2020年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)JICA海外協力隊やNGOなどの市民参加型連携

ア.JICA海外協力隊(JICAボランティア事業)
ナミビアのオンダングワで生徒へ洋服の制作を指導するJICA海外協力隊員(写真:JICA)

ナミビアのオンダングワで生徒へ洋服の制作を指導するJICA海外協力隊員(写真:JICA)

1965年に発足し、半世紀以上の実績を有する青年海外協力隊を含むJICA海外協力隊(JICAボランティア事業)は、累計で98か国に5万人以上を派遣し、まさしく日本の「顔の見える開発協力」として開発途上国の発展に貢献してきました。70日間の派遣前訓練を修了した人材を途上国に原則2年間派遣し、現地の人々と生活や労働を共にしながら、派遣先国の経済・社会の発展に協力する国民参加型事業です。

本事業は、途上国の経済・社会の発展のみならず、現地の人たちの日本への親しみを深めることを通じて、日本とこれらの国との間の相互理解・友好親善にも寄与しており、国内外から高い評価を得ています。また、グローバルな視野を身につけた協力隊経験者が日本の地方再生や民間企業の途上国への進出に貢献するなど、協力隊経験の社会還元という側面も注目されています(JICA海外協力隊(民間連携)については、用語解説を参照)。

日本政府は、こうした取組を促進するため、帰国隊員の進路開拓支援を行うとともに、現職参加の普及・浸透に取り組むなど、より多くの人が本事業に参加しやすくなるよう努めています。

なお、2020年度春募集については新型コロナウイルス感染症の拡大により選考中止となり、同秋募集については募集自体を中止しました。2021年度の募集については、感染状況を踏まえながら募集を行う予定です。(新型コロナの拡大を受けた対応については、第I部「(3)ウィズ・コロナの日本の開発協力」を参照)。

なお、青年海外協力隊、シニア海外ボランティアを含むJICAボランティア事業については、その総称を「JICA海外協力隊」とし、年齢による区分(青年・シニア)を、一定以上の経験・技能等の要否による区分に変更する見直しを行い、2018年秋募集から順次適用しています。

ホンジュラス

エル・パライソ県バド・アンチョ市における栄養改善に向けた家庭菜園普及プロジェクト
JICA草の根技術協力事業(草の根パートナー型)(2017年8月~2019年12月)

AMDA社会開発機構の業務調整員が、住民が家庭菜園で育てた野菜を確認する様子(写真:AMDA社会開発機構)

AMDA社会開発機構の業務調整員が、住民が家庭菜園で育てた野菜を確認する様子(写真:AMDA社会開発機構)

家庭菜園で収穫された野菜を使用した料理教室の様子(写真:AMDA社会開発機構)

家庭菜園で収穫された野菜を使用した料理教室の様子(写真:AMDA社会開発機構)

エル・パライソ県バド・アンチョ市は、ホンジュラスの乾燥地帯に位置し、国内でも特に貧しい市の一つです。住民の大半がとうもろこしや豆を生産して生計を立てていますが、2014年以降、干ばつが年々長期化し、その影響による農作物の不作のため、住民は政府や国際機関からの食糧支援を受けています。また、購入可能な野菜も種類が限られ、住民は栄養バランスの偏った食生活を送っていました。

これらの問題を解決すべく、JICAおよび特定非営利活動法人AMDA社会開発機構は、草の根技術協力事業を通じてバド・アンチョ市に家庭菜園を普及させ、住民が自ら消費する食物の栄養面にも配慮した食料増産を目指しました。具体的には、現地NGOと協力し、住民に対して、家庭菜園の実地研修、化学肥料をなるべく使用しない家庭菜園の技術教育、収穫した作物を使った料理教室等を実施しました。

その結果、当初予定していた120世帯を上回る182世帯が家庭菜園を実践するに至り、また事業開始前と比較して、各家庭で栽培される作物が平均して24種類増加しました。さらに、地元で収穫物を販売するための青空市場が開催されるなどの効果も見られるようになりました。このような家庭菜園は、事業終了後も広がり続けています。

イ.日本のNGOとの連携

日本のNGOは、開発途上国・地域において様々な分野で質の高い開発協力活動を実施しており、地震・台風などの自然災害や紛争等の現場においても、迅速かつ効果的な緊急人道支援活動を展開しています。NGOは、途上国それぞれの地域に密着し、現地住民の支援ニーズにきめ細かく丁寧に対応することが可能であり、政府や国際機関による支援では手の届きにくい草の根レベルでの支援を行うことができます。外務省は、こうした「顔の見える開発協力」を行う日本のNGOを開発協力における重要なパートナーと位置づけ、資金協力を含む支援(以下参照)、活動環境整備支援、およびNGOとの対話の3点を柱に連携を進めています。

また、外務省は開発協力大綱のもと、その後5年間におけるNGOとの連携の方向性に関わる計画をNGOと共同で作成し、2015年に発表しました。また、NGOと共に同計画の進捗報告を毎年行うなど、この計画のフォローアップを行っています。

…NGOに対する資金協力を含む支援

日本政府は、日本のNGOが開発途上国・地域において、開発協力事業および緊急人道支援事業を円滑かつ効果的に実施できるよう、様々な協力を行っています。

■日本NGO連携無償資金協力

ミャンマー国タッコン郡サブセンターの完成(写真:特定非営利活動法人ピープルズ・ホープ・ジャパン)

ミャンマー国タッコン郡サブセンターの完成(写真:特定非営利活動法人ピープルズ・ホープ・ジャパン)

