された同窓会総会の様子(写真:JICE)

大蔵省開発金融・投資局開発金融課長として勤務するガンゾリグ氏

大蔵省財務局決済課長のナランチメグ氏
親日的な国として知られるモンゴルは、豊富な地下資源に恵まれているものの、中長期的な経済成長のためには、その資源を経済発展につなげていくことやその他の産業も発展させていくことが課題となっています。このため、国の将来を担う行政官を育成し、適切な制度構築、健全な財政計画の立案・実施など、政府機関の行政能力を向上させることが重視されています。
日本は、将来モンゴル政府中枢で政策立案に携わる人材の育成のために、無償資金協力「人材育成奨学計画(JDS)」を通じ、若手行政官の日本の大学院留学に協力しています。2001年にモンゴルがJDS対象国となって以来、これまでに400人以上の若手行政官が日本で学び、既に375人が修士号や博士号を取得し、帰国後は大蔵省等中央官庁や中央銀行など様々な分野で活躍しています。
2017年から2年間、JDSを通じて埼玉大学に留学し、帰国後に大蔵省に復職して現在は開発金融・投資局開発金融課長を務めているガンゾリグ・ブルガンクフー氏は、「日本への留学で経済学修士号を取得したことが評価されて、開発金融・投資局開発金融課長に昇進し、政策金融に関わるようになりました。」と日本留学が自身のキャリアアップにつながったと語ります。「政策投資を行う際、日本での学びを指針とし、モンゴルの財産である鉱物資源による収益を国家開発につなげることを念頭に、優先すべき政策に必要な資金を適切に割り当てられるようになりました。」と留学の成果について述べます。
同じく、大蔵省からJDSに参加し、2020年に埼玉大学から経済学修士号を取得したナランチメグ・ルブサンシャラフ氏は、現在、財務局決済課長を務めています。「私が日本で学んだのは、事業を行う前の事前分析と計画性の大切さです。帰国後、新型コロナウイルス感染症が拡大する中で高まるリモートワークの需要に対応するため、政府主導でのオンライン決済システムの導入に携わりましたが、見通しを持って事業を着実に進め、広く国民にサービスが行き届くようになりました。このような日本で学んだ事業の進め方の姿勢が、同僚や後輩たちのお手本になっていると聞いてうれしく思っています。」と、JDS留学の成果を語ります。
また、学業以外の成果について、ナランチメグ氏は「留学経験者とのつながりといった人脈も帰国後の仕事に役立っており、大きな成果です。」、ガンゾリグ氏は「留学経験をいかして日本の協力事業のカウンターパートになっており、在モンゴル日本国大使館やJICAモンゴル事務所などとの橋渡し役にもなっています。」と述べています。モンゴルでは、「JDSモンゴル同窓会」が設置されており、留学経験者、日本の学術機関、大使館およびJICAとのネットワークが構築されています。留学後のフォローアップ・セミナーや新規留学生の壮行会など、様々な機会を通じて、政府機関で活躍する帰国留学生間の絆(きずな)を深めるとともに、日本で培った知見や経験をモンゴルや世界のためにいかしていこうと話し合っているそうです。
2023年、ガンゾリグ氏とナランチメグ氏を含むJDS帰国生7名は、埼玉大学の指導教授らの協力を得て、共著「Challenges in Fiscal and Monetary Policies in Mongolia(モンゴルの財政・金融政策の課題)」を出版しました。本書には、天然資源の輸出によって国内製造業が衰退する、いわゆる「オランダ病」に陥っているモンゴル経済の現状や財政運営への影響の分析、政府系基金のガバナンス強化策など、同国の政策立案に役立つ分析結果や経済モデルが示されています。
日本で知識と経験を積んだモンゴルの有能な若手行政官たちがリーダーシップを発揮し、モンゴルの経済発展が進むとともに、日本との友好親善や対日理解が促進されることが期待されます。