2023年版開発協力白書 日本の国際協力

第Ⅲ部 課題別の取組

ザンビアにおいて、自動車の故障診断機を使い、故障個所の特定方法や整備方法に関して技術協力を行うJICA海外協力隊員(写真:JICA)

ザンビアにおいて、自動車の故障診断機を使い、故障個所の特定方法や整備方法に関して技術協力を行うJICA海外協力隊員(写真:JICA)

1 新しい時代の「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅

(1)経済社会の自律性・強靱性の強化

日本はこれまで経済成長を実現すること、そしてその成長を「質の高い成長」解説とすることにより、最も基本的な開発課題である貧困撲滅を目指してきました。「質の高い成長」のためには、発展の基盤となるインフラ(経済社会基盤)の整備が重要です。また、民間部門が中心的役割を担うことが鍵となり、産業の発展や貿易・投資の増大といった民間活動が活発になることが不可欠です。しかし、世界経済が新型コロナウイルス感染症の影響やロシアによるウクライナ侵略により、エネルギーや食料価格の高騰、サプライチェーン注1の混乱に直面する中、とりわけ開発途上国では、貿易を促進し民間投資を呼び込むための能力構築や環境整備を行うことが困難な場合があり、開発途上国の経済社会の自律性・強靱(じん)性の強化の観点から、国際社会からの支援が求められています。

●日本の取組

■サプライチェーンの強靱化・多様化、経済の多角化
タイ「バンコク大量輸送網整備事業(レッドライン)(3)」において、屋根を建設中のバンスー(現クルンテープ・アピワット)駅(写真:JICA)

タイ「バンコク大量輸送網整備事業(レッドライン)(3)」において、屋根を建設中のバンスー(現クルンテープ・アピワット)駅(写真:JICA)

モザンビークにおける一村一品キャンペーンで、中小企業支援プログラムへの応募者を支援する様子(写真:JICA)

モザンビークにおける一村一品キャンペーンで、中小企業支援プログラムへの応募者を支援する様子(写真:JICA)

日本は開発途上国の輸出能力や競争力を向上させるため、開発途上国が貿易を行うために重要な港湾、道路、橋などの輸送網の整備、発電所・送電網など産業関連インフラの整備といったハード面での協力に加えて、貿易管理・税関に関する行政手続の円滑化に向けて、税関職員、知的財産権の専門家の教育などの貿易関連分野における技術協力といったソフト面からも、開発途上国の貿易・投資環境や経済基盤の整備に向けた協力を行っています。

こうした協力を通じて、開発途上国の経済的強靭性と経済安全保障を強化していくことは、開発途上国の質の高い成長を確保しつつ、日本経済への裨(ひ)益という成長の好循環を確保していく上で喫緊の課題となっています。こうした観点も踏まえ、2023年5月のG7広島サミットにおいて、日本はサプライチェーンや基幹インフラの強靱化を含む経済的強靱性と経済安全保障の強化に関する議論を主導しました。議論の結果、G7首脳は、G7枠組を通じて包括的な形で協働し、連携していくことを確認し、この課題に関する包括的かつ具体的なメッセージとして「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」を発出しました。その中で、「特に途上国の強靱性の構築を支援する」との強い意志を再確認しました。加えて、G7として、クリーン・エネルギー移行に必要不可欠な重要鉱物および再生エネルギー機器製造のサプライチェーンの強靱化に関する「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」を発表し、「世界中のパートナーとの協力および支援を深化させることを目指す」ことで一致しました。

サプライチェーン強靱化に資するインフラ支援の一例を挙げると、インドネシアの西ジャワ州・パティンバン港において、円借款や技術協力を活用し、日本企業の協力の下で、2018年から港湾開発およびアクセス道路整備を進めています。2021年12月には日本企業が出資する現地企業による自動車ターミナルの本格運営が開始され、2022年4月以降には港の拡張工事が進められ、有料アクセス道路の整備も開始されるなど、物流改善等に向けた官民が連携しての協力が進展しています(インドでの日本のインフラ支援については「案件紹介」を、その他のインフラ支援については第Ⅲ部1(3)を参照)。

