2020年版開発協力白書 日本の国際協力

第Ⅲ部 地域別の取組

エチオピアの「国立イネ研究研修センター強化プロジェクト」において、イネの生育調査の方法を同センター職員に指導するJICA専門家(写真:JICA)

エチオピアの「国立イネ研究研修センター強化プロジェクト」において、イネの生育調査の方法を同センター職員に指導するJICA専門家(写真:JICA)


日本は、各地域における問題の経済的、社会的背景なども理解した上で、刻一刻と変化する情勢に柔軟に対応しながら、支援の重点化を図りつつ、戦略的、効果的かつ機動的に開発協力を行うことで開発途上国の問題解決の支援に取り組んでいます。第Ⅲ部では、こうした地域別の取組について紹介します。

図表Ⅲ-1 二国間政府開発援助の地域別実績(2019年)

1.東アジア地域

東アジア地域には、韓国やシンガポールのように高い経済成長を遂げ、既に開発途上国から援助供与国へ移行した国、カンボジアやラオスなどの後発開発途上国(LDCs)、インドネシアやフィリピンのように著しい経済成長を成し遂げつつも国内に格差を抱えている国、そしてベトナムのように市場経済化を進める国など様々な国が存在します。日本は、これらの国々と政治・経済・文化のあらゆる面において密接な関係にあり、また、この地域の安定と発展は、日本の安全と繁栄にも大きな影響を及ぼします。こうした考え方に立って、日本は、東アジア諸国の多様な経済社会の状況や、必要とされる開発協力の内容の変化に対応しながら、開発協力を行っています。

2020年は、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大と、世界規模で人的・物的往来が制限されたことで、東アジア地域でも多くの国が社会的・経済的に大きな打撃を受けました。そのため日本は、東アジアおよび東南アジア諸国の10か国に対し、総額約230億円の保健・医療関連機材の供与、技術協力支援を行っているほか、経済的影響を踏まえ、5か国に対し総額約2,950億円の財政支援円借款を供与しました。さらに、「対ASEAN海外投融資イニシアティブ」(詳細は以下の案件紹介を参照)のもと、質の高いインフラや中小企業支援等に関する民間セクターへの投融資も拡大し、ASEAN諸国の経済再生に貢献しています。

また、ASEANの感染症対応能力を強化するため、日本はJICAの技術協力による専門家派遣や研修の実施を含め、ASEAN感染症対策センターの設立を全面的に支援していきます。日本は、同センターを通じて、ASEAN地域における公衆衛生緊急事態への対応や新興感染症対策の準備・探知・対応能力の強化に貢献していきます(詳細は「開発協力トピックス」を参照)。これに加えて、日本はワクチン開発や医療物資調達を目的とした「新型コロナに関するASEAN対応基金」に対し、APT基金からの拠出に加え、日本として新たに100万ドルを拠出しました。

ASEAN

対ASEAN海外投融資イニシアティブ
海外投融資(2020年~2022年)

ブルー・オーチャードへの出資によって、支援を受けた女性事業者(写真:JICA)

ブルー・オーチャードへの出資によって、支援を受けた女性事業者(写真:JICA)

世界の「開かれた成長センター」たるASEAN(東南アジア諸国連合)*1域内の膨大な開発資金需要に応えるために、ドナーや開発金融機関の無償資金協力や借款といった公的資金に加え、民間セクターの資金を動員する重要性が増しています。こうした背景のもと、日本は2019年11月の日ASEAN首脳会議において、「対ASEAN海外投融資イニシアティブ」を立ち上げました。

同イニシアティブのもと、日本は、質の高いインフラ、金融アクセス・女性支援、グリーン投資*2の3分野について、他の開発金融機関や民間金融機関とも協調し、官民合わせて2020年~2022年の3年間で30億ドル規模の資金の動員を目指し、JICAが海外投融資を通じて12億ドルの出融資を提供する用意がある旨を発表しました。

