第Ⅳ部 多様なアクターとの連携促進および開発協力の発信取組

カメルーンにおいて、幼稚園教諭に対し情操教育の充実化を図るためのセミナーを行うJICA海外協力隊員(写真:JICA)
日本の開発協力の実施にあたっては、政府やJICAによるODAを中心とした支援に加え、大企業や中小企業、地方自治体、大学、NGOを含む市民社会、国際機関などの多様なアクター(主体)が、互いの長所を活かしながら連携して取り組む必要があります。また、日本政府は、日本企業が積極的に海外で活躍できるよう、ODAを活用した海外展開支援を行っています。さらに、NGOや市民社会の力を引き出すと同時に、多様なアクターが世界の開発協力の現場で活躍できるよう、支援しています。
同時に、日本政府は、日本のODAが効果的で無駄のない方法で実施されるよう、開発協力の適正性の確保に引き続き尽力していくとともに、開発協力に対する理解を国内外でさらに深めていくべく、一層積極的な広報・発信に関する取組を行っていきます。
なおこれらに加え、国連開発計画(UNDP)および国連児童基金(UNICEF)などの国際機関も、開発途上国における豊富な経験と専門性を活かし、日本企業による包摂(ほうせつ)的ビジネス*を推進しています。
1.多様なアクターとの連携強化のための取組
(1)民間企業との連携
開発協力の場においては、民間企業が持つ優れた技術、ノウハウやアイディアを応用してより良い支援を行うことが期待されています。日本政府としても、日本企業の持つ総合力が、外務省やJICAのODA事業等においてもさらに発揮されるよう、日本政府が実施する無償資金協力や円借款事業等において、日本の優れた技術やノウハウ等の活用に努めていきます。また、民間の知見やノウハウをODAの案件形成の段階から取り入れたり、基礎インフラはODAで整備し、投資や運営・維持管理は民間で行うといったように、官民で役割を分担し、民間による投資事業等との連携を促進し、民間の技術・知識・経験、資金を活用して、より効率的・効果的な事業を行うことで開発効果の発現も目指していきます。
ア.無償資金協力
日本政府は開発途上国政府の要望や開発ニーズに基づき、日本の中小企業等の製品を途上国に供与することを通じ、日本の中小企業等の海外展開を支援する無償資金協力(中小企業等の製品を活用した機材供与)も実施しています。この枠組みでは、途上国の経済社会開発を支援するのみならず、供与した製品に対する認知度の向上を図るとともに、継続的な需要の創出にも取り組んでいます。
さらに、日本政府は、2014年度から、民間企業が関与して施設建設から運営・維持管理までを包括的に実施する公共事業に無償資金協力を供与することを通じ、日本企業の事業権・運営権の獲得を促進し、日本の優れた技術・ノウハウを開発途上国の開発に役立てることを目的とする事業・運営権対応型無償資金協力を導入しました。2019年度にはカンボジアにおける上水道拡張案件に関する交換公文の署名が行われました。
イ.円借款の制度改善
日本政府は、日本の優れた技術やノウハウを活用し、途上国への技術移転を通じて「顔の見える援助」を促進するために、本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)を導入し、その後も適用範囲の拡大、金利引き下げなどの制度改善を行ってきました。また、災害復旧スタンド・バイ借款注1の創設などの追加的な措置を行ってきています。さらに、日本政府は、官民連携(PPP:Public-Private Partnership)方式を活用したインフラ整備案件の着実な形成と実施を促進し、途上国政府による各種施策の整備と活用をニーズに応じて支援するべく、エクイティバックファイナンス(EBF)円借款注2や採算補填(ほてん)(VGF)円借款注3なども導入しています。
そのほか、日本政府は、「質の高いインフラパートナーシップ」*のフォローアップ策として、円借款の手続きの迅速化や新たな借款制度の創設など、円借款や海外投融資の制度改善を行っています。たとえば、通常は3年を要する円借款における政府関係手続期間を、重要案件については最短で約1年半にまで短縮しました。また、JICAの財務健全性を確保することを前提として、外貨返済型円借款の中進国以上への導入、ドル建て借款およびハイスペック借款注4を創設しました。また、日本政府は、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」*において、手続迅速化のさらなる推進を発表し、フィージビリティ調査(F/S)*開始から着工までの期間を最短1年半に短縮するとともに、事業期間の「見える化」を図るなど、迅速な円借款の案件形成ができるよう、引き続き制度改善に努めています。
ウ.民間提案型の官民連携支援スキーム
加えて、日本政府およびJICAは、民間企業の意見や提案を積極的に取り入るべく、「中小企業・SDGsビジネス支援事業」や「協力準備調査」といった民間提案型の官民連携支援スキームも推進しています。
■「中小企業・SDGsビジネス支援事業」