インドネシア、カンボジア、タイ、フィリピン、ベトナム、ラオスを対象にサプライチェーン強靱化、持続的な物流システムの構築およびフードバリューチェーン注2強化に関する研修を実施しており、2022年度には計246人の行政官等が参加しました。インドネシアにおいては、2022年から、国境付近の離島6島で、水産施設の整備に加え、離島経済活性化のため水産物の高付加価値化や島外への流通等を整備するための技術協力を実施しています。

開発途上国の貿易を促進するための協力としては、日本は開発途上国産品の日本市場への輸入を促進するため、最恵国待遇関税率より低い税率を適用するという一般特恵関税制度(GSP)を導入しています。特に後発開発途上国(LDCs)解説に対して特別特恵関税制度を導入し、無税無枠措置解説をとっています。また日本は、経済連携協定(EPA)解説や投資協定を積極的に推進しています。これらの協定により、貿易・投資の自由化(関税やサービス貿易障壁の削減・撤廃等)および海外に投資を行う企業やその投資財産保護を通じたビジネス環境の整備が促進され、日本企業の開発途上国市場への進出を後押しし、ひいては開発途上国の経済成長にも資することが期待されます。

日本を含む先進国による支援をさらに推進するものとして、世界貿易機関(WTO)や経済協力開発機構(OECD)を始めとする様々な国際機関等において「貿易のための援助(AfT)」解説に関する議論が活発になっています。日本は、AfTを実施する国際貿易センター(ITC)などに拠出し、開発途上国が貿易交渉を進め、国際市場に参入するための能力を強化すること、およびWTO協定を履行する能力を付けることを目指しています。2023年には、日本はITCを通じて、アフリカの女性起業家に対する電子商取引の活用に向けた支援、ナイジェリアにおけるワクチンの生産および配布の拡大に向けた技術協力、ナイジェリアを中心とする西アフリカの政府、ビジネス支援機関(貿易振興機関・商工会議所等)、零細・中小企業に対する能力構築支援、ウクライナにおける避難民の就労および起業支援などを行っています。

税関への支援に関しては、ASEAN諸国を中心に、日本の税関の専門的知識や技術などの共有を通じて、税関の能力向上を目的とした支援を積極的に行っています。タイでは2021年7月から「税関人材育成能力強化プロジェクト」を実施しています。世界税関機構(WCO)への拠出を通じて、WCOが有する国際標準の導入や各国のベスト・プラクティスの普及の促進を通じた、国際貿易の円滑化および安全確保の両立等のための能力構築支援活動に貢献しています。日本の税関出身のJICA長期専門家をASEAN6か国注3に派遣し、ニーズに応じた支援を実施するとともに、アフリカではJICA/WCO合同プロジェクトとして、各国税関で指導的役割を担う教官を育成するプログラム(マスタートレーナープログラム)を実施しています。このプログラムは、2021年からは太平洋島嶼(しょ)国にも拡大して実施しています。

開発途上国の小規模生産グループや小規模企業に対して、「一村一品キャンペーン」解説への支援も行っています。開発途上国へ民間からの投資を呼び込むため、開発途上国特有の課題を調査し、投資を促進するための対策を現地政府に提案・助言するなど、民間投資を促進するための支援も進めています。

■金融・資本市場制度整備支援

開発途上国の持続的な経済発展にとって、健全かつ安定的な金融システムや円滑な金融・資本市場は必要不可欠な基盤です。金融のグローバル化が進展する中で、新興市場国における金融システムを適切に整備し、健全な金融市場の発展を支援することが大切です。こうした考えの下、金融庁は、日本の金融・資本市場の規制・監督制度や取組等に関する新興国金融行政研修を実施しました。具体的には、2023年3月に「証券監督者セミナー」を対面形式で、また、「保険監督者セミナー」をオンラインでそれぞれ実施し、計7か国10人が参加しました。