同イニシアティブの具体的な取組として、2020年11月、ASEAN諸国を中心に中小零細(れいさい)事業者向け金融アクセスの改善に取り組むブルー・オーチャード*3が設立したファンドに対し、JICAが最大3,500万ドルを出資することを決定しました。新型コロナウイルス感染症の拡大の影響でASEAN諸国が経済的打撃を受ける中、こうした支援を通じ、女性事業者や中小零細企業者の差し迫った資金需要に応え、これらの事業者の経済的地位の向上、ひいてはASEAN諸国の経済発展にも貢献することが期待されています。

対ASEAN海外投融資イニシアティブは、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」に沿った日・ASEAN協力を具体的に進める上での有効な枠組みです。日本は今後も、同イニシアティブをはじめ民間資金動員のためのツールも活用しながら、ASEANの持続可能な発展に貢献するとともに、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と本質的な原則を共有するAOIPの実現を後押ししていきます。


*1 ASEANの構成国については、注1を参照。

*2 気候変動対策の一環として、太陽光・水力発電、省エネルギー事業等に投資すること。

*3 マイクロファイナンス機関への投融資を行うファンド運営に強みを持つスイスのファンドマネジメント会社

●日本の取組

日本の無償資金協力「プノンペン公共バス交通改善計画」を通じて供与した日本の国旗が付いた市バスを待つカンボジアの首都プノンペンの学生たち(本事業の詳細は案件紹介を参照)(写真:石川正頼(いしかわまさより)/在カンボジアJICA事務所)

日本の無償資金協力「プノンペン公共バス交通改善計画」を通じて供与した日本の国旗が付いた市バスを待つカンボジアの首都プノンペンの学生たち(本事業の詳細は案件紹介を参照)(写真:石川正頼(いしかわまさより)/在カンボジアJICA事務所)

日本は、質の高いインフラ投資を通じた経済社会基盤整備、制度や人づくりへの支援、貿易の振興や民間投資の活性化など、ODAと貿易・投資を連携させた開発協力を進めることで、この地域の目覚ましい経済成長に貢献してきました。近年は、基本的な価値を共有しながら、開かれた域内の協力・統合をより深めていくこと、相互理解を推進し、地域の安定を確かなものとして維持していくことを目標としています。そのために、日本は、これまでのインフラ整備と並行して、防災、環境・気候変動、保健・医療、法の支配、海上の安全など、様々な分野での支援を積極的に実施するとともに、大規模な青少年交流、文化交流、日本語普及事業などを通じた相互理解の促進に努めています。

日本と東アジア地域諸国がより一層繁栄を遂げていくためには、アジアを「開かれた成長センター」とすることが重要です。そのため、日本は、この地域の成長力を強化し、それぞれの国内需要を拡大するための支援を行っています。

…東南アジアへの支援
ASEAN事務局において、日本の対ASEAN政策に関するスピーチを行う茂木外務大臣(2020年1月)

ASEAN事務局において、日本の対ASEAN政策に関するスピーチを行う茂木外務大臣(2020年1月)

東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国注1は、日本のシーレーンに位置するとともに、2018年10月時点で約13,000の日系企業(事業所数)が進出するなど経済的な結びつきも強く、政治・経済の両面で日本にとって極めて重要な地域です。ASEANは、2015年に「政治・安全保障共同体」、「経済共同体」、「社会・文化共同体」からなる「ASEAN共同体」を宣言し、域内の連結性強化と格差是正に取り組んできました。また、2019年6月にASEANが発表した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」は、法の支配や開放性、自由といった基本原則を謳(うた)っており、日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と多くの本質的な原則を共有しています。2020年1月にインドネシアを訪問した茂木外務大臣は、対ASEAN外交政策スピーチの中で、AOIPを全面的に支持し、協力をさらに進める旨表明しました。また、2020年10月の菅総理大臣のベトナムおよびインドネシアへの訪問や、11月のASEAN関連首脳会議では、AOIPの協力分野のもとで日ASEAN協力をさらに具体化していくことで一致しました(「開発協力トピックス」も参照)。

