2023年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 02

SDGs1 SDGs11

地震多発国トルコにおける日本発の防災教育の取組
~トルコ版「ぼうさい甲子園」で学びを広げる~

防災教育プロジェクトの様子(写真:JICA)

防災教育プロジェクトの様子(写真:JICA)

トルコ版「ぼうさい甲子園」の表彰式の様子(写真右がオズダマル氏)(写真:JICA)

トルコ版「ぼうさい甲子園」の表彰式の様子(写真右がオズダマル氏)(写真:JICA)

トルコには数多くの活断層が存在し、日本と同様、世界有数の地震多発国となっています。1999年8月のトルコ北西部を地震とするイズミット地震、同年11月のデュズジェ地震を始めとして2011年、2020年にも大規模な地震が発生しており、2023年2月にはトルコ南東部を震源として発生した地震により5万人近い犠牲者が出るなど、甚大な被害が発生しました。経済発展の中心地イスタンブールを含む人口密集地域も大きなリスクを抱えていると言われており、防災へのさらなる取組が求められています。

日本は、同じ災害多発国としてその経験や知識をいかし、トルコに対して耐震補強強化や地震復興に資する円借款供与、地震観測や耐震工学に関する共同研究の推進、防災計画策定や災害リスク管理能力向上に資する技術協力を実施してきました。1999年のイズミット地震以降は防災教育に力を入れ、2010年から2014年、および2017年から2020年までの2フェーズにわたり「防災教育プロジェクト」が実施されました。フェーズ1では、経済規模の大きい10県の小学校80校を対象とし、各校から3人の教員をマスター教員として防災に関する研修を行い、フェーズ2では全国を対象として普及拡大等の活動を実施しました。JICAトルコ事務所職員として防災教育に携わり、現在は土日基金副理事長を務めるエミン・オズダマル氏は、「阪神・淡路大震災の被災地である兵庫県の協力も得て、兵庫県の教育カリキュラムとトルコのカリキュラムを比較し、トルコに応用できる部分を取り込みました。また、こどもたちが遊びながら防災の知識を学べるよう教員たちとゲームを考案したほか、算数の文章題にも防災の内容を取り入れるなど、防災の枠にとらわれず、こどもたちが自然に知識を身に付ける工夫も行いました。」と当初の取組を振り返ります。

プロジェクト以降、研修を終えたマスター教員が他校の教員に防災の知識を伝え、各校に防災の知識を有する教員が少なくとも一人いる環境が整いました。「こどもたちに防災教育を行うと、こどもがその知識を家族や同級生に伝えます。ベッドを安全な場所に置いたり、家具を固定したりといった基本的な知識が、研修を受けた先生からこども、そしてその家族に広まっています。2月の地震でも、学習したとおりにベッド脇にかがんで身を守った生徒もいました。」と、オズダマル氏は防災教育の波及効果について語ります。

また、2021年からは防災教育プロジェクトの効果を継続的なものとするため、土日基金文化センターとJICAの共催で「防災教育教材開発コンテスト」(「ぼうさい甲子園」注1のトルコ版)を開催しています。「災害科学科を設立した宮城県の多賀城高校を視察した際、『ぼうさい甲子園』のことを知りました。防災教育プロジェクトの成果を広めるためには若者を巻き込まなければと考え、トルコ版『ぼうさい甲子園』の開催に向けて動きました。」とオズダマル氏は述べます。第1回は教員を対象として開催し、21県から40件の応募がありました。その後、対象をこどもや学生にも広げ、2023年には29県から防災に関する卓上ゲーム、模型を用いた防災シミュレーション装置など155件の応募がありました。大学生のカテゴリーには、防災関係の学科がある大学から88件のプロジェクトが集まりました。

ただ、防災教育を受けても建築基準の遵守や地盤の強化がなされていなければ、その効果は半減してしまいます。田中優子JICAトルコ事務所長は「2月の地震被害を受け、専門家チームの提言も踏まえてトルコにおける防災協力の見直しも行っています。被災都市をモデル都市としながら、災害に強い都市作りに向けて協力を続けていきます。」と今後の見通しを語ります。

現在は、兵庫県および宮城県の高校とトルコの学生をつなぐ学生交流プロジェクトを通して若者たちが被災地の経験を学び合う活動も行われています。日本の防災分野での成果が、トルコの防災により一層いかされることが期待されます。


注1 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の経験と教訓を未来に向けて継承していくため、学校や地域で防災教育や防災活動に取り組んでいるこどもたちや学生を顕彰する事業として、神戸市にある公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構(人と防災未来センター)が毎年開催している。

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る