■国内資金動員支援

開発途上国が、自らのオーナーシップ(主体的な取組)で様々な開発課題を解決し、質の高い成長を達成するためには、開発途上国が必要な開発資金を税収などの形で、自らの力で確保していくことが重要です。これを「国内資金動員」といい、持続可能な開発目標(SDGs)解説を達成するための開発資金が不足する中、重要性が指摘されており、日本は、国際機関等とも協働しながら、この分野の議論に貢献するとともに、国内資金動員に関連した支援を開発途上国に対して提供しています。例えば、日本は、開発途上国の税務行政の改善等を目的とした技術協力に積極的に取り組んでおり、2023年には、納税者管理、国際課税、徴収などの分野について、フィリピン、ベトナム、ラオスで、国税庁の職員がJICA長期専門家として活動しました。さらに、開発途上国の税務職員等を対象に、国際税務行政研修(ISTAX)や国際課税研修なども実施しています。また、タイでは固定資産評価能力プロジェクトが2022年11月から実施されています。IMFやアジア開発銀行(ADB)が実施する国内資金動員を含む税分野の技術支援についても、人材面・知識面・資金面における協力を行っており、アジア地域を含む開発途上国における税分野の能力強化に貢献しています。

また、多国籍企業等による過度な節税対策の防止に取り組むOECD/G20 BEPSプロジェクト解説の実施も、開発途上国の持続的な発展にとって重要です。このプロジェクトを各国が協調して実施することで、開発途上国は、多国籍企業の課税逃れに適切に対処し、自国において適正な税の賦課徴収ができるようになるとともに、税制・税務執行が国際基準に沿ったものとなり、企業や投資家にとって、安定的で予見可能性の高い、魅力的な投資環境が整備されることとなります。現在、BEPSプロジェクトで勧告された措置を実施する枠組みには、開発途上国を含む140を超える国・地域が参加しています。この枠組みの下、2021年10月に、経済のグローバル化およびデジタル化に伴う課税上の課題に対応するための2本の柱注4からなる解決策が合意されました。本合意が迅速に実施されるよう多数国間条約の策定や国内法の改正等の作業を進めることとされています。

■産業人材育成、雇用創出を含む労働分野の支援
「アセアン工学系高等教育ネットワークプロジェクト(フェーズ4)」においてタイ・バンコクで開催された電気電子工学分野の国際会議の様子(写真:JICA)

「アセアン工学系高等教育ネットワークプロジェクト(フェーズ4)」においてタイ・バンコクで開催された電気電子工学分野の国際会議の様子(写真:JICA)

ナイジェリア・ナサラワ州ドマ市の小規模農家を対象に、金融機関へのアクセス改善に向けて、クレジットスコアリングの概念実証に使用するデータ収集を行う現地企業スタッフ(写真:Zowasel社)

ナイジェリア・ナサラワ州ドマ市の小規模農家を対象に、金融機関へのアクセス改善に向けて、クレジットスコアリングの概念実証に使用するデータ収集を行う現地企業スタッフ(写真:Zowasel社)

質の高い成長の実現には、産業発展を支える産業人材の育成が重要です。日本は、教育・訓練を受ける機会が限られがちな開発途上国において、多様な技術や技能を有する産業人材を育成するため、各国で拠点となる技術専門学校および職業訓練校への支援を実施しています。支援の実施に当たり、日本は民間部門とも連携し、日本の知見・ノウハウをいかし、教員・指導員の能力強化、訓練校の運営能力強化、カリキュラム・教材の開発・改訂支援などを行い、教育と雇用との結び付きをより強化する取組を行っています(パキスタンにおける取組については「案件紹介」を参照)。

2016年から2023年の間に、産業界と連携し、9か国13事業を通じて、19の職業技術教育訓練(TVET:Technical and Vocational Education and Training)機関に対して、施設および機材の整備を含む複合的な支援を行いました。2023年には、20か国・地域13案件で、女性の生計向上を目的とした技能開発にも貢献しました。また、2023年ザンビアで500人への農業・起業訓練および500世帯への農業投入物・起業資金の提供に貢献しました。

アジア地域では、2023年9月に発表した「日ASEAN包括的連結性イニシアティブ」において、今後3年間で5,000人の人材育成を実施することを示しており、課題別研修や人材育成奨学計画(JDS)など様々な事業を通じて、ASEAN諸国の国づくりを担う人材育成に協力していきます。