外務省は、日本NGO連携無償資金協力として、日本のNGOが途上国で実施する経済社会開発事業に資金を提供しています。事業の分野も保健・医療、教育・人づくり、職業訓練、農村開発、水資源開発、地雷・不発弾除去のための人材育成支援等、幅広いものとなっています。この枠組みを通じて、2019年度は日本の62のNGOが、32か国・1地域において、総額約55.9億円の事業を113件実施しました(特集「コロナ禍で活かされる日本の支援」、コラム「東ティモール」、コラム「ネパール」も参照)。

外務省は、2018年に計4回にわたり開催された有識者懇談会の提言に基づき、2019年4月から、日本NGO連携無償資金協力事業における一般管理費を、これまでの対現地事業経費の5%から最大15%まで引き上げました。これにより、従来NGOがODA事業を実施するために投入してきた自己資金を、広報や民間資金の獲得などの組織の体制強化に充(あ)てられるようになりました。団体の財政基盤や組織力が強化されて、ODAの担い手としての認知度が国内外で高められることが期待されています。

■ジャパン・プラットフォーム(JPF)

ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織であり、2020年10月時点で44のNGOが加盟しています。JPFは、外務省から供与されたODA資金や企業・市民からの寄付金を活用して、大規模な災害が起きたときや、紛争により大量の難民が発生したときなどに、生活物資の配布や生活再建などの緊急人道支援を行っています。2019年度には、アフガニスタン人道危機対応支援、イエメン人道危機対応支援、イラク・シリア人道危機対応支援、パレスチナ・ガザ人道支援、南スーダン難民緊急支援、ミャンマー避難民人道支援、ネパール水害被災者支援、アフリカ南部サイクロン被災者支援、ベネズエラ避難民支援など、12プログラムで106件の事業を実施しました(JPFを通じた新型コロナ対策支援については第Ⅰ部「ウ.NGOによる支援」、難民避難民支援については「難民・避難民支援」も参照)。

■NGO事業補助金

外務省は、2019年度、開発協力事業の案件発掘・形成、事業実施後の評価、国内外における研修会や講習会などを実施する6つの日本のNGOに対し、NGO事業補助金を交付し、プロジェクト形成調査および事後評価、国内でのセミナーやワークショップなどの事業を実施しました。

■JICAの草の根技術協力事業

JICAが実施している草の根技術協力事業は、国際協力の意志のある日本のNGO/CSO、地方自治体、大学、民間企業等の団体が、これまでの活動を通じて蓄積(ちくせき)した知見や経験に基づいて提案する国際協力活動を、JICAが提案団体に業務委託してJICAと団体の協力関係のもとに実施する共同事業です。(制度の詳細や応募の手続き等は、JICAホームページ注8を参照)。草の根技術協力事業は約90か国を対象に、毎年200件程度を実施しています。

…NGOに対する活動環境整備支援

国際協力において政府以外の主体およびODA以外の民間資金活用の重要性が高まる中、日本のNGOの組織体制や事業実施能力をさらに強化し、人材育成を図ることを目的として、外務省は、以下の取組を行っています。

■NGO相談員制度

外務省の委嘱を受けた全国各地の経験豊富なNGO団体(2019年度は15団体に委嘱)が、市民やNGO関係者から寄せられるNGOの国際協力活動、NGOの設立、組織の管理・運営、開発教育の進め方などに関する質問や相談に対応しました。

■NGOインターン・プログラム/NGOスタディ・プログラム

外務省は、人材育成を通じた組織強化を目的して、NGOインターン・プログラムおよびNGOスタディ・プログラムを実施しています。NGOインターン・プログラムは、将来的に日本の国際協力NGOで活躍しうる若手人材の育成を目的としており、2019年度は、計9人がインターンとしてNGOに受け入れられました。

NGOスタディ・プログラムは日本の国際協力NGOに所属する中堅職員が国内外で研修を受け、研修成果を所属団体や他のNGOに広く共有し、日本のNGO全体の能力強化に寄与することを目的としており、2019年度は、このプログラムにより9人が研修を受けました。

■NGO研究会

NGOが直面する共通の課題をテーマとして、調査・研究、セミナー、ワークショップ、シンポジウムなどを行い、具体的な改善策を報告・提言することによって、組織や能力の強化を図ります。2019年度、「日本のNGO・CSO等における組織・活動状況実態調査」、「日本国内における防災・災害支援活動と国際協力NGOの能力強化」、および「日本の国際協力NGOにおける「セーフガーディング」の取組促進のための提言とガイドラインの作成」の3つのテーマに関する研究会を実施しました。この活動の報告書や成果物は外務省のODAホームページに掲載されています。

…NGOとの対話(NGO・外務省定期協議会、NGO・在外ODA協議会およびNGO-JICA協議会)

NGO・外務省定期協議会は、NGOと外務省との連携強化や対話の促進を目的とし、ODAに関する情報共有やNGOとの連携の改善策などに関して定期的に意見交換する場として、1996年度に設けられました。2019年度は、全体会議に加え、「ODA政策協議会」と「連携推進委員会」の2つの小委員会をそれぞれ2回開催しました(NGO・外務省定期協議会の詳細および議事録などについては外務省ホームページ注9を参照)。

また、2002年以降、国内外における日本のNGOとの対話促進・連携強化を目指し、ODAに携わる大使館関係者、JICA、及びNGO関係者が「NGO・在外ODA協議会」の場において、ODAの効果的・効率的実施に関してオール・ジャパンとして取り組み、「顔の見える開発協力」を促進することを目的として意見交換を行っています。

JICAは、NGOとの対等なパートナーシップに基づき、より効果的な国際協力の実現と国際協力への市民の理解と参加を促すため、NGO-JICA協議会やNGO-JICA勉強会等を開催しています。


  1. 注8 : https://www.jica.go.jp/partner/kusanone/index.html
  2. 注9 : https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/kyougikai.html
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