日本は、こうしたASEANの取組を踏まえ、連結性強化と格差是正を柱として、インフラ整備、法の支配、海上の安全、防災、保健・医療、平和構築などの様々な分野でODAによる支援を実施し、これまで、ASEAN諸国に対して累計で約18兆5,536億円を供与してきました。また、開発分野において、民間資金や開発金融機関の資金力を活用する重要性が増していることも踏まえ、2019年11月の日・ASEAN首脳会議において、「対ASEAN海外投融資イニシアティブ」を立ち上げました。また、同年12月、茂木外務大臣から、質の高いインフラ投資、金融アクセス・女性支援、グリーン投資の分野において、3年間で官民合わせて30億ドル規模の資金動員を目指し、JICAを通じて12億ドルの出融資を提供する用意がある旨を発表しました(同イニシアティブの詳細については、案件紹介を参照)。2020年12月時点で、9件が採択され、290.7億円の出融資を行っています。

連結性の強化に関しては、日本は、物理的インフラの整備にとどまらず、制度の改善や現地の人々への技術移転などを通じてインフラを最大限活かす「生きた連結性」を実現しています。2016年のASEAN首脳会議においては、ASEAN域内におけるインフラ、制度、人の交流の3つの分野での連結性強化を目指した「ASEAN連結性マスタープラン」の後継文書である「ASEAN連結性マスタープラン2025」が採択されました。日本は、この新マスタープランに基づいてASEANの連結性強化を支援しており、2019年5月には、ASEANの一体性・中心性の強化を後押しするため、日・ASEAN技術協力協定に署名しました。2020年1月には、同技術協力協定に基づく第一号案件として、サイバーセキュリティに関する研修(詳細は案件紹介を参照)を実施したほか、2020年度中に港湾運営、物流および海洋プラスチックごみ対策に関する研修を実施しました。また、2020年11月の日ASEAN首脳会議において、「日ASEAN連結性イニシアティブ」を発表し、現在実施中の計約2兆円の陸海空の回廊(かいろう)連結性プロジェクトを中心にハード面でASEAN連結性強化を支援し、ソフト面では今後3年間で連結性強化に資する1,000人の人材育成を行うことを表明しました。

インフラ整備に関しては、日本は、2019年6月のG20大阪サミットで承認された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」にのっとり、東南アジア諸国に対するこれまでの支援の経験も踏まえ、国際スタンダードに沿った「質の高いインフラ投資」の普及に努めています。その一例として、フィリピンでは、「首都圏鉄道3号線改修事業」を実施しています。2000年に開通した同線は、当初日本企業が維持・管理を行い、安定した運行がなされていました。一方、他国企業が維持管理を担った2012年以降は予算不足等もあり、適切な維持管理業務が実施されず、線路や車両が劣化し、運行トラブルが頻発(ひんぱつ)する事態に陥っていました。このため、フィリピン政府からの要請を受け、日本の技術を活用したMRT3号線の改修が開始され、運行速度の高速化・運行間隔の短縮などが進んでいます。日本の最先端の技術で鉄道の安全性・快適性を向上させることで、同線の利用促進を図り、首都圏の深刻な交通渋滞が緩和(かんわ)されることが期待されています。

また、防災・災害医療分野に関しては、2014年のASEAN防災担当大臣会議で採択された「One ASEAN, One Response:ASEAN Responding to Disasters as One」の方針を実行できる仕組みづくりのため、日本は2016年からASEAN災害医療連携強化プロジェクト(ARCH)を開始し、2017年にはARCHで取り組んでいる活動の必要性が明確に盛り込まれた「災害医療にかかるASEAN首脳宣言(ALD)」が採択されました。こうした中、ARCHは、ASEAN各国の災害医療チームが参加する地域連携合同演習の開催や災害医療に関する標準手順書の作成など、多くの成果を出しています。また、ASEAN域内の基準に限らず、世界保健機関(WHO)との研修の共同開催などを通じて、災害医療チームの世界基準にものっとったASEAN地域の災害医療分野の連携能力強化を進めています。

