(3)情報通信技術(ICT)、科学技術・イノベーション促進、研究開発

JICA-JAXA熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)は、JAXAの「だいち2号(ALOS-2)」を使って77か国の熱帯林を1.5か月おきに観測している(宇宙空間については、「宇宙空間」も参照)
情報通信技術(ICT)注13の普及は、産業の高度化や生産性の向上に役立つとともに、医療、教育、エネルギー、環境、防災などの社会的課題の解決や、情報公開の促進、放送メディア整備といった民主化の推進に貢献します。新型コロナの拡大を受けデジタル・トランスフォーメーション(DX)注14の重要性も高まっています。
●日本の取組
■情報通信技術(ICT)

ベトナムにおける「サイバーセキュリティに関する能力向上プロジェクト」での研修の様子(写真:JICA)
日本は、開発途上国のICT分野における「質の高いインフラ投資」を推進注15しており、通信・放送設備や施設の構築、そのための技術や制度整備、人材育成等を積極的に支援しています。具体的には、地上デジタル放送日本方式(ISDB-T)注16の海外普及・導入支援に積極的に取り組んでおり、2021年12月現在、中南米、アジア、アフリカ地域等の計20か国注17で採用されています。また、ISDB-T採用国および検討国を対象としてJICA研修を毎年実施するとともに、総務省は、相手国政府との対話・共同プロジェクトを通じ、ICTを活用した社会的課題解決などの支援を推進しています。
日本は、国際電気通信連合(ITU)注18と協力し、途上国に対して、電気通信およびICT分野の様々な開発支援を行っています。新型コロナの世界的な拡大を受け、2020年10月、日本はITUと協力して、アフリカ等の途上国を対象に、デジタルインフラの増強や利用環境整備のための国家戦略策定を支援するConnect2Recover(C2R)を開始しています。2021年には、ITUがUNICEFと共同で行う「Giga」パイロット事業のうち、ルワンダの学校インターネット接続の第1期(63のパイロット学校のうち10校)などを支援しています。
アジア太平洋地域では、アジア・太平洋電気通信共同体(APT)注19が、同地域の電気通信および情報基盤の均衡した発展に寄与しています。日本は、情報通信に関する人材育成を推進するため、APTが毎年実施する数多くの研修を支援しており、2020年度には、ブロードバンドネットワークやサイバーセキュリティ等に関する研修を7件実施し、APT各加盟国から約120名が参加しました。研修生は日本の技術を自国のICT技術の発展に役立てており、日本の技術システムをアジア太平洋地域に広めることで、日本企業の進出も期待できます。
アジア太平洋地域では、脆弱(ぜいじゃく)なインフラや利用コストが負担できないことなどを要因としてインターネットが利用できない人々は20億人以上います。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域や太平洋島嶼(とうしょ)国においては、離島・遠隔地に低コストで高速のインターネット利用環境の整備を行っています。
2021年12月12日、日本、米国、オーストラリア、ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの6か国は、連名で「東部ミクロネシアの通信連結性の改善」に関する共同報道発表を発出しました。これは、同地域の通信インフラの強化および新たな経済成長の促進を目的として、これらの島嶼国の3か国の要望を踏まえ、日米豪が世界銀行およびアジア開発銀行とも連携し、通信用海底ケーブル敷設事業を支援するものです。日本としては、米豪をはじめとする同志国等と連携しつつ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現のため、インド太平洋地域での質の高いインフラの整備を引き続き支援していきます。
日本は、近年特に各国の関心が高まっているサイバー攻撃を取り巻く問題についてもASEANとの間で協力を一層強化することで一致しています注20。具体的取組として、日・ASEAN統合基金(JAIF)を通じて「日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)」を設立しサイバーセキュリティ演習等を実施しました(詳細は「サイバー空間」を参照)。
■科学技術・イノベーション促進、研究開発

SATREPS「東南アジア海域における海洋プラスチック汚染研究の拠点形成」にて、タイの海岸線を視察する様子(写真:JICA)(「匠の技術、世界へ」も参照)
ODAと科学技術予算を連携させた地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)解説注21は、科学技術分野に関する日本と途上国の研究機関・研究者間の共同研究への支援として2008年に始まり、2021年度までに、世界53か国において168件の研究プロジェクトが採択されています(「匠の技術、世界へ3」、「匠の技術、世界へ4」も参照)。
日本は、工学系大学への支援を強化することで、人材育成への協力をベースにした次世代のネットワーク構築を進めています。
アジアでは、マレーシア日本国際工科院(MJIIT:Malaysia-Japan International Institute of Technology)に対し、教育・研究用の資機材の調達と、教育課程の編成を支援しています。2021年現在、日本国内の28大学および2研究機関と連携し、カリキュラムの策定や日本人教員派遣などの協力も行っています(マレーシアの東方政策について、「開発協力トピックス」を参照)。また、2012年から日本は、タイのアジア工科大学院(AIT:Asian Institute of Technology)注22において、日本人教官が教鞭(きょうべん)をとるリモートセンシング(衛星画像解析)分野の学科に所属する学生に奨学金を拠出しており、アジア地域の宇宙産業振興の要となる人材の育成に貢献しています。
エジプトでは、「エジプト日本科学技術大学(E-JUST:Egypt-Japan University of Science and Technology)」注23を2008年から継続して支援しています。日本国内の大学の協力を得て、実践的かつ国際水準の工学教育の提供や産業界との共同研究の促進など、大学院・学部の運営支援を行っているほか、中東・アフリカ地域からの留学生受入れも支援しており、同地域における産業・科学技術人材の育成に貢献しています。
- 注13 : 注5を参照。
- 注14 : 注6を参照。
- 注15 : 2017年、各国のICT政策立案者や調達担当者向けに、「質の高いICTインフラ」投資の指針を策定。
- 注16 : 地上デジタル放送日本方式(ISDB-T)は、日本で開発された地上デジタルテレビ放送方式で、緊急警報放送の実施、携帯端末でのテレビ受信、データ放送等の機能により、災害対策面、多様なサービス実現といった優位性を持つ。
- 注17 : 日本、ブラジル、ペルー、アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、エクアドル、コスタリカ、パラグアイ、フィリピン、ボリビア、ウルグアイ、ボツワナ、グアテマラ、ホンジュラス、モルディブ、スリランカ、ニカラグア、エルサルバドル、アンゴラの20か国(2021年12月時点)。
- 注18 : 電気通信・放送分野に関する国連の専門機関で、世界中の人が電気通信技術を使えるように、(ⅰ)携帯電話、衛星放送等で使用する電波の国際的な割当、(ⅱ)電気通信技術の国際的な標準化、(ⅲ)開発途上国の電気通信分野における開発の支援等を実施している。
- 注19 : アジア太平洋地域における情報通信分野の国際機関で、同地域における電気通信や情報基盤の均衡した発展を目的とし、研修やセミナーを通じた人材育成、標準化や無線通信等の地域的な政策調整等を実施している。2020年、近藤勝則(こんどうまさのり)氏が事務局長に選出された。
- 注20 : 2015年、内閣官房にサイバーセキュリティ戦略本部が設置され、2016年に「サイバーセキュリティ分野における開発途上国に対する能力構築支援の基本方針」が同戦略本部に報告された。
- 注21 : 第Ⅳ部1(5)も参照。
- 注22 : 工学・技術部や環境・資源・開発学部等の修士課程および博士課程を有する、アジア地域でトップレベルの大学院大学。
- 注23 : 日本型の工学系大学院教育の特徴を活かした、少人数、大学院・研究中心、実践的かつ国際水準の教育の提供をコンセプトとする公的な大学。