2 G7広島サミット─開発分野における議論と成果

岸田総理大臣およびG7首脳は、原爆死没者慰霊碑に献花を行い、黙祷(とう)を捧げた。
2023年5月、日本は、G7広島サミットを議長国として開催しました。サミットでは、分断と対立ではなく協調の国際社会の実現に向けて、第一に、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くこと、第二に、G7を超えた国際的なパートナーへの関与を強化することという二つの視点を重視しました。
特に第二の視点に関しては、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国・途上国が存在感を高める中で、食料、開発、保健、気候変動・エネルギー、環境といった国際社会が直面する諸課題については、G7だけでは対応できず、グローバル・サウスと呼ばれる国々を始めとする国際社会との協力が一層重要になっているとの考えから、日本は8つの国注3と7つの国際機関注4を招待し、これらの諸課題につき議論を行いました。
岸田総理大臣からは、2023年は持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた中間年であるが、その達成に向けた資金ギャップはむしろ拡大していることを指摘し、SDGs達成に向けた着実な進捗を得るべく、開発協力の効果的活用や民間資金の動員に向けた取組を推進したいと述べ、日本は、新たな時代の人間の安全保障の理念に立脚し、脆(ぜい)弱な人々を支援する取組を重視していることを強調しました。また、2022年にG7は世界のインフラ投資ギャップを埋めるために「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」を立ち上げ、2027年までに最大6,000億ドルの官民資金を動員していくことを表明し、引き続きこの取組を強力に進めている旨述べました。さらに、国際開発金融機関(MDBs)の改革については、貧困削減といった従来の開発目標を維持しつつ、地球規模課題への対応を強化する必要がある旨述べました。加えて、全ての債権国・債務国に対し、国際ルール・スタンダードを遵守し、透明で公正な開発金融を促進していくよう呼びかけました。さらに、岸田総理大臣は、悪化する人道危機に対処するために、日本として2023年に17億ドル以上の人道支援を行っていることを明らかにし、G7としては、210億ドル以上のコミットメントを表明しました。
また、12月には、日本議長年を総括するG7首脳テレビ会議を開催しました。会議後に発出された首脳声明には、開発分野を含め、広島サミットの成果のフォローアップが記載されました。
■分野別課題

セッション6「複合的危機への連携した対応」で議長を務める岸田総理大臣
(食料)
食料に関しては、世界の食料安全保障が途上国を中心に2022年来急激に悪化し、食料システムの脆(ぜい)弱性への危機感が高まっている中、喫緊の食料危機への対処と強靱(じん)な食料安全保障の確立が急務であることにつき参加国・機関間で認識を共有しました。こうした議論を踏まえ、G7と招待国の首脳は、共同で「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明注5」を発出し、世界的な食料危機への対応と、強靭で持続可能かつ包摂的な農業・食料システムの構築に向けて、具体的な行動を示し、共に取り組んでいくことで一致しました。
(保健)
保健に関しては、(ⅰ)公衆衛生危機対応のためのグローバルヘルス・アーキテクチャー(GHA)の構築・強化、(ⅱ)より強靱、より公平、より持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成への貢献、(ⅲ)様々な健康課題に対応するためのヘルス・イノベーションの促進の3つの柱を軸にして、議論が行われました。新型コロナウイルス感染症の教訓を踏まえ、将来のパンデミックへの予防・備え・対応(PPR)を強化する観点から、G7として、「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのための広島ビジョン注6」を発出しました。岸田総理大臣は、この「広島ビジョン」で示した原則に基づき、「MCMに関するデリバリー・パートナーシップ(MCDP)」を立ち上げることを紹介し、連携を呼びかけました。また、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を念頭に、G7全体で官民合わせて480億ドル以上の資金貢献を表明しました。このうち、日本としては、政府からグローバルヘルス技術振興基金(GHIT)への2億ドルのプレッジ(供与の約束)を含め、2022年から2025年までに官民合わせて75億ドル規模の貢献を行う考えを示しました。
