2023年版開発協力白書 日本の国際協力

(3)質の高いインフラ

インドネシアに対する有償資金協力「ジャカルタ都市高速鉄道事業(フェーズ2)(第一期)」で建設中の駅舎と車両(写真:JICA)

インドネシアに対する有償資金協力「ジャカルタ都市高速鉄道事業(フェーズ2)(第一期)」で建設中の駅舎と車両(写真:JICA)

開発途上国の自律的発展には、人々の生活や経済活動を支え、国の発展の基盤となるインフラが不可欠です。しかし、開発途上国では依然として膨大なインフラ需要があり、2040年までのインフラ需給ギャップは約15兆ドルとも推計されています注27。開発途上国において、「質の高い成長」注28を実現するためには、この膨大なインフラ需要に応える必要がありますが、ただ多くのインフラを整備するだけでなく、開放性、透明性、ライフサイクルコストからみた経済性、債務持続可能性等を考慮していくことが非常に重要です。

日本は、海上・航空等の安全管理、防災・強靱(じん)化技術、気候変動・環境の対応に資する都市開発、安全・安心の交通システム、電力・エネルギーインフラや水供給等に強みを有しています。これらの強みをいかして相手国の社会課題解決につなげるため、開発途上国の経済・開発戦略に沿った形でインフラ整備というハード面の支援に、制度整備、運営・維持管理、人材育成などのソフト面での協力を組み合わせることにより、「質の高いインフラ」解説の整備を推進しています。

●日本の取組

インドの「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画」におけるフルスパンキャスティング組立(高架橋桁の一括製作の工法)の様子(写真:インド高速鉄道公社(NHSRCL))

インドの「ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設計画」におけるフルスパンキャスティング組立(高架橋桁の一括製作の工法)の様子(写真:インド高速鉄道公社(NHSRCL))

ラオスでの「グリッドコード整備および運用体制強化による電力品質向上プロジェクト」における国家中央給電所メンバーと日本人専門家チーム(写真:JICA)

ラオスでの「グリッドコード整備および運用体制強化による電力品質向上プロジェクト」における国家中央給電所メンバーと日本人専門家チーム(写真:JICA)

日本は、より多くの人々が良質なインフラを利用できるよう「質の高いインフラ」の国際スタンダード化を目指し、国際社会と連携して「質の高いインフラ」の重要性を発信してきました。2016年5月に日本が議長国として開催したG7伊勢志摩サミットで合意された「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」が、「質の高いインフラ投資」の基本的な要素について認識を共有する第一歩となり、2019年6月に日本が議長国として開催したG20大阪サミットでは、質の高いインフラ投資の促進に向けた戦略的方向性を示す「質の高いインフラ投資に関するG20原則」注29が承認されました。日本は、各国や国際機関とも連携し、その普及・実施に取り組んでおり、「質の高いインフラ投資」の重要性については、様々な二国間会談や多国間会議の場において確認されてきています。

2022年6月のG7エルマウ・サミットでは、世界のインフラ投資ギャップを埋めるため、G7が連携して質の高いインフラ投資を促進するためのイニシアティブであるグローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)注30が立ち上げられました。G7は、PGIIの下、5年間で、質の高いインフラに特に焦点を当てた公的および民間投資において最大6,000億ドルを共同で動員することを目指す旨を表明しました。岸田総理大臣は、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に沿ってインフラ投資を促進するため、650億ドル以上のインフラ支援と民間資金の動員の実現を目指していくことを表明し、今後もG7をはじめとする各国との連携を深めていく旨述べました。

2023年5月のG7広島サミットでは、岸田総理大臣はPGIIに関するサイドイベントを開催し、初めて民間セクターを招待しました。その中で岸田総理大臣は、PGIIの取組やPGIIの下での日本の取組を紹介するとともに、インフラ支援と民間資金の動員に向けて、アジア、アフリカ、大洋州を含め世界各地でインフラ投資を進めてきていること、質の高いインフラ投資が更に促進されるよう取り組んでいくことを表明しました(G7広島サミット詳細は第Ⅰ部2を参照)。

2023年6月のOECD閣僚理事会で発出された閣僚声明においては、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」やPGIIなどを通じて、質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靭(じん)なインフラ投資を促進することにコミットするとともに、ブルー・ドット・ネットワーク(BDN)注31のような認証スキーム等を推進する重要性を認識することが確認されました。

岸田総理大臣は、2023年9月のG20ニューデリー・サミットの機会に開催されたPGIIに関するサイドイベントにも出席し、多様な主体と連携しつつ、日本がPGIIの具体化に向けた取組を主導していくことを表明しました。

このサイドイベントにおいて、岸田総理大臣は、南アジアでの主要な取組の一つとして、日本がインド・ニューデリーで地下鉄建設を始め様々な交通インフラの整備に取り組み経済成長を後押ししてきたことを紹介し、今後日本は、これまでの成果を更に一歩進め、サプライチェーンを含む幅広い分野に支援の輪を広げ、連結性を強化していくことを表明しました。さらに、インドの「北東州道路網連結性改善計画」などの北東部開発を、バングラデシュとの「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想と有機的に結び付けることで、ベンガル湾全体の産業バリューチェーンの構築にも取り組む考えを表明しました。