2017年度から実施している「イノベーティブ・アジア」事業では、アジアの開発途上国の優秀な理系学生を対象に、日本での留学や企業などでのインターンシップの機会を提供し、日本とアジア各国との間で高度人材の還流を促進しています。

厚生労働省では、インドネシア、カンボジア、ベトナムを対象に、質の高い労働力の育成・確保を図るため、これまでに政府および民間において培ってきた日本の技能評価システム(日本の国家試験である技能検定試験や技能競技大会)のノウハウを移転する研修注5を日本国内および対象国内で行っています。2022年度にこれらの研修に参加したのは、3か国合計87人で、これにより、対象国の技能評価システムの構築・改善が進み、現地の技能労働者の育成が促進されるとともに、雇用の機会が増大して、技能労働者の社会的地位も向上することが期待されています。

アフリカ地域では一人ひとりの持続的な成長に向けて、産官学連携によるABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ)注6やカイゼン注7イニシアティブ、国際機関と連携した技術支援などを通じて、産業人材の育成を支援しています(ABEイニシアティブについては、第Ⅴ部1(6)および第Ⅴ部2(2)アを参照)。

日本は、労働分野における支援も進めています。社会経済情勢の悪化の影響は、若者、女性を始めとした社会的に脆(ぜい)弱な立場におかれやすい人々に強く表れがちです。安定した雇用を生み出していくためには、それぞれの国が社会的セーフティネットを構築してリスクに備えるとともに、全ての働く人のディーセント・ワーク(SDGsの目標8で設定された働きがいのある人間らしい仕事)の実現に向けた支援や対応が国際的にも強く求められています。日本は、国際労働機関(ILO)への拠出などを通じて、アジア地域を中心に、労働安全衛生水準の向上や社会保険制度の整備などの開発協力を行っています。アフリカ地域注8での若者の雇用支援などにも貢献しており、ディーセント・ワークの実現に向けた取組を行っています。

■資源・エネルギーへのアクセス確保
ナイジェリア「配電分野能力向上プロジェクト」で供与する機材(防護管)の設置作業を実演する様子(写真:Ruriko Suezawa)

ナイジェリア「配電分野能力向上プロジェクト」で供与する機材(防護管)の設置作業を実演する様子(写真:Ruriko Suezawa)

ケニアでの「地熱発電事業における蒸気供給管理能力向上プロジェクト」における管理研修の様子(写真:JICA)

ケニアでの「地熱発電事業における蒸気供給管理能力向上プロジェクト」における管理研修の様子(写真:JICA)

世界で電力にアクセスできない人々は2021年時点で約6.75億人に上ると言われています注9。電気やガスなどのエネルギー供給の欠如は、産業発達の遅れや雇用機会の喪失を引き起こし、貧困をより一層深めるといった問題につながります。今後、世界のエネルギー需要は、アジアを始めとする新興国や開発途上国を中心にますます増えることが予想されています。同時に気候変動対策は喫緊の課題です。そのような状況下、エネルギー供給源の多角化やエネルギー源の多様化などを通じて、2050年ネット・ゼロ排出目標達成に向けて脱炭素化をはかりつつ、エネルギー安全保障を確保していくことが重要です。

日本は、開発途上国の持続可能な開発を推進するため、近代的なエネルギー供給を可能にする支援を提供し、産業育成のための電力の安定供給に取り組んでいます。省エネルギー設備や再生可能エネルギー(水力、太陽光、太陽熱、風力、地熱など)を活用した発電施設など、環境に配慮したインフラ整備も支援しています(気候変動に関する日本の取組については第Ⅲ部3(1)を参照)。

日本は、国土が広い海域にまたがり、気候変動の影響に脆弱な太平洋島嶼(しょ)国地域において、エネルギー安全保障および低・脱炭素社会実現の観点から、グリッド接続型の再生可能エネルギーの主流化に向けた支援を行っています。また、ドミニカ共和国においては、輸入化石燃料に電力供給源の多くを依存する同国のエネルギー効率化を支援するため、円借款により、全国の公道における街灯のLED化などを支援しており、同国の公共セクターの省エネルギー化の促進および温室効果ガス排出量の削減に貢献することが期待されています。

