3 大洋州地域
太平洋島嶼(しょ)国は、日本にとって太平洋で結ばれた「隣人」であり、歴史的にも深いつながりがあります。また、これらの国は広大な排他的経済水域(EEZ)注12を持ち、海上輸送の要であるとともに、かつお・まぐろ漁業に必要不可欠な漁場を提供しています。
太平洋島嶼国は比較的新しく独立した国が多く、経済的に自立した国家を築くことが急務です。また、経済が小規模で特定の産業に依存していること、領土が広い海域にまたがっていること、国際市場への参入が困難なこと、自然災害の被害を受けやすいことなど、小島嶼国に特有な共通の課題を抱えています。
●日本の取組

マーシャル諸島の公共公益事業・インフラ省職員に対して重機の故障診断に必要な技術を指導するJICA専門家(写真:Chewy Lin Photography & Cinematography)

堀井外務副大臣(当時)出席の下行われた、日本の支援で整備されたナザブ・トモダチ国際空港の開港式の様子
太平洋島嶼国の政治的安定と自立的経済発展のためには、各国の社会・経済的な脆(ぜい)弱性を克服するための支援のみならず、地域全体への協力が不可欠です。日本は太平洋島嶼国との二国間の取組に加え、1997年以降、3年ごとに、太平洋島嶼国との首脳会議である太平洋・島サミット(PALM)を開催しています。2021年に開催されたPALM9を受けて、2021年からの3年間は、(ⅰ)新型コロナウイルス感染症への対応と回復、(ⅱ)法の支配に基づく持続可能な海洋、(ⅲ)気候変動・防災、(ⅳ)持続可能で強靱(じん)な経済発展の基盤強化、および(v)人的交流・人材育成、の5つの重点分野を中心に支援を実施しています。また、2024年に開催予定のPALM10に向けて、PALM9に引き続き、関係省庁間会議である「太平洋島嶼国協力推進会議」を開催しながら、オールジャパンで太平洋島嶼国の課題の解決に向けた取組を進めています。
日本は、太平洋島嶼国・地域で構成される地域協力の枠組みである太平洋諸島フォーラム(PIF)注13との協力も進めています。PIFは、2022年の総会において、2050年の太平洋島嶼国地域における政治・経済等のあるべき姿と戦略的方策をまとめた「ブルー・パシフィック大陸のための2050年戦略」を発表し、日本はこの戦略に対する強い支持を表明しています。日本は、引き続き、日本の強みをいかした協力を継続しています(太平洋島嶼国地域への支援の事例として、「案件紹介3」および「案件紹介7」を参照)。
2021年12月に日本、米国、オーストラリア、キリバス、ナウル、ミクロネシア連邦の6か国が連名で発表した、東部ミクロネシア海底ケーブルの日米豪連携支援については、日本は2023年6月にキリバスおよびナウルとの間で、無償資金協力に関する書簡の交換を行いました。また、同月には海底ケーブルの製造・敷設コンポーネントが正式に立ち上がり、6か国が共同で発表するなど、プロジェクトは着実に進展しています。
3月に発生したサイクロンの被害を受けたバヌアツに対しては、JICAを通じて緊急援助物資を供与しました。
10月には、日本が支援したパプアニューギニアのナザブ・トモダチ国際空港が開港し、堀井外務副大臣(当時)が開港式に出席しました。同空港は首都ポートモレスビーに次ぐ第2の都市であり北部地域の産業・物流の拠点であるレイ市の窓口として、同地域の連結性を強化するものです。マラペ首相自身の発案により、日本との絆(きずな)を象徴するものとして「ナザブ・トモダチ」国際空港と命名されました。
日本は、太平洋島嶼国にとって脅威である気候変動への取組や、保健・医療システムの強化、新型コロナの影響を受けた経済の回復のための支援、さらには災害などの緊急事態における支援を、米国、オーストラリアやニュージーランド、その他のパートナーとも連携しつつ行っていきます。これらの取組により、強靭で安定かつ繁栄した太平洋島嶼国地域を共に構築していきます。
案件紹介7
バヌアツ

地域コミュニティ主体で沿岸資源を守る
豊かな前浜プロジェクトフェーズ3
技術協力(2017年3月~2024年2月)
太平洋島嶼(しょ)国のうち、南西部のメラネシア地域注1に位置するバヌアツでは、近年、沿岸地域での開発にともなう環境破壊、魚介類の乱獲、さらには気候変動の影響に伴う生態系の遷移から、沿岸資源の状況が悪化の一途をたどっています。
そこで日本は、乱獲などによる沿岸資源の悪化を防ぐため、伝統的な沿岸コミュニティが主体的に行う禁漁区の設定などの資源管理と、貝細工作りなど住民の代替生計手段の開発を組み合わせ、持続的に資源を管理する仕組み作りに取り組んでいます。この仕組みを「コミュニティを主体とする沿岸資源管理(CB-CRM注2)」アプローチと呼んでおり、バヌアツ農林水産・検疫省水産局と沿岸コミュニティが協力して沿岸資源管理を行えるよう支援しています。フェーズ3となる本事業では、CB-CRMアプローチの応用性を高め、共通の課題を持つ他のメラネシア諸国へも普及することを目的とし、研修プログラムを標準化して、近隣国へ導入することを支援しています。
この協力により、バヌアツでは本アプローチを活用した沿岸資源管理海域を設定する漁村が増加し、適切な資源管理が普及しています。台風などの自然災害が発生し、島外からの物資輸送が難しい場合でも、管理が行き届いた沿岸海域の水産物が、住民の緊急食料として機能しており、その効用が高い評価を得ています。
日本は、今後も地域コミュニティが主体的な役割を果たす、持続可能な沿岸資源管理を支援していきます。

小学生を対象とした、サンゴの再生方法を活用した環境教育(写真:JICA)

サンゴの沖出し作業(写真:JICA)
注1 太平洋島嶼国地域の南西部に位置する、域内で面積の大きい上位4つの国(ソロモン諸島、バヌアツ、パプアニューギニア、フィジー)から成る地域。
注2 Community-Based Coastal Resources Managementの頭文字をとったもの。
- 注12 : 自国の領海の外側に設定できる経済的な権利が及ぶ水域。
- 注13 : 2023年11月現在、PIF加盟国・地域は、オーストラリア、ニュージーランド、キリバス、クック諸島、サモア、ソロモン諸島、ツバル、トンガ、ナウル、ニウエ、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、フランス領ポリネシア、ニューカレドニアの16か国および2地域。