さらに、人材育成分野に関しては、2018年11月の日ASEAN首脳会議において、次の5年を見据え、「産業人材育成協力イニシアティブ2.0」として、AI等のデジタル分野を含め、新たに8万人規模の人材を育成することを表明しました。また、ASEAN地域における産業人材育成のため、日本独自の教育システムである「高専(高等専門学校)」をタイに設立して、日本と同水準の高専教育を提供する協力を実施していきます。加えて、日本は、ASEANを含むアジア諸国との間で、日本の大学院等への留学、日本企業でのインターンシップ等を通じ、高度人材の環流を支援し、日本を含むアジア全体のイノベーションを促進するための「イノベーティブ・アジア」事業を行っており、2017年度から2021年度までの5年間にわたりアジア全体から受入れを行っています。日本は今後も、アジアにおける産業人材育成を積極的に支援していきます。

ASEAN諸国の中でも特に潜在力に富むメコン地域注2に関しては、毎年日本・メコン地域諸国首脳会議(日メコン首脳会議)を開催しています。そのうち、おおむね3年に一度、日本で会議を開催し、地域に対する支援方針を策定しています。2018年10月、第10回日メコン首脳会議が東京で行われ、今後の日メコン協力の方向性を示した「東京戦略2018」が採択されました。同戦略は、①生きた連結性、②人を中心とした社会、③グリーン・メコンの実現を3本柱として協力を進めていくことを定めています。また、2019年11月にタイ・バンコクで行われた第11回日メコン首脳会議では、「2030年に向けた日メコンSDGsイニシアティブ」を発表し、メコン地域の潜在力を最適な形で引き出すため、国際スタンダードにのっとった質の高いインフラ投資も活用しながら、①環境・都市問題、②持続可能な天然資源の管理・利用、③包摂的成長の3つを優先分野として取り組んでいくこととしました(詳細は「開発協力トピックス」を参照)。同イニシアティブに基づく具体的な取組として、2020年7月の第13回日メコン外相会議において、茂木外務大臣から「草の根・メコンSDGsイニシアティブ」を発表し、メコン諸国の地域に根差した経済社会開発およびSDGsの実現を支援していくことを表明しました。2020年度は、同イニシアティブとして、メコン地域の5か国を対象に少なくとも10億円規模の草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施し、今後もこの取組を継続していきます。

また、同年11月の第12回日メコン首脳会議では、新型コロナの影響でメコン諸国の経済が打撃を受け開発資金が不足する中、民間企業等が行う開発事業の実施を後押しするため、「メコンSDGs出融資パートナーシップ」をはじめとする「5つの協力」(①民間セクターに対する出融資の推進、②小さなコミュニティに行き渡る草の根の無償資金協力、③法の支配に関する協力、④海洋に関する協力、⑤サプライチェーン強靭(きょうじん)化に関する協力)を発表しました。今後、同パートナーシップのもと、メコン地域における海外投融資案件の形成を推進していきます。さらに、日本は、メコン地域の経済成長に欠かせない連結性強化を重視して取り組んでおり、カンボジアのシハヌークビル港開発、ラオスのビエンチャン国際空港の機能改善、ミャンマーの東西経済回廊の幹線道路の整備、ベトナムのホーチミン都市鉄道の建設、タイのバンコク都市鉄道(レッドライン)の建設など、「東京戦略2018」のもとでのプロジェクトも実施してきており、メコン地域の連結性向上に貢献するプロジェクトを着実に実施しています。2021年には第13回日メコン首脳会議が日本において開催され、日メコン協力がさらに深化することが期待されます。

メコン地域のうち、特に民主化の進展に取り組むミャンマーに対しては、急速に進むミャンマーの改革努力を後押しするため、①少数民族に対する支援を含む国民の生活向上、②法整備支援や人材育成、③インフラ整備を3本柱とし、幅広い支援を行っています。特に、最大都市ヤンゴン近郊のティラワ経済特区(SEZ:Special Economic Zone)の整備のため、日本は官民を挙げて協力しており、日本政府はODAを通じて周辺インフラの整備に貢献しています。2020年10月現在、SEZには、世界から113の企業(そのうち56社が日本企業)が進出し、既に93社(そのうち50社が日本企業)が稼働しています。これは、日本の「質の高いインフラ投資」が世界からの信頼を受け、結実した成功例といえます。