2022年8月に開催した第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)注10では、オーナーシップと共創、機動的な資金動員、多様なパートナーとの連携によるアプローチにより日本の貢献を最大化することを目的として、「アフリカ・グリーン成長イニシアティブ」が立ち上げられました。このイニシアティブに基づく取組として、再生可能エネルギー発電事業への民間投資や地熱発電量の拡大、脱炭素社会の実現に重要となる銅やレアメタル等の鉱物資源分野での協力が表明されました。アフリカ各国が自然資源と生態系を適正に保全・活用し、持続可能な成長(グリーン成長)を実現するための支援として、アフリカパワープール(国際送電網)、配電網、系統安定化の整備などを実施しています。

ケニアでは、オルカリア地熱発電所の開発支援を通じて、電力供給の増加・安定化に貢献しており、日本企業が事業実施の一端を担っています。2022年には、I-6号機およびV地熱発電所の完工式が開催され、本発電所の運用開始により、ケニアの国全体としての地熱による発電設備容量は世界で6番目となりました。

■食料安全保障に向けた取組
ベナンで、零細農家である地域住民と日々コミュニケーションを重ねながら、零細農家の収益向上を目指して活動するJICA海外協力隊員(写真:JICA)

ベナンで、零細農家である地域住民と日々コミュニケーションを重ねながら、零細農家の収益向上を目指して活動するJICA海外協力隊員(写真:JICA)

タジキスタン・トゥルスンゾダ市で、小規模農家向け市場志向型農業振興(SHEP)プロジェクトにおいて、所得向上につながる売るための作物としてイチゴを生産し、収穫する小規模農家の様子(写真:JICA)

タジキスタン・トゥルスンゾダ市で、小規模農家向け市場志向型農業振興(SHEP)プロジェクトにおいて、所得向上につながる売るための作物としてイチゴを生産し、収穫する小規模農家の様子(写真:JICA)

「世界の食料安全保障と栄養の現状2023」注11によると、2022年には6億9,100万人から7億8,300万人が飢餓状態にあるとされています。その数は、新型コロナの世界的な拡大前の2019年に比べ、約1億2,200万人増加しています。また、同報告書では、2030年になっても、約6億人が飢餓に直面すると予測しています。「SDGs目標2『飢餓をゼロに』の達成に向けて農業食料システムを変革し、それらを活用する努力を倍増する以外に選択肢はない」とし、政策介入、行動、投資を導く必要があると提言しています。

日本は、食料不足に直面している開発途上国からの要請に基づき、食糧援助注12を行っています。2023年には、21か国・地域に対し、日本政府米を中心に総額61.5億円の支援を行いました。

二国間支援に加え、日本は、国際機関と連携した食料支援にも取り組んでいます。例えば、国連世界食糧計画(WFP)を通じて、教育の機会を促進する学校給食プログラムや、食料配布により農地や社会インフラ整備への参加を促す取組を実施しています。2023年には、ロシアによるウクライナ侵略の影響を受け、食料需給の逼(ひっ)迫や急激な物価上昇等が起きたギニアに対して、8月にWFPを通じて3億円の無償資金協力を行うことを決定し、日本政府米を供与することとなりました。WFPは2022年に世界120以上の国と地域で約1億6,000万人に対し、約480万トンの食料配布や現金給付を通じた食料支援などの活動を行っており、日本は2022年、WFPの事業に総額約2億6,512万ドルを拠出しました。

日本は、国際開発金融機関(MDBs)解説への拠出などを通じ、開発途上国の栄養改善を支援しており、2021年には世界銀行のグローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)解説および栄養改善拡充のための日本信託基金解説に対し、計7,000万ドルの追加拠出を表明しました。開発政策において栄養を主流化する観点から、2021年12月に日本が主催した世界銀行グループの国際開発協会(IDA)第20次増資では、栄養を含む人的資本の強化を重点分野に盛り込みました。日本は、2021年12月に「東京栄養サミット2021」を主催し、岸田総理大臣は、3年間で3000億円以上の栄養関連支援を表明しました。2022年中に日本は1,606.82億円(暫定)を拠出しました。

