2020年版開発協力白書 日本の国際協力

開発協力トピックス6

政府による援助だけでは限界!? ODA以外の開発資金の動員・活用

●ODAと民間資金

開発協力白書では、これまで多くの政府開発援助(ODA)事業について紹介してきましたが、実は、先進国から開発途上国へと向かう資金全体に占めるODAの割合はほんの15%程度に過ぎないということはご存じでしょうか。2017年の世界全体のODA額は約1,900億ドルであったのに対し、途上国向けの民間直接投資は約5,400億ドル、個人による海外送金は約4,300億ドルと、ODAの額を大きく上回っています*1

国連貿易開発会議(UNCTAD)の推計によると、2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)を達成するためには年間3.9兆ドルが必要ですが、現状は2.5兆ドルもの資金が不足していると言われています。各国が厳しい財政状況に直面している中で、豊富な民間資金をいかに持続可能な開発に向けて活用できるかが課題となっています。

●民間資金との連携

日本は、JICAの海外投融資や中小企業・SDGsビジネス支援事業などの枠組みを通じて、ODAを用いて民間の力を最大限引き出せるよう取組を進めています(官民連携の取組の詳細については「(1)民間企業との連携」および「匠の技術、世界へ」を参照)。

カンボジアのサンライズ・ジャパン病院がその一例です。日揮株式会社、株式会社産業革新機構(現:株式会社INCJ)、株式会社Kitahara Medical Strategies Internationalによる民間病院の整備事業への出資およびその事業化に際し、JICAは海外投融資による融資を行いました。この支援により、日本式最新医療を提供する病院がカンボジアに誕生しました。さらに、無償資金協力を通じて医療機器を提供するのみならず、同病院開業前には、技術協力を通じ、カンボジア人医師や看護師をはじめとする医療従事者60名を日本に招いて、医療技術・ノウハウを伝授しました。このように、複数の手法を組み合わせた支援は、日本ならではの開発協力の取組と言えます。こうした取組の結果、質の高い医療サービスが求められていたカンボジアにおいて、患者やそのご家族に寄り添った医療を提供する医療スタッフを備えた「信頼できる日本式医療」を実現することができました。

本事業においては、日本企業の事業展開が実現したことに加え、整備された病院が、海外で腕を磨きたい若い日本人医師たちが経験を積む貴重な場となっていることも、大きな成果です。また、同病院開院当時(2016年)の外来患者数は1月当たり約1,300人でしたが、2018年には3倍以上の約4,500人に増加しており、カンボジアの人々の健康増進に大きく貢献しています。本事業における日本の支援はすべての関係者にとってWIN-WINの効果をもたらしています。

また、中小企業・SDGsビジネス支援事業では、民間企業からの提案に基づき、各社が有する優れた製品・技術等と途上国の開発ニーズとのマッチングをJICAが支援して、途上国での課題解決に貢献するビジネスの形成を後押ししています。

たとえば、株式会社すららネットは、同事業の協力準備調査(BOPビジネス連携促進)(現:普及・実証・ビジネス化事業)を活用して、スリランカにおいてアニメーションを使いゲーム感覚で算数を学ぶeラーニング教材の海外展開の事前準備調査を行いました。その結果、eラーニングシステムが実際に導入され、同時に貧しい地域の女性たちを「ファシリテーター(お世話をする人)」として育成し、児童の指導役となってもらうことで、現地の生徒の学力向上や女性の雇用創出に貢献しています。

また、同社は、スリランカが新型コロナウイルス感染症の感染拡大で長期間休校となったことを受け、休校開始直後からオンラインによるeラーニングの無償提供を開始し、2020年3月~8月に約660名の児童に対し家庭で実施可能な算数の学習支援を行いました。まさに、政府だけではなし得ない、民間のイノベーションと知見・経験、スピード感を活用した支援と言えます。

サンライズ・ジャパン病院で、日本人職員とカンボジア人職員が医療に従事している様子(写真:サンライズ・ジャパン病院)
サンライズ・ジャパン病院で、日本人職員とカンボジア人職員が医療に従事している様子(写真:サンライズ・ジャパン病院)

サンライズ・ジャパン病院で、日本人職員とカンボジア人職員が医療に従事している様子(写真:サンライズ・ジャパン病院)