インド、デリー市内のブックフェアで、子どもたちにイラスト作成の様子を見せる絵本作家真珠まりこ氏(ものを大切にする「もったいない」の精神を説くベストセラー絵本「もったいないばあさん」作家)/環境・衛生教育を目的とした絵本の読み聞かせ・販売事業準備調査(中小企業・SDGビジネス支援事業)
中小企業・SDGsビジネス支援事業は、民間企業の自由な発想に基づいたアイディアを開発協力に取り込み、ビジネスを通じた現地の課題解決や多様なパートナーとの連携を進めることを目的としています。
本事業は、民間企業からの提案に基づき、開発途上国の開発ニーズと企業が有する優れた製品・技術等とのマッチングを支援し、途上国での課題解決に貢献するビジネスの形成を後押しするものです。委託調査の形で実施され、必要な情報収集やビジネスモデルの策定(基礎調査、案件化調査)、提案製品・技術等の実証活動を通じた事業計画の策定(普及・実証・ビジネス化事業)に活用されます。また、本事業は、「中小企業支援型」と「SDGsビジネス支援型」の2つのカテゴリーに区分され、中小企業支援型については、日本の中堅・中小企業の海外展開を支援するのみならず、日本国内の経済や地域活性化を促進することも期待されています。
2019年度は、47か国において合計173件の事業が採択されました。(「匠の技術、世界へ1」「匠の技術、世界へ3」も参照。事業の仕組み、対象分野・国などについては、JICAホームページ注5に掲載しています)。
■「協力準備調査」
近年、新興・開発途上国においては、建設段階のみならず、完工後の運営・維持管理を含めたインフラ事業の一部に民間活力を導入し、さらに高い効果と効率を目指す官民協働によるインフラ整備の動きが拡大しています。こうしたインフラ事業においては、官民の適切な役割分担を策定するために、案件形成の初期の段階から官民が連携して取り組むことが重要です。また、インフラに限らず、民間事業を通じて途上国の経済・社会開発を促進する動きも活発化しています。そのため、JICAは、企業提案型の「協力準備調査」として海外投融資の活用を念頭に、途上国における事業参画を検討している民間企業から事業提案を広く公募し、事業計画策定のためのフィージビリティ調査(F/S)を支援しています(事業の仕組み、対象分野・国などについては、JICAホームページ注6に掲載しています)。2019年度はアジアおよびアフリカ地域において7件の案件が採択されています。
■「JICA海外協力隊(民間連携)」
このほか、日本政府は、日本の中小企業が必要とするグローバル人材の育成を支援するため、企業に籍を置いたまま社員をJICA海外協力隊として途上国に派遣する「JICA海外協力隊(民間連携)」*を2012年に創設し、企業の海外展開を積極的に支援しています。

エ.海外投融資

灯油ランプから太陽光を電源としたLEDランタンに置き換えて勉強する様子。協力準備調査(BOPビジネス連携促進)(現在の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」)を経てサブサハラ・アフリカ地域初の海外投融資事業として実施された「サブサハラ・アフリカ地域オフグリッド太陽光事業」では、株式会社Digital Gridへの出資を通じてタンザニアにおける未電化地域住民の電力アクセス向上に寄与(写真:JICA)
経済のグローバル化に伴い、開発途上国の開発のための資金ニーズが増大し、現在では世界のODAの総額を上回る民間資金が途上国に流入しています。開発における民間資金の役割の増大を踏まえ、民間資金との連携促進が一層重要となっています(「開発協力トピックス」も参照)。
海外投融資とは、JICAが行う有償資金協力の一つで、途上国での事業実施を担う民間企業に対して、必要な資金を出資・融資するものです。民間企業等の途上国での事業は、雇用を創出し、経済の活性化につながりますが、様々なリスクがあり、高い収益が望めないことも多いため、既存の金融機関から十分な資金が得られないことがあります。海外投融資は、そのような民間の金融機関だけでは対応が困難な事業、かつ、開発効果が高い事業に出資・融資するものです。支援対象分野は①インフラ・成長加速、②SDGs・貧困削減、③気候変動対策となっており、2019年度末までに計36件の出・融資契約を調印しています(事業の仕組み、対象分野・条件などについては、JICAホームページ注7を参照)。
また、海外のインフラ事業に参画する日本企業の為替(かわせ)リスクを低減するため、日本政府は海外投融資制度について、従来の円建てに加え、現地通貨建て(2014年)、米ドル建て融資(2015年)の導入を相次いで発表しました。2015年には、「質の高いインフラパートナーシップ」のフォローアップとして、海外投融資の迅速化、対象の拡大およびJICAと他機関の連携強化を行うことを発表しました。具体的には、民間企業等の申請から原則1か月以内に審査を開始し、民間金融機関との協調融資を可能にしました。さらに、「先導性」要件の解釈を見直し、過去に類似案件への融資実績があったとしても、既存の民間金融機関による非譲許(じょうきょ)的な融資で現状対応できない場合には融資できることとしました。