食料安全保障と栄養改善の達成に向けて、日本は、食料支援に加えて、フードバリューチェーンの構築解説を含む農林水産業の振興に向けた協力を重視し、地球規模課題として食料問題に積極的に取り組んでいます。

開発途上国では、生産した農産物の買取価格が安いことなどが多くの農家が貧困から抜け出せない要因の一つとなっています。日本は、各国・地域でフードバリューチェーン構築の重点的取組を定めた「グローバル・フードバリューチェーン構築推進プラン」を策定するなど、民間企業と連携した開発途上国におけるフードバリューチェーンの構築を推進しています。2023年は、タイと二国間政策対話を実施しました。

日本は、アフリカの経済成長において重要な役割を果たす農業を重視しており、その発展に積極的に貢献しています。具体的には、アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)解説フェーズ2の下、RICEアプローチ解説において、灌漑(かんがい)施設の整備や、アジア稲とアフリカ稲を交配したネリカ(NERICA)解説を含む優良品種に係る研究支援や生産技術の普及支援など、生産の量と質の向上に向けた取組を進めています。CARDの対象は、これまでに32か国に拡大しています。

2022年8月に開催したTICAD 8では、CARDを通じて15万人の人材育成を行い、2030年までのコメ生産量倍増(5,600万トン)を実現することを目標として掲げました。

自給自足から「稼ぐため」の農業への転換を推進するため、日本は、小規模農家向け市場志向型農業振興(SHEP)アプローチ解説を通じ支援を実施しています。SHEPアプローチは、野菜や果物を生産する農家に対し「売るために作る」への意識変革を起こし、営農スキルや栽培スキルの向上によって農家の園芸所得向上を目指しており、これまでアフリカ29か国において、研修事業や専門家派遣などを通じて自給自足型農業からの転換を支援してきました。TICAD 8では、6万6,000人の「稼ぐ」ための農業転換支援を実施することを表明しています。TICAD 8では、アフリカ開発銀行の緊急食糧生産ファシリティへの3億ドルの協調融資による食料生産強化支援を行うことも表明しました。

国際的な農産品市場の透明性向上を通じた食料安全保障の向上に貢献すべく、日本は、「農業市場情報システム(AMIS)」注13へのデータ提供や事業費の拠出などを通じて、AMISを支援する取組も行ってきました。2023年5月、G7広島サミットにおいてもAMISへの取組を強化することを確認しました。

日本は、開発途上国の食料生産基盤を強化するため、FAO、IFAD、国際農業研究協議グループ(CGIAR)、WFPなどの国際機関を通じた農業支援を行っています。例えば、日本は、FAOを通じて、開発途上国の農業・農村開発に対する技術協力や、食料・農業分野の国際基準・規範の策定、統計の整備に対する支援などを実施しています。また、15の国際農業研究機関からなるCGIARが行う品種開発やデジタル農業技術の導入など、生産力の向上と持続可能性の両立に向けた研究開発を支援しています。2023年3月にはロシアによるウクライナ侵略の影響を受けて悪化しているグローバルな食料安全保障への対応として、アジア、中東およびアフリカ諸国に対する総額5,000万ドルの食料関連支援を決定し実施しています。このほか、2023年4月、日本は、「民間セクター・小規模生産者連携強化(ELPS)」イニシアティブを立上げ、先進国等による開発途上国の農業生産支援の促進を実施しています。同イニシアティブは、G7宮崎農業大臣会合においても各国から歓迎されました。

日本は、こうした農業支援に加えて、国際獣疫事務局(WOAH)やFAOを通じた動物衛生の向上にも貢献しています。例えば、鳥インフルエンザ、口蹄(てい)疫、アフリカ豚熱(ASF)などの国境を越えて感染が拡大する動物の感染症に対処するため、WOAHとFAOが共同で設置した「越境性動物疾病の防疫のための世界的枠組み(GFTADs)」の下、アジア・太平洋地域を中心に、動物衛生分野での国際機関の取組を支援しています。