さらに9月の国連総会ハイレベルウィークでは、「G7保健フォローアップ・サイドイベント」を開催し、岸田総理大臣やG7を始めとする各国、関係機関が参加しました。イベントでは、民間資金や知見を国際保健に活用するインパクト投資イニシアティブの立ち上げや、PPRに必要な資金を機動的・効果的に動員できる新たな円借款制度の創設、MCDPの推進を強調しました。
(ジェンダー)
ジェンダーに関しては、G7首脳は、首脳コミュニケにおいて、ジェンダー主流化を推進すべく、政治と安全保障、経済と社会の領域を橋渡しする「ネクサス」を作り出すことによって、ジェンダー平等を促進するための、継続的で全体的かつ包括的なアプローチを採ることの重要性を提唱し、専門家が作成した「G7ファクトシート:ネクサス・アプローチを通じたジェンダー主流化の促進」を歓迎しました。また、外交、持続可能な開発政策、ODAの実施におけるネクサス・アプローチの重要性を強調したほか、今後数年間にわたり、ジェンダー平等ならびに女性および女児のエンパワーメントを促進するG7の二国間ODAの割合を、共同で増加させるためにあらゆる努力をするというコミットメントを再確認しました。
(気候変動・エネルギー・環境)
気候・エネルギーに関しては、持続可能な世界を目指し、気候変動、生物多様性の損失、汚染といった課題に一体的に取り組む必要があるとの認識を共有した上で、「気候危機」とも呼ぶべき世界共通の待ったなしの課題である気候変動について、G7も太平洋島嶼(しょ)国も、アフリカやその他の地域の国々も一緒に取り組む必要があることを確認しました。また、エネルギー安全保障、気候危機、地政学リスクを一体的に捉え、再生可能エネルギーや省エネルギーの活用を最大限導入しつつ、経済成長を阻害しないよう、各国の事情に応じ、あらゆる技術やエネルギー源を活用する多様な道筋の下で、ネット・ゼロという共通のゴールを目指すことの重要性についても、共通の認識を確認しました。加えて、岸田総理大臣から、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想注7の実現を通じ、パートナー国の経済成長を損なうことなくエネルギー移行を支援していく旨発信しました。さらに、G7首脳で発出した「クリーン・エネルギー経済行動計画」に示された、「RISE(強靱で包摂的なサプライチェーンの強化)に向けたパートナーシップ」注8の策定を始めとする具体的行動を通じて、クリーン・エネルギー移行に不可欠なクリーン・エネルギー関連製品および重要鉱物のサプライチェーンを強靱化する必要性について確認しました。気候資金の動員が極めて重要であり、気候変動に脆弱な国や人々が取り残されないような支援が必要であることについても一致しました。
環境問題に関しては、プラスチック汚染対策、海洋汚染対策、生物多様性保全、森林減少・劣化対策などの具体的な取組を進めていくための連携の強化を確認しました。プラスチック汚染対策については、2040年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心を持って、プラスチック汚染を終わらせることにコミットすることが表明されました。生物多様性の保全については、2022年12月の生物多様性条約(CBD)の第15回締約国会議(COP15)における「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(GBF)の採択を歓迎し、その迅速かつ完全な実施と各ゴールおよびターゲットを達成すること、ならびに、持続可能な森林経営と木材利用を促進することが表明されました。
(ウクライナ)

セッション8「ウクライナ」に参加するG7およびウクライナの首脳
G7広島サミットには、ゼレンスキー・ウクライナ大統領も対面で参加し、ウクライナの復旧・復興支援に関して、率直な意見交換が行われました。この中で岸田総理大臣は、中長期的なウクライナの復旧・復興に関して、官民一体となった取組が不可欠である旨述べました。G7首脳は「ウクライナに関するG7首脳声明」を発出し、ウクライナのエネルギー・インフラの復旧および改善に対する継続的な支援を改めて表明したほか、人道的地雷処理、がれきおよび汚染管理に関する経験、知見および専門知識の共有などを通じて、ウクライナの持続可能で強靱な復旧およびグリーンな復興を支援する用意があることを表明しました。また、多数国間投資保証機関(MIGA)におけるウクライナ復興・経済支援(SURE)信託基金の設立や、日本のJBICが主導した「ウクライナ投資プラットフォーム」立ち上げ等を含む、世界銀行グループ、欧州復興開発銀行(EBRD)、欧州投資銀行(EIB)および開発金融機関(DFI)によるマンデートに従った取組を歓迎しました。