ASEANにおいては、カンボジアのシハヌークビル港、インドネシアのパティンバン港やジャカルタ都市高速鉄道、フィリピンのマニラ首都圏地下鉄など、多くの交通インフラ整備事業を進めてきました。2023年9月のASEAN関連首脳会議のサイドイベントにて、ハード・ソフト両面での協力を推進する「日ASEAN包括的連結性イニシアティブ」を発表し、こうした従来の交通インフラ整備に加えて、デジタル・海洋協力・サプライチェーン・電力連結性・人・知の連結性といった分野でも連結性強化を支援していくことを打ち出しました。

太平洋島嶼(しょ)国における取組として、2021年12月に日本、米国、オーストラリア、キリバス、ナウル、ミクロネシア連邦の6か国が連名で発表した、東部ミクロネシア海底ケーブルの日米豪連携支援については、2023年6月に海底ケーブルに関する調達契約が締結されるなど、プロジェクトを着実に進めています。このように日本は、米国、オーストラリアを始めとする同志国などと連携しつつ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現のため、インド太平洋地域における連結性を強化するICT分野の質の高いインフラ整備を引き続き支援していきます。

アフリカ地域においては、2022年8月にチュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)で、質の高いインフラ整備や国境でのワンストップ・ボーダーポスト整備を通じたアフリカの社会基盤整備に加えて、地域としての連結性強化に資する取組などを打ち出しました。

日本政府は今後も、世界の質の高い成長のため、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を国際社会全体に普及させ、アジアを含む世界の国々や世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、OECD等の国際機関と連携し、「質の高いインフラ投資」の実施に向けた取組を進めていく考えです。

案件紹介1

インド

SDGs8 SDGs9 SDGs11 SDGs13

日本の技術をいかしてムンバイ都市圏をつなぐインフラ整備
ムンバイ湾横断道路建設計画
有償資金協力(2017年3月~2024年3月)

インドでは近年急速な都市化が進む一方で、公共交通インフラ整備が十分に進んでいないことから、大都市圏において交通渋滞が深刻化し、渋滞に伴う経済損失が経済開発への障害となっています。特に、インド西海岸に面する、日本企業も多数進出する国内最大規模の都市圏であるムンバイ都市圏、その中心ムンバイ市は世界有数の人口過密都市であり、ムンバイ市を擁するマハーラーシュトラ州政府は、同都市圏の広域的な経済発展のため、ムンバイ市の産業を対岸のナビムンバイ地域へ誘致し、都市開発を進めてきましたが、両地域を結ぶ交通手段は、ムンバイ湾を周回する道路と鉄道各1本のみであり、連結性の低さが課題となっていました。

本事業では、ムンバイ都市圏内の連結性向上を図るため、ムンバイ中心部から開発が進むナビムンバイ地域を、ムンバイ湾上を横断して接続する、全長約18kmの海上道路および全長約4kmの陸上アプローチ道路を建設しています。また、建設には鋼床版箱桁(はこげた)(OSD)注1と呼ばれる日本の技術がインドで初めて活用されており、OSDによる一括架設は工期短縮や環境配慮につながっています。

本事業によって、これまで1時間かかっていたムンバイ中心部とナビムンバイ地域間の移動が、4分の1の約15分に短縮される見込みです。日本企業も多数進出するムンバイ都市圏の連結性の向上は、同地域の経済発展を促進するとともに、州内の他地域に進出している日本企業にも裨(ひ)益することが期待されます。

海上での鋼床版箱桁(OSD)架設作業(写真:MMRDA/L&T-IHI Consortium)

海上での鋼床版箱桁(OSD)架設作業(写真:MMRDA/L&T-IHI Consortium)

注1 鋼床版と鋼箱桁を組み合わせた鋼構造の橋梁(りょう)形式。軽量かつ全て鋼構造であるため施工精度のばらつきが少なく、精度の高い施工が可能となる。また、一般的なPC斜張橋と比べ、橋梁の高さが低いのが特徴であり、本事業では、事業地に生息する鳥類に配慮して、この形式が選択された。

用語解説

質の高いインフラ
自然災害などに対する「強靭性」、誰一人取り残されないという「包摂性」、社会や環境への影響にも配慮した「持続可能性」を有し、真に「質の高い成長」に資するインフラのこと。2019年6月のG20大阪サミットにて、(1)開放性、(2)透明性、(3)ライフサイクルコストから見た経済性、(4)債務持続可能性といった、「質の高いインフラ」への投資にあたっての重要な要素を盛り込んだ「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が承認された。

  1. 注27 : G20グローバル・インフラストラクチャー・ハブ(GIH)による推計。
  2. 注28 : 用語解説を参照。
  3. 注29 : 用語解説「質の高いインフラ」を参照。
  4. 注30 : Partnership for Global Infrastructure and Investmentの略。持続可能で包摂的、かつ強靭で質の高いインフラへの公的および民間投資を促進するためのG7の共通のコミットメント。
  5. 注31 : 2019年11月以来、米国が主導する形で、日本、米国、オーストラリアが創設を目指す、開発途上国における質の高いインフラ案件に国際的な認証を与えるための枠組み。
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