用語解説

質の高い成長
成長の果実が社会全体に行き渡り、誰ひとり取り残さない「包摂性」、世代を超えた経済・社会・環境が調和する「持続可能性」、自然災害や経済危機などの様々なショックへの耐性および回復力に富んだ「強靱性」を兼ね備えた成長(開発協力大綱)
後発開発途上国(LDCs:Least Developed Countries)
国連による開発途上国の所得別分類で、開発途上国の中でも特に開発が遅れており、2017年から2019年の一人当たりの国民総所得(GNI)が平均で1,018ドル以下などの基準を満たした国々。2022年現在、アジア9か国、アフリカ33か国、中南米1か国、大洋州3か国の46か国が該当する。
無税無枠措置
後発開発途上国(LDCs)からの輸入産品に対し、原則無税とし、数量制限も行わないとする措置。日本はこれまで、同措置の対象品目を拡大してきており、全品目の約98%を無税無枠で輸入可能としている。
経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)
特定の国や地域の間で物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含む、幅広い経済関係の強化を目的とする協定。このような協定によって、国と国との貿易・投資がより活発になり、さらなる経済成長につながることが期待される。
貿易のための援助(AfT:Aid for Trade)
開発途上国がWTOの多角的貿易体制の下で、貿易を通じて経済成長と貧困削減を達成することを目的として、開発途上国に対し、貿易関連の能力向上のための支援やインフラ整備の支援を行うもの。WTOでは、開発途上国が多角的な自由貿易体制に参加することを通じて開発を促進することが重視されている。
一村一品キャンペーン
1979年に大分県で始まった取組で、地域の資源や伝統的な技術をいかし、その土地独自の特産品の振興を通じて、雇用創出と地域の活性化を目指すものであり、海外でも活用されている。一村一品キャンペーンでは、アジア、アフリカなど、開発途上国の民族色豊かな手工芸品、織物、玩具を始めとする魅力的な商品を掘り起こし、より多くの人々に広めることで、開発途上国の商品の輸出向上を支援している。
持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)/持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)
ミレニアム開発目標(MDGs、2001年)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成される。
OECD/G20 BEPSプロジェクト
BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)とは、多国籍企業等が租税条約を含む国際的な税制の隙間・抜け穴を利用した過度な節税対策により、本来課税されるべき経済活動を行っているにもかかわらず、意図的に税負担を軽減している問題を指す。BEPSプロジェクトは、こうした問題に対処するため、2012年6月にOECD租税委員会が立ち上げたもので、公正な競争条件を確保し、国際課税ルールを世界経済および企業行動の実態に即したものにするとともに、各国政府・グローバル企業の透明性を高めるために国際課税ルール全体を見直すことを目指している。
国際開発金融機関(MDBs:Multilateral Development Banks)
開発途上国の貧困削減や持続的な経済・社会的発展を、金融支援や技術支援、知的貢献を通じて総合的に支援する国際機関の総称。一般的にMDBsと言えば、全世界を支援対象とする世界銀行グループ(World Bank Group)と、各所轄地域を支援するアジア開発銀行(ADB)、米州開発銀行(IDB)、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州復興開発銀行(EBRD)の4つの地域開発金融機関を指す。
グローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF:Global Financing Facility)
母子保健分野の資金リソースを拡充するために、2015年に世銀や国連などが立ち上げたイニシアティブ。女性やこどもの栄養状態改善を含む母子保健分野の政策の策定や、実施能力の向上のための技術支援を実施している。策定された計画の実行について、世銀の低利融資などを受けることをGFFによる支援の条件とすることで、資金動員効果を企図している。
栄養改善拡充のための日本信託基金
重度栄養不良国での栄養対策への投資を拡大し、栄養不良対策の実施のための能力開発を行うことを目的に、2009年に設立された基金。重度栄養不良国に対し、栄養改善に係る政策の策定や、実施能力向上のための技術支援を行い、当該国や世銀などによる栄養関連の投資を後押ししている。
フードバリューチェーンの構築
農家を始め、種や肥料、農機などの資機材の供給会社、農産物の加工会社、輸送・流通会社、販売会社など多くの関係者が連携して、生産から製造・加工、流通、消費に至る段階ごとに農産物の付加価値を高められるような連鎖をつくる取組。例えば、農産物の質の向上、魅力的な新商品の開発、輸送コストの削減、販売網の拡大による販売機会の増加などがある。
アフリカ稲作振興のための共同体(CARD:Coalition for African Rice Development)
アフリカにおけるコメ生産拡大に向けた自助努力を支援するための戦略(イニシアティブ)であると同時に、関心あるコメ生産国と連携して活動することを目的としたドナーによる協議グループ。2008年のTICAD IVにおいて日本が国際NGOのアフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)と共同で立ち上げ、2019年のTICAD 7ではフェーズ2を立ち上げた。
RICE(Resilience, Industrialization, Competitiveness, Empowerment)アプローチ
CARDフェーズ2で採用されたサブサハラ・アフリカのコメ生産量倍増のための取組。具体的には、気候変動や人口増に対応した生産安定化、民間セクターと協調した現地における産業形成、輸入米に対抗できる自国産米の品質向上、農家の生計・生活向上のための農業経営体系の構築が挙げられる。
ネリカ(NERICA:New Rice for Africa)
CGIARのアフリカ稲センター(Africa Rice Center)が、高収量のアジア稲と雑草や病虫害に強いアフリカ稲を交配することによって開発した稲の総称。従来の稲よりも(1)収量が多い、(2)生育期間が短く、短い雨季での栽培や、干ばつのリスクを回避できる、(3)耐乾性・耐病性が高く、アフリカ特有の高温で乾燥した気候にも負けない、などの特長がある。日本は、1996年以降、国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、JICAから研究者、専門家を派遣し、品種開発・普及を支援している。
小規模農家向け市場志向型農業振興(SHEP:Smallholder Horticulture Empowerment & Promotion)アプローチ
2006年に日本がケニアで開始した小規模農家支援のためのアプローチ。野菜や果物などを生産する農家に対し、「作ってから売る」から「売るために作る」への意識変革を促し、営農スキルや栽培スキルの向上によって農家の所得向上を目指すもので、アフリカを中心に世界各国で同アプローチを取り入れた活動を実践している。