また、12月に開催されたG7首脳テレビ会議には、同様にゼレンスキー大統領が冒頭部分に参加しました。岸田総理大臣は、公正かつ永続的な平和を実現するべく、G7は引き続き結束して対露制裁とウクライナ支援を強力に推進していくとの決意を示しました。また、日本として新たに人道および復旧・復興支援を含む10億ドル規模の追加支援を決定した旨述べ、今後この追加支援と世銀融資への信用補完を合わせて総額45億ドル規模の支援を行っていく用意がある旨表明しました。さらに、岸田総理大臣は、中長期的観点からのウクライナの復旧・復興支援も重要である旨指摘するとともに、日本は民間セクターの関与も得て2024年2月に日・ウクライナ経済復興推進会議を開催し、官民一体の支援の重要性を示していく旨紹介しました。
■グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)サイドイベントの開催

ベトナムにおける海外投融資「ニントゥアン省陸上風力発電事業」
日本は、米国、EUと共に、G7および招待国首脳等に加えて、民間セクターの参加者や世界銀行総裁の参加も得て、PGIIに関するサイドイベントを開催しました。サイドイベントでは、G7が多様な主体と連携しながら、パートナー国のインフラへの投資において民間資金の動員に取り組むことが表明されました。岸田総理大臣からは、PGIIの取組や同パートナーシップの下での日本の取組を紹介するとともに、日本は、5年間で650億ドル以上のインフラ支援と民間資金の動員に向けて、アジア、アフリカ、大洋州を含め世界各地でインフラ投資を進めてきていること、質の高いインフラ投資がさらに促進されるよう取り組んでいくことを表明しました。サイドイベント終了後には、同パートナーシップのこれまでの進展等を示すファクトシート注9が発出されました。
同ファクトシートには、海外投融資の取組の一環として、気候変動の緩和(再生可能エネルギー・植林・EV事業等)・適応(農業・上下水道等)に貢献する事業へ15億ドルを上限に融資する「気候変動対策推進ファシリティ」(ACCESS)、農業分野での気候変動の適応や、小規模農家等の脆弱層の所得や農業生産性の向上等に貢献する事業へ10億ドルを上限に融資する「食料安全保障対応ファシリティ」(SAFE)、中小零細企業、低所得者層、女性のいずれかの正規金融へのアクセス改善に寄与する事業へ15億ドルを上限に融資する「金融包摂促進ファシリティ」(FAFI)の創設が含まれており、日本のPGIIの下での取組の一つとして、総額40憶ドルの融資枠が創設されています。
- 注3 : オーストラリア、ブラジル、コモロ(アフリカ連合(AU)議長国)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム(PIF)議長国)、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、韓国、ベトナム。
- 注4 : 国連、国際原子力機関(IEA)、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)。
- 注5 : 強靭なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100506872.pdf
- 注6 : 感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのための広島ビジョン https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100506758.pdf
- 注7 : 岸田総理大臣が2022年1月の施政方針演説にて、アジア各国と脱炭素化を進めるとの理念を共有し、エネルギー移行を進めるために協力することを目的として提唱。2023年3月のAZEC閣僚会合にて協力枠組みとしてAZECを立ち上げ、同年12月には初のAZEC首脳会合を開催した。AZECパートナー国は、インドネシア、オーストラリア、カンボジア、シンガポール、タイ、日本、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ラオス。
- 注8 : 2023年10月、モロッコのマラケシュで開催された世界銀行・IMF年次総会の際に立ち上げられた。
- 注9 : G7グローバル・インフラ投資パートナーシップに関するファクトシート https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100506927.pdf