開発協力トピックス5
2030年に向けたSDGsのための日メコン・イニシアティブ
東南アジア・インドシナ半島のメコン河流域に位置するカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイおよびベトナムの5か国は、成長著しいアジアの中でも、特に、高い経済成長力、豊富な労働力を有する地域として今後の発展が大いに期待されています。また、メコン地域は、北は中国、東と南は南シナ海に接し、西はインド洋を介してインドにつながっており、陸上・海上ともにアジアの輸送ルートの中心に位置する要衝(ようしょう)です。
日本は、メコン地域諸国と緊密な経済・貿易関係を有しており、同地域との関係を強化することは、外交上も大変重要です。日メコン協力を着実に実施するため、日本は、2009年から毎年、「日本・メコン地域諸国首脳会議」を開催しており、これまで3年おきに東京で開催してきました(次回の日本開催は、2021年秋頃を予定しています)。
このトピックのタイトルである「2030年に向けた日メコンSDGsイニシアティブ」は、2019年11月にタイ・バンコクで行われた第11回日本・メコン地域諸国首脳会議において採択された日本とメコン地域諸国との間の協力分野の枠組であり、同地域によるSDGs達成に向け、「メコン地域の潜在力を最適な形で引き出す」ことを目標としています。同イニシアティブは、メコン地域の持続可能な発展を後押しすると同時に、日本とメコン地域諸国との間の「戦略的パートナーシップ」を象徴するものです。
同イニシアティブは、国際スタンダードにのっとった質の高いインフラ投資も活用しながら、①環境・都市問題、②持続可能な天然資源の管理・利用、③包摂(ほうせつ)的成長、の3つを優先分野として、各分野での取組を通じて、(ア)地域と社会の強靱(きょうじん)性を高め、(イ)地域の成長力を維持・強化し、(ウ)社会の発展を一人一人の人生の「豊かさ」につなげていくことを目指しています。
①環境・都市問題については、2019年のG20大阪サミットで共有された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」をメコン各国と共有した上で、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを共に目指しています(環境・気候変動対策も参照)。たとえば、カンボジアでは、国連開発計画(UNDP)と連携して、4R(Refuse, Reduce, Reuse, Recycle)の促進や市民・民間企業のごみの分別意識啓発のための事業を展開し、メコン河を通じて海洋に排出されるプラスチックごみの削減に取り組んでいます。
②持続可能な天然資源の管理・利用については、気候変動等の影響によりメコン河の水量に変化が生じており、従来よりも複雑な洪水・渇水対策が求められています。こうした中、メコン河の水資源管理が開かれた枠組みで行われることが重要であるとの認識の下、日本は、メコン河委員会(MRC:Mekong River Commission)*との連携を強化しています。2020年3月には、メコン河流域の洪水・渇水対策を念頭に、メコン河流域の降雨量および水位を観測する精度を高めるため、MRCとの間で同機関の人員や施設・機能を強化する無償資金協力の交換公文に署名しました。
③包摂(ほうせつ)的成長については、その実現のための教育・人材育成について「G20持続可能な開発のための人的資本投資イニシアティブ」や「産業人材育成協力イニシアティブ2.0」のもとでの取組を進めていきます(万人のための質の高い教育および東南アジアへの支援も参照)。これらのイニシアティブのもと、タイではメコン地域における産業人材育成のため、日本独自の教育システムである「高専(高等専門学校)」を設立して、日本と同水準の高専教育を実現するための協力を行っています(詳細は「東南アジアへの支援」および「(4)大学・教育機関との連携」を参照)。
また、これら3つの分野における協力を一層推進する観点から、2020年7月の日メコン外相会議において、茂木外務大臣が「草の根・メコンSDGsイニシアティブ」を発表し、メコン5か国の地域に根差した経済社会開発およびSDGsの実現を支援していくことを表明しました。2020年度は、メコン地域諸国を対象に少なくとも10億円規模の草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施し、今後もこの取組を継続していきます。
さらに、2011年から計6回にわたり官民合同で実施してきた「グリーン・メコン・フォーラム」を、「日メコンSDGsフォーラム」に格上げし、「2030年に向けた日メコンSDGsイニシアティブ」の中長期的な実施をフォローアップしていきます。
日本は、メコン諸国の人々と社会に寄り添いながら、メコン諸国自身の取組を後押しすることで、互いに高め合うパートナーシップを築いていきます。
*メコン河委員会(MRC)は、1995年に下流域国4か国(カンボジア・タイ・ベトナム・ラオス)が締結した「メコン河流域の持続的開発のための協力に関する協定」に基づき設置された。洪水・渇水対策のほか、漁業資源管理、ダム開発、環境問題等幅広い分野でメコン河の河川管理を実施している機関。