  1. 注1 : 原材料の調達から生産、加工、流通、そして販売により需要者に提供されるまでの一連の流れのこと。
  2. 注2 : 用語解説「フードバリューチェーンの構築」を参照。
  3. 注3 : カンボジア、タイ、フィリピン、マレーシア、ミャンマー、ラオスの6か国。
  4. 注4 : 「第1の柱」は、大規模・高利益水準のグローバル企業について、物理的拠点の有無にかかわらず、市場国でも課税を行えるようにするための国際課税原則の見直し。「第2の柱」は、法人税の引下げ競争に歯止めをかける観点等からのグローバル・ミニマム課税の導入。
  5. 注5 : 「試験基準・試験問題等作成担当者研修」、「試験・採点等担当者研修」などがある。上記本文中の参加者数は、これらの研修の合計値。
  6. 注6 : 用語解説を参照。
  7. 注7 : どうすれば少しでも生産過程の無駄を省き、品質や生産性を上げることができるか、生産現場で働く一人ひとりが自ら発案し、実行していく手法。戦後の高度成長期の日本において、ものづくりの品質や生産性を高めるために製造業の現場で培われた取組で、「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」(5S)などが基本となっている。
  8. 注8 : エチオピア、ガンビア、スーダン、マダガスカル、モザンビーク、モーリタニア。
  9. 注9 : IEA「Tracking SDG7: The Energy Progress Report, 2023」 https://www.iea.org/reports/tracking-sdg7-the-energy-progress-report-2023
  10. 注10 : 用語解説「アフリカ開発会議」を参照。
  11. 注11 : FAO、IFAD、UNICEF、WFPおよびWHOが共同で作成した報告書 https://www.wfp.org/publications/state-food-security-and-nutrition-world-sofi-report-2023
  12. 注12 : 貧困削減を含む経済社会開発努力を実施している開発途上国に対し、食糧援助規約に関連して行われる食糧援助を実施するため、必要な生産物および役務の調達のための資金を贈与する無償資金協力。
  13. 注13 : Agricultural Market Information Systemの略。2011年に食料価格乱高下への対応策としてG20が立ち上げた、各国や企業、国際機関がタイムリーで正確かつ透明性のある農業・食料市場の情報(生産量や価格など)を共有するためのシステム。
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