2016年に日本政府は、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」*において、JICAの海外投融資の柔軟な運用・見直しとして、海外投融資の出資比率を25%から50%(最大株主にならない範囲)にまで拡大するなど、出資比率上限規制の柔軟化やユーロ建て海外投融資の検討を行うこととし、その後の検討の結果、それぞれ対応可能という結論に至りました。
2020年11月には、案件申請企業のニーズに透明性と予見可能性をもって迅速に対応するために、海外投融資の審査プロセスの運用を見直し、「JICA海外投融資に関する案件選択の指針」を初めて改訂しました。
日本の開発協力は、多様なアクターとのパートナーシップのもとで推進されています。開発協力の実施にあたっては、JICAとその他の公的資金を扱う機関(株式会社国際協力銀行(JBIC)、株式会社日本貿易保険(NEXI)、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)等)との間の連携を強化するとともに、政府が、民間部門を含む多様な力を動員・結集するための触媒(しょくばい)としての役割を果たすことが重要です。
用語解説
- *包摂(ほうせつ)的ビジネス(Inclusive Business)
- 包摂的な市場の成長と開発を達成するための有効な手段として、国連および世界銀行グループが推奨するビジネスモデルの総称。社会課題を解決する持続可能なBOPビジネスを含む。
- *フィージビリティ調査(フィージビリティ・スタディ)
- 立案されたプロジェクトが実行(実現)可能かどうかを検証し、実施する上で最適なプロジェクトを計画・策定すること。また、そのプロジェクトの可能性、適切性、および投資効果について調査すること。
- *JICA海外協力隊(民間連携)
- 民間企業等の社員をJICA海外協力隊として開発途上国に派遣し、企業のグローバル人材の育成や海外事業展開にも貢献するもの(旧名称は民間連携ボランティア制度)。企業の要望に応じ、派遣国、職種、派遣期間等を相談しながら決定する。企業が事業展開を検討している国等へ社員を派遣し、その活動を通じて、文化、商習慣、技術レベル等の把握、語学の習得のみならず、コミュニケーション能力や問題解決力、交渉力などが身に付き、帰国後の企業活動に還元されることが期待される(事業の詳細および実績については、外務省ホームページ掲載の2019年版開発協力参考資料集第2章第11節を参照)。
- *質の高いインフラパートナーシップ
- 2015年5月に安倍総理大臣(当時)が発表したもので、①日本の経済協力ツールを総動員した支援量の拡大・迅速化、②アジア開発銀行(ADB)との連携、③国際協力銀行(JBIC)の機能強化等によるリスク・マネーの供給拡大、④「質の高いインフラ投資」の国際スタンダードとしての定着を内容の柱としている。
- *質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ
- 2016年5月のG7伊勢志摩サミットで安倍総理大臣(当時)から発表したもので、アジアを含む世界全体のインフラ案件向けに、その後5年間の目標として、オールジャパンで約2,000億ドルの資金等を供給すると同時に、さらなる制度改善やJICA等関係機関の体制強化と財務基盤の確保を図っていくことを盛り込んでいる。
- 注1 : 災害の発生が予想される開発途上国に対して、事前に円借款の契約を締結しておき、災害が発生した際には、迅速に復旧のための資金を融通できる仕組み。
- 注2 : EBF(Equity Back Finance)円借款は、開発途上国政府・国営企業等が出資をするPPPインフラ事業に対して、日本企業も事業運営主体に参画する場合、開発途上国の公共事業を担う特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)に対する途上国側の出資部分に対して円借款を供与するもの。
- 注3 : VGF(Viability Gap Funding)円借款は、開発途上国政府の実施するPPPインフラ事業に対して、原則として日本企業が出資する場合において、SPCが期待する収益性確保のため、開発途上国がSPCに供与する採算補塡(VGF)に対して円借款を供与するもの。
- 注4 : 2016年5月のG7伊勢志摩サミットにて「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊勢志摩原則」を取りまとめたことに基づき、「質の高いインフラ」の推進に資すると特に認められる案件に対し、譲許性の高い円借款を供与するもの。
- 注5 : 中小企業・SDGsビジネス支援事業について:https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/sme/index.html
- 注6 : 協力準備調査(海外投融資)(旧 協力準備調査(PPPインフラ事業)):https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/psiffs/index.html
- 注7 : 海外投融資の概要:https://www.jica.go.jp/activities/schemes/finance_co/loan/index.html)