●民間資金の動員に関する国際的議論および日本の取組

SDGs達成に向けた途上国開発への民間資金動員の必要性は国際社会においてますます広く認識されつつあります。たとえば、2017年、OECD開発援助委員会(DAC)は、ブレンディッド・ファイナンス(BF)*2原則を発表し、積極的な民間資金動員を奨励しています。

また、日本としても、2019年G20大阪サミット議長国として、G20各国と共同で取組を進めていく上でBFを含む革新的資金調達のメカニズムが果たす役割の重要性を首脳文書で確認しました。また、同年、「開発のための革新的資金調達リーディング・グループ」を主催し、この分野に関する議論をリードしました。さらに、SDGsの達成に必要な資金を確保するために、革新的資金調達の方法や使途とすべき分野について議論するため、「SDGsの達成のための新たな資金を考える有識者懇談会」を立ち上げ、2020年7月、インパクト投資やBFなどの民間資金動員を促すための提言を含む報告書(最終論点整理)が茂木外務大臣に提出されました。

●新しい国際統計システム

途上国開発における追加の資金動員の重要性は論をまちませんが、実はその一方で、従来のODAを超えて開発資金全体の流れをグローバルに捕捉する枠組みは必ずしも整備されていません。そこで現在、OECD/DAC を中心に検討されている新たな統計システムが「持続可能な開発のための公的総支援(TOSSD:Total Official Support for Sustainable Development)」です。

同システムは、持続可能な開発に資する公的な資金の流れを幅広く捕捉すべく、2014年のDACハイレベル会合以降、本格的な議論が開始されたものです。TOSSDが実現すれば、中国、インド、ロシア、ブラジル、トルコ、サウジアラビア、UAEといったDACに参加していない新しい開発協力の担い手からの開発資金も捕捉することが可能となるほか、必ずしも開発を主な目的としていない資金、さらには公的資金の関与によって動員された民間資金も、持続可能な開発に資するものであれば対象となります。

このようにTOSSDは、すべてのドナーからの途上国向け開発資金の流れを幅広く捉え、可視化するという壮大な試みと言えます。従来のODAでは測れない開発資金を多く有する日本にとっては、持続可能な開発への貢献を国際的により一層示すことができるようになります。

2017年以降、新興ドナーや途上国も参加するTOSSD国際タスクフォースにおいて、捕捉対象となる資金の範囲や集計手法等を巡って技術的な作業が重ねられてきており、日本としても引き続きこれに積極的に参加していきます。TOSSDデータの報告は最近始まったばかりですが、今後、非DACドナーに広く普及することが期待されます。


経済のグローバル化に伴い、ODAの総額を大きく上回る民間資金が途上国に流入する現在、ODAには「民間部門を含む多様な力を動員・結集するための触媒(しょくばい)としての役割」(開発協力大綱)が求められています。日本は、ODA以外の公的資金、さらには民間資金も含めた持続可能な開発資金をさらに幅広く、かつ効率的に動員するための国際的なルール作りに引き続き積極的に貢献していきます。

株式会社すららネットのeラーニングシステムを使って算数を学ぶ子供たち(写真:すららネット)

株式会社すららネットのeラーニングシステムを使って算数を学ぶ子供たち(写真:すららネット)

女性ファシリテーターとeラーニングで学んだ子供たちへの表彰式の様子(左上は表彰式に参加したすららネット社員)(写真:すららネット)

女性ファシリテーターとeラーニングで学んだ子供たちへの表彰式の様子(左上は表彰式に参加したすららネット社員)(写真:すららネット)


*1 OECD Resource flows beyond ODA in DAC statistics(http://www.oecd.org/dac/stats/beyond-oda.htm

*2 ブレンディッド・ファイナンス(BF)とは、OECDの定義によれば、開発目的の資金を戦略的に用い、営利目的の商業的な資金を持続可能な開発のために動員するという新しい方法。BF原則には、①開発にBFを活用することを適切に根拠づける、②商業的ファイナンスの動員を増加させるようBFを設計する、③現地の状況を踏まえてBFをテイラーメイドする、④BFの連携が効果的なものとなるよう注力する、⑤BFの透明性及び結果をモニタリングする、が掲げられている。

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