また、少数民族和平を促進すべく、停戦が実現したミャンマー南東部において、住宅や基本インフラ整備、農業技術指導を含む復興開発支援を進めています。また、2017年以降70万人以上の避難民が流出した西部のラカイン州において、国内避難民および周辺コミュニティ住民を対象に、食糧、栄養、保健、水・衛生、教育等の人道支援を実施しており、同州北部において、避難民帰還に向けた環境整備としての小規模インフラ、職業訓練などの支援を実施しています。さらに、同州全体において、道路、電力、学校建設などの開発支援にも取り組んでいます。

日本の無償資金協力により整備された、東ティモール国立大学工学部の新校舎での講義の様子(写真:JICA)

日本の無償資金協力により整備された、東ティモール国立大学工学部の新校舎での講義の様子(写真:JICA)

テレビ会議方式の第12回日メコン首脳会議に出席し、ベトナムのグエン・スアン・フック首相と共同議長を務めた菅総理大臣(2020年11月)(写真:内閣広報室)

テレビ会議方式の第12回日メコン首脳会議に出席し、ベトナムのグエン・スアン・フック首相と共同議長を務めた菅総理大臣(2020年11月)(写真:内閣広報室)

カンボジア一般公募

プノンペン公共バス運営改善プロジェクト
技術協力プロジェクト(2017年1月~2022年2月)

新型コロナ感染予防研修の様子。日本人専門家が遠隔でバス乗務員に車内の除菌・清掃指導を行っている。(写真:国際開発センター)

新型コロナ感染予防研修の様子。日本人専門家が遠隔でバス乗務員に車内の除菌・清掃指導を行っている。(写真:国際開発センター)

バス車内啓発ポスター。日本の公共交通機関で活用された新型コロナ予防対策ポスターを参考に啓発ポスターを作成し、全車両に貼付済み。(写真:国際開発センター)

バス車内啓発ポスター。日本の公共交通機関で活用された新型コロナ予防対策ポスターを参考に啓発ポスターを作成し、全車両に貼付済み。(写真:国際開発センター)

カンボジアの首都プノンペンでは、近年の経済発展や急激な都市化により、交通渋滞など都市環境の悪化が深刻です。また、人口増加や所得増加による車両保有台数の拡大、交通事故死亡者数の増加も懸念されています。そのため、自動車に代わる市民の移動手段を確保するために、プノンペン都は2014年9月にバス公社を設立しました。しかし、バスの運行を開始した当初は、市民からの認知度が低かったことに加え、時刻表やバス停もないため利用者の満足度も低く、乗客数が低迷していました。また、乗務員の運転技術や安全教育も十分でなく、すべての路線を中古バスでカバーする状態であり、車両故障や事故が頻発(ひんぱつ)していました。

こうした状況を改善するため、2017年1月から、本プロジェクトが開始され、国際開発センターを中心とする合弁事業による専門家チームがバス公社の運営改善に乗り出しました。

最初に取り組んだのが運行サービスの改善です。路線図作成、バスに関するアプリの開発と位置情報の提供、バス停デザインの改良、バス優先信号の試行実験などのサービス向上に繋(つな)がる活動を実施しました。また、専門家チームは、運転手に対する運転技能や安全教育、整備士に対する点検・整備技能の指導も行っています。さらに、日本が無償資金協力で80台の新型バスを供与したことも受けて、バス公社は、現在では181台、13路線にまでサービスを拡大させました。こうした運行サービスの向上に伴い、路線バスの乗客数は、2017年7月から2年間で、1日当たり6千人から3万人に増加しました。

2020年12月現在、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、バスは運休しています。しかし、専門家チームは、日本から遠隔でバス車両の除菌や乗務員の感染予防対策の徹底を指導するなど、運行再開に向けて取り組んでいます。プノンペンにおいて、一日も早く安心して利用できる市民の足が復活することが待ち望まれています。

