匠の技術、世界へ 4



熱帯雨林の保護と先住民の暮らしを両立させる森林資源利用モデルの構築
~カメルーンとの共同研究で、森に暮らす人々の生活を向上~

熱帯雨林の中を住民アシスタントとともにキャンプしながら、生態調査のための自動撮影カメラを設置している様子。(写真:コメカ・プロジェクト)

森林内に仕掛けた自動撮影カメラで実際に撮られた狩猟対象動物(ピータースダイカー)。(写真:コメカ・プロジェクト)
カメルーン東南部の熱帯雨林には希少な動植物が数多く生息する一方、1990年代以降の木材輸出を目的とした森林伐採や、象牙や獣肉を目的とする乱獲などによって生物多様性や生態系の維持が難しくなっています。そこでカメルーン政府は、狩猟や森林伐採などを禁止する自然保護区を設置しました。しかしこの地域には、古くから自然と共存して狩猟採集を営んできた「バカ(Baka)」と呼ばれる民族が暮らしています。自然保護政策の結果、皮肉にも彼らの自給のための狩りまでもが非合法な狩猟と見なされることとなり、伝統的な生活様式の維持が難しくなっています。
そこで、コンゴ盆地に暮らす人々の生態について長く学際的研究を行ってきた、京都大学アフリカ地域研究資料センターの安岡宏和(やすおかひろかず)准教授を筆頭とする日本の研究者と、国立農業開発研究所(IRAD)を中心とするカメルーンの研究者が国際共同研究チームを発足し、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の枠組みのもと、「在来知(ざいらいち)と生態学的手法の統合による革新的な森林資源マネジメントの共創(COMECA)」プロジェクトを開始しました。
本プロジェクトでは、カメルーン東南部にある国立公園の周辺地域を対象に、野生動物の生態調査を行います。そして、その調査結果と、住民の持つ在来知(科学的一般化が難しい、動植物の生態などに関する経験に基づく知恵や、それを生活に活かす実践的な技術)を融合させます。それによって、野生動物と非木材森林産物(NTFP)注1の持続可能な利用のための、政府への提言とロードマップを作成します。狩猟以外の現金収入手段を増やすため、IRADや住民などと協力しながら、ナッツなどNTFPの開発も行う予定です。
安岡准教授は次のように話します。「政府と住民が信頼関係を築き、協働して森林保全に取り組むには、森林資源の利用や管理に住民が主体的にかかわる仕組みづくりが必要です。彼らが野生動物の肉を食料や収入源とする慣習を継続しながら、同時に生物多様性を維持できるよう、私たちは在来知と科学の知識とを統合したマネジメント・モデルを構築し、保全当局と住民の間の橋渡しをしたいと考えました。」
2018年からフィールドワークを行っている本郷峻(ほんごうしゅん)特定研究員は、森に仕掛けたカメラで野生動物を撮影し、生息密度を推定して個体数把握の仕組みづくりに取り組んでいます。本郷氏は「今後は、住民の在来知を活かしたモニタリングができるよう、彼らが運用しやすい方法をともに探っていきます。」と語り、カメルーンのカウンターパート機関の教員や学生を実践的に指導しています。
「コンゴ盆地には南米アマゾンに次ぐ世界第二の規模を持つ熱帯雨林があり、狩猟採集民だけではなく様々な人々が暮らしています。プロジェクト開始後に新型コロナウイルス感染症が流行し、現地に渡航することが難しくなりましたが、森で暮らす人々の生活向上と生物多様性の保全が両立可能となるよう、本プロジェクトを着実に進めていきたいです。」と安岡准教授は語ります。
このように、コンゴ盆地熱帯雨林の持続可能な利用を可能にするため、日本とカメルーンの研究チームが科学と森の民の知恵とを組み合わせた森林資源マネジメント・モデルを、現地の人々と協力して構築する取組が進められています。
注1 森林地域で産出されるナッツやキノコ類、木の実など、木材以外のさまざまな産物。