…中国との関係

対中ODAは近年も日中関係強化に大きな役割を果たしてきましたが、2018年10月、安倍総理大臣(当時)の中国訪問の際、日本政府は、日中両国が対等なパートナーとして、共に肩を並べて地域や国際社会に貢献する時代になったとの認識のもと、対中ODAを終了させるとともに、開発分野における対話や人材交流などの新たな次元の日中協力を推進することを発表しました。この発表を受けて、対中ODAは2018年度をもって新規採択を終了し、既に採択済みの複数年度の継続案件については、2021年度末をもってすべて終了することになります。

2019年には、対中ODA40周年を迎え、記念レセプションや、日本の協力によって建設された日中友好病院などを視察する開発協力プレスツアーなど、これまでの対中ODAの歩みを振り返り、総括する一連のイベントが中国で開催されました。

近年の中国に対するODAは、日本国民の生活に直接影響する越境公害や食品の安全など、協力の必要性が真に認められるものに絞って極めて限定的に実施されており、技術協力(2019年度実績3.58億円)注3と、草の根・人間の安全保障無償資金協力(2018年度で終了)注4によるものです。

技術協力について、日本は、たとえば、日本への影響も懸念されているPM2.5を含む大気汚染を中心とした環境問題に対処する案件や、現地進出日本企業の円滑な活動にも資する中国の民法や民事・行政訴訟法などの起草・改正作業を支援する案件を実施しています。また最近は、中国の経済発展を踏まえた新しい協力のあり方として、中国側が費用を負担する形での協力を進めています。たとえば、2018年に開始した「日中石綿関連癌診断能力向上プロジェクト」や、2013年に四川省で発生した芦山(ろざん)地震の被災地における防災教育推進(「四川省における防災教育推進及び能力向上プロジェクト」)などの支援に係る費用は中国側が負担しています。

用語解説
インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP:ASEAN Outlook on the Indo Pacific)
インド太平洋におけるより緊密な協力のためのビジョンを創り出し、ASEANを中心とした地域枠組みを強化するイニシアティブ。新たなメカニズムの創設や既存のメカニズムの置き換えを目的とするものではなく、現在および将来の地域と世界に発生する課題により良く対処するため、ASEAN共同体の構築プロセスを強化することを意図したもの。日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と多くの本質的な共通点を有している。
ASEAN連結性マスタープラン2025(MPAC 2025:Master Plan on ASEAN Connectivity 2025)
2015年を目標年としていた「ASEAN連結性マスタープラン」(2010年採択)の後継文書として、2016年のASEAN首脳会議にて採択された、ASEAN連結性強化のための行動計画。2015年採択の「ASEAN2025:共に前進する」の一部と位置付けられている。同文書は、「持続可能なインフラ」、「デジタル・イノベーション」、「シームレスなロジスティクス」、「制度改革」、「人の流動性」を5大戦略としており、それぞれの戦略のもとに重点イニシアティブが提示されている。
日本の開発協力の方針 東アジア地域の重点分野
図表Ⅲ-2 東アジア地域における日本の援助実績

  1. 注1 : ASEAN構成国は、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの10か国(ただし、シンガポール、ブルネイはODA対象国ではない)。
  2. 注2 : カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの5か国に及ぶ地域。
  3. 注3 : 近年の技術協力の実績は以下のとおり。
    32.96億円(2011年度)、25.27億円(2012年度)、20.18億円(2013年度)、14.36億円(2014年度)、8.06億円(2015年度)、5.00億円(2016年度)、4.04億円(2017年度)、4.00億円(2018年度)、3.58億円(2019年度)
  4. 注4 : 近年の草の根・人間の安全保障無償資金協力の実績は以下のとおり。
    8.43億円(2011年度)、2.88億円(2012年度)、2.84億円(2013年度)、0.85億円(2014年度)、1.07億円(2015年度)、0.29億円(2016年度)、995万円(2017年度)、0.23億